ホスト異世界へ行く

REON

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第三章 異世界ホスト、訓練開始

巡り合わせ

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眩い陽の光で目が覚める。

「……頭イテ」

カーテンを閉め忘れて寝たようだ。

「シンさま、おはようございます」
「おはようございます」

もう見慣れた部屋の寝慣れたベッド。
エドとベルの声が聞こえて寝返りを打つ。

「おは……ん?」

ベッドの隣に立っているのはエドとベル。
俺の隣で寝てるのは……赤い髪。

「シンさまが遂に男性とまでねやを共に」
「私どものことは構ってくださらないのに」

うわー……病んでる。
顔を隠してブツブツ言うベルと俯いてブツブツ言うエド。
ヤバい。エミーの時と違って全く記憶にない。

「おい。ドニ」

二人のことは一旦置いて隣で寝ているドニを起こす。

「ん……カーテン閉めろ。眩しいだろ」
「カーテンはどうでも良いけど何でドニがここに居る?」
「は?昨日のこと忘れ、って獣人!?」

俺から起こされて陽の光が眩しかったらしいドニはモゾっと寝返りをうつと、ベッドの隣に立っているエドとベルに気付いて枕元に置いてあった剣を掴む。

「やめろ。二人は俺の仲間だ。使用人もやってくれてる」
「え?あ、そうなのか。お前の命を狙いに来たのかと」
「違うから」
「悪かった。主人に命令されて暗殺に来たのかと思った」

違うと分かるとドニは剣を置いてエドとベルに謝る。
獣人だからといって見下す様子は見られない。

「で、さっきの質問。何でここに居る?」
「一日で忘れる病気か?それとも実は酔ってたのか?」
「レイモンと飲み比べした辺りは覚えてるけど……うん」
「うん、じゃない。ハロルドから頼まれてロイズと俺でここまで護衛して来たんだ。俺は昨日のことを直接見てた訳じゃないけど、様子を見てた冒険者が多いから万が一を考えて。二人に剣を向けたのもそれがあって咄嗟に」

聞いても記憶は曖昧。
冒険者の前で聖魔法を使ったから、酒を呑んで判断が鈍ってる時に一人で帰らせるのは危ないと心配してくれたんだろう。

「悪い、覚えてなくて。ありがとう」
「状況は分かりましたがなぜシンさまとねやを共に?」
「なぜ衣類を纏わずシンさまのお隣に?」

エドとベルの問いと笑みに含みを感じる。
エミーの時のようにサラっと流すつもりはないようだ。

「ソファはロイズが寝て……あれ?ロイズは?」
「ロイズも泊まったのか?」
「うん。っていうかお前が泊まっていいって言ったんだぞ?第一騎士団の宿舎なのにいいのかって聞いたら」
「泊まったことは問題ない。二人のことは信用出来るからハロルドが頼んだんだろうし、顔が売れてるAランクとBランクの冒険者が下手なことはしないだろ」

王都ギルドではAランクは勿論Bランクも多くない。
少ないからこそ顔を知られていて、仮に騎士団の宿舎に何かしようものならすぐに足が付いてしまう。

「エド、ベル、そういうことだ。ドニは俺が泊まらせた」
「承知しました。これ以上の詮索はいたしません」
「御無礼を。あるじをお守りくださり感謝いたします」
「感謝なら王都ギルドのギルマスに言ってやってくれ」

片膝を付いて謝罪と感謝をする二人にドニは軽く答えて欠伸をする。

「そんなことより朝飯どうする?王都地区で食うか?」
「ん?朝飯?」
「まさか王都を案内してくれって言ったことも忘れてる?」
「俺が言ったのか?」
「王都地区が庭の俺が言う訳ないだろ。起きたら王都地区に行くから泊まって行けって話だったのに忘れてるとか」

全然記憶にない。
酒を呑んでも記憶をなくしたことは殆どないんだけど。

「忘れてるならどうする?やめとくか?」
「いや。行きたい地区があるから頼みたい」
「貴族地区とスラム地区だろ?昨日言ってた」
「ああ……本当に俺が頼んだらしいな」
「信じてなかったのかよ」

