森野探偵事務所物語~1~

巳狐斗

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第22話 秘密~展開編~

第22話 秘密~展開編~

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「…にわかには信じられません…。まさか………磯部さんがこんなでたらめを…我々に…!」





資料をグシャリと音を立てて握り潰した外屋敷は、悲しさとショックのあまり、ギリッ!唇を噛み締める。





あれから調べてわかったこと。








磯部が自分や、警察に報告したことは全くのでたらめであった。


あの銃を持った男が現れた部屋で見つかったという遺体は、つい先日……新たに失踪していたという観光客の1人……。

行方不明からまだわずか3日ということもあり、警察の方で家出と片付けられていたのだった。



その遺体を使って、磯部は…。







自分たちが追っている失踪事件に関してもそうだ。
本物の顧客名簿を磯部の鍵がかかっている『引き出しの裏』に、しっかりと隠していたのだ。

普段人が見るようなところではないため、うっかり見落としそうになったのだが、外屋敷がその引き出しを元に戻したところ、引き出しの下から、茶色の紙片が覗いていたのだった。

不審に思った外屋敷は、ゆっくりと先程開けた引き出しを再び引っ張り出し、ひっくり返してみる。


そこで見つけたのは、くたびれた茶封筒。
中を開けると、藍里と確認した時には確かに無かった、行方不明者の名前が記載されている名簿の1部であった。

つまり、磯部は沼井に本当の名簿を受け取り、沼井は急いで偽の名簿を書き込んで何食わぬ顔でファイルに閉じたのだ。

「磯部さん………どうして……!」


外屋敷は、資料をさらに強く握りしめると、絞り出すかのようにつぶやいた。


その姿を見守っていた3人は何も言わなかったが、やがて哲也が口を開く。



「なぁ。藍里見なかったか?」


「え?」


「約束の時間になっても来ないんです。まぁ。僕達も3人集まるのに約束の10分ほど遅れてしまったのですが…。」



「けど、約束の時間からもう1時間も経ってる。いくらなんでも遅すぎだと思ってよ。」


輝と聖人の言葉に目をパチクリさせる外屋敷。


「へ?森野さんとなら……午後4時頃に別れましたよ?君たちと待ち合わせしてると言って。」



「は?それ、間違いねぇか?」



「ええ。僕が車に乗り込んだ時、ちょうど時報がなりましたので間違いありません。」



「駐車場までは、5分もかからない。短くて1分半でも着いてしまうほどだ。妙だな…。」


外屋敷の言葉の後に、輝が顎に手をやって考えている時だ。



「お、おい。あれ!」



聖人が、目を見開いて窓の外を指さす。


その指の先には、真っ赤に燃える炎。
焦げ臭い匂い。


「おいおい!やべぇぞ!火事だ!!」

哲也が声を荒らげる。



「消防!!僕、電話します!!」



外屋敷が直ぐに携帯を取り出して、消防に電話をした。


哲也たちは急いでその倉庫へ向かう。






既に何人かの野次馬達が集まっており、大変な騒ぎになっていた。








「ねぇ。実は私さっき、藍色の髪の毛をした女の子が中に入ってくのを見かけたんだけど……大丈夫かしら……?」

「え?それじゃあ、もしかしてまだ中に…!?」






近くにいた1組の女性の会話を耳にした3人は、目を見開き顔を互いに見合せる。








藍色の髪の毛の女。







1人しかいない。








3人は思わず倉庫へと向かって駆け出した………。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 


肌がやけるような熱……………。





鼻をつく焦げ臭い匂い……………。






地下室を覆い尽くす炎が、陽菜のロリータ服の裾を焦がしていく……。

こんな状況でなければ、『この服高かったのに!』とか『お気に入りだったのに!』と、愚痴をこぼすであろう。

しかし、陽菜の背中には、気を失っている友人がいる。

出血が多くて、医学の知識のない陽菜でも、いや、医学の知識がなくとも、危ない状態であるのは、わかる。




陽菜が動かなければ、友人は助からない。









服と人の命……………天秤にはかけられないであろう。








