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第四章 動き出した歯車
王宮師団長
しおりを挟む翌日の朝。
賄い食を教会に届けて労働者に渡す賃金を司祭さまに預けてからエミーと待ち合わせて王城に向かった。
「構わん。引き受けよう」
「即答!?」
「なにか不満か」
「いや。ありがたいけど……随分簡単に」
師団長の執務室に行って数十分。
俺が領地や資金の管理をしてくれる人材を捜していることと、その役目を引き受けてくれないかとエミーが話すと、師団のオヤジは即答で返事をした。
「西区の清浄化は長年議題にあがっていたこと。だが国政というものは急を要する物事から優先的に可決されて行くのでな。可決せず先延ばしになっている間も前領主は一向に重い腰をあげようとはせず西区の状況は悪化して行くばかりだった」
溜息混じりに話す師団のオヤジに頷く。
言い方は悪いけど西区の清浄化は西区だけの問題で、国全体に関わる物事が優先的に可決されるのは分かる。
「ようやく領主が改善に乗り出したのだ。私もそのためであれば協力は惜しまない」
「ありがとう!これで心配ごとが減る!」
やったぁぁぁぁぁあ!
これで安心して続けられる!
異世界から召喚された俺はこの世界の法律に詳しくないから知らず違法行為をしてしまうんじゃないかと不安があったけど、師団のオヤジなら俺が何か仕出かす前に止めてくれるだろう。
「言っただろう?引き受けてくれると思うって」
「エミーもありがとう。俺じゃ思い浮かびもしなかった」
「シンさま良かったですね」
「師団長さまであれば安心してお任せできますね」
「うん」
師団のオヤジが協力してくれるのは心強い。
今まで金銭的な援助をして貰う以外のことは一人であれこれ考えてやっていたけど今後は心の余裕が持てる。
「早速だがまずは手続きを」
「ああ、師団長と契約する手続きか」
「資金援助の手続きだ。まだしていなかっただろう」
「え?国から援助して貰えるってこと?」
「やはり知らなかったのか。西区の清浄化に関係する物事であれば国からの援助を受けられる。国政なのでな」
知らなかったぁぁぁぁぁあ!
エミーや教皇の援助と俺のポケットマネーでやり繰りしないといけないと思ってたのに!
「一つお伺いしたいのですが」
「なんだ突然。気味が悪い」
「職員の送迎に使う魔導車を買うのも援助して貰えたりとか」
しちゃったりすると助かるんだけど……。
クソ高いらしいから。
「場合による。必要なのか?」
「物凄く。孤児院の職員が集まらないんだ」
専門知識を持つ人を募集しているものの、他の地区から面接に来てくれても行き帰りが不安だと辞退されてしまうから、児童指導員一人と保育士二人しか決まってないことを説明する。
「スラム故の問題か」
「うん。今は国営の魔導バスを再開させるのは得策じゃない。だから西区の入口から孤児院まで送迎する車を購入して、何かあった時のために戦える運転手や護衛を雇いたいと思ってる」
昨日司祭さまとも話したこと。
三人の内、専門知識がある職員は児童指導員一人。
この人は自分の身を守る術がある(魔法が使える)からスラムという危険な土地でも引き受けてくれた。
「そう聞くと必要そうではあるが」
「やっぱ魔導車はさすがに厳しいか」
「話だけで判断するのは難しい。手続きは後にして今から私も実際に足を運び判断しよう。必要だと認められれば申請する」
「え!師団長がスラムに!?」
「なぜ驚く。自分を護る力くらいはある」
お偉いさんが犯罪の蔓延る危険地域に行って大丈夫なのかよ。
もし何かあったらヤバいんじゃないかと顔を見ると、目が合ったエミーはクスと笑う。
「心配要らない。王宮師団は魔導師の中から賢い奴だけが就くことのできる役職だ。魔導師と同等の戦闘能力を持っている」
「戦闘もできる頭脳派ってことか。エリートだな」
そんなスーパーエリートをオヤジ呼ばわりの俺って。
これからはちゃんと師団長って呼ぼう。
「西区の入口までは公用の魔導車で行く。これから視察に出ることを話してくるから先に王宮門で待っていてくれ」
「分かった。忙しいのにありがとう」
「君には恩があるのでな」
「恩?」
