ホスト異世界へ行く

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第四章 動き出した歯車

精霊族と魔族の間

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「なんか色々なものを失った気がする」
「傷は塞がったぞ?」
「塞がる代わりに他のなにかを失った」

たしかに傷は塞がった。
の量に比例してそれはもう嘘のようにあっさりと。
ただ代わりに何かを失った。

枕に俯せ‪て(  ˙-˙  )スンッ‬としていると魔王はベッドを軋ませる。

「あ、俺も欲しい」
「もう気落ちするのはいいのか」
「考えるだけ無駄だって気付いた」

ベッドから降りた魔王が口にしたのはミントル(煙草)。
瓶に入ったそれを持って再びベッドに座った魔王は瓶ごと俺に渡すと口にしていたミントルの先に魔法で火をつけた。

「ピィ!」
「イテテ。生肌に爪を立てんな」

最中は魔王に言われて大人しくシェーズロングで寝てたのに、ベッドまで来たかと思えばまた人によじ登って頭頂を陣取る。

「コイツ俺と契約してて他の魔人とも契約出来るのか?」
「出来ない。契約は一人だけだ」
「やっぱそうか。どうするんだお前。人族と契約して」

魔族にとって人族は敵。
今はまだ魔王がヒカルたち勇者の覚醒を待ってるから平和(?)だけど、覚醒した後は精霊族と魔族で戦いになるのに。

「面白いじゃないか。魔族でありながら人族と主従契約した祖龍と、人族でありながら魔神に愛された者の組み合わせとは」
「そこ面白がるところじゃないから」

プークスクスする姿はハルそのもの。
見た目はハルより遥かに厳ついけど。

「魔王だってそうだぞ。覚醒後は敵になるのに」
「俺が戦うのは勇者だ。半身のお前じゃない」
「実際に戦うのはそうだろうけど」

たしかに勇者じゃない俺は魔王と直接戦う訳ではないけど、地上層の種族(精霊族)と魔界層の種族が敵同士なことは事実。

「勇者が勝利して魔界の種族が滅ぶか、魔王が勝利して地上の種族が滅ぶか。この世界はそのように破壊と再生を繰り返してきた。魔王というのは勇者と戦うために作られた存在だ。負ければ全て終わる。その前に楽しむくらいしてもいいだろう?」

そんな魔王の話を聞いてソワっとする。

勇者と魔王。
俺はその何方とも知っている。
どちらかが死ぬが来たら俺はなにを思うんだろうか。

「ピィ」

頭頂から覗き込むように見る白龍。
複雑な心境が伝わったかのような様子の白龍の体を撫でる。

あるじになったのだから名を付けてやれ」
「そっか。魔王の祖龍にも名前があるもんな」
「契約した祖龍には名付ける」
「名前かぁ。この白龍は魔王の祖龍の子供なんだよな?」
「ああ。俺の眷属の名はラヴィという」

白龍の父親(?)の名前がラヴィ(命・人生)だから……

「アミュって名前はどうだ?面白い楽しいって意味のアミュゾンから取ってアミュ。お前の親のあるじの口癖」
「ピィ!」
「お、納得してくれたか」

俺の頭の上で飛び跳ねようとして落ちそうになったアミュを魔王が隣から押さえて口許に笑みを浮かべる。

「親子が揃うとか。よい名を貰ったな」
「ピィー!」
「俺の頭の上では無理だって」

懲りずに飛び跳ねようとするアミュを今度は二人で慌てて押さえて笑う。

「問題はどうやって地上で育てるかだな」
「地上では育てられない」
「え?契約してても?」
「龍族は肉と魔素を食べて成長する。肉だけであれば地上にもあるが、魔界のほどの魔素がないから餓死してしまう」