爵位持ちの貴族が暮らす地区と低所得者が暮らすスラム地区。
王都地区に出かけても行き先は広場や商店くらいだから、機会があれば行ってみたいと思っていた。

「一日で両方行くのは無理だ。どっちに行く?」
「それならスラム」
「理由は?」
「色々と」

理由は詮索してほしくなくて曖昧な答えで目を合わせると、ドニは「分かった」とそれ以上は聞いてこなかった。

「シンさま。本日の訓練はお休みなのですか?」
「うん。訳あって休みになった」
「そうですか」

尻尾が千切れそう。
二人とも普通を装ってるけど尻尾が喜びを隠せてない。
大きくブンブンと左右に揺れている尻尾が可愛すぎる。
エミーとの訓練が始まってからは朝と夜に顔を合わせるだけになっていたけど、どうやら考えていた以上に寂しい思いをさせてしまったようだ。

「ドニ。二人も一緒にいいか?」
「は?使用人をスラムに連れてくのはさすがに危ない」
ワタクシたちも戦えます」
「攻撃魔法も使えます」
「使用人なのに?」

本来の使用人は全く戦えないか最低限の力しかない。
使用人は家のことをするのが仕事なんだから戦えなくて当然といえば当然なんだけど。

「二人は普通の使用人じゃない。俺のパーティでもある」
「辺境の地の使用人は戦闘技術も叩きこまれるのか?」
「まあ。パーティメンバーで世話もしてくれてる感じ」
「凄いな万能かよ。そういうことならいい。全く戦えない奴を複数連れて護衛するとなると俺一人じゃ危ないから」

昨日話していて思ったけどドニは物事への警戒心が強い。
最初の内は突っかかってきた時の印象で〝行き当たりばったりタイプ〟かと思っていたけど、呑みながら会話をしている内に起こりうる可能性をしっかり考えられるリーダー向きの性格をしていると気付いた。

「じゃあ風呂だけ入って王都で食事ってことでいいか?」
「ああ」
「決まり。ベル。風呂の用意をしてくれるか?」
「承知しました」
「ありがとう」

ベルはまだ尻尾を揺らしつつすぐに風呂の準備に行く。
本当に可愛すぎる。

「ドニさま。ご衣装にリフレッシュをお掛けしますか?」
「リフレッシュ?……ああ、使用人スキルの」
「はい。このまま王都地区へ行くのでしたらお着替えが出来ませんので、私でもよろしければおかけいたします」
「ありがとう助かる。あ、拾わせてごめん」
「使用人の仕事ですのでお気遣いなく」

ベッドの隣に脱ぎ散らかしてあったドニと俺の服をエドは尻尾を揺らしながら拾う。

「リフレッシュって身近な魔法じゃなかったのか」
「俺は一般国民だぞ?使用人を雇ってるのは貴族くらいだ」
「言われてみればそうだな」

この異世界の使用人は
日本で家政婦なら雇ったことがあるけど、時間で料金が発生する家政婦とは違い異世界の使用人は月・年・生涯契約の三パターンしかなく一般国民が気軽に雇える存在じゃない。

……ってベルから聞いた。
勇者のアイツらには最初から部屋付きの使用人が用意されてたし、予定外に召喚された俺にも娘っ子がエドとベルを付けてくれたけど、使用人の給金は全て国から出ているからどんなシステムなのかとかどのくらいお高いのかとか詳しくは知らない。

それにエドとベルは普通の使用人じゃない。
特殊部隊に属している二人は屋敷や施設に潜入することも多々あるため使用人スキルを持っているだけで本当は軍人。
普通の使用人とはそもそも違うんだから、この世界の『使用人システム』にもあてはまらないだろう。

望むなら除隊も許可すると国王のおっさんが言っていたことを伝えたもののまだ二人の所属は特殊部隊のまま。
除隊して完全に使用人になってしまうと国の有事にすぐ動くことが出来ないから、もしかしたら関わることになるかも知れない異世界人の俺を護るため魔王の討伐が終わるまでは除隊しないと答えを出した。

獣人の主への忠誠心は凄い。
全てにおいて主を中心に考えて行動する。
主を狙うものは老若男女問わず消すことを厭わないほどに。

「シンさま。入浴の準備が整いました」
「ありがとう。ドニ、先に入って良い」
「お前のために準備したのに先に入るのは悪いだろ」
「お心遣い感謝いたします。ですがドニさまはシンさまのまろうどですので使用人のワタクシどもに気遣いは不要にございます」

