アルテアースの華 ～勇者召喚に巻き込まれ、適職が農民で子宝に恵まれるってどういうことですか？！～

prologue ～神々の密談～

 仕事の帰り道、夕食の材料を買っていつもと同じ道を歩いて帰る途中に、すごく顔色が悪そうな青年が歩いていた。さすがに大丈夫かなと少し心配していると青年が目の前でふらつくように倒れ込んだ。心配になって駆け寄ってみると、ものすごく苦しそうに顔を歪めていた。

「大丈夫ですか？」
「え･･･あ、すみません。大丈夫です」
「でも顔色が、ずいぶんと悪そうですよ？」

 青年の背中を擦って介抱していると、地面が歪んだように見えた。とたんに足元に小さな黒い穴が開いて、すぐに大きくなってくる。危ないと思ったときには、穴の中へと青年と落ちていった。
　そして気がついたときには、真っ白い空間に青年と２人で浮かんでいた。意識が靄がかかったように、はっきりしない。ただ虚ろな意識で呆然と浮かんでいると、まるで地響きのような男の声が空間に響いた。

"なんだ、この女は･･････呼んだ覚えはないが。まあ良い、一緒に送ってしまえばいいだろう"

そういえばさっき、青年と変な穴に落ちたけど、どうも一緒にいたせいで、巻き込まれて一緒に穴に落ちたらしい。本当に、なんて運が悪いんだろうと自分の不運を嘆いていると、綺麗な女性の声が響いた。

"待ちなさいな。その子は、私と波長が会うみたいなのよ。だから私がもらうわね･･････"
"好きにすればいい。だが、勇者になるものは譲らん"
"別に必要じゃないもの、私が欲しいのはこの子･･････"

 意識がはっきりしなくて、言われている意味がよくわからないけど、どうも波長が合うから欲しいということらしい。この場から救ってはくれないかなと変な期待を持ってしまう。

"ゲートは勇者に開いた。その女も勇者と同じ場所に送られるぞ"
"ふふ、それはきっとこの子の宿命。それも仕方ないのよ"
"相変わらず、わからないやつだ"

 眩い光に包まれたかと思うと、ふいに頬を誰かが触れた。眩しい光の中で目を開けると、とても美しい女性の姿が見えた。空中に波打つ、日光を浴びた稲穂のように輝く金色の髪、瑞々しい若葉を思い出す透明感に溢れる新緑の瞳。なんて綺麗な人だろうと思っていると、慈愛に溢れた微笑みで、こちらを見つめていた。

"あなたならきっと、切り開けるわ。この先の未来に、加護を。･･････････を･････子"

 最後の言葉は聞き取れなかった。慈愛の笑みを浮かべたまま、額に口付けをしてくれた。唇の触れたところから、暖かくて優しい何かが大量に流れ込んできた。暖かくて柔らかいのに、なぜか熱いと感じる、その膨大な熱量の何かが吹き込まれる。体の奥深く、まるで魂まで入り流れ込んでくるものが、あまりにも強すぎてそのまま意識を失った。