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第四章 動き出した歯車
竜人街
しおりを挟む夕凪真21歳。
生まれて初めて拐われました☆
「え?なんでこうなった?」
教会や孤児院の建設と戦闘狂軍人との訓練が続く日々。
日によっては午前中に建設作業を手伝って午後から深夜まで訓練なんてこともある充実しすぎな日常を送っていた……のに、急な非日常へ。
「どこだよココぉぉぉお」
光の当たらない場所。
腕と脚を何かに拘束された状態で冷たい床(地球でいうコンクリート的な物)の上に転がされたまま放置プレイされている。
今日は孤児院で働いてくれる人の面接をしてからいつも通りみんなに賄いの昼食を摂ってもらった後、用事があるからと司祭さまに日当を預けてエミーとの待ち合わせ場所に向かっていたら背後から襲われ、目覚めたらここに居た。
「襲われる覚えなんて……ありすぎて分からない!」
スラムの住人か、教団関係者か、王宮関係者か。
身に覚えがありすぎて誰に襲われたのか分からない。
理由も思い当たることがありすぎてどれか分からない。
「暗闇で放置プレイとか一番退屈」
自分が転がされてる場所さえも見えないんだから外の景色なんて見えるはずもなく、助けを呼んだら誰か来てくれるような場所なのかさえ分からない分からない尽くしだ。
「よし、逃げよ。ライト」
放置プレイに身を任せる趣味はない。
拘束プレイは嫌いじゃないけど、出来ることなら自分が拘束する側でありたい。
「どこだここ」
聖魔法で部屋を照らしてみると窓一つない部屋。
コンクリート打ちっぱなしの部屋で家具も置かれてない。
「意識高い系ならオシャレ♡って喜ぶかもな」
残念ながら俺には興味がない。
日本に住んでいた時にもコンクリート打ちっぱなしのマンションの購入は避けた。
「何だこれ」
今までは見えなかった自分の手足を確認すると見たことがない鉄の道具(手錠が太くなったようなの)で拘束されている。
鍵穴が見当たらないということはこの世界お決まりの魔法で外れるんだろうか。
「とりあえずやってみるか」
あらゆる属性魔法を無効化できる闇魔法(※相手の属性レベルより自分のレベルが高ければ)で外れるイメージ外れるイメージ外れるイメ、パンッ(音)!
「危ねっ!」
左手首と右手首を繋げている鎖が弾け飛んで焦る。
自分でやったことではあるけど、外れたというよりも鎖をぶった切ったって表現が正しい(汗)。
……まあ動けるようになったからいいか( ˙-˙ )スンッ
結果オーライ。
「恩恵〝妖刀陣〟」
ステータス画面を開いて口にすると空中に術式が描かれ、邪悪フェロモン垂れ流しの優美が召喚されてくる。
いつ見ても要らぬフェロモン垂れ流しだ。
「優美。ここから出たいから力を貸してくれ。早く出て帰らないと戦闘狂軍人からボッコボコにされるからな」
柄の部分を握って話しかけると邪悪フェロモンはゆっくりおさまった。
「入ってますかー?」
クソ分厚そうなドアのノブを回してみたものの案の定鍵がかかっていて試しにコンコンとノックしてみる。
どうやら入っているのは俺の方らしい(当たり前)。
「ドアから離れてくださーい!危ないでーす!」
念のため先に忠告をして鞘から優美を抜いてドアを斜めに斬りつける。
「……マジか」
吃驚真っ二つ。
どんな危険な斬れ味をしてるんだ。
数回は奮闘する覚悟だったのに。
「……どこだここ(三回目)」
斜めに斬れたドアの残骸を跨いで外に出ると既に夜。
閉じ込められてる間に夜になっていたらしい。
人の賑やかな声と明かりを頼りに細い通りを出て見えたその光景に( ˙-˙ )スンッとなる。
王宮でも王都でもない場所。
洋服姿の人もポツポツ居るものの殆どの人は着物姿。
街並みは吉原遊廓があった頃の日本(絵や画像でしか見たことないけど)を彷彿とさせる。
あれはなんだ?飾り?