禁じられてるとかじゃなくて食事の問題か。
それなら飢えさせてしまうことになるから連れて帰れない。

「帰るのか?地上に」
「帰るけど……なんだ急に」
「そうか。ではアミュは引き続き俺が育てよう。元々そのつもりで部屋に連れて来ていた」

そう言って魔王は再び立ち上がると瓶をテーブルに置く。

「湯場の用意をさせる。帰る前に入って行け」
「ありがとう」

急に聞かれて少し驚いた。
国王のおっさんから俺を魔界層に連れて行かない理由を聞かれた時は「地上層こっちに居させた方が面白いから」と言ってたのに。

「ピィー」
「ごめんなアミュ。連れて帰れなくて」

アミュとの契約も押し付け詐欺ではあったけど、経緯はどうでも主になったのに世話をしてやれない罪悪感がある。

「なんか……ごめん」

寄り添ってくるアミュにそれしか言葉が出てこない。
方法がないから謝ることしかできない。

「そのような顔をするなら帰るな。魔族も混ざっているお前ならば魔界でも生きられるのだから俺と魔王城ここで暮らせ。そうすればアミュも自分の手で育てられる」

そんなことを言う魔王を見上げる。
人を見下ろしているその表情は真剣だ。

「俺は人族だ。魔界ここでは暮らせない」
「魔族も混ざっているだろう?」
「そうだったとしても。今までヒトとして生きてたんだ。例え魔族が混ざってることが事実でも、じゃあとはならない」

血がどうとか関係なく自分の気持ちの問題。
魔界で暮らすということは人族の敵になるってことだ。
今まで自分の血を疑うこともなくヒトとして生きて来たのにヒトを裏切るようなことは出来ない。

「……分かった」

上着を手に掴んだ魔王はそれだけ言って部屋を出て行った。

「……ほらな。やっぱ色々なものを失った」
「ピィ」
「後ろの貞操と一緒にな!」

アミュを抱き上げベッドにポスと体を沈ませる。
タチとしてのプライドとか後ろの貞操とか今となれば割とどうでもいい事から、今まで信じていたことや自分の気持ちまで。

「くそ……だから体の関係を持つのは嫌だったんだ」

例え一夜の相手だろうと多少のは芽生える。
だから俺はホストをやっていても寝なかった。
情が仕事の支障になることは目に見えていたから。

ハルに似ている魔王には元から親近感があった。
それプラスで肉体関係を持ってしまったんだから尚更。

「敵なのに」

精霊族の最大の敵である魔王。
ソイツに情が湧くなんてどうにかしてる。

複雑な心境でアミュに独り言を聞かせているとノックする音が聞こえて静かにドアが開く。

「お目覚めでしたか。失礼します」
「はい」

ここに案内をしてくれた赤髪灼眼の魔人と三人の男女(シモの性別は不明)が入って来て、何をしに来たのかと様子を見ていると赤髪以外の三人は真っ直ぐ風呂に向かう。

「魔王さまから湯場の準備をするよう指示を受けました」
「ああ。そうなんですか」

ベッドの隣に来た赤髪から話を聞き、風呂に入って帰れと言っていたことを思い出して納得した。

「着替えはこちらをお使いください」
「ありがとうございます。助かります」

耳を斬られて出た血はローブの下に着ているスーツにまで達していたから着替えを用意してくれたことは有難い。

「あの、魔王はどこに」
「他の湯場で湯浴みをしております」
「そうですか。分かりました」

自分の部屋で入らずに他で入ってるのか。
俺は魔王が入った後の風呂でも良かったのに。

「…………でしょ」

ボソボソ話す声とクスクス笑う声が小さく聞こえてきてそちらを見ると風呂の用意をしている三人と目が合う。
三人は何食わぬ顔でスッと目を逸らしたものの何を話していたのかは部分的にでも聞こえてた。

『人族と入る訳ないでしょ』
『一度伽の相手をしただけで厚かましい』

とか、そんな会話。
一緒に入りたかった訳じゃなくて明るくない様子で部屋を出て行ったからどこに行ったのか訊いただけなんだけど。

「……めんどくせぇな」

ひがねたそねみ。
魔王の半身になった俺に魔人たちが抱くのはそんな感情。
自分たち魔族以下と見下してる人族が魔王の半身になったなんて納得できない(したくない)のも分からなくないけど、わざとらしくコソコソして嘲笑われるのは気分が悪い。

