ホスト異世界へ行く

REON

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第六章 武闘大会(前編)

大会前日

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翌日の午後。
日が沈む前に付添人の代理を連れて訪れたエミーと師団長。
一階フロアにある雑談所の一角を人払いして貰い、ジャンヌ同席のもと俺も含めた代表騎士のみんなで今回の件を説明してから王都へ戻る師団や騎士と一緒にジャンヌも帰って行った。

「よりによって英雄エローが率いる代表騎士の付添人に英雄エロー信者を選ぶとは……耄碌もうろくしたんじゃないのかい?」
「今回ばかりは返す言葉もない。シン、ロイズ殿、ドニ殿、エドワード、ベルティーユ。大会の本番を控え調節をしなくてはならない大事な時にこのようなことになって申し訳なかった」

エミーからチクリとされた師団長は座っていた椅子から立ち上がって俺たち代表騎士に頭を下げて詫びる。

「座ってくれ。最初から分かっててジャンヌを選んだのなら何の嫌がらせだって話だけど、俺たちにも最初は控えめで照れ屋で一所懸命な子の印象だった。あれじゃ分からない」

付添人を選ぶのは師団長の役目。
とはいえ師団長を責める気にはならない。

「まあ私も本気で責めてはない。きな臭いまじないの話が出てるんでね。あれは善人を悪人に変えることの出来る厄介な呪術だ」

そう言ってエミーは大きな溜息をつく。

「エミーリアから話は聞いたが事実なのか?」
「分からない。ただ、そうじゃないかと疑うくらいにここに来てから性格が豹変したんだ。来る時の魔導車の中でジャンヌと会話をしたロイズやドニが違和感を覚えるくらいに」

刺激しないようジャンヌが居る前では話さなかったけど、昨日エミーには話したことを詳しく師団長にも説明する。

「うむ。その会話を聞く限り私の印象とも一致する。彼女は魔導師長の強い推薦で数ヶ月前に師団へ配属された子だ。魔導校時代の成績が優秀だったことはもちろん、私も面接をして性格に大きな難はないと判断して配属を許可した」

警戒心の強い師団長が面接で気付かなかったなら、本当に元は難のない子なのか裏の顔を完全に隠せる狡猾で腹黒い子なのかのどちらかだ。

「フラウエル。君の力でも事実は分からないのかい?」
「咒のことは知識として知っていただけだ。小賢こざかしい真似はお前の方が詳しいんじゃないのか?」
「はいはい。火花散らさない」

宿舎をぶっ壊し兼ねない火花を散らす二人を止める。
戦闘狂(しかも強者)が二人集まると危なくて仕方ない。

「えっと、そろそろ代理の人を紹介してくれるか?」
「ああ、すまない。王宮師団員のルネだ」
「よろしくルネ。フラウエルのことは聞いてるか?」
「シン殿の治療にあたっている賢者さまと伺っております」
「そっか。代表騎士の他にも覚えて貰わないといけなくて申し訳ないけど、そういう理由で行動を共にする時もあるから」
「承知しました」

代理で来たルネも王宮師団の割に若い。
20歳以降に配属されることが多いと聞いたけど、ルネも恐らく俺と変わらないくらいの年齢だろう。

「ルネも配属一年目だが誠実で真面目な青年だ」
「うん。そんな感じがする。改めてよろしく」
「光栄です。代表騎士のみなさまの補佐として粗相のないよう尽力いたしますのでなんなりとお申し付けください」

一人一人に挨拶をして握手を交わすルネ。
みんなにも平等の対応をしているのを見て安心した。

「シン、フラウエル。二人に少し話がある」
「じゃあ俺の部屋で話すか」
「そうしてくれるかい」

俺と魔王だけってことはここでは出来ない話なんだと理解して続きは俺の部屋で話すことにした。

「師団長は?」
「私はすぐに戻らなくてはならない。後日また」
「分かった。忙しいのにありがとう」
「今回は私のミスだったのでな。ルネは代理手続きが済み次第宿舎長へ挨拶に行かせてから自室に向かわせる」
「うん。じゃあルネも後で」
「はい」