店の従業員なのか、店前に立って通りすがりの人に声をかけている男が頭につけている短い鹿の角のような物体。
ここで流行ってるファッションなんだろうか。
色も形も大きさも違うそれを多くの人が付けている。
男も女も俺より背が高い人ばかり。
少なくとも王都の中のどこかじゃないことだけは確実。
「っと」
のんびり観察してる場合じゃなかった。
俺を襲った奴に逃げ出したことがバレたら面倒だ。
ここがどこなのかを誰かに訊いて早く帰らないと。
閉じ込められていた傍で聞くのはやめてフードを深く被り、昔の日本風の建物が続く不思議な街並みを人混みに紛れて歩く。
左右に並ぶ建物の中には着物姿の女が座っていて、本当に昔の吉原遊廓にタイムスリップしてしまった気分。
「そこの人。お気にの子は居るのかい?」
「うちにも寄って行きなよ」
人を避けて端を歩いているとそんな声がかかる。
そうやって前を通る人に声をかけて店に誘うんだろう。
誘いをスルーして歩いていてふと気付く。
店の中に座っている人を見ているのが男だけじゃないことを。
見た目の印象ですっかり遊郭だと思っていたけど、実はいかがわしい店じゃないんだろうか。
「すみません。ここはなんの店ですか?」
いかがわしい店じゃないなら中に入って情報を得ようと思って格子越しに声をかけてきた遊女っぽい人たちに訊ねる。
「面白いこと聞くね。それともそうやって誘ってるの?」
「迷子になった子供かな?」
「子供の好きな甘味処なら一本先の二角領にあるよ」
その茶化し方だとやはりいかがわしい店なんだろう。
見てる人に女も多いのが不思議だけど。
「分かりました。ありがとう」
「本当に甘味処に行くのかい?」
「今時間はもう閉まってるよ?お家に帰りな」
店の子だけじゃなく見ていた客からも笑われる。
みんなはどんな店か知っていて来ているんだろうから、そのまま帰ろうとしてる俺が笑われるのも仕方ないか。
「ってことで済ませるつもりだったけど」
上空から降って来た何か。
光ったそれに気付いて咄嗟に避けたものの少し頬をかすって地面に刺さった。
「随分なご挨拶だな。顔は絶世の美女なのに」
地面に刺さっていたのは持ち手が銀製の風車。
必殺仕事人かとツッコミを入れたいのを堪え、高価そうなそれを二階に居る人へ投げ返す。
「何族だ?」
「知らないよ。銀の髪と目の種族なんて」
「変異種か?」
フードが外れた所為で今まで茶化していた人がサッと引く。
ここでも俺の容姿は特殊らしい。
「綺麗な子だね。上がっておいで」
「辞めておく。それよりここはどこなんだ?」
「知りたいなら上がっておいでよ」
「早く帰らないといけないんだ」
人に風車を投げた二階の美女は俺に微笑したまま口を結ぶ。
早く帰りたいなら上がって来いってことか。
「リュウエン!」
「その子を上げて?花代は私が出すから」
「駄目だよ!何の種族かも分からないのに!」
店主だろうか。
店の前から二階の美女に怒っている。
「アンタも誇り高い竜人族なら客を選びな!」
……竜人族!?
今オバサン竜人族って言った!?