俺だって好きで契約した訳じゃないのに。
文句は勝手に契約した自分たちの長に言ってくれ。

「すみません。自分で入りますから準備はいいです」
「魔王さまから指示を受けております」
「必要ないと断られたと伝えてください」

召喚される前の地球でも妬み嫉みなんて味わってきた。
そういう奴らへの対応は一つ。
関わらないこと。

テーブルを片付けていた赤髪に言って、裸体のままではさすがに申し訳ないからシーツを軽く腰に巻いてベッドから下りる。
風呂だけ借りたらさっさと帰ろう。
面倒くさい奴らに関わるのは御免だ。

「お待ちください。どうして突然」
「ガウゥゥゥ」
「アミュ?どうした?」

片付けをしていて聞こえなかったらしい赤髪の言葉を遮るかのように三人が居る風呂に向かって唸りはじめたアミュ。
尻尾をピンとさせ牙を剥き出しにして、今にも飛びつきそうな前傾姿勢で威嚇するその姿を見てどうしたのかと抱き上げる。

「お前たち。半身さまに何をした」

……嘘だろ?
アミュを見た赤髪は一瞬で三人の所まで移動すると、その中の二人の胸倉を掴んで空中に持ち上げる。

「答えろ」
「わ、私たちはなにも」
「あの祖龍は半身さまと契約を交わした。本当に何もしていないのならば祖龍がお前たちを見て威嚇しているのは何故だ」

怯えた様子で座り込んでいる一人に問う赤髪。
人族よりも遥かにガタイのいい魔人を腕一本で、しかも片手に一人ずつの二人を同時に持ち上げるとかどんな怪力だ。

「祖龍王さまの御子が人族と?」
「残念だったな。手懐けようと画策してたのに選ばれず」
「そのような馬鹿なことが」
「魔王さまもラヴィの子も半身さまを選んだということだ」

この三人はアミュを手懐けようとしてたのか。
アミュは誰とも契約したがらないから魔王が育てることにしたようだから、もし契約できれば魔王に目をかけて貰える(色んな意味で)と思ったんだろうか。

「半身さまは魔王さまの魂のつがい。半身さまを愚弄することは魔王さまを愚弄することと同じ。まだお披露目前だからといって無礼を働いて許される御方ではない。お前たちも粛清された者と同じ末路を辿れ。欲に駆られた愚か者どもが」

赤髪の腕から発される濃い灰色の魔力。
蛇のように絡みつく魔力ソレに三人は包まれスッと姿を消した。

「あの……三人はどこに」
「マルクさまの元へ送りました」
「マルクさま?」
「魔王さまがお帰りの際、最初にお迎えした魔人です」
「ああ。あの人がマルクさん」

山羊サンの名前はマルクというらしい。
あの時は一刻も早く剣をというような慌ただしい状況だったから世話になるのに挨拶をする暇もなかったけど。

「人族は魔人族よりも体が脆いと伝え聞いております。体調を崩されては一大事ですので、湯が溜まるまでいま暫くお掛けになってお待ちください」

そう言って赤髪は俺にタオル生地の長い布をかける。

「……ありがとうございます」

自分でやるからいいとは言い難くなった。
無表情だから本心ではどう思っているかは分からないけど、少なくともこの赤髪は最初から俺を見下す素振りはなかったし、今も何となく事情を察して対処してくれたんだろうから。