なんの恩かと訊く意味であげた疑問符には答えてくれず、師団長はさっさと執務室を出て行った。
「あんなツンとした奴だけど、師団長として国や王家に関わることには口煩いだけで根は悪い奴じゃないんだ。君が王都や国民を救ってくれたことも、ずっと気にしていた西区の改善に乗り出してくれたことも、アイツなりに感謝してるんだよ」
俺は教会と孤児院をどうにかしたかっただけなんだけど。
その運営をする上で西区の改善が必要不可欠なだけで。
「きっかけなんて何だっていいんだよ。今まで悪化するばかりだった西区を変えようとする奴が現れたことが重要なんだ。アイツと協力しながら君の思うままにやればいい」
フフっと笑ったエミーに苦笑で返す。
まさかあの師団長と協力する日が来るとは思わなかったけど、俺のしたことが西区が変わる第一歩になってくれることを願いたい。
・
・
・
このあと仕事があるエミーとは王宮ギルドの前で別れてエドやベルと王宮門の前で待っていると来た、公用魔導車(リムジンサイズ)に乗って西区の入口に向かう。
「聞いていなかったが、もう一人の領主とは話したのか?」
「前領主の息子とは少し。スラムのことを聞きたくて」
さすがお偉いさんが乗る公用車だなとゆったり乗って外を眺めていると、車内でも書類を見ていた師団長から聞かれる。
「その際に改善策には触れていたか?」
「何も言ってなかったけど。俺が聞いたのが住民に関することとか納税率の話だったからかも知れないけど」
前領主が知る西区(北側)の情報がほしくて聞きに行ったから改善策の話にまではならなかった。
「代を変えても重い腰は上げんか」
「ん?」
「国政とは言っても領主の許可や協力は必要不可欠。南側の現領主が君のように前向きな姿勢であればこちら側からも改善案を出し易いのだが……やはり血は争えんな」
そう言って師団長は溜息をついて俺に書類を渡す。
「これ西区の収支報告?俺も見ていいのか?」
「今は君も領主だろう?」
「ああ、そっか」
言われてみればそうだ。
西区の半分だけだけど。
「……散々な数字」
「うむ。商業施設が一つもないのでな。歴史を辿れば商業が盛んな地域として栄えていた時代もあったのだが」
「その歴史ってどのくらい前?」
「少なくとも私が物心ついた時にはスラム化していた」
そうなるともう数十年前の話。
それだけの長い間、西区はスラム化してたってことだ。
「やっぱ必要だよなぁ。地区の収入に繋がる何かが」
「理想を語ればそうだな」
教会や孤児院が無事に建ったとしてもまたすぐに高い壁が立ちはだかっている。
何かしらの商業をして住人たちから税を納めて貰わないと前領主のようにお手上げ状態になってしまう。
「危険な地区で出来る商売って」
「今のままでは何を始めたところで長くは続かん。店舗に商品を並べれば盗まれ、売上を狙って強盗が入る」
「そう考えると警備団は早急に必要じゃないか?西区の住民全員が犯罪者な訳じゃない。低所得者だから西区にしか住めないって人たちも多く居るんだ。スラム化を加速させてる犯罪者のお蔭でまともな人たちまで割を食う」
西区の住人全てを悪のように思ってる人も居るけど違う。
犯罪には手を染めず細々と暮らしている人も居れば、まともな服一枚も買えず他の地区では雇って貰えないだけの人も居る。
「そう。身を隠し易い西区に隠れて悪さをする犯罪者や元囚人を捕まえることはもちろん、犯罪を未然に防ぐ意味でも警備団の設立は最重要事項だ。ただしそれにも領主の許可が要る」
「もちろん許可……あ、そっか。領主が前向きならって言ったのはこういうことか。領主が二人居るから俺だけの許可じゃ駄目だし、現領主の考えが前領主と同じお手上げ放置なら国側が領主に打診してからの返事待ちも長くなる」
返事を貰うまでの時間と手続きにかかる時間。
西区の改善に前向きな領主ならそのためのヴィジョンが既に頭にあるだろうけど、お手上げ状態と諦めて放置しているなら打診があってから考えるから時間がかかって滞る。
「その通り。君がすぐに許可を出してももう一人の領主の許可が遅ければ国もその間は話を進められない。一つの地区に姿勢の違う領主が二人というのが厄介なのだ」
