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30話 崩された平穏な日々-3

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「一人も居ないけど大丈夫なの?」
「きっと外へ出払っているだよ…酒呑童子を助けるなら今だと思う」
「そうも行かないかも…こっち来て」


 私は一反木綿を壁の方へ引っ張り隠した。奥から人の話し声が聞こえる…一様何人かは居るみたい…


「あんたどうにか隠れながら進めるように人間察知する機能ないの?」
「そんな無茶な…あ、いや…出来る」


 一反木綿はそう答えると人達がいる真逆の方へ進んで行った。今はとりあえず信じるしかないか…










「萩、上が静かすぎだと思わない?」
「…そうだな」
「脱出するなら今だと思うけど」


 そう言うと楚は立ち上がった。俺達は今妖力を封じられている状態、そんな俺らに何が出来るって言うんだ…


「すぐに分かるよ」
「どういう事かちゃんと…」
「萩君!楚!」


 俺はその声に反応し今まで落としていた顔を上げた…見覚えるある姿…どうしてここに。


「萩君、待たせてごめんね…一反木綿、あそこの所から鍵もってきて」


 馨恵は俺に駆け寄るとあの時隠世で馨恵に飴を渡した一反木綿に指示をした。


「今すぐここから逃げるよ。あと、現世の妖達が危ないの」
「どういう事か説明してもらってもいい?」
「酒呑童子と茨木童子達が守ってきたこの街の力が緩んだからって全ての妖を全滅させようとしているみたい…詳しい話は聞いてないから分からないけど」


 するとその時階段を降りてくる音が聞こえ馨恵は一反木綿に早く開けるように急かした。鍵が錆び付いているのか一向に開きそうにない。


「おやおや、誰かと思えば酒呑童子の最愛の人間じゃないか」
「馨恵嬢、後ろへ下がって」


 今馨恵がピンチだと言うのに俺は何も出来ずに見守るだけなのか…と思ったその時突然陰陽師の頭に何かが当たり気絶をした。


「あら、思ったより簡単」


 どうやら馨恵が槍を振り回し陰陽師を倒した様だ…意外とやるな。


「…こうなったらこの錠前ごと壊すからその手枷ごと逃げるよ!」
「でも、そうなると誰が陰陽師を」
「そ、その後は…私に任せて」


 馨恵は苦笑いした。まぁ、掛けてみるしかないか…一反木綿が錠前を壊すと俺達は地上へ戻ったがしかし、やっぱり他の陰陽師が待ち受けていた。


「一反木綿、あんたはあっちをお願い」
「馨恵さん、流石にこの数はそれに女一人じゃ」
「…萩君にこんな姿は見せたくなかったけど、いつまでもか弱い女の子じゃ無理みたいだね」


 そう言うと馨恵は槍を自由自在に動かし次々と陰陽師の頭を手がけて気絶させて行った。


「馨恵さんって何者?」
「わ、分からない」










「これはまた大変な…」


 私は門の前で立ち止まった。妖達が我先にと門を通ろうとするものだからさっきから転んだりする者が多かった…
 この分だとみんなこっちへ来る前にやられかねない。と、その時突然列の最後尾の方から爆発音が聞こえた…


「まさか、もうこっちへ来てしまったのか。これじゃ、誘導どころじゃないわ」
「葛の葉様、只今門付近に結界を貼り終えたのですが何人か陰陽師が入ってしまったようで」
「わかった。そっちは私が対処するわ…結界の強化お願い」
「はい」


 私はすぐに最後尾に向かった。早く終わらせて馨恵の元に…すると突然体に違和感を感じ立ち止まった。


「早く馨恵の所へ行かないと」










「ふふ、ふふふ」
「…お前、誰なんだ」


 どこまでも白い変わった男を俺は睨んだ。人間でも妖でもない、いや、人間なのかも知れない。
 男の腕で馨恵が横たわっている。こんな時に…俺は人、一人さえ助けられ無いのか。


「ふふふ、君が酒呑童子と茨木童子ね…それに大天狗」


 今まで隠れていたのか俺たちの横で姿を表した。大天狗も奴の正体が分からないようでずっと睨んでいる。


「…馨恵さんを話してください」
「嫌だよ。せっかく見つけたんだか…ふふふ」
「何の話だ」
「ふふ、酒呑童子君はまだ気づいてないの?」


 男は俺を嘲笑うようにいちいち笑ってくる…今ここで力を使えればすぐに仕留められるのに。
 それに、こいつと馨恵に何の関係が…


「この子は神に値する存在だよ。いや、の方が良いのかもね」
「馨恵が神な訳が無いだろ!」
「そうだよ。神じゃない、だよ」


 そう言うと男はまた嘲笑うように笑みを見せた。


「そろそろ行かなきゃ、君達と戦うのは嫌だからね…それと言っておいて"葛の葉の負けだ"って」


 すると跡形もなく男と馨恵は消えた。


「馨恵さんが神落ってどういう事でしょうか」
「それは僕にも分からないな」


 神落は神を降ろされた者のこと。と言っても降ろされるのもよっぽどの事がない限りありえない…


「葛の葉の所に行こう」

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