師団長は国王のおっさんたちの側近だから忙しい。
王家がどこに泊まってるのか知らないけど、今回は事情が事情だから警護を抜けて来てくれたんだろう。

「俺たちもこの時間だともう部屋に居た方がいいな」
「うん。今日の予定はキャンセルしてないから部屋に衣装屋が来るはず。会食の15分前に術式の前で待ち合わせよう」
「了解」

訓練をするほどの時間はもうない。
師団長とルネは受付に、その他のみんなは最上階に戻って会食までの時間をそれぞれの部屋で過ごすことにした。


「いい部屋だね。さすが英雄エロー
揶揄からかうな。好きで居る訳じゃない」
「随分ピリピリしてるじゃないか」
「あ、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだけど」

英雄エローの呼び名に思った以上に過敏になってる。
言われて初めて自分でも気付きソファに座って溜息をついた。

「開催式前日の精神状態としては万全ではないようだね」
「そうらしい。でも代理も来たからすぐ落ち着くと思う」
「本来であれば準備期間のはずがこんなことになってしまったからね。それでなくとも他所の者からのプレッシャーは大きいだろうしピリピリするのも分からなくない」

そう話しながらエミーは前に座って魔王はベッドに座る。

「それで?なにか話があったんだろ?」
「あの子のことだ。解任された子」
「ジャンヌ」
「そうそう。ジャンヌって子。きな臭いと思わないか?」

話の内容はジャンヌのことだったらしくエミーは真面目な表情に変わる。

「君から話を聞いて少し調べてみたんだけど、あの子の家系は敬虔なフォルテアル教信徒だ。父親は教会勤めをしている。月に数回は家族揃って大教会のミサにも行っているらしい」
「え?それならジャンヌも」
「変だろ?他の人のように英雄エローに憧れを抱くくらいはしても、その家系で英雄エロー教と呼ばれるほどの狂信者が育つかね」

家庭環境を考えれば可能性は低い。
親がそうだから合わせているだけで実は信仰心が薄いという可能性もあるけど。

「それに魔導師長が急遽配属を推したことも気になる。大会の際に師団の手が足りなくなることは国に仕える者なら誰しも知っているが、随分あの子を付添人に推していたそうだよ」

の本命はそっちか。
本来は20歳以上で配属されることが多いのに18歳の子を推したことも、魔導師から師団に変わったばかりの子を大会の付添人に推していたことも違和感を抱いたんだろう。

「それを思うと咒をかけられているというのも信憑性がある。どんな咒かは分からないけど狙いは君だろう。あの子が居なくなったからって簡単に人を信用せず周りに気を付けるんだね」
「……分かった」

またか。
しかも今回はエミーも師団長も居ない。
ほぼ知らない人の中に投げ込まれている状態。

「話に出たその魔導師が術者じゃないのか?」
「さあね。可能性はゼロじゃない」
「吐かせればいいだろう」
「人族は魔族のように力で何とかなる訳じゃないんだよ。ただ疑わしいという理由だけで尋問はできない」

疑わしきは罰せず。
それが人族のルール。
今のところ証拠は一つとしてない。

「俺に滞在許可を出した理由は半身の護衛か」
「正解。君は精霊族の敵ではあるけどシンに関してだけは他の誰よりも信頼できる。愛弟子のことだから師匠の私が傍に居てやりたいが残念ながらその時間がないんでね」

なるほど。
魔王を賢者と偽ってまで滞在許可証の発行を急いだのは自分が居れない変わりに魔王に頼みたかったからだったらしい。

「監視を手伝わせるためとはいえ魔王の俺に賢者を名乗らせてまで随分と早く対応したと思えば」
「私は魔族だろうが魔王だろうが使えるものは使うよ。賢者に与えられた権限を行使してでもね」
「とんでもない賢者だな」
「賢者と言っても軍人だ。軍人が重視するのは。そのためなら多少の悪行も厭わない」

