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第二章 異世界生活
Let's cook!
しおりを挟む野菜は王都で、肉は王宮で。
肉や魚は出店形式の店では買わないよう騎士から忠告を受けていたから、カレーに使う肉は王宮地区にある肉屋で買った。
チキという種類の肉。
予想はできただろうが『チキン→チキ』だ。
その中でも今回はセルバードという魔物の肉。
料理スキルの鑑定いわく日本の比内鶏の味に近いらしくカレーに入れるのは贅沢か……と少し迷ったけど、いい野菜を安い値段で買うことができたからその分奮発することにした。
「シンさま。お野菜が届きました」
「お待たせしました」
「ご苦労さまです」
「先ほどはありがとうございました」
「こちらこそ」
先にチキを下準備しているとアルの義父が野菜を配達してきてくれて、厨房の裏口側に停めてある車(的なもの)にエドとベルが箱を取りに出る。
「あれ?アルも来てたのか。手伝いしてるのか?」
先に入って来たのはアル。
紙袋を両手で抱えてこくこく頷く。
「ありがとう。ここまで運べるか?転ばないようにな」
俺たちを店まで連れて行ったことといい、まだ小さいのに両親の手伝いをしていて感心だ。
「興味あるのか?」
料理台に紙袋を置いたアルは俺が下準備している隣でセルバードをジーッと見ている。
「アル。邪魔したら駄目だよ。申し訳ありません」
「大丈夫ですよ。危ないから手は出さないようにな?」
義父から言われてもまだ興味津々。
鶏の関節に包丁を入れてコキと曲げて切り分けると拍手。
一々反応しているのが面白くて笑いを咬み殺しつつ子供らしいアルの姿に癒された。
「これで最後です」
「中までありがとうございました」
「いえいえ。アルがお邪魔して申し訳ありません」
「ただ見てただけですから」
「シンさま。受け取り伝票は私がサインしても?」
「頼む。肉を触ってるからペンが持てない」
数箱+数袋分の野菜とスパイス。
三人で運び込んでくれて伝票のサインもエドに任せる。
「アル、帰るよ」
義父から呼ばれて頷いたアルは俺を見上げる。
「気を付けて帰るんだぞ?またな」
手が汚れていて頭を撫でられない代わりに大きく身を屈め頭に額を寄せ気をつけて帰るよう話して離れると、アルは頭に手をやり俺を見上げながら口を開く。
「ん?もう一回」
動いた口が言葉を訴えたことは分かったけど何を言ったのかまでは分からず聞き返す。
「〇〇〇」
動いた口の形は「ま」「た」「ね」。
「ああ。またな」
理解して返事を返すと満足そうに大きく頷き義父の隣に行って小さく手を振った。
二人を見送った後エドとベルは箱から出したリモと二オンとキャロを樽に入れる。
「シンさま。頭に額を寄せるのには理由があるのですか?」
「あれか。幸せが訪れますようにってお祈り」
「シンさまの国ではああして祈るのですか」
「いや。日本の祈りは両手を合わせる合掌。あれは祖母が俺にやってた願掛けのようなものだから他の人はやらない」
シンに幸せが訪れますように。
外国人だった祖母が幼い俺にやっていた願掛け。
それが叶ったかは別として俺もたまにやってしまう。
「よし、肉の下準備は終わり」
話してる間にも鶏肉の下準備は完了。
煮込む時間も考え三人で本腰を入れて調理に取りかかる。
「Let's cook!」
なんでテンション高いかって?
俺の好物がカレーだからに決まってるだろ。
「まずは大量の野菜を洗うところから」
「リフレッシュかけますね」
「待て!食べ物は水で!」
衣類の洗濯が一瞬で!