それはあの匂いフェチが言ってた初耳キャラじゃ……。
「誇り高い?口先ばかり偉そうで呆れるね。その子から魔王さまの魔力を感じるのに誰ひとり気付かないなんて」
美女が言ったそれで大注目を浴びる。
魔王さまってことはやっぱりここは魔族に含まれる竜人族の街なんだろう。
「上がっておいで。魔王さまと関係のある貴方には誰も手を出せやしないから。階段を上がって突き当たりだよ」
「……分かった」
魔族の敵の俺が行くのは危ない気もするけど、他の人(?)に比べればこの美女が一番話せる気がするから。
遠巻きに見ている人たちはスルーして店主だろうオバサンに会釈して店に入り、目の前にあった立派な階段を上って美女が言っていた二階の部屋に行く。
「入って良いのか?」
「どうぞ入って」
一応確認して開けた襖の中は絢爛豪華な部屋。
変わらず窓辺に座っていた美女はフフと笑い声をあげて立ち上がる。
「私はリュウエン。貴方は?」
「シン」
「シン、ようこそ竜人街へ。座りましょう?」
リュウエンという名前の竜人族。
絶世とつけるに相応しい美女は目の前まで歩いてくると俺の腕を組んで赤い絨毯の上を指さす。
「シンは人族よね?お酒は呑める?」
「呑めるけど」
「おかしな物は入ってないから安心して?」
赤い絨毯の上に置かれていた高価そうな屠蘇器。
俺の隣に座ったリュウエンは軽く屠蘇台を引き寄せると慣れた仕草で銚子から盃へと酒を注ぐ。
「桜?」
「桜?」
「今乗せた花弁」
「これはリュウカってお花。お砂糖に漬けてあるの」
「へー」
屠蘇台に置かれていた重箱から出して盃へ浮かべた花弁。
日本の桜の花弁によく似ている。
街並みも花魁のような着物姿も屠蘇器も桜に似た花も奇妙なくらいに日本風で、角がなければ江戸時代の日本にタイムスリップしたんじゃないかと思うほどに日本の文化に似ている。
「さあ、どうぞ?」
「ありがとう」
本当はのんびり呑んでる場合じゃないんだけど、せっかく注いでくれたんだからと思って盃の中身を呑み干す。
「警戒しないのね。呑んでくれないと思ったのに」
警戒はしてる。
だから先に鑑定で成分を確認した。
ちなみに鑑定画面も音声モードで確認出来ることに気付いたのはつい最近。
「どうして竜人街に来たの?魔王さまの半身が」
「そこまで分かってたのか」
「これ。魔王さまの魔力を感じるからご寵愛を受けてることは分かったけど、半身だと分かったのは刻印が見えたから」
「へー。この印で分かるものなのか」
銚子片手に指先でなぞられたのは首筋。
種族だけじゃなく魔王の半身であることも気付かれていて驚くと契約の印の形で分かったことを教えてくれた。
「実は俺もどうしてここに居るのか分からない」
「どういうこと?」
「後ろから襲われて目が覚めたらここに居たから」
「誰かが竜人街に拐って来たってこと?」
「だと思う。竜人族から拐われるようなことをした覚えはないし会ったことすらないけど、この状態を見る限りだと歓迎されてここへ連れられて来たんじゃないことは確か」
スーツの袖を持ち上げ手脚に付いたままの拘束具を見せる。
竜人族という種族が居ることは匂いフェチから聞いてたけど、恨まれるようなことどころか会ったことすらないのに何故か襲われここまで連れて来られた。
「これは外してあげる」
「外せるのか?」
「ええ」
リュウエンが短い呪文のような何かを唱えるとパキンと音をたてて手脚の枷が外れた。
「ありがとう。今のは?魔法とは違ったみたいだけど」
「竜人族にも魔力はあるけど魔法は使えないの。変わりに竜人族にしか使えない言の葉って力を持ってる」
言の葉……つまり竜人族にしか使えない言葉ってことか。
道理で魔力を感じなかったはず。
「竜人族も特別な力を持ってるんだな」