これではどちらが魔王なんだか。
潔いエミーの発言に魔王もさすがに苦笑していた。

「シン。ちなみに魔導師長というのは例の副指揮官だ」
「え?ああ……納得した。だから疑って調べたのか」
「そういうこと。いつかアイツの尻尾を掴んでやる。私欲のために国民の命を危険にさらした大罪人として」

一番危険にさらした本人はベッドで寛いでるけどな。
澄ました顔で。

「まあ半身のことに関しては手を貸そう。ただし俺もずっとここに居られる訳ではない。お前が目覚めてから仕事に追われたように俺にもやることが溜まっている」
「もちろんずっと居てくれとは言っていないよ。私も隙を見て様子を見に来るけど君も時々見に来てやってほしいんだ。仲間しか信頼できないこの環境ではシンが精神的にやられる」
「ああ。分かった」

変な二人だ。
お互いに敵なのか味方なのか。
二人とも俺のことを心配してくれてるってことだけは間違いないけど。

「今日のこの後の予定は?さっき会食とは聞いたけど」
「その後は夜会。親睦目的に毎日やってる」
「じゃあその夜会はさっさと抜けて体を動かしな。君は体を動かしてる時が一番活き活きしてる」
「そうする。明日本番なのに一回も訓練してないし」

もちろんそのつもり。
本番前日にまで夜会があることを聞いて驚いたくらいだ。

「明日は開幕の儀とトーナメント決めしかないけどね」
「え?そうなのか?」
「説明を受けてないのかい?」
「なにも」
「……付添人としてはほぼ機能してなかったんだね」

大会については何も聞いていないことを知ってエミーは呆れた顔で溜息をつく。
本来ならジャンヌが付添人として話してくれる内容だったってことか。

「明日は開幕の儀と抽選だけで予選が始まるのは明明後日しあさって。君のデモンストレーションは明後日の一般参加の予選日だ」
「は?」
「ん?」
「いま俺のデモンストレーションって言った?」

まさかな。
聞き間違えだよな?

「……もしかしてそれすらも聞いてないのかい?」
「初耳です‪が(  ˙-˙  )スンッ‬」
「「…………」」

頼むよジャンヌぅぅぅぅぅぅぅう!
さすがにそれは話しておいてくれないと大問題だろぉぉ!

「デモンストレーションってなにをやれば良いんだよ!明後日までに出来ることってなんだ!」
「落ち着け!そういう時は剣舞でも……あ。あんな遊戯は必要ないと思って教えてない」
「ぬか喜びさせないでくれぇぇぇぇぇ!」

いい方法があるのかと一瞬喜ばせておいて。
詰んだ、もう詰んだ。
頭の悪い俺が明後日までになにかを覚えるなんて無理。

「私も何か考えておくから君も考えておけ」
「見捨てる気か!可愛い愛弟子が困ってんのにぃぃ!」
「ええい!こんな時だけ可愛いを強調するな!」
「置いて行かないでぇぇぇぇ!」
「警護に戻らないと行けないんだ!私の多忙さを舐めるな!テオドールにも相談してみるから離せ!」

酷い、酷すぎる。
愛弟子がこんなに必死に訴えているのにエミーはもう一度「夜までに考えておく!」と行って去って行った。

「フラウエルぅぅぅ俺はどうしたらいいんだぁぁあ」

我関せずでベッドに横たわっている魔王に縋り付いて救いを求める。

「そもそもデモンストレーションとはなんだ」
「実演」
「なんの」
「武闘大会のデモンストレーションだから多分剣や魔法を使ったパフォーマンスをやれってことだと思う」

