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第19話 覚悟
第19話 覚悟
しおりを挟む「マリッサ に会う?」
藍里の言葉に、陽菜が首を傾げる。
「この写真、確実に誰かが撮ったもの。もしくは、3脚かなにかで撮ったものだ。もしかしたら、麻田まりさ さんが何か知ってるかもしれない。」
「なんで言いきれるの?」
「これ見て?」
藍里が、陽菜に一枚の写真を渡す。
新野紗弥が、パジャマ姿でソファで寝ている姿だ。
キラキラとしている唇がキュッと上がっていて、傍にはミネラルウォーターの飲みかけが置かれていた。
「この写真を見て、なにか引っかかるものはなんでしょう?」
「え?うーーん………ソファで寝てるところ?」
「ううん。ソファで寝ること自体は別に不思議じゃない。むしろ、無防備と言ってもいい。」
「じゃあ、なんだろ?」
藍里の問題に頭を悩ませた陽菜は、写真に穴が空くのではないかと言うほどじっくり観察した。
やがて、ハッと目を見開いたかと思えば藍里の方を見る。
「化粧……………してる………!!!」
陽菜の言葉に、藍里はにかっ!と笑って「ザッツライト!」と答えた。
「もしもこの写真が本当に盗撮された物だったら、当然すっぴんの顔も出てくるはず。だけど、この写真は唇が異様にキラキラしてるでしょ?多分、ラメ入りのグロス使ったんだろうね。パジャマを着ているのに化粧なんておかしいよね?
さらに、もう1つ。
この、入浴前後の写真。どの写真も新野紗弥は
必ずタオルをしっかりと巻いている。
タオルで前だけ隠すならまだしも、一人暮らしなら後ろは無防備になるはずだ。」
「言われてみれば…!何でそんな簡単なこと気づかなかったんだろ?」
そこまで言った陽菜はふと、なにか分かったようでピタリと言葉を止めると、恐る恐る口を開く。
「…ちょっと待って?……これ、どれも写真を撮られると分かってないと出来ない………ということは、さややんは…!」
「うん。新野紗弥は、前田ひとしにストーカーされたんじゃない。
『ストーカーされてるように見せてた』んだ。」
「なんでそんなこと…?」
「わからない。もしかしたら……麻田まりさ さんが何か知ってるかも?って思ってね。」
「あ!それでマリッサに会うって言ったんだ。」
「うん。それに、このスマホ。見覚えない?」
藍里に示された先のスマホは、一昔前のギャルがガラケーをデコっていたかのような姿で新野紗弥の前にあるテーブルの上に置かれていた。
「これ、マリッサのだ!見たことある!なんかのドキュメンタリーで見せてくれた時あって、そのとき、『一昔前のコギャルか!』って、突っ込まれてたから。」
「やっぱりそうか。陽菜が見せてくれた画像見て、もしかして?と思ったんだよ。こうなると………聞かざるを得なくなるんじゃない?」
そう言いきった藍里は、JanJanが所属している事務所の前に立つと、大きく深呼吸をする。
『よし!』と覚悟を決めると、中に入るなり……
人を見つけた。
「んー?あれ?あんた見た事ある~……女子大生探偵~?」
目の前の女性は、気だるそうに藍里を見ると、やる気のなさそうな声で答えた。
「あの、麻田まりさ さんに逢いに来たのですが……。」
藍里の言葉に、その人物は『はぁ?』とでも言いたそうに顔をしかめた。
「藍ちゃん!藍ちゃん!この人がマリッサだよ!」
「あ……。」
慌てて言った陽菜の言葉に、藍里は顔を赤くして顔を隠した……。
(あ………穴があったら入りたい……!!!)
赤くなって何も喋れないでいる藍里の代わりに陽菜が前に出た。
「あ!あの!あの!マリッサに聞きたいことがありまして!!」
「えー?なに?だるいから早くしてねー?」
「さややんのことについて、教えてください!」
「はー。教えろって言われてもねー。なーんかストーカーにあって死んだらしいじゃん?まぁ。人気あったしねー。」
目線を逸らしながら、麻田は本当にめんどくそうに答えた。
「あの、さややんとなにかやってたり………とか?」
「はぁ?なに?あたしのこと疑うわけ?何様だよ。顔洗って出直せば?」
麻田が陽菜にそう吐き捨てて立ち去ろうとしたところを
「逆ストーカー。」
と、藍里の言葉が引き止めた。
先程まで耳まで真っ赤にして恥ずかしがっていた姿はない。
麻田は、驚きながら藍里を後ろ目で見る。
「逆ストーカー………というのをご存知ですか?ストーカーされたと、公言しているが、実際はその人が対象をストーカーしていたというケースです。」
「はぁ~?」
「例えるなら………被害者が自分に、しつこく交際を迫られていると、警察に被害届を出しておきながら、実際には自分が被害者にストーカー行為を行うことです。」
「なるほど…だとしたら、この写真の辻褄も合うね!」
陽菜が資料の写真を取り出してみせると、麻田は僅かに『ヒュッ!』と息を呑んだがすぐに……
「んなの知らないし!!てか、たとえ知ってて協力したとして、私になんの関係があるわけ!?仮に、そいつが逆ストーカーされてたから何!?やったのはサーヤで、私は関係ないでしょーー!?!?」
突然の怒鳴り声に、陽菜は驚きのあまり目を見開いたが、藍里は冷静に、顔色一つ変えることなく麻田を見据えていた。
麻田は、怒鳴った興奮からか、肩で息をしながら、2人を睨みつけていた。周りの人達が、ジロジロとこちらを見てザワザワしていたが、藍里はお構い無しに続けた。。
「……関係ならありますよ。逆ストーカーが立証されて、それをあなたが協力していたとしたら、それは幇助犯(ほうじょはん)と言って立派な罪になる。」
「だから?仮に助けてたとしても、向こうが気づいてなかったら別に…!」
「いえ。幇助犯は、知ってて協力していたら立証されてしまいます。仮に主犯が知らなかったとしても、協力していたら罪になります。」
「うるっさいなぁー!!だから知らないっての!!」
ガシャン!!