「魔人族からは劣化した魔族って言われてるけどね」
「劣化?」
言霊を利用した呪詛とか出来そうだと思って言うと、盃に酒を注いでくれながらリュウエンはまたフフと笑う。
「人族も獣人族やエルフ族と仲が悪いでしょ?」
「獣人族とは……うん。エルフ族っていうのは知らない」
「同じ地上に居るのに知らないの?」
「俺は少し特殊だから。種族については詳しくない」
やっぱり居るのかエルフ。
俺TUEEEEの異世界系ならお馴染みの存在なのに、この世界に来て半年以上経ってもまだ一度も見たことがない。
「そうなんだ。エルフ族は一言でいえば気位が高い。シンの方からエルフ族の国へ行かない限り会う機会は少ないかもね」
なるほど。
性格も異世界系によくあるパターンか。
森林の中にエルフ族だけの集落を構えていて、他の種族を嫌う閉鎖的な森の住人なイメージ。
「地上の種族が人族と獣人族とエルフ族で、魔界の種族が魔人族と竜人族と龍族って認識で合ってるか?」
「そう。後は魔層の魔物」
「え?魔物って魔界の生き物じゃないのか?」
「違うよ?魔物は地上の負の力で産まれる魔層の生き物」
「地上の負の力?」
「恨み妬みの感情や血の流れる争いとか。そういう負の力を糧に魔層の中で生まれて魔界や地上に出て来るの」
「へー。それは初耳」
知らなかった。
魔の物ってくらいだから魔界の生き物なのかと思ってたのに。
「あ。ゆっくり話してる場合じゃなかった。帰らないと。時間があったらもっと色々な話を聞きたかったけど、人と待ち合わせしてたのに行けなかったから心配してると思うし」
リュウエンの話は異世界人の俺には知らないことばかりで興味があるけど、エミーと特訓する予定だったのに待ち合わせ場所に行けなかったからエドやベルが心配して大捜索しそうだ。
「竜人街からだと地上には帰れないの」
「え?連れて来られたのに?」
「魔層を経由して連れて来られたんだと思う」
「じゃあその魔層ってヤツの場所を教えてくれ」
それを使って連れてこられたなら帰りもそれで帰れるはず。
注いで貰ったぶんの三杯目の盃の中身を呑み干して訊いた俺にリュウエンはフフと笑って着物の帯を解く。
なにこの美味しい展開……いや、今はそんなことをしてる場合じゃないから不埒なことはまた今度。
「リュ」
「シーっ」
絨毯の上に押し倒され唇に指をあてられる。
体の上に乗っているリュウエンの顔が近付いて唇が触れそうになった瞬間……スパンと襖が開いた。
「何方かしら。私の部屋に無断で押し入る不届きな方は」
「それを渡せ。渡せば貴様には何もしない」
「こちらの方は私のお客さま。渡せとは無礼ですよ?」
誰 コ イ ツ ら 。
押し倒されたまま反対向きに見た顔。
頭に鬼のような角が生えた男女。
「魔人族であっても竜人街の規定はご存知のはず。私の部屋へ踏み入りお客人を連れ去るのであればお覚悟を」
コイツら魔人族なのか。
渡せということは俺を拐ったのは魔人族だったと。
リュウエンが急に帯を解いて着物を開けたのは、コイツらの気配に気付いて俺を連れて行かせないよう客との情事中を装ったんだろう。
「ソイツは我々の敵だぞ!」
「我々の?私にとってはお客さま。敵ではございません」
「魔王さまを誑かした重罪人だ!」
「あら。嫉妬が過ぎますわよ?そのように醜いから魔王さまのご寵愛をいただけないのではなくて?」
クスっと笑ったリュウエンのそれは嘲笑。
美女の嘲笑はグッとくるものがある。
いや、俺は断じてマゾじゃないけど。
「黙って聞いていれば竜人風情が!」
怒りをあらわにした魔人二人が灰色の魔力を放つのを見て上に乗っているリュウエンの背に手を添え体を起こし、当たる直前で闇魔法を使い無効化する。
「二人分の魔力を消しただと!?」