それで領主と改善策を話したかと聞いたんだと納得する。
領地に関しては領主の許可が必要と決まっている限り、国は二人の領主から許可を貰わなくては動けない。
「子爵家の全領地を計算した上での結果だから仕方ないが、国の本音を言えば半分だけ返還されても困るのだ。西区全てであれば国主体で清浄化を進められたのだが。しかも返還された地域はスラムの奥側。奥側だけ改善しようと人が出入りする肝心の手前側が改善されないままでは意味がない」
言われてみれば。
教会と孤児院のことで頭がいっぱいだったけど、今後俺が貰った西区半分の土地を改善するにはもう一人の領主と方向性を話し合う必要があった。
「教えてくれてありがとう。俺が北側で何か商売を始めたとしても南側が危険なら来ないよな。向こうはどう考えてるのか、なにか改善策は考えてるのか、もう一度会って話してみる」
「それがいい。国としても領主二人が同じ考えであれば円滑に物事を進められる」
考えることがありすぎて思いつかなかった基本的な問題。
師団長の助言で助かった。
問題は領主と同じ方向性でやって行けるかだけど。
「ここで待機しておくように」
「承知いたしました。お気を付けて」
話している間にも南区側からの境界に到着。
境界には警備がいるから車で待機する運転手も安全だろう。
「あ、俺が異世界人ってことは秘密だから」
「話していないのか」
「うん。司祭さまには爵位と名前だけ話してあるけど」
「よくぞ今まで気付かれなかったものだ」
「フードを被って殆ど顔を隠してるから。たまに目が見える時くらいはあるだろうけど、今まで言われたことがない」
恐らく髪と目の両方を見て異世界人だと気付くんだと思う。
銀髪も銀目もこの世界には居ないらしいけど、『学校』が義務教育ではないこの世界では他国や別種族にまで及ぶその情報を一般国民みんなが知っている訳じゃないだろう。
「今後も隠し続けるのか?」
「いや。いつか話そうとは思ってるけど今は余計な騒動になりたくないから。教会と孤児院を無事に完成させるのが先」
「そうか。では気を付けよう」
「ありがとう」
師団長とエドとベルと俺の四人でIDチェックを受けて西区に入る。
「境界付近で既にこの寂れようか」
「あれ?実際に来るのは初めて?」
「魔導師の時に数回来た。だがその時よりも酷くなっている」
「そっか。でもここはまだ全然マシ。もう少し先に行くと物乞いが増えてくる。老若男女関係なく金目の物を盗もうとしてくるから、相手が女子供だからって甘く見ない方が良い」
もう一人の領主が所有する境界付近はまだ警備の目があるだけに絡んで来たり堂々と犯罪を犯すような輩は居ない。
「やはり建物の老朽化も進んでいるな」
「うん。これも早急に手を付けた方が良いことだと思う」
「うむ。何かあってからでは遅い」
前後左右の警戒はエドとベルの二人にお願いして、歩いたり立ち止まったりしながら師団長へと説明する。
最初の出会い方がアレだったから苦手意識があったけど、真剣に西区を改善しようと考えてるんだと伝わった。
「この道から向こうが俺の貰った土地」
「酷いものだな」
「だから改善が必要なんだろ」
道に面した場所には蔦や苔のはえた廃墟が並ぶ。
奥に進めば進むほど犯罪が増えて身の危険も増える。
「シンさま、師団長さま、前方より二名参ります。警戒を」
「分かった」
俺と師団長の前を歩いていたエドから言われて前を見ると、これだけ広い道なのに同じ道筋をまっすぐ歩いてくる男が二人。
話しながら歩いている二人は前を歩いているエドの左右に分かれて肩でドンとぶつかった。
「あ、すみません」
「いえ。こちらこそ申し訳ございません」
フードを被って顔を隠している二人。
怪我をしていないかと聞きながらエドの体に触る。
「金の変わりにコレをやろうか」
ローブの下に隠していた剣を抜き男の首元に突きつけたエド。
財布(この世界は紐付きの布袋)を狙ったスリだったらしく、気付かれた二人は慌てて逃げて行った。
「盗まれたのではなかったのか?」
「仕舞ってありそうな位置を触っていたのでスリだと分かりましたが、実際には盗まれておりません」
スリは現行犯。
ローブの内側のまたその内側に仕舞ってあるエドの財布を盗むのは脱がさない限り無理だから、剣を突きつけ忠告だけしたんだろう。