でお馴染み(俺には)のリフレッシュ。
野菜に両手を翳していたベルとエドはポカン。
「いや、分かってる。この世界ではそうするって知ってるけど俺の気持ちの問題。食材はせめて水で洗いたい」
魔法なんてない日本で育った俺には水で洗うのが常識。
むしろ魔法で綺麗にした方が水で洗うよりも早くて綺麗になるんだろうけど、口に入るものを水で洗わないのは不安になる。
「水魔法であればいいですか?」
「水魔法の水って飲めるのか?」
「はい」
「じゃあ良い。細かいこと言ってごめんな」
「いえ」
樽に入れた野菜を水魔法でジャブジャブ。
皮むきをしつつ洗濯機の中のように野菜がクルクル回っているのを見て魔法の便利さに感心した。
「シンさまは皮をむくのがお早いのですね」
「これは料理スキルのお蔭。日本でも料理はしてたけど流石にこんな早さで剥くのは無理」
地球なら世界記録を取れるだろう速度。
料理スキルは食材の鑑定が出来るだけじゃなく料理の腕があがる補助的な効果もついてるから有難い。
「レベルはお幾つですか?」
「7」
「王宮料理人になれますね。資格がLv.5ですから」
「へー。召喚された時からこのスキルはついてた」
「そうなのですか。料理スキルはLv.10が限界値です」
「後3レベか」
……上がらないだろうな( ˙-˙ )スンッ
7という魔の数字的に。
エドとベルは野菜洗い、俺は皮剥き。
話しながらやっていても魔法やスキルのない日本に居た時よりも遥かに早かった。
・
・
・
「どうぞ」
「ありがとう」
騎士団御用達の寸胴鍋で煮込む間にひと休憩。
ベルが淹れてくれた紅茶を受け取る。
「やっぱ魔法って便利だよな。二人のお蔭で切るのもすぐに終わったし」
切るためにエドとベルが使ったのは風魔法。
サクサクと切断していくものだから数十人分の量を切るのも苦にならなかった。
「たしかに魔法が使えれば洗ったり切ったりの補助はできるのですが、料理スキルのように味に関しての魔法はありませんから自分のセンス次第になってしまいますし、スキルは魔力を消費しませんが魔法は消費しますので長時間は無理です」
「まあ魔力は減るだろうけど便利なことは確か」
魔力の問題はあっても魔法が便利なことは間違いない。
魔法のない世界では化学が進歩してたけど、この世界では魔法で出来ることも多いから。
「魔法を全く使えない人もいるのか?」
「使えない方の方が多いです。使えても生活魔法の範囲とか」
「生活魔法って?」
「正確には生活魔法という種類はないのですが、初級の水魔法に分類されるウォーターや風魔法のウインド、火魔法のファイアのことを生活魔法と呼んでいます。先ほど私たちが野菜を切るのに使った魔法がウインドです」
スパスパ切ってたあれが初級とは。
魔法恐るべし。
「ん?でもエドが髪を乾かしてくれる時は切れないよな」
「あれは使用人スキルのヒートです」
「ファイアとウインドを使ってるんじゃないのか」
「複合魔法を使えるのは賢者の特殊恩恵を持つ方だけです。勇者一行の魔術師さまはのちに賢者となるかも知れません」
賢者といえば攻撃魔法も回復魔法も使える上級職。
俺が〝遊び人〟から〝病みに愛されし遊び人〟に変化したように、サクラとリサも〝魔術師〟から〝賢者〟に変化するかも知れないってことか。
……なんか狡くね?
アイツらの〝魔術師〟から〝賢者〟はカッコイイけど、俺はただオマケが付いただけで〝遊び人〟のままとか。
「賢者は勇者一行しかなれないのか?」
「いえ。少数ですがいらっしゃいます」
「そんなに少ないのか」
「生まれもった特殊恩恵ですので」
「ん?魔法の訓練すれば賢者になれるんじゃなくて?」
「努力で進化できるのは魔導師までです。賢者は生まれた時から賢者に進化する特殊恩恵を持っています」
「あいつらは賢者の特殊恩恵はなさそうだったけど?」
「勇者さま方はこの世界に生まれた私どもと違って特別な進化の仕方をなさいますので。歴代の勇者さまの中には魔法士から賢者に進化した方もおられました」
さすが勇者。
そんなところも特別か。
「賢者の素質を持っていても必ず賢者に進化する訳ではないですし、魔法と魔術を極めなければなりませんので、全ての魔を極めた賢者もこの世界では勇者方と同じ特別な存在です」
「へー。ローブを着た爺さん婆さんのイメージ」
「エミーリアさまが王都に暮らす唯一の賢者です」
「ん?……ん!?あのチビッ子のギルマス!?」
極めた者ってくらいだから相当年配だと思ったのに。
謁見の間に最後まで残ったから偉い人なんだろうとは思ったけど王都唯一の賢者とか……いや、アイテムボックスとか使えてたし、使える人が少ない付与を使えたり王宮のギルドマスターだったりと言われてみれば才能があるのも納得なんだけど。
「……祖龍に会った時より驚いた気がする」
意外性で言うなら祖龍以上。
異世界系御用達の祖龍(ドラゴン)は居るかもと思ってたけど、エミーが賢者だってことは言われなかったら絶対分からなかった自信がある。
「すげえな。子供なのに」
「エミーリアさまは子供ではありませんよ?」
「え?どう見ても子供だけど」
「賢者の強い魔力を抑える為にあのお姿になっているだけで、実際の年齢は二十代と聞いています」
ぇぇぇぇぇぇえええ!?
落ち着こうと飲もうとした紅茶を吹き出しそうになる。
「もしかして私は子供じゃないって言ってたのは」
「子供ではありませんからね」
子供に見られたくないお年頃なのかと思ってたけど、ただ事実を言っただけかよ!