使用人に不慣れなドニはベルの態度に少し恐縮しつつも準備が出来た風呂に入りに行った。

「さてと。色々と聞き流してくれてありがとう」
「いえ。昨日のことからお聞かせ願いますか?」
「うん。そのために先に入って貰った」

不審に思う会話にも口を挟まずにいてくれた二人に、昨日訓練から帰った後に王都ギルドへ食事に行ったことから説明する。

片腕を失った瀕死の冒険者に回復ヒールをかけたこと、Aランクパーティのロイズたちと親しくなったこと、勇者と勘違いされたからハロルドの機転でロイズたち以外には『召喚祭で王家を護衛するために辺境の地から雇われた冒険者』という身分で通してあること、もちろんドニのことも話して俺の正体に関して完全には信じてないとも付け足した。

「孤高のドニ。噂通りの切れ者ですね」
「ドニを知ってるのか?」
「はい。私たちは表に出ない特殊部隊ですので直接お会いしたことはございませんが、彼は剣聖とも呼ばれております」

ドニが?
話してくれるエドの表情は真剣だ。

「でもドニはBランクだって。いや、Bでも充分凄いけど」
「彼はパーティを組んでおりません。ですから孤高と」
「え?じゃあ一人ソロでBランクまであがったってことか?」
「はい。ですがAランクに上がるポイントを持つ魔物となるとさすがに一人で討伐するのは厳しいですから、今現在は他のパーティの助っ人として活躍していると聞いております」

剣を二本も持っていたから剣士だとはすぐに分かったけど、孤高とか剣聖とか……全然知らなかった。

「何でパーティを組まないんだ。そしたらAだったろうに」
「私も小耳に挟んだ程度ですので詳しく存じ上げませんが、なんでも生涯剣を捧げると心に決めた方がいらっしゃるとか。恐らく将来を誓った愛しい方が居られるのではないでしょうか」

剣を捧げる?
それってそんなロマンチックな話じゃなくて……。
うん。勇者だろ。

「面白いなアイツ。そこまで貫けば馬鹿を超えて立派だ」

馬鹿も貫くことができれば真理。
自分が生きている間に現れるか分からない勇者にそこまでやってのけるとは。

「気に入った」

馬鹿を貫ける馬鹿は好きだ。
手のかかる奴ほど可愛がるとオーナーから呆れられてたけど、そこは召喚されてきた異世界でも変わらないようだ。

「あ、風呂は一人で入る」
「お一人で?」
「そんな悲しい顔するなよ。夜は頼むから。久々の休暇だから風呂は早く済ませて色々と見て回りたいんだ。この世界で暮らすなら王都のことも知っとかないと駄目だろ?」

へにゃんとしたベルの耳と尻尾が可愛い。
つい腕におさめ両手で尻尾をモフると垂れていた尻尾に力が入ってユルユルと左右に揺れる。

「ふぁ……シンさま」
「ベルだけ狡い」
「尻尾を抱えるな、尻尾を。エドもモフってやるから」

モフモフ最強。
モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ
モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ
モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ

「危な!18禁展開になるとこだった!」

ベッドでクタっとしてるエドとベル。
最近一緒に居る時間が少なかった所為かモフりを強請ねだるものだから、つい普段よりも長くモフりまくってしまった。

「悪い。やり過ぎた。大丈夫か?」
「「はい」」

ベッドから降りる二人に謝りながら手を貸す。
今日はドニが居るからかクタっとしていたのにすぐ起き上がってベッドメイクにかかる二人は使用人のかがみ





「飯は北か南の一般国民地区で食おう」
「スラム地区じゃなくて?」
「スラムにはまともな飯屋なんてないから。違法露店なら稀に出てるけど腹を壊すリスクがある」
「納得」

俺も風呂に入って支度をしてから早速王都地区へ。
今日はドニが案内してくれるから騒ぎになって迷惑をかけないよう俺はローブのフードを被って髪を隠し、エドとベルも普段着に着替えて耳や尻尾を隠した。

王宮地区と王都地区を隔てる王宮門で簡単なIDチェックを済ませてまずは食事目当てでに行く。
ちなみに貴族区・一般国民地区・スラムと言った名称は国で決められた正式な名称ではない。

まず王都の中心にあるのが王家が暮らすブークリエ城と宮殿。
その城や宮殿を含め、国に仕える人が暮らす地域が王宮地区。
この王宮地区には城があるため王都地区と呼ばれる周辺区域とは城壁で区切られていて、出入りにはIDチェックが必要。