と、鈍い音がしたかと思うと、藍里は頭を抑えて前かがみになっていた。うっすら目を開けると写真で見た派手にでこられたスマホが視界に入る。
「藍ちゃん!!!大丈夫…!?」
陽菜が駆け寄って藍里を支えた。直後、警備員が小走りで『どうしたんですか!?』と慌ただしくやってきた。
「警備員さん~!こいつら!あたしが犯罪者だとかぬかしたからさ~!豚箱ぶち込んどいてよ!!!」
麻田の言葉に警備員はなにがなんだかわからないというような顔をしていたが、直後、
「マリッサ。」
という声が聞こえてきた。
マネージャーの猪狩 健太だ。彼は厳しい目で浅田を睨みつけると、
「この人は、さややんの事を調べているんだ。少しは協力しないか!」
と叱りつけた。マネージャーにそう言われると麻田は口をとがらせた。
「でも~……。」
「でもじゃない。」
「………だけど関係ないし~…。」
「関係ならあるだろう!さややんは、同じJanJanのメンバーだ!……それとも、協力出来ないわけでもあるのか?」
猪狩の言葉にビクッ!と体をふるわせた麻田は、キョロキョロと目を泳がせた。
置いてけぼりの警備員に気づいた猪狩は、戻って貰うように促し、今度は藍里の方を見た。
「申し訳ありません。森野さん。病院に行かれるのであれば言ってください。費用は出させていただきます。」
「………別に要りません。けど治療費代わりに、これだけは教えてください。…この写真のことをね……。あなたのスマホが写りこんでる事………というか、盗撮されている写真に、何故貴方のスマホがあったのかも含めて、日を改めて説明してくだされば、何も言いません。」
それだけ言い残した藍里は、麻田を通り抜けて事務所を出た。追いかけようとした猪狩は、すぐに足を止めて、麻田の方を向き直る。
「………どういうことなんだ?」
「……。」
麻田は何も答えなかった。
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「もー。こういうの、本当は傷害罪に当たるんだからね?一応。」
そう言いながら稲垣は水で濡らしたハンカチで藍里の右の額あたりを冷やした。
「あいた。」
「我慢する。ほら。しっかり自分で抑えて。」
稲垣に言われて藍里は右手でハンカチを抑える。
「藍ちゃん。大丈夫?」
「平気だよ。痛いけど。」
「……しっかし、お前の言うことは筋が通ってるな。確かに、撮られたにしては少し不自然なところがある。万が一逆ストーカーなら、そこも洗い出す必要があるな。」
「笠村。その時は、麻田 まりさ の事も調べるつもりでいてくれ。」
「はい。」
そのやり取りを見た藍里は恐る恐る口を開く。
「あの………やっぱり幇助犯で……?」
「そうだね。万が一知っててやったんなら、それは立派な犯罪になるからね。」
残念だけど。と付け加えて稲垣が答えた直後、稲垣の携帯が鳴り出し、「すまない。」と言って取り出す。
「私だ。どうした?………………そうか。わかった。すぐに行く。」
そう言った稲垣は携帯を切って胸ポケットにしまいながら
「……麻田まりさが、知ってる事を話してくれる気になったらしい。」
とだけ答えた。
「はやいっすね。」
「きっと、それほど大きな秘密を知っているんだろう。」
膝をついて立ち上がった稲垣に、藍里がすかさず立ち上がる。
「私も行かせてください!」
「けど、藍里ちゃん。君は怪我が。」
「こんなの、すぐに治ります。それに、私は晴臣さんに、ひとしさんの無罪を晴らすという依頼を受けています!」
力強い言葉にやれやれと言わんばかりにため息をつくと、稲垣は
「今回だけだからね。」
とだけ答えた。
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