さっきエミーが剣舞とか言ってたから多分。

「ならば剣と魔法を使った演技をすればいいだろ」
「だから剣と魔法で何をやったらいいのかって話」
「演技などしたことがないから分からない」

ですよね。
魔王さまの剣と魔法は実用性重視ですよね。

「見ている者が楽しめる演技がいいんじゃないか?」
「楽しめる……例えば?」
「それは仲間のアイツらに訊いた方がいい。精霊族が喜ぶようなことを魔族の俺が分かるはずがないだろう」
「そっか!早速行って来る!」
「着替えの時間が迫っているんだろう?」
「そうだった。会食が憎い」

もう今日まで予定をキャンセルしてしまえば良かった。
今は一分一秒も時間が惜しいのに。

「……どうした?」
「一度城に戻る」
「え?食事は?」
「城で摂る」

急だな。
ベッドから降りた魔王にどうしたのか訊くと城に帰るらしく腕輪から水晶を外す。

「これを置いて行く。賢者と繋がっているから万が一何かあればこれを使って話すといい」
「え、うん。ありがとう」

話しながら俺の腕輪に水晶を填めた魔王。
何かあったらエミーと話せってことは今日はもう来ないってことか。

「着付けの者たちが来たようだ」
「もう時間か」

そう答えたタイミングで気の抜けた呼び鈴が鳴る。

「またな、半身」
「うん。また」

魔王はチークキスをすると来た時と同じようにスルっと帰って行った。

「……やることが溜まってるって言ってたもんな」

スルっと現れてスルっと消えるのが魔王。
いつもと同じなのに、今日は『もう帰るのか』と思った。
魔王と一緒に居ることが当たり前になってる自分が怖い。

「あ!はいっ!」

魔王が去った後の場所を見ながら考えていて、再びの呼び鈴で衣装屋が来ていたことを思い出し慌てて鍵を開けに行った。

「賢者フラウエルさまはどちらへ」
「え?フラウエルは急用で帰ったけど」
「そうでしたか。ご衣装をお持ちしたのですが」
「フラウエルの分も?」
英雄エローの治療のために滞在するとお聞きしましたので」
「ああ。せっかく用意してくれたのにごめん」

エミーや師団長が話したのかドレスコードがある会食の衣装を魔王の分も急遽用意してくれたらしい。
俺も帰るとは思ってなかったから一緒に食べに行くつもりだったんだけど。


「今日の衣装もなかなかの露出度」
「はい。ですが胸元は隠れております」
「腹は丸出しだけどな」
「武闘大会のように力や能力を競うイベントが行われる際には鍛えた体を見せるようなご衣装が比較的多いです」
「そうらしいな。初日に会場へ行ったら俺たちに負けないくらい肌を露出する衣装を着てる男が多かった」

異世界人の俺にとって凄い衣装でもこの世界では普通。
世界が変われば好まれる服装も変わる。

英雄エローは鍛えられ引き締まったお美しい肉体をしておられるので隠してしまうのは勿体ないです。この世界では体を鍛えた男性を好む女性が圧倒的に多いですので」
「へー。それは隠すと損するな」

いま着付けをしてくれてる人は王都の王宮地区にある衣装屋の人で、普段から俺のスーツを作ってくれたり何かあれば着付けをしてくれている人だからくだらない話も気軽に話せる。
今日も紋章付きの上着を羽織って着替えタイムは終了した。

「我々はこれで失礼します。ごゆっくりお楽しみください」
「ありがとう。明日もよろしく」

鏡の前で髪を整えながらお礼を言って衣装屋を見送った。

「着替えタイムというより着せ替えタイムだな」

高価そうな布地の衣装に高価そうな装飾品。
大会のために全力で用意したことが衣装の質で分かる。

ヤンさんやアランさんたち武器職人や防具職人だけではなく、この大会に力をいれている職業の人は多い。
その人たちにとって代表騎士の俺たちが身につけて多くの人に見てもらうことが宣伝になる。