城壁の外の王都地区は四つの区に分かれている。
貴族区と呼ばれる爵位持ちの貴族が住む地域が東区。
スラムと呼ばれる貧困層の人が住む地域が西区。
そして一番人口が多い一般国民が住む地域が南区と北区。

とまあ王都の造りだけはエドやベルから教わって知っているものの、実際に足を運んだことがあるのは商人の多く集まる南区の市場と大聖堂がある広場だけというインドア派のような行動範囲の狭さなんだけど。

今日向かったのは北区。
同じ一般国民地区でも使の商人が多く暮らしていて連日買い物客で賑わっている南区とは違って、の人が暮らしている北区はのんびりした空気感がある。

朝食に選んだのは王都ではポピュラーらしい軽食。
多くのキッチンカーが集まる広場には椅子やテーブルも用意されていて、大人から子供まで座って食事をしていた。

「ドニ!会いに来てくれたの!?」
「おはよう。ポーグサンド四つ」
「わざわざ会いに来るなんてもう私のことが好きでしょ」
「ポーグサンド四つ」

オススメの店に案内して貰うとドニに猛烈アタックしてくる売り子が居て(無視されてるけど)、その肉食系のガツガツした勢いとマシンガントークにエドとベルはポカンとしている。

「誰その女。ドニと居るなんて生意気」
「ポーグサンド四つ。作らないなら他に行く」
「作るよ!パパに怒られちゃう!」

ベルにとっては迷惑なとばっちり。
ただドニと居るだけで生意気と言われてしまって不憫だ。

「悪い。普段は親父さんが居るんだけど」
「ドニさまに謝罪していただくことではございません」
「それ遠回しに私へ謝れって言ってる?裕福な家の子なのか知らないけど少しいい衣装を着てるからって」
「お褒めに預かり光栄です。これはシンさまからいただいた大切な衣装なのです」

嬉しそうな顔でワンピースを少し摘んでクルリと回るベル。
厭味よりと言われたことが嬉しかったらしい。
これはベルの勝利。
無垢に洋服を喜ぶベルに売り子はムグっと黙った。

「ドニ。来てくれたのか」
「親父さん。良かった、戻って来てくれて」

小走りに来たおじさん。
この人がドニの言っていたらしい。

「ん?良かった?……まさかまた」
「作ってるよ!?話しながら作ってる!」
「どうせ帰るって言われて作り出したんだろ!馬鹿娘!」
「だってドニが会いに来たからテンション上がって」
「買いに来てくれたことを都合よく解釈するな!」

さすが親子。
それほど普段からこの売り子がドニに猛烈アタックをかましているということなのか、まるで見ていたかのように言い当てて怒りながらエプロンをする。

「そちらのお客さまはドニのお連れさまかな?」
「うん。今日はこの人の護衛。ポーグサンドを食べたことがないらしいから王都で一番美味い親父さんの店にした」
「王都で一番とか嬉しいことを。すぐにお作りしま」

早速売り子(娘)の隣で作り始めるおじさん。
途中で会話が止まってパテを焼く手も止まる。

「……ドニが護衛を引き受けたってことは要人じゃ」
「まあ。国王陛下の勅令で遠い辺境の地から来てくれた人」

ドニの奴ずいぶんと大袈裟に話を盛ったな。
国王のおっさんの勅令(勇者召喚)で辺境の地(地球)から呼ばれた人には違いないけど、勇者じゃない俺はただ異世界から来たってだけの一般人なのに。

「も、申し訳ございません!娘が御無礼を!」
「お気遣いなく」

そうとしか言えない。
余計なことを話すと拗れそうだから。

「すぐにお作りいたしますので!」
「急ぎではありませんから普段のペースで構いません」

ドニをチラっと見るとクスっと口角で笑われる。
連れも居るのに私語(口説くの)に夢中でいつまでも作らなかったり、ただ一緒に居るだけのベルに突っかかったりしていた娘は多少の反省が必要だけど、巻きこまれてしまった親父さんには少し同情する。