「ピィ!」
「アミュもありがとう」
「ピィピィ!」

俺の感情を感じとって代わりに怒ってくれたアミュにもお礼を言って体を撫でた。





「ピィー!」
「……魔王?」

風呂からあがり借りた服に着替えて赤髪が用意してくれていた瓶に入った水でアミュと水分補給をしていると、体に突き刺さるような強い魔力を感じてグラスから顔をあげる。

「半身さまはこのまま部屋に居てく」

赤髪の言葉の最中に足元から伝わった振動。
なにかが爆発したような音も微かに聞こえた。

「この魔力って魔王ですよね?」
「ピィー……」
「大丈夫か、アミュ」

ぐったりしたアミュを慌てて抱きかかえる。
はっきりと感じる魔力は魔王のもので間違いないけど、竜人街の森で体感した魔力よりも遥かに強大で不安定だ。

「恐らく誰かが魔王さまのお怒りを買ったのかと」
「怒ってこんなに魔力を垂れ流してるんですか?」
「見て参りますので半身さまはこちらでお待ちください」

話しながら赤髪も胸元を押さえる。
赤髪もアミュも魔王の魔力にあてられて苦しいんだろう。

「俺も連れて行ってください」
「お体に障りますから。この部屋は魔力が軽減されています」
「もしかしたら俺のことで怒ってるのかも知れませんから」

魔王が部屋を出て行く前のことを思い出して申し出る。
もし俺が断ったことがこの怒りの理由だとするなら、怒らせた当人の俺が責任を持って魔王を止めないと。

「精霊神だか魔神だか知らないけど人のステで遊んでる奴。俺に力を貸せ。このままじゃ城に居る魔族たちが全滅する」

魔王の部屋だから魔力を阻害する仕様になってるんだろう室内に居てこれほど魔力を感じとれるのは異常。
恐らく実力者だろう赤髪でさえも息苦しさを感じるくらいなんだから魔力耐性の低い魔人では耐えられないだろう。

【ピコン(音)!シン・ユウナギのステータスを更新。新たな特殊恩恵〝魔影まえい〟を手に入れました。特殊恩恵〝魔影〟の効果により魔神の守護が発動。同時に魔神の加護が発動します】

独り言半分に言ってドアノブを持ったタイミングでの更新。
魔神の守護と加護が発動したらしく、赤髪とアミュと俺の体がいつもとは少し違う守護壁で包まれる。

影って。俺をますます人族離れさせる気か」

魔人を守るのなら魔族の力が必要ってことか。
色々と言いたいことはあるけど、今は手を貸してくれた気紛れに感謝する。

「この守護は一体。半身さまは人族ではなかったのですか?」
「俺にもよく分かりません。でも今は魔王を止めるのが先」
「ピィ!」
「アミュはここで待ってろ」
「ピィー!」
「このきかん坊が」

ドアを開けた俺の肩に飛び乗ったアミュ。
魔神の守護ってヤツに護られてるから大丈夫だとは思うけど。

「こっちか」
「半身さま。失礼してお手を」
「手?」

差し出された手に手のひらを重ねると軽く繋がれ、強い魔力を感じた次の瞬間にはもう巨大な紅い鉄扉の前に居た。

「魔王さまはこの中に」

術式なしで瞬間移動するとか……なにそのハイスペック。
などと能力を羨んでる場合じゃなく、轟音の響く部屋の扉を赤髪が開ける。

「……おいおいおい」

大聖堂のような造りの部屋の所々に空いている巨大な穴。
闇色の炎が燻る穴はドロリと溶け落ち穴の広さを広げていく。

ってレベルじゃねえぞ」

床に倒れている魔人たち。
生きてるか分からない魔人たちの奥に闇色の魔力の塊が

「アミュをお願いします」
「半身さま!」
「ピィ!」
「待ってろ!ちょっとぶん殴って来るから!」

肩に乗っていたアミュを赤髪に預け闇色の魔力の塊の元へ走りながら魔障壁と強化魔法を自分にかける。

「魔王!」

名前を呼んで突っ込んだ闇色の炎。
見るからにヤバそうだから念のため守護壁の上に魔障壁を重ねがけしたに関わらず焦がすような熱さが肌に伝わってくる。
激おこ魔王さまの魔力ヤバすぎ。

「……キレすぎだろ。仲間を全滅させる気か?」

闇色の炎を纏った手で俺の拳を受け止めた魔王。
我を失っているのか俺を映す目は氷のように冷たい。

「俺の声が聞こえるか?聞こえるなら正気に戻ってくれ」
「…………」
「俺たちは半身なんだろ?二人で話そう。なあ、フラウエル」
「……半身」

肌が焼ける熱さや痛みを感じながらも手を伸ばし頬に触れて苦笑すると、瞳孔が開いていた魔王の目に生気が戻った。

「夕凪真!」
「フルネームで呼ぶな」

ゆっくり消えた炎。
正気に戻った魔王は倒れかかった俺の体を受け止める。

「気に入らないなら俺本人に怒れよ。周りを巻き込むな」
「なんの話だ」
「あれ?俺が帰るって言ったのが怒った理由じゃない?」
「お前の件で報告を受けて怒りの感情が芽生えたことはたしかだが、お前本人には怒ってなどいない」

