ホスト異世界へ行く

REON

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第七章 武闘大会(中編)

初戦結果

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英雄エロー!』

観客の呼び声に迎えられて出たアリーナ。
舞台前まで行って自分で物魔防御をかけて息をつく。

「シンさま。マントをお預かりします」
「ありがとう」

今日はルネの代わりに付添人(試合の時だけ)をやってくれている副団長に外したマントを渡した。

「お相手も出て来ました」
「あれ?意外と小柄?」
「そのようですね」

俺が出て来たのとは反対側から入場した初戦相手。
付添人と入場してきた顔の見えないローブ姿の選手は“体術(格闘士)+獣人族=背の高いバッキバキのマッチョ”という俺の勝手な印象を裏切って意外とコンパクトサイズだ。

「「…………」」

物魔防御をかけ終えてローブを脱いだ相手を見て沈黙。
なるほど、予想外。

「女性だったのか」

俺の初戦相手は女性騎士。
勝手に男性だと思いこんでいたけど、代表騎士には女性も居るんだからあたってもおかしくなかった。

「少々戦い難い相手とあたってしまったようですね」
「本音を言うと。ただ、代表騎士として大会に出てきた限り異性だからって理由では手を抜かない」

一般国民ならまだしも相手も領地を代表して選ばれた選手。
加減しろと言われたから最初は実力を測るため様子見をするけど、舐めてかかって無様に負けるような真似はしない。

「ただいまよりブークリエ国王都代表英雄エロー対、ブラジリア集落代表カムリン選手の試合を行います。両者舞台へ」

放映を通して審判の声がアリーナに響き渡ると観客たちの大歓声に埋め尽くされる。

「行って来る」
「シンさまに勝利の栄光あらんことを」
「ありがとう」

副団長と軽く拳を重ねて舞台に乗り審判の前まで行くと相手選手も来て目の前に立つ。

「まずはルール説明を。頭部と胸部への攻撃は禁止。即死を狙った悪質な攻撃と判断された際には罪に問われる可能性もございますのでご注意ください。試合の決着は制限時間が来ての判定か、ご本人が敗北を認めるか、審判と副審判が試合続行不可能と判断した場合の三通りございます」

審判の説明を聞きながら視線を感じて相手を見ると俺を見上げていて目が合い笑みを浮かべられる。

獣人族の発育が凄い件。
ベルにしてもロザリアにしてもこの子にしても立派なスライム(ぷよんぷよんのアイツ)を胸に飼っているけど、獣人族はみんなそうなんだろうか。

「白魔術師と医療師が待機しておりますが、生命に関わる深刻な怪我ではない限り試合中は回復いたしません。能力を競う大会ですので自身の能力を使い強化を行うも回復を行うも自由。アイテムの使用も自由です。ご理解いただけましたか?」
「はい」
「分かりました」

審判が説明した内容はあくまで最終確認であって、事前に本大会のルールとして聞かされていたことだから質問もない。

「それでは互いに白線までお下がりください」

そう言われて舞台に引いてある白線まで下がり、同じく白線の向こう側に立った代表騎士へ試合前の挨拶で頭を下げた。

「始め!」

審判の開始を報せる声と同時に観客席から歓声があがる。

刀の柄を握った俺の前に走って来た代表騎士。
さすが獣人族。
素早い。

英雄エローに直接触れていただけるなんて光栄です」

肩を狙って蹴ってきた脚を掴んで止めるとうっとりした顔で言われて少し笑う。

「動きやすさ重視だろうけど肌を露出し過ぎじゃないか?」
「お声までお聞かせくださるのですね。幸せです」
「キャラが濃いって言われた経験あるだろ」
「もっと罵ってくださいませ」
「うん。やっぱ濃い」

罵ったんじゃなくて訊いただけなんだけど。
幸せそうな表情の騎士の脚を離してお返しに肩を狙って蹴る素振りをする。

「……避ける気ゼロか」
英雄エローの初攻撃を避けるなんて勿体ない。どうぞ心置きなく痛めつけてください。私には最高のご褒美です」

いや、濃すぎ!
防ぐ様子も見せず突っ立ったままだからギリギリ止めたけど、喰らい待ちをするとかいい(?)趣味をしてる。

「なるほど。やり戦い難い」
「その見下す目も素敵です」
「見下したつもりはない」

今にも零れ落ちそうなスライムやどこまで切れているんだと気になってしまうスリットから見えている脚。
衣装が過激で何となく気になり戦い難い上に、この性格。

「神々しいまでにお美しい英雄エローの視界に醜い私の姿が……喜びでイってしまいそう」

超☆絶☆変☆態☆
加虐性愛サドのエミーとは正反対の被虐性愛マゾ
ただ見ているだけで喜びに打ち震える姿はいっそ清々しい。

「変た、いや、変わった女性騎士だな」
「そんな雌豚なんて」
「言ってないのに喜ぶな」

変わり者(すぎる)女性騎士に笑い声が洩れる。
ただ、変態観察はここまで。

「かかって来い。何かを得るためには与えることも必要だ」

バックステップで距離をとり武術で戦う相手に合わせて拳を構える。

「私が与えれば英雄エローも与えてくださると?」
「もちろん本気の相手には応える。それ相応の見返り痛みが欲しいなら本気でかかってこい」
「さすが英雄エロー。私のような獣人女の期待にまで応えてくださるなんて……素敵」