「「シンさま」」
「おお。今日もベルは刺激的な衣装を着てるな」

部屋を出て術式の前へ行くとエドとベルが既に居て、今日もけしからん衣装を着せられているベルに目が行く。

「下着姿で歩かされている気分です」
「下着というかチューブトップビキニっぽい」
「なんですか?それは」
「俺が居た世界では外で水に入る時は下着に似た水着って衣装を着るんだ。それよりは全然隠れてる」

チューブトップビキニの上にシースルーの黒いドレス。
生肌の露出度は俺やエドの方が上だけど、けしからん度からいうとベルの圧勝。

「これはまたドニが目のやり場に困るだろうな」
「ドニさまがどうかなさいましたか?」
「いや。それはドニが言うことだから」

鈍いな、ベル。
さすがをどこかに置いて来ただけある。
エドもドニの気持ちには気付いているらしく、全く気付いていないベルにお互い苦笑した。

そんな話をしてると一足遅れて部屋を出てきたのはロイズ。
そのすぐ後にドニも部屋を出て来て全員揃った。

「まあ頑張れよ、ドニ」
「は?」
「俺は応援する」
「なんの話だ」

勇者バカに訪れた春。
ドニは信頼できる男だから是非とも頑張ってほしい。
変な男に娘はやらん(父性)。

「ルネ来ないな」
「ルネさまは先に会食の会場へ行って確認をしています」
「確認?」
「はい。他の付添人より二日遅れで入りましたので、宿舎施設の場所や避難口などを確認して時間には会場に向かうと」
「真面目」
「付添人とは本来そうかと」

そうなのか。
俺が知ってる付添人はジャンヌとロザリアだけだからルネが別格に思えるけど。

「フラウエルさんは?」
「急用で一旦帰った」
「え!調整した弓を見てほしかったのに!」
「残念。その内またスルっと現れると思うけど」
「神出鬼没なのか」
「かなり」

ロイズに話して術式に入る。
気まぐれにスルっと現れるのが魔王。
やることを片付けたらまた来るだろう。


「ルネ」

会場に行くとルネが手に持った何かを見ながら待っていて声をかける。

「確認は済んでおります。どうぞご入室ください」
「ありがとう」

これが本来の付添人か。
待たせることなく先に行動して済ませておくとか有能。

「王都代表騎士の皆さま。お席へご案内いたします」
「ありがとうございます」

会場に入ると初日と同じく丁寧に出迎えられる。
人は違うけど。

案内の途中で視界に入ったのはロザリア。
今日も形の違う赤いドレス姿。
毎回赤ということはその色で統一してるんだろう。

俺たちが来たことに気付いていたのかチラとこちらを見て目が合ったロザリアに微笑で返す。
昨日心配して見に来てくれたから後でもう一度お礼を言おうと思いながら隣を通り過ぎた。

会食の流れも初日と同じ。
先に事細かに記されたメニューを渡されて確認してから贅の限りを尽くした料理が運ばれてくる。

美味しいんだけど……お茶漬けが食いたい。
会食ではもちろんルームサービスですら豪華な食事を用意して貰えるのはありがたいんだけど、毎回味の濃いものを食べているとサッパリした味が欲しくなる。

日本食を恋しく思いながらも食事を済ませた。

「そうだ。みんなに相談があるんだけど」

夜会の会場へ移動する前にエミーから聞いた大会の予定とデモンストレーションの話をして何かいい案がないかを訊く。

「宿舎での予定ならまだしも肝心な大会の予定を伝え忘れるのはうっかりで済まされるミスじゃないだろ」
「試合のある日にないと伝えられた訳ではないのでまだそちらは対処可能だとしても、練習が必要になるシンさまのデモンストレーションを伝え忘れたことは大問題ですね」