ェェエエ工エエ工
脚や腕の筋がブチ切れながら止めたのに?
クソ熱い中に突っ込んで行って止めたのに?
……俺のしたことって‪(  ˙-˙  )スンッ‬

「あ。話す前に回復しないと。魔族たちに範囲魔回復エリアダークヒール

倒れている魔人たちに向けて魔回復ダークヒールをかける。
辛うじてでも命が残ってる奴はこれで助かるだろう。

「お前は範囲エリア魔回復ダークヒールを使えるのか」
魔回復ダークヒールで試すのは初めてだけどな。回復ヒールでは使えたから多分大丈夫だと思う」

教会や孤児院の工事中に万が一のことがあった時に巻き込まれた人たちを助けられるようエミーから特訓して貰った。
ただ異世界聖女系ならお約束の範囲回復エリアヒールがこの世界にはないらしく、出来た時には「やっぱり規格外」って呆れられたけど。

「半身さま」
「大丈夫ですか?俺の魔回復ダークヒールでも効きましたか?」
「はい。ですが、私どものことより半身さまのお体が」
「ああ。回復する対象を魔族に絞ったから弾かれたんだと思います。自分にも回復ヒールをかけられるので大丈夫です」

一番近くに倒れていた山羊サンが最初に起き上がり、生き残っていた何人かの魔人たちも起き上がったことを確認してから最後に自分にも回復ヒールをかけた。

「ピィィィ!」
「危なっ!」

歩いて来た赤髪の肩から俺に飛びついたアミュを魔王と手を伸ばして捕まえる。

「魔王さま。半身さまのお力は一体」
「半身は魔神と精霊神から愛された唯一の者だ」
「魔神と精霊神に?そんなことが有り得るのですか?」
「実際に居るだろう?ここに。聖と魔の力を使う面白い奴が」

赤髪は魔王から話を聞いて俺を見る。

「言われてみれば腑に落ちます。先程までかかっていた守護のことも、ラヴィの子が出会ってすぐに契約を交わしたことも、半身さまが魔神の寵愛を受けているからだったんですね」

魔神や精霊神などと言われてもピンと来ない。
俺にとっては人のステで遊ぶ暇を持て余した神々でしかない。

「お話には伺っておりましたが、実際に目の前で聖魔のお力を見せられては疑う余地もございません。創造神に愛されし奇跡の者と魂を繋いだ我らが王を誇りに思います」

山羊サンが跪いて言うと復活した魔人たちも歓声をあげる。
ド偉い前向きな解釈をされたみたいだけど俺は異世界から来たただの元ホストだし、魔王はただ『面白いから』って理由で魂の契約を結んだだけなのに‪(  ˙-˙  )スンッ‬

英雄伝説ってのはこうやって誇張されて伝わってるものも多いんだろうなと、魔王と少し視線を交わして苦笑した。

「それで魔王が怒った理由は何だったんだ?」
「湯の準備をさせた魔人がお前に無礼を働いたと聞いた」
「ああ、そうなんだ。それで?」
「それだけだ」
「え?それだけであんなにブチ切れたのか?」

一般的に考えれば説教して終了するレベルの話。
人を馬鹿にする奴や陰口をいう奴なんてごまんといる。

「魔王さまがお怒りになるのも致し方ありません。魔王さまに仕える身でありながら、封印されていた剣を持ち出し半身さまのお命を狙った上に性懲りもなく無礼を働いたのですから。欲に駆られた愚か者は無に還されて当然です」

さすが血と戦いを好む魔族。
山羊さんの処罰の仕方も激しい。

「魔族は半身を傷付けられることを嫌う」
「そう言ってたな。でも少し悪口を言われただけだぞ?」
「体を傷付けなければいいという話ではない」
「それはそうだけど」
「俺は余程のことでない限り城仕えに怒りはしない。だが、お前への行為は黙って見過ごす範囲を超えている。自分が唯一選んだ半身をこうも傷付けられて腹が立たないはずがない」

ただの悪口でと思ったけど、封印されていた剣を持ち出して俺の命を狙った使用人が処罰されたばかりなのにまだ俺に悪口を言ってるから(悪口だったことは今初めて言ったけど)、いい加減に堪忍袋の緒が切れたってことか。