「残念。二人合わせても俺の魔力以下だったらしい」
闇属性をつかった魔法の無効化は、相手の魔攻値より自分の魔防値が上回っているか精神力の数値が高ければ無効化できる。
もし相手の方が上回ってそうな時や精神力が高そうなら別の魔法を撃って相殺を狙うんだけど、今回は特殊恩恵が発動しなかったからそこまでの奴らではないと思って無効化した。
「貴様だけは許さん!」
「リュウエン。美味い酒をありがとう」
小声で酒の礼を言いながら両足に強化魔法をかける。
俺がここに居たら店まで巻き込んでしまう。
匿ってくれた人に怪我をさせる訳にはいかない。
「お前らの狙いは俺だろ?同じ魔族なのに仲間を巻き込むな。鬼ごっこの相手になってやるから来い」
さっきまでリュウエンが座っていた窓辺に足をかけて魔人族の男女に外を指さす。
「シン!」
「じゃあな。ご馳走さま」
開けた胸元を押さえ名前を呼んだリュウエンに再度礼を言って窓から飛び降りた。
「うっそ。二人だけじゃねえの?」
飛び降りた先に待ち構えていた魔人たち。
鹿の角のような竜人族の角の形とは違うから、十中八九魔人族で間違いないだろう。
「竜人族の街で訓練することになるとは思わなかった」
文字通りのデスマーチ。
捕まれば無傷では済まなさそうだ。
頼む優美。
お前だけが頼りだ。
「待て人族!」
「待てって言われて待つ馬鹿が居るか!」
魔人たちの攻撃を優美で避けながら竜人街を駆け抜ける。
日本風で和むし酒も美味かったしリュウエンも美人だったし、どうせならゆっくり遊びに来たかった。
「魔人族の体力ヤベぇぇぇ」
竜人街の広さも然る事乍ら、走りながら魔法を撃ったり追いついて剣で攻撃してくる魔人族の体力が恐ろしい。
強化をかけてなかったら疾っくに力尽きて囲まれてただろう。
「……巻いたか?」
竜人街を抜けたら森の中。
体の大きな魔人族が入れなさそうな脇道を通ったりしながら逃げ回って漸く背後が静かになった。
「戦闘狂軍人から鍛えられてて良かった」
パラメータは減らなくても疲れるものは疲れる。
誰も居なくなった事に安心して大木に背を預け息を吐いた。
「さて、魔層ってのはどこ」
「逃げきれたと思ったか」
木の影から飛び出して来た魔人。
振り下ろされた剣が耳をかすめて激痛が走る。
「……魔人族って凄い執着心だな」
日本のヤン・デレ子ちゃんも真っ青のレベル。
耳がついているか触って確認すると、耳の感触と共にヌルリと生温い血が手についた。
「戦うしかな」
………………!?
突然目の前に居る魔人たちが闇色の炎に包まれる。
耳を劈く断末魔をあげる魔人たちのその光景はまるで阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
「……魔王……か?」
闇色の炎に包まれた魔人たちの間を歩いて来る人物。
疑問形なのは俺が知る魔王とは容姿が違うから。
「…………」
背は魔王より2・30cmほど高く、髪や瞳の色も濃いブラウンの魔王より明るいブラウンだし、髪の長さも違って腰ほどある。
頭の左右には三日月のような形の立派な角が生えているし、顔も俺が知る魔王より少し年上に見える。
もしかして魔王の兄弟か?
知ってる姿とは少し違う姿を不思議に思いながら見あげていると顔が近付いて、先ほど斬られた耳をザリと舐められた。
「痛っ!」
なんだこの急なセクシー展開。
自分がセクシー展開に持って行くのは好きだけど、セクシー展開に持って行かれることは望んでない。
「魔王さま!」
あ、魔王本人なのか。
生き残っていた魔人が声をあげても魔王は無言で俺の耳を舐めていて振り返りもしない。
「いつまで舐め」
「おとなしくしていろ。まだ血が止まっていない」
え?治療中?