ロイズとエドはそう話して溜息をつく。
伝え忘れたのか後で伝えるつもりだったのか知らないけど、デモンストレーションは分かった時点で教えて欲しかった。

「ここに居ない人を責めても仕方ないからそれは置いといて、デモンストレーションでどんなことをすればいいのか案を聞きたい。この後の夜会は顔だけ出したら抜けて練習をしないと」

元から夜会は顔を出す程度で済ませて訓練をするつもりだったけど、訓練よりもデモンストレーションの練習をしなくてはいけなくなってしまった。

「デモンストレーションと言えば大抵は剣舞か演舞だろ」
「エミーもそう言ってたけど俺は知らない」
「ああ、そうか。訓練校に通ってる人は剣舞、魔導校に通ってる人は演舞を習うけどシンは異世界から来たんだもんな」

ドニが言ったのもエミーと同じというもの。
演舞の方は初めて聞いたけど、どちらにせよ訓練校や魔導校で習うものを異世界から召喚されてきた俺が知るはずない。

「フラウエルは見てる人が楽しめる内容ものがいいんじゃないかって言ってたけど、何をすれば楽しんで貰えるのか」
「……あ。パレードでやったあれはどうですか?」
「パレードで?」
「西区の子供たちにやって見せたパフォーマンスです。子供たちだけじゃなく大人たちも喜んでいましたから」
「それだ。あんなの誰にでも出来ることじゃないから大会でやっても喜ばれると思う」

虹を作ってみせたアレか。
エドの閃きにロイズは納得して手を叩く。
たしかにあのパフォーマンスなら今から覚える必要もない。

「よし、魔法を使ったパフォーマンスを幾つか考えてみる」
「構成を組むお手伝いは私にさせてください」
「ルネが?」
「予定が急遽変更になってしまったのは伝達を怠った前付添人の失態ですので。僭越ながら私は魔導校時代に演劇の構成に携わっておりましたので多少のお役にはたてるかと存じます」
「演劇の構成を?それは頼もしいな。よろしく頼む」

付添人のルネが構成を考えてくれることになり、夜会に少し顔を出してからみんなで抜けて訓練(俺は練習)をすることを決めて座っていた席を立った。

「大会の前夜まで夜会を行うとは上の者は気楽なものだと思いましたが明日はまだ試合がないからだったのですね」
「うん。俺もエミーから聞いて納得した」

そんな話をベルとしながら会場を出ると夜会に移動する代表騎士たちが足を止めていて、出入口付近のこんな所でなにをしているのかと視界を向ける。

ん?……んん!?
エルフ族や人族が入り交じる中に居たロザリアとその仲間。
ロザリアたちが絡まれているように見えるけどそれは一旦置いといて、絡んでいるアイツらはもしかして……。

「嫌な巡り合わせだ」

まさかとは思ったけど、そのまさか。
ロザリアの集合の代表騎士に絡んでいたのは聖地(笑)アルク国でお仕置したあの騎士の息子ご一行だった。

「シンさま。あちらの方は初日にお会いした女性では」
「ああ、うん。そう」
「エルフ族と揉めてるみたいだけど大丈夫か?」
「揉め事は禁止されてるのに。出場停止になるぞ?」

みんなも初日に会ったロザリアのことは覚えていたらしく足を止めて様子を伺う。

「大変失礼をいたしました。申し訳ございません」

仲間を庇うように前に出て謝るロザリア。
しっかり付添人の役目もしているようだ。

「人族風情がエルフ族に体当たりするとは」
「止まりきれずぶつかってしまったことは謝ります。でもわざと体当たりをした訳では」
「口答えするな!」
「申し訳ございません」

話を聞くにロザリアの仲間の一人がザコ虫のどれかにぶつかってしまったってことのようだけど、ロザリアたちの方は代表騎士も含めひたすら謝っているのにザコ虫のあのキレよう。
いまだに『人族風情が』とか言ってる辺り、あれだけお仕置してやったのに懲りていないらしい。