「魔王さまはお優しい方です。その優しさを己が特別だからと勘違いする愚者が何と多いことか。魔王さまは魔族唯一の王。使用人風情が王の半身に異を唱えるなど不敬極まりないこと。まして己の方が半身に相応しいなどと思い上がりも甚だしい」

魔王が優しい……優しい……のか?
勇者の偵察で王都に来た時に『つまらない奴なら国ごと焼き払ってやるつもりだった』とか、とんでも発言してたけど。

ただ、血も涙もない冷たい奴じゃないことだけはたしか。
枯渇しそうだったエミーたちに魔力を分けてくれたし、死にかけてた俺のことも回復してくれたし、今回も竜人街まで助けに(※剣を取り返すついでに)来てくれたから。

「優しくされると好きになるのは人族も魔族も同じか。魔王の場合は魔族唯一の王って地位の他にも顔がいい腕っ節が強いってオプションもついてるし、好きになるのも分からなくない」

優しい、顔がいい、強い。
とどめに王様という究極のハイスペック男子。
純粋に惚れてる人も居るだろうし、地位などの見返り目当てに擦り寄ってくる人も多いだろう。

魔人もには変わりない。
そんなも持ってるってことだ。

「お前は俺が生を受けて初めて自分で選んだ半身だ。自分のものであって欲しいし誰よりも大切にしたいと思っている。それなのに例え言葉であろうと侮辱されれば腹立ちもする」

そう言って俺を見る魔王の表情は真顔。
その真顔でのストレートな言葉にくすりとする。

「まるでプロポーズだな。そういうのは契約前に言えよ」
「プロポーズ……そんなものは思いつきもしなかった。欲しいと思ったから契約したが、言われてみればそうか」

魔族は自分の性別にも他人の性別にも拘りがないといっても魔王の体の造り自体は完全に男。
異性にしか恋愛感情を抱かない異性愛者ノーマルの人なら不快でしかなかっただろうけど、全性愛者パンセクシャルの俺は性別問わず『好きになれる相手かどうか』の問題だけだから、そういう意味では契約相手が俺で救われたな。

「まあいいや。会ってすぐプロポーズされても反応に困っただろうし。もう契約の解除は出来ないんだろ?」
「出来る。どちらかが死ねば」
「それアミュの時にも聞いたけどいま気づいた。俺が死ねば魂の契約が解除されるから命を狙われたのか」

俺を拐った理由は契約を解除させるため。
解除させたい理由が嫉妬だった魔人も居るだろうし人族との契約が反対だった魔人も居ただろうけど、どちらかが死ねば解除されることを知ってたから俺を殺すために拐ったってことだ。

「どうにも暇を持て余した神々は俺の人生をイージーモードにはしてくれないみたいだ」

次々と力は与えられているものの、力を得るほどに人間離れして行き人生もハードモードになって行く。
この世界の暇を持て余した神々は俺を異世界系の主人公のように『俺TUEEEE』で無双できるような人生イージーモードにしてくれるほど甘くないらしい。

「魔王さまのお怒りを受けて半身さまを狙う不届き者は減ることとは思いますが、私もいま一度城に仕える者たちを再教育いたします。この度は誠に申し訳ございませんでした」
「いや、えっと、ありがとうございます」

山羊サンと赤髪から深く頭を下げて謝られる。
もちろん俺が魔王の半身だからというのが大きいだろうけど、地上層の人から話に聞いていたような凶暴で無慈悲な魔族の印象とは違うから戸惑ってしまう。

姿形が違うだけで同じ
人族と同じように生活をしていて様々な性格の人が居る。
もしかしたら変わわり者魔王に仕えてるこの城の人たちが特殊なのかも知れないけど。

「やることがあると言っていたな。地上まで送ろう」
「ああ、うん。ありがとう」

孤児院と教会の工事がどうなってるか気になるし、雇っている人たちに賃金(日当)を渡さないといけない。
水晶でエミーたちと話した時にそれも話そうと思ってたけど魔力が枯渇しかけてた魔王には限界だったみたいだから。

「半身さまは魔界ここで暮らさないのですか?」
「俺も一度はそう考えたが、半身の半分は人族だ。勇者に勝利して子を作る時までは人族と生きる時間をやろうと思う」
「ではそれまで御子を成さないのですか?」
「仮に俺が天地戦で敗北すれば半身が一人で子を育てることになるだろう?負けるつもりはないがな」