セクシー展開じゃなくて『舐めてりゃ治る』的な野性味あふれる治療中?
「魔王さま!なぜ下等な人族などに慈悲を!」
「じきに滅びる種族なのですよ!?」
「魔王さま!」
なあ……聞いてやろうよ。
魔王の華麗なスルースキルで魔人たちが不憫に思えてきた。
「流血は止まった」
「マジで?」
「傷口は後で塞いでやる」
「ありがとう」
言われてみれば痛みも和らいだ。
斬られた時は耳に心臓が移動したんじゃないかってくらいズキズキしてたのに。
「あ、やっぱ大丈夫。回復は使えるから」
「無理だ。その傷は回復では治らない」
「え?なんで?」
「そういう剣で斬られたからだ。後で話すから少し待て」
「あ、はい」
魔王がハルなら「空気を読め」と言われたパターン。
一々説明してる状況じゃなかったと思い出して口を結んだ。
「お前たち。言い残すことはあるか」
俺の血がついた口を手の甲で拭った魔王はようやく背後にいる魔人たちを振り返る。
「我々は認められません!人族が魔王さまの半身など!」
「言ってくだされば新たな伽の者をご用意します!今一度冷静になってお考え直しください!」
伽の相手とか用意して貰えるのか!
殿さまか!王さまか!
あ、魔王さまだった。
うらやま。
「お前たちは俺が伽の者に不満があってこの者を半身にしたと思っているのか?そうであるなら愚かな。伽の者など誰でも構わない。魂を分けることになる半身だからこそ自分で選んだ」
潔いぃぃぃぃぃぃぃい!
心と体(下半身)は別って言う潔いクズだァァァあ!
やっぱりハルと魔王は近しい匂いを感じる( ˙-˙ )スンッ
「魔族に人族の魂が混ざるのですよ!?」
「だからなんだ。面白いだろう」
あ、やっぱりそれなんですね。
面白いから俺を選んだんですね。
完全に迸りですありがとうございました。
「魔王さまの御子に人族の魂が混ざるなど許されません!」
「見苦しい嫉妬は終わりになさい」
必死に訴える魔人の背後に現れたのはリュウエン。
魔王にしてもリュウエンにしても唐突にスルッと現れるから吃驚させられる。
「正直に言ってはどう?自分たちの方が半身に相応しいと」
「そんなことはない!」
「不満なのでしょう?伽の相手をするだけでは」
この魔人たちは魔王の伽の相手(要は夜のお相手)なのか。
本人たちは否定してるものの、反応を見る限りではリュウエンの言うことも強ち間違いではなさそう。
「あれ?魔族は魔力で子供を作るって聞いたんだけど」
「ええ。魂の契約を結んだ相手とだけ子を成すの」
「じゃあ伽の相手っていうのは何の為に?」
「人族もするでしょう?子を成す時ではなくとも」
「する。魔族もソレとコレは別って感じなのか」
結婚するまで貞操を貫き通すって人も中には居るけど、そこまで真面目で誠実な人は多くない。
俺個人としてはむしろ性の不一致は致命的だと思ってるから、結婚してから「合いませんでした」となる方が恐ろしい。
「伽の相手に男も居るのか」
「それがどうかしたのか?」
「いや、別に」
子供を作る相手は体を使って致す訳じゃないから性別よりも魔力量や質を重要視するというのは分かる。
ただ、体を使って性的欲求を解消する相手は異性を選んでもおかしくない気がするんだけど、そこは自分の性別にさえ拘りがない魔族クオリティなんだろうか。
「羨ましい話だ」
ホモだゲイだバイだと馬鹿にする奴も多い世界に住んでたパンセクシャルの俺にとって、自分の性別にも相手の性別にも拘りがないことが通常の魔人族の国は天国だな。
「もう契約を済ませた半身なのに謙虚なのね」
「謙虚?」
「魔王さまはシンを選んで半身にしたんだから、ただの伽の者を羨ましく思わなくとも自分とって言えば良いのに」
……?