たしかに「閨で聞きたかった」とか言ってて随分とマセてる子供だとは思ったけど!
「聞いてから思い返せば納得の部分も多いな」
「まだお若いのに凄いというのはその通りだと。さきほど数名居ると申しましたが、エミーリアさまはその中でも史上最年少で賢者に覚醒した優秀な御方です」
賢者の実際の強さなんて分からないけど、数人しか居ない内の一人なら凄いんだろうってことと、ドヤって話している辺りベルはエミーを尊敬してるんだろうってことは分かった。
「エミーの凄さは分かったけど……エド。エ・ド」
「え?はい」
「ずーっと黙ってるけどそんなに鍋が気になるか?」
「も、申し訳ございません。いい香りなのでつい」
「チラッチラ見てるのが視界に入って一々可愛いんだよ」
いつもはエドの方が喋るのに煮込み始めてからはベルがずっと答えてくれていて、エドは話半分というようにチラチラと鍋の方を確認していた。
「申し訳ございません」
「良いけど。楽しみにしてくれるのは嬉しいし」
「お恥ずかしい限りです」
頬を染めて耳を垂らすエドに笑う。
ベルは冷静な時が多くて頼りになるけど、エドは感情が表情や言葉に出易いから親しみがある。
どちらも戦いの時には狂戦士になるところはさすが双子の姉弟だと思うけど。
「そういえば二人は一緒に暮らしてるのか?」
「はい」
「王宮内に?」
「使用人のご下命を賜りましてからは。身の回りのお世話をさせていただくのですぐ行き来ができるようにと」
「前は違ったのか。王宮で仕事してるのに」
「存在しない部隊ですので。宿舎もございません」
ああ、そっか。
騎士団や魔導師団と違って公には存在しない特殊部隊だから宿舎を作る訳にはいかないんだろう。
「今は王宮内で二人暮らし?」
「はい」
「んじゃここで食事して帰っても困る人は居ないな」
もし誰かと暮らしてるならと思ったけど二人暮らしなら家で誰かが料理を作って待ってるということもないし、ここで食事をして帰っても問題ないだろう。
煮込みに煮込んでようやく完成。
こちらの世界の米(ライの実)も炊けて、騎士たちが帰って来る前に三人で先に食事にする。
「お待たせ。エドとベルの分」
「「ありがとうございます」」
メニューはチキンカレーとサラダとスープ。
エドとベルが食事前の祈りをしてる間に水を注いで二人の前にも置いた。
「「…………」」
祈りの後スプーンを手にしてパクっと食べた二人。
分かり易いその表情に笑い声が洩れる。
「美味しいです」
「初めて食べる味ですけど美味しいです」
「よかった。一応辛さは控えめにしてあるけど、それでも辛かったら水とかサラダで口の中休めながら食べてくれ」
この世界にはカレーがないらしいから念のため辛さは控えめにしたけど、初めてでもパクパク食べている二人に安心して俺もひと足遅れでぱくり。
「……ん。異世界の食材でこれならまあ上出来だろ」
あくまで的なものを使ったカレーだから日本に居た時と同じようにはいかないけど、初めて作ってこの味なら上手くいった方だろう。
「ごめんくださーい!」
「ん?」
食事の最中に聞こえた声。
食堂の外から聞こえた声は恐らくヒカル。
「ベル、俺が行くから良い。食べてろ」
「ですが」
「大丈夫。勇者の声だから」
「勇者さまですか!?」
「すぐにお出迎えを!」
「平気だって。気難しい奴じゃないから」
引きこもりニートのヒカルもこの異世界では勇者。
勇者の訪問とあって流石に慌てる二人を止めて声のした出入口に行く。
「ヒカル」
「あ、居たのか。誰も居ないのかと思った」
「騎士たちはまだ外に出てる。どうした?」
「お前に会いに来た。召喚祭の時のこと話そうと思って」
「ああ、あれか」
そういえば後で話そうと言っていた。
その話に来たようだ。
「いま飯食ってんだけどヒカルはもう食ったのか?」
「いや。ついさっき訓練が終わったばっか」
「じゃあ食うか?俺の作ったカレーでも良ければ」
「カレー!?食いたい!」
「じゃあ先に食ってから話そう」
「うん!」
日本人の定番メニューでもあるカレー。
まだ食べてないらしいヒカルも誘って食堂に戻る。
「ゆ、勇者さま!」
「お出迎えもせずご無礼を!」
「だ、大丈夫ですから!ゆっくり食べてください!」
エドとベルはヒカルを見てまた大慌て。
でもそれ以上にヒカルの方が恐縮していて少し笑えた。
「他の三人は?」
「まだテストやってる」
「テストなんかあんのか。学校みたいだな」
「やってることはまるっきり学校と一緒。異世界の歴史とか魔法の授業とか一般常識の授業もある。後は、俺とリクが剣の授業でリサとサクラが魔術の授業があるって感じ」