潤んだ目と高揚した頬で喜(悦)びを表す騎士の目は赤くなって魔力量がグンと上昇する。
さすが代表騎士に選ばれただけある。
ただの変態ではなく覚醒済みだったらしい。

素早い動きに関わらず蹴りや拳の重さは男性の威力以上。
打撃を受け止める両腕は防御魔法をかけていなければ折れていただろう。

観客たちも本気になった女性騎士の試合に大盛り上がり。
さっきまでは女性騎士の変態ぶりに困惑していたのかザワザワするだけだったのに。

「俺からも行くぞ」

長い爪の攻撃を避けて女性騎士の二の腕に蹴りを入れる。
加減したものの舞台に倒れた女性騎士はすぐに身体を起こすと俺をまた潤んだ目で見上げる。

「加減した攻撃ですらもこの痛み快楽。もっと見返り痛みを……私をイかせてくださいませ」

そう言って目の前で消えたと思えば背中に重みが伸し掛る。
転移魔法も使えるらしい。

「これが英雄エローのお背中、英雄エローのお身体、英雄エローの体温、英雄エローの香り……ああ……畏れ多い」
「っ!?」

背中にしがみつかれて噛みつかれた首筋。
セクシー展開な甘噛みではなく獣人族の牙を使ったその攻撃に女性騎士の服を掴み引き剥がして前に投げ捨てる。

「……これは魔法か?」
「いいえ?麻痺毒です」

噛みつかれた首筋は熱を持っていて、出血量を確認するために血を拭った手は痺れたようにピリピリする。

「じきに全身へ回って行動不能になります。審判から試合を止められる前にご自身で敗北を宣言してくださいませ。お美しい英雄エローが膝をつく姿など誰も望んではおりません」

アイテムか恩恵か体質か。
何を使ったのかは分からないけど、噛んだ傷から麻痺毒を流し込まれたんだろう。

「誰が膝をつくって?俺の前に跪くのはお前だろ?」
「……効いていないのですか?」
「効いてるぞ?指先がピリピリする程度には」

この程度で俺を戦闘不能に出来ると思ってるなら甘い。
手や腕を切り落とされようと『生きていれば回復できる』が合言葉の戦闘狂軍人デスマーチを生き抜いた俺を舐めるな。

「戦闘で女性を痛めつけるのは趣味じゃない。俺に見返り痛みを求めるのはベッドの中だけにしてくれ」

これで終わり。
俺の撃った火魔法を水魔法で相殺した女性騎士の懐に入って鞘をつけたままの刀で鳩尾みぞおちに打撃を与えた。

「そこまで!」

気を失った女性騎士の身体を受け止めると審判の声と同時に地鳴りのような歓声があがる。

英雄エロー出血が。すぐに回復ヒールを」
「自分でかけられるから大丈夫。ありがとう」

駆け寄って来た白魔術師の治療を断って打撃を与えてしまった女性騎士に回復ヒールをかける。

この軽い身体のどこからあのパワーが生まれるのか。
覚醒した獣人族も謎が多い。

「カムリン」
回復ヒールはかけておいた。気絶してるだけだからすぐ起きる」

そう説明して舞台傍にいた付添人の男性の腕に渡す。

「彼女の目が覚めたら面白い試合だったと伝えてくれ」
「本人が聞いたら喜びます。ありがとうございました」
「こちらこそ」

女性騎士を抱えてお礼を言った付添人に笑みで応えた。

「お疲れさまです。医療師に解毒薬を貰いますか?」
「いや。もうなんともない」

観客の大歓声に軽く手を振って応えながら首に自分で回復ヒールをかけて副団長からマントを受け取る。

「即効性の麻痺毒も効かないとは……さすがシンさま」
「これも精神力のお蔭か?」
「魔法であれば精神力に左右されますが、彼女は麻痺草を使ったのだと思いますのであまり関係ないかと」
「へー。理由は分からないけど噛まれた後に少しピリピリしただけで今は平気」

副団長と話しながらも大歓声をあげる観客にもう一度手を振ってアリーナを出た。

「全員の初戦が終わったけど二回戦はどうなるんだ?」
「想定していた時間より早いですが終了するそうです」
「夜までかかるんじゃないかって話してたのにな」
「決着の早い試合が多かったですので」

初戦の今日は人数も多いため最後に行う俺の予選は夜なるかも知れないと聞いていたのに、制限時間を設けずとも即決着した試合も多くまだ夕方だというのに初戦が終わってしまった。

「そういえば毒の使用ってアリなのか?」
「白魔術師や医療師が治療できる種類の物ならば」
「即死狙いじゃないなら本当に何でもアリなんだな」
「はい。そもそも麻痺毒に関しては解毒薬を飲むか時間が経てば治りますので命に関わる攻撃ではありません」
「なるほど」

違反ギリギリを攻めたんじゃなくて麻痺らせて戦闘不能判定を狙っただけの攻撃だったってことか。

「じゃあ他にも使う奴が居るかもな」
「どうでしょう。ないとは申しませんが、相手が解毒薬を準備していれば意味のない攻撃になってしまいますので。