透明になるまで、文体は躍る。

人間無味

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好きな本の話

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 よしもとばななさんの『キッチン』という作品を読んだ事があるだろうか。私はあれほど透明な文体を読んだことがない。中学二年の時、朝読書用の本にとなるべく薄くて読みやすい本をと図書室の先生に注文したところ勧められたのがキッチンであった。

 早速次の日から読み始めた私であったが、一週間経てど、一ヶ月経てど、キッチンは読み終わらなかった。不思議と手が次のページをめくろうとしなかった。難しい漢字も表現もない。意味は分かるのだが、どうしても手が動かなかった。今でもあの不思議な感覚を覚えている。

 一単語絶対そうでなければならない必然性を繋げて出来たかのような小説だと思った。

 二ヶ月かけて、ようやく読み終えた。どことなく体内に漂う心地の悪い浮遊感と、名前を付けられない妙な感情だけが残った。それからしばらく読んでいなかったが、先日、図書館で偶然か、「キッチン」という単語と目が合った。

 軽くて薄いその本を手に取り、パラパラとページをめくる。その時やっと一つだけ気付いた。中学二年の私が気付けなかった違和感。透明なのだ。表現の一つ一つが透き通っていて、屈託のない文体なのだと。

 昼は明るいし、夜は暗い。晴れの日はいい気分だし、雨の日は憂鬱。そんな当たり前の事を何一つの細工もなしに書ける。それが、文における透明感だと思う。私もいつか、当たり前の事を当たり前に表現したい。それまで、私の文体は躍り続けるはずだ。
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