「お待たせしました」
「ありがとうございます」
「シンさまお持ちします」
「ありがとう」

日本でいうハンバーガーセット(バーガー+飲み物)。
セットを乗せたトレイの片方を渡されてエドに渡す。

「ドニの分も俺が払う」
「自分で払えるけど」
「案内して貰うんだからせめて食事代くらいは出させてくれ」
「じゃあ遠慮なく。ありがとう」

残りのトレイを受け取ったドニが支払いしようとしているのを見て止め、王都案内をしてくれるお礼にドニの分も含めた四人分を支払った。

「改めて申し訳ございませんでした」
「どうぞお構いなく」

店主から畏まって謝罪される程のことはされてない。
娘がちょっとヤンチャしてしまった程度の話だから。
とはいえ娘の方はドニに謝った方がいいと思うけど。

「イルからも誠心誠意謝れ。幾らドニが常連でも人を連れて来てるんだから仕事中かも知れないことくらい考えろ」
「だってドニが護衛を引き受けるなんて思わなかったもん」
「そういう問題じゃないだろ」

ボソボソ話す親子の会話は丸聞こえ。
娘の方は若さゆえか商売人としてはまだまだのようだ。

「じゃあ」
「ドニ!」
「器の大きい要人で良かったな。不敬罪にならずに済んで」
「だって」
「謝るよりまず言い訳か。もういい」

あーあ、やっぱり。
だってだってと言い訳をするだけで謝らないから。
去ろうとするのを引き留めるように呼んだ売り子(娘)にドニはおかした過ちを厭味で伝えることで謝罪する機会を与えたものの、それでも謝罪しなかったから突き放すように言い放った。

「すまんドニ。イルは何を言ったんだ?」
「それはイルから聞いてくれ。本人が何が悪かったか考えて反省することだから。今度は親父さんが店に立ってる時に来る」
「分かった。本人に聞く」

結構ハッキリとした拒絶。
つまり今日のように娘しか居ない時には来ないってことだ。

もう一度俺たちに深く頭を下げて謝る親父さんに頭を下げて返して店から少し離れた場所の空いていた席に座る。

「よかったのですか?あの子泣きそうでしたが」
「女を泣かすなとか言わないでくれよな。悪いことは悪い」
「それは申しませんが」

ベルは娘が心配らしく店の方をチラと見る。

「ベル。黙っておくのはあの子のためにならない。今回は俺たちだったから良かったけど、もしこれが本当に貴族だったりしてみろ。あの子が不敬罪に問われたかも知れないしドニだって迸りで仕事が来なくなるかも知れない。そんな悲惨なことになる前に親父さんから絞られて反省した方が良い」

この世界には爵位というものが存在する。
貴族が何かをして反抗したのならまだしも、何もしていないのにあんなことを言えば侮辱したとキレられてもおかしくない。
この世界に生まれたベルの方が身分階級には詳しいだろう。

「差し出がましいことを申しました。申し訳ございません」
「いや、可哀想に思うのは分からなくないから」

ただ、その同情はあの子のためにならないってだけ。
同情することが正しいとは限らない。

「それより食べよう。食事を冷めさせる方が失礼だ」
「「はい」」

折角作ってくれたバーガー(ポーグサンド)が冷めてしまう。
三人が祈り終わるのを待って俺も手を合わせて口に運んだ。

「ん?美味いな」
「だろ?」

分厚いパテが二枚と包装紙からはみ出しそうなほどの野菜をバンズで挟んだに近いバーガー。
馴染みのあるテリヤキバーガーと違いテリヤキ味のソースをパテや野菜にかけてるだけだけど、少しピリ辛のタレとパテの肉汁がこの世界の固いバンズに染み込み食べやすくなっている。

「駆け出しの頃はロイズと金を出しあって食ってた」
「二人は付き合いが長いのか?」
「同じ孤児院で育ったからな」
「孤児院?」
「俺たちの年齢では孤児も珍しくない。戦争があったから」
「そうだったのか」

所謂いわゆる戦争孤児。
昨日ロイズも『ドニは子供の頃から』と話していたけど、てっきり子供の頃からの幼なじみなのかと思って深く考えずに聞いていた。

どこか因縁めいた巡り合わせ。
エドとベルは誘拐され親を失い、ドニは戦争で親を亡くした。
そして俺は事故で両親を亡くして育ての祖母も失踪した。

この世界ではエドやベルやドニの生い立ちは珍しくないようだけど、異世界から来た自分も似たような生い立ちだけに不思議な巡り合わせを感じた。
 
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