「あちらもお前たちも慣れているな」
「よくあるから。偶然を装って近寄ってくる奴は大抵がスリ」
「そうなのか」
「他にも物乞いのフリをしてスろうとする奴も居るし、腕に自信のある奴なら堂々と道に立ち塞がって脅してくる」
スラムでは珍しいことじゃない。
ここに通うようになって何度も経験している。
その後は特に問題も起きず、それまで通り領地の説明をしながら教会へと辿り着いた。
「シン兄ちゃん危ない!」
「は?」
朝の掃除をしていた子供たち。
俺たちが来たことに気付いてこちらを見たかと思えば竹箒片手に走って来る。
「遂に来たか黒い魔人!」
「黒い魔人?」
「待て!違う!」
ハッと気付きエドとベルはすぐ師団長の前に障壁をはり、俺は子供たちが打った某髭兄弟よろしくな火の玉を無効化する。
「この人は王宮魔導師じゃない」
「嘘だ!そのローブはあの時の魔人が着てたのと同じ!」
「違うんだって。説明するから攻撃はやめろ」
俺とドニが初めてここに来た時と同じ。
子供たちは俺の顔を見上げて少し顔を見合わせると構えていた武器(竹箒)を下ろした。
「師団長さま!?申し訳ございません!」
走って来たのは修道女。
さすがに師団長の顔は知ってるらしく謝罪して頭を下げる。
「先に話しておかなくてごめん。すっかり忘れてた。子供たちは師団長を王宮魔導師と勘違いして攻撃したんだ」
「魔導師と?」
「以前この教会を解体する話になった時に書類を持って来たのが枢機卿と王宮魔導師だったから、子供たちなりに魔導師から教会を守ろうとしてるんだ。俺が来た時にも勘違いされたくらいだから王宮製のローブの違いは子供たちには難しいらしい。特に軍人はみんな同じローブだから勘違いしたんだと思う」
勘違いで攻撃されてしまった師団長へ先に説明すると「そういうことか」と理解してくれた。
「いいか?この人は王宮魔導師じゃなくて王宮師団の一番偉い人だ。魔導師と同じ国王さまが居る城で働いてるからたしかにローブは同じだけど、ここの襟首に付けてる紋章が違う」
師団長に話したあと子供たちに説明する。
制服は別だからすぐ分かるだろうけど、ローブは師団も騎士も魔導師も同じだから間違えるのも仕方ない。
「違うの?」
「ああ。王宮魔導師団の紋章は杖が二本。王宮師団の紋章はこのようにペンが二本。王宮騎士団の紋章は剣が二本。国に仕える国王軍の紋章はそれぞれ違う。覚えておくといい」
見上げる子供たちの前にしゃがんだ師団長は襟首の紋章を見せながら説明する。
気位の高い印象だったけど(実際高い)、子供たちには目線を合わせて話す優しさを持っているようだ。
「シンさん!子供たちがなにか……師団長さま!?」
教会の中に居た司祭さまも騒ぎに気付き走って来ると修道女と同じように師団長を見て驚く。
国に仕える人の中でも賢者のエミーの次に地位が高い人がスラムに来れば驚くのも当然だろう。
「もしや子供たちがまた」
「俺の時に引き続き」
「大変ご無礼を。申し訳ございません」
「理由は聞いた。確認もせず攻撃をするのはいただけないが、このローブに悪印象を持ってしまうのも仕方がない。子供たちにとってここはそれ程に大切な場所なのだろう」
やっぱ子供には優しいな。
もし俺が攻撃してたら胴体と頭がサヨナラする事態だっただろうに。
「攻撃してごめんなさい」
『ごめんなさい』
「うむ。攻撃をするということは自分が反撃されても已む無しと見做される。力の使いどころを間違わぬようにな」
『はい』
良かった。
エドとベルも内心ではハラハラしてたのか同時に安堵の息をついた。
「シンさん。師団長さまがなぜこちらへ?」
「理由は中で話そう。ここだと作業の支障になる」
「分かりました。みなさんは作業を続けてください」
『はい』
子供たちが突然攻撃するわ師団長が現れるわで止まってしまった作業を再開して貰い、普段通りエドとベルに作業の管理は任せ師団長を連れて小屋に入る。
「話には聞いていたが子供たちはここで暮らしているのか。あの人数では手狭だったろう」
「はい。今まで子供たちには窮屈な思いをさせて申し訳なかったですが、シンさんが建ててくださる孤児院ではようやくのびのびと過ごさせてあげることができます」