「お前たち、なんの騒ぎだ」
「え、英雄エロー!」

歩いて行って声をかけるとロザリアと仲間が慌てて跪き、ザコ虫や周りで出歯亀をしていた各地の代表騎士もサッと跪く。

「宿舎内での揉め事は禁じられている。場合によっては出場停止になることを代表騎士が知らない訳ではないだろう?」
「恐れながら発言の許可をいただきたく」
「許可しよう」
「誠にありがとうございます。揉め事の原因はこの者たちが私に体当たりをしてきたこと。それを注意していたのです」

そう反論したのはザコ虫の中の女騎士。
俺があの時の人族と知らずに跪いているんだから権力に弱いのも相変わらずのようだ。

「様子を見させて貰ったが、この者たちは非を認めて真摯に詫びていたように思う。もう許してやってもいいんじゃないか?ああ、これもの私の言葉だから聞く耳を持たないか」
「そんな。英雄エローは特別な御方ですので」
「断じてそのようなことはございません」

気まずそうにこうべを垂れるザコ虫たち。
特別なのは称号だけで俺はただのヒトなんだけど。

「お前たちは各地を代表してここへ来ているのだろう?規則を破り出場停止になれば、お前たちの勝利を信じて送り出してくれた者の期待を最悪の形で裏切ることになると忘れるな」
『はい』
「ではお前たちはもう行くといい」

そそくさと去るザコ虫たちを見て溜息をつく。
アイツらが代表騎士って、大丈夫かアルク国(  ˙-˙  )スンッ‬

「仲裁くださいまして感謝いたします。英雄エロー
「不注意で衝突したことは理解できたが、このように広々とした場所でなぜそのようなことに」

ドレスをつまみ丁寧に礼をするロザリアに訊く。
狭い場所でぶつかってしまったならわかるけど、会場の出入口も廊下も無駄に広いのに。

「会食を終えてすぐとあって混み合っておりましたので彼らが立ち話をしている後ろを通ったのですが、あちらは私たちが居ることに気付かなかったらしく後ろに下がってまいりまして」
「それが事実なら衝突したのはあの者ということになるが」
「真後ろを通った私たちが悪いと」

はあ?
ロザリアの仲間から聞いて呆れる。
混んでる場所での立ち話がまず迷惑極まりないのに、後ろを通っていた人に激突しといて相手の所為にするとか。

「……もっとお仕置しとくべきだったか」
「シンさま?」
「なんでもない」

隣で様子を伺っていたベルの頭を撫でて誤魔化す。
あの時のことを話すとベルの中の黒い人がニョッキリし兼ねないから。

「災難だったな。大事に至らなくて幸いだった」
英雄エローが仲裁してくださったお蔭です」
『ありがとうございます』
「恩を返しただけだから礼は要らない」

不思議そうな代表騎士たちに少し笑い、目が合ったロザリアにも笑みを浮かべてその場から離れた。

「シンがって言うと痒い」
「言ってる俺も痒い。でも大会期間中に英雄エローとして人に接する時はそうしろって師団長から言われてるんだ」

ロイズから言われて苦笑する。
普段は『俺は』だし相手によって『自分は』というように使い分けてたものの『私』という一人称はむず痒くて避けていた。
でも代表騎士は貴族や領主関係者も多いらしいから『私』を使うように言われている。

「俺はあの子と他人行儀だった方が意外。お互いに」
「向こうが俺と知り合ったことを言ってないみたいだから。俺と親しくしてたら変な注目を浴びることもあるだろうし、向こうが秘密にしたいなら俺もそれに合わせる」

部屋に送ろうとした時も仲間に言わなかったし、今も礼をしてきた時に二人で話している時のような気軽な態度ではなかったから俺も合わせただけ。

「軽く見えるのに意外と相手のことも考えてるのか」
「ドニ。そんなに俺と24時間デスマーチをやりたいか」
「無理無理!死ぬ!」

ドニの肩を組んで言うとみんなは笑った。
 
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「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

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