フフと笑うリュウエンに首を傾げて考え答えに辿り着く。
「違ァァう!性別に拘りがない魔族の世界は住みやすそうで羨ましいって言ったんだ!魔王の伽の相手をするのは全然羨ましくないし興味もない!」
そんなものはどうでも良い。
魔王がハーレム状態なことは正直に羨ましいけど。
「……後でじっくり話そう」
あれ?……地雷踏んだ?(震え)
オーナーに呼び出されて小一時間説教を受ける時と同じ黒い何かを魔王から感じた。
「理由は何であろうと剣を持ち出したことは許されない。しかもそれを俺の半身に使うとは。無に還るがいい」
「魔王さま!」
赤や青では無い闇色の炎。
禍々しいなんて言葉は疾うに凌駕している。
それに包まれた生き残りの魔人たちも全て絶命した。
「伽の相手でも容赦ないな」
「容赦しただろう。俺が直接葬った」
「それどんなトンデモ発想?魔王の俺が殺してやったんだから感謝しろ的な?誰の手で殺されても死は死だろ」
眉一つ動かさず同族を消した魔王。
理解できずにいう俺の顔を無言のまま見下ろす。
「魔王さま、こちらを」
灰になった魔人たちの中からリュウエンが持って来た剣。
この剣を持ち出したことは許されないと言っていたから、魔王にとってよほど大切な物なんだろう。
「報せをくれて助かった。まさか竜人街に幽閉するとは」
「他の場所では魔王さまに見つかってしまいますからね」
「繋がりが途切れた時は殺されたのかと肝が冷えた」
「そんなに心配でしたらお傍に置いた方が安心では?」
魔王はリュウエンに笑みで口許を歪めて剣を鞘におさめた。
「次は礼を持って行く」
「それではいつものを」
「分かった」
寄り添うリュウエンと腕におさめる魔王。
これだけ親密(そう)な相手が居るんだから、面白いからで選ばずリュウエンと魂の契約をした方が良かったと思うけど。
「行こう」
「魔層まで連れて行ってくれるのか?」
「連れて行くが、帰らせるのは話を終えてからだ」
「いや、早く帰らないと予定が満載でして」
「終わったら帰らせてやる」
俺のお断りは通してくれないらしく、またしても片腕だけで肩に担がれる。
「シン、またね」
「また拐われんのかよォォォ!」
爽やかな笑顔のリュウエンに見送られながら俺の心からの叫びが森に木霊した。
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「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
現代社会とダンジョンの共生~華の無いダンジョン生活
シン
ファンタジー
世界中に色々な歪みを引き起こした第二次世界大戦。
大日本帝国は敗戦国となり、国際的な制約を受けながらも復興に勤しんだ。
GHQの占領統治が終了した直後、高度経済成長に呼応するかのように全国にダンジョンが誕生した。
ダンジョンにはモンスターと呼ばれる魔物が生息しており危険な場所だが、貴重な鉱物やモンスター由来の素材や食材が入手出来る、夢の様な場所でもあった。
そのダンジョンからモンスターと戦い、資源を持ち帰る者を探索者と呼ばれ、当時は一攫千金を目論む卑しい職業と呼ばれていたが、現代では国と国民のお腹とサイフを支える立派な職業に昇華した。
探索者は極稀にダンジョン内で発見されるスキルオーブから特殊な能力を得る者が居たが、基本的には身一つの状態でダンジョン探索をするのが普通だ。
そんなダンジョンの探索や、たまにご飯、たまに揉め事などの、華の無いダンジョン探索者のお話しです。
たまに有り得ない方向に話が飛びます。
一話短めです。
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