山羊サン的には魔王の血を継ぐ子が早く欲しいんだろう。
魔族にとって子供が生まれることがどれだけのことか分からないけど、これが人族ならになる訳だから。

「天地戦に勝利した暁には半身や子と魔界ここで暮らす。その時まで子の顔を見るのは待って欲しい」
「承知いたしました。喜びは戦が決着した後に」

そんな会話を聞いて胸がチクっと痛む。
魔族も人族と同じくを考えているんだと。
でもそれが叶うのはどちらか一方だけ。


そのあと手厚く見送られ、無事地上に生還。
魔王の本拠地である魔人界からは魔層を使わず本当に魔王の能力(魔法)だけで部屋まで帰って来れた。

「アミュのことくれぐれも頼む」
「何度言うんだ。分かっている」
「だって俺が帰る前にピィピィ鳴いてたし」

連れて来れるものなら連れて来たかったけど、地上にはアミュの食事がないから泣く泣く赤髪に任せて来た。

「世話をしにくればいい」
「魔界に?あ。でも魔層を使うのは色々と言われそう」
「どういう訳かお前は俺と同じ魔祖を持っているようだ。その力を使えばお前も魔層を使わず魔界に来ることができる」
「え?魔王が一緒だったから帰って来れたんじゃなくて?」
「他の者では耐えられない。魔力譲渡された際に魔祖を持っていることに気付いたから魔層を使わず連れて来た」

そう言えば覚えた属性の中に魔祖まそってやつがあった。
その属性魔法を使って魔王は地上層に来てたのか。

「どうやって使うのか教えてくれ。行けるよう練習する」
「分かった。近い内に会いに来る。その時に教えよう」
「ありがとう。使えればアミュに会いに行ける」

魔族の属性魔法まではさすがにエミーにも分からないだろうから魔王から教えて貰えるなら助かる。
使えるようになればいつでもアミュに会いに行けるし寂しい思いをさせずに済む。

「アミュに会うために覚えるのか。複雑な心境だ」

拗ねるなよ。
やっぱり豆腐メンタルか。

「ちゃんと礼を言っておかないとな。人族と生きる時間をくれてありがとう。意外と考えてくれてたんだって少し驚いた。魔王のこともこれから知っていくつもりだから会いに行く」

現状、魔王を恋愛感情で好きかといえばそれはない。
ハルと似てるから最初から親しみはあったけど、それは飽くまで悪友だったハルとの関係の延長線というところ。
それが恋愛感情に変わるかどうかは魔王を知ってから。

「今はそれでいい。不毛な戦いが終わるまでに俺もお前に知って貰う努力をすると約束する」
「うん。順番が逆になったけどこれからよろしく」
「よろしく頼む」

魔族と人族の間に立った感情はこの先揺らぐんだろう。
結論がどうなるかなんて俺自身にもまだ分からないけど、まずは魔王や魔族のことを知ることから始めよう。

そう話してお互いに笑い握手を交わした。
 
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「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

現代社会とダンジョンの共生~華の無いダンジョン生活

シン
ファンタジー
 世界中に色々な歪みを引き起こした第二次世界大戦。  大日本帝国は敗戦国となり、国際的な制約を受けながらも復興に勤しんだ。  GHQの占領統治が終了した直後、高度経済成長に呼応するかのように全国にダンジョンが誕生した。  ダンジョンにはモンスターと呼ばれる魔物が生息しており危険な場所だが、貴重な鉱物やモンスター由来の素材や食材が入手出来る、夢の様な場所でもあった。  そのダンジョンからモンスターと戦い、資源を持ち帰る者を探索者と呼ばれ、当時は一攫千金を目論む卑しい職業と呼ばれていたが、現代では国と国民のお腹とサイフを支える立派な職業に昇華した。  探索者は極稀にダンジョン内で発見されるスキルオーブから特殊な能力を得る者が居たが、基本的には身一つの状態でダンジョン探索をするのが普通だ。  そんなダンジョンの探索や、たまにご飯、たまに揉め事などの、華の無いダンジョン探索者のお話しです。  たまに有り得ない方向に話が飛びます。    一話短めです。

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