エドとベルがゆっくり食べられるよう少し席を離れて、装ってきたカレーやサラダやスープの皿をヒカルの前に置きながら話を聞く。
「もう魔法は使えるのか?」
「マッチの火くらいは。魔力の流し方の練習で」
「流し方の練習?」
「体に流れる魔力を感じて魔法を使ってみよう的な授業」
「へー。初日で魔法が使えたとか凄えじゃん」
「子供でも使える超初級編らしいけどな」
「魔法のない世界から来た俺たちなんて子供以下だろ。魔力もない知識もない赤ん坊状態で使えたんだから凄いと思うけど」
魔法に慣れ親しんだ世界の人と同等に考えても。
俺たちの世界では二次元にしか存在しなかったんだから、産まれたばかりの赤ん坊に本を読み聞かせて字を書けと言ってるようなものだ。
「単純にそう思ってくれるほど甘くねえよ。勇者ならこのくらい出来て当然って思われてるから。ずっと家に引きこもってゲームやってたニート相手に期待しすぎだろ」
そう呟いてヒカルは苦笑する。
リサも愚痴ってたけど勇者だからという目で見てる人は多いようだ。
「美味そう。いただきます」
「どうぞ」
「…………うま!」
「んじゃ良かった」
「異世界に来てカレーが食えると思わなかった」
食べ始めたヒカルに安堵したものの心境としては複雑。
俺は勇者じゃなかったから誰からも期待されず好きにさせて貰ってるけど、勇者だからと変なプレッシャーをかけられている四人はキツいだろう。
かと言って俺ができることは話を聞くくらい。
勇者の四人と違って手違いで召喚されただけだから同じプレッシャーを分かち合うことはできないし、一緒に戦って手助けすることもできない。
それが少し心苦しかった。
「シンさま。お飲みものをお持ちしますか?」
「水があるから平気。二人とも食べ終わったのか」
「はい。美味しゅうございました」
「お粗末さま。食べ終わったなら今日は帰って良い」
「入浴がまだお済みではないですが」
「ヒカルと話すから後で自分で入る。明日はまた頼む」
今日はヒカルが居るからか二人とも「お役目が」とは言わず、すんなり「承知しました」と納得してくれた。
「あれ?たしかまだ紹介してなかったよな」
「うん。昨日の召喚祭で一緒に居るのは見たけど」
「じゃあ紹介しとく。俺の世話してくれてるエドとベル」
「シンさまの執事のエドワードと申します」
「女給のベルティーユと申します」
「ヒカルです。よろしくお願いします」
胸に手をあてて頭を下げるエドやベルにヒカルは深く頭を下げて挨拶を交わす。
「帰ってゆっくり休んでくれ。お疲れさま」
「「はい」」
今日は祖龍のこととか王都でのこともあったから簡単に紹介だけ済ませて、帰ってゆっくり休むよう話した。
「あの二人って獣人だったのか」
「うん」
「昨日見た時は耳も尻尾もなかったら気づかなかった」
エドとベルが帰ったあと、食べ終えた皿だけ洗い場に浸け果実酒を持って俺の部屋に戻り対面同士でソファに座る。
「普通は出さないらしい」
「知ってる。国の歴史を教わった時に獣人のことも出てきた」
「そっか」
「迫害されてるように読めたけど何で二人は出してるんだ?」
「俺がそうさせた」
俺はロックにしてヒカルには薄く酒を作りながら、昨日主従契約を結んだことや話し合った上であの二人は隠さずにいると決めたことや今日王都であったことなどを話した。
「随分と過酷なことさせるんだな」
「俺の考えが甘かったのは認める。だから二人にも再確認したけど隠す気はないって。自分たちが異世界から来た俺と一緒に居ることで、獣人は奴隷って認識を少しでも変えたいらしい」
王都の騒動で実情を知って辛かったら隠していいと話した。
でも二人から返った返事はそれ。
「なるほど。異世界人の俺たちが国民から注目されてることは確かだからな。その異世界人に獣人が認められてるってのは今までの認識を変えるきっかけくらいにはなるかも知れない」
そういうこと。
何代にも渡って植えつけられた認識が劇的に変わることは難しいだろうけどきっかけ程度にはなるかも知れないし、獣人たちにとっても多少の希望にはなるかも知れない。
「で、お前は利用されてやるのか」
「使えるものは使えばいい。俺も条件は出してるし」
「条件?」
「好きな時にモフらせろって。好きなんだモフモフが」
「お前らしいぶっ飛んだ条件だな。平和すぎて笑える」
俺からグラスを受け取ってヒカルは笑った。
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