元々この小屋は司祭さまや修道女が暮らすための家で子供たちが暮らす想定では作られてないから狭いのも仕方がない。
「師団長がここに来た理由だけど、西区を清浄化する政策自体は事実だったって俺が話したのを覚えてるか?」
「ええ。やはりそれで建て直しに問題が?」
「逆。西区の改善に関わることには国から資金援助を受けられるって。それで師団長が直接判断するために来てくれたんだ」
「国が西区のために援助を?ああ……これほど喜ばしいお話がありましょうか。夢をみているようです」
スラム化して長年放置され続けていた西区。
司祭さまは内心では悪い報告の覚悟していたようで、微かに震える両手を組み神に祈る。
「そもそも西区の清浄化は魔導師の言うような臭いものに蓋をするようなやり方じゃなくて、老朽化した危険な建物を解体したり、警備団を作って犯罪を未然に防いだり、ゆくゆくは西区を人が出入りする地区にしようって健全な政策だったらしい」
その健全な計画に勇者云々と後付けしたのは一部の魔導師。
私利私欲のために枢機卿と共謀し、政策を隠れ蓑に自分たちにとって邪魔なものを排除しようとした。
「そうだったのですか。私たち西区の領民は事実を歪められたその情報に踊らされていたのですね」
「それについては私からも謝罪しよう。既に調査はしていたのだが、この者が決定的な証拠を持って来るまで投獄することが出来なかった。師団長を名乗りながら国仕えの悪事を止めることが出来なかったとはお恥ずかしい限りだ。申し訳なかった」
「そんな。どうぞ頭を上げてください」
あれ?司祭さまにも高圧的じゃない。
もしかして相手が俺だから?
……うん、そうなる理由に思い当たる節がありすぎる。
「このたび私もこの者の領地管理に手を貸すこととなった」
「……師団長さまが……ですか?」
「司祭とも会う機会が増えるだろう。よろしく頼む」
「私の方こそよろしくお願いいたします」
そりゃ驚くのも当然だろう。
国仕えのお偉いさんが個人の手伝いをしてくれるなんて、俺が司祭さまの立場だったとしても疑いたくなる。
「私はこれで失礼して手続きをとるとしよう」
「あ、魔導車の件は?」
「現状を見て身を守る術のない者が辞退するのも理解できた。申請が通り次第報告する。それまでに目星を付けておけ」
「やった!これで送迎有りって言える!」
「必要な大きさにするのだぞ?無駄に大きな物は駄目だ」
「分かってる!無駄遣いはしない!ありがとう!」
全俺が大歓喜。
危険地帯を歩いて通わなくて良くなれば仕事を受けてくれる人も出てくるだろう。
「運転手のあてはあるのか?」
「戦えることが前提だからギルドに相談しようと思ってる」
「エミーリアに頼むのか」
「いや、王都のギルマスのハロルドに。王都の冒険者の方がまだスラムの仕事でも受けてくれそうだから」
「たしかにそうかも知れんな。詳しく決まったら報告を」
「分かった」
普通に運転するだけなら専門の人にした方が良いけど、それを職にしている人で戦いもできる人は限られてるだろうから、王都ギルドにクエスト依頼として出しても良いかと考えている。
南区側まで護衛して行こうと思ったけど俺は俺の仕事があるだろうと断られ、さすがに師団長に何かあっては困るからエドとベルの二人にお願いして見送った。
「シンさんと出会ってから驚かされることばかりです。師団長さまが個人に手を貸すなど前代未聞ですよ?」
「西区清浄化が国政だから手を貸してくれたってだけ。俺の個人的な手伝いなら断られてる」
「国政だけが理由であれば、お忙しい身の師団長さまが直接手を貸すことはないと思いますけどね。例え貴族さまであっても師団長さまとお話する機会のある方は早々おりませんので」
痛いところをチクチク啄く司祭さまに苦笑する。
異世界から召喚されて来たから師団長とも顔見知りなんだとは言えない。
ただ、これで金銭的な問題はある程度解消された。
次は現領主と会って互いのヴィジョンを少しでも擦り合わせる必要がある。
教会と孤児院が完成するまでもう少し。
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