階段をやっとの事で登り切った陽菜。





ハァハァ。と、激しく息を切らし立ち止まるが、顔を上げて愕然とする。





廊下が、学校並に長いのだ。




ポツンと見える外の様子が、実際はそんなに距離はないだろうが、とてつもなく長く感じる。

幸いにも、まだ火の手が回っておらず、少し煙がかかっている程度であった。

「藍ちゃん…もうすぐだからね?頑張って…!」


返事をしない友人にそう言うと、陽菜はズキズキと痛む足を堪えて、歯を食いしばって廊下を突き進む。

1歩ずつ………前へと進む為に足をだす。


顔中から…身体中から汗が出て、友人の手を掴んでいる手が何度も滑りそうになり、その度に掴み直す。




「きゃあ…!」




ところが、少し進んで足元が狂い、そのまま前のめりに倒れ込んでしまう。

電気が走るような激痛が、足から全身を駆け巡り、陽菜は呻いて痛みを堪える。


目の前のゴールが遠くに見える…………。




背中に乗っている藍里が、異様に重たく感じる………。(本人に大して失礼なことかもしれないが…。)


陽菜はそれでも、痛みをぐっと堪えて何とか立とうとする。
しかし、負傷した足はそんな思いとは裏腹に、全く動こうとしなかった。


「もう……………無理ぃ………!」




ギュッ!と目をつぶり、自分の非力さに悔し涙を流す陽菜。






「父さん………母さん……………。」






ふと、耳に届いた友人の弱々しい声。




ハッとして藍里を見る。
気を失っているが、確かに聞こえた。藍里が、自らの両親を呼ぶ声を………。





「藍ちゃん……。」







そうだ。



自分の両親は、離婚こそしてはいる。が、どちらも会おうと思えば会える。自分が会いたくないだけで………。





けど、藍里は違う。




藍里は会いたくても会えない……。




そんななか、藍里は2人の真相を突き止めようと強く決心をして、この秘境でもある、雲隠れの村まで来たのだ。
その目には、『諦める』という言葉が一切なかった……。





「そうだ。」




と、確かめるように思い出した陽菜は、キッ!と目を開くと、再び足に力を入れる。
激痛が走ったが、構っていられない。

「藍ちゃんが真相を突き止めると言うなら、どんな現実でも受け止めるほどの覚悟があるなら…!私は………藍ちゃんのサポートを全力でする!!!」



と、まるで自分を奮い立たせるように言葉にした。

数歩ずつ歩き、息を切らしながら長い廊下を歩いていく。



ところが、半分辺りまで来たところで、何度かつまづいた所で、陽菜は立つことを諦めて四つん這いになって必死に出口へと向かう。




「藍ちゃん………半分切ったよ………もう少しだからね。」






陽菜は気を失っている友人にそう話しかけるが、返事はない。
額からにじみ出る汗を拭う時間も、今は惜しく、陽菜は汗を流しながら必死に出口へと四つん這いで向かう。








ビー!!ビー!!







「え…!?」







突然、そんな音が聞こえたかと思うと、今いる所から出口のちょうど半分のところから、『ゴウンゴウン…』という、重い鉄の音が聞こえてきた。






煙に反応して、防火シャッターが作動したらしい。




あまりの出来事に、陽菜は驚いて目を見開きつつも、手足をばたつかせるかのように、急いで向かった。











「やだ!!やだやだやだやだ!!!まって!!まって!!やだー!!まってってば!!!」









陽菜の悲痛な叫びとは反対に、シャッターは残酷にも徐々に降りてゆき、出口までの道を塞ごうとしていた………。







陽菜は、藍里をおぶったまま急いで出口へ向かうが、思うように早く進めない……。






いっそ、藍里を置いて自分が出て機械を操作すれば……とも考えたが、そんな制御装置がどこにあるかもわからない上に、友人を置いていくなんて、陽菜には出来なかった………。






藍里なら、絶対にそんなことをしないと思ったからだ。








あの数メートルで出口だという時には、既にシャッターは床から数センチの隙間しか残されていなかった…………。










「いやぁぁああああああああぁぁぁ!!!!!」











陽菜の断末魔が響き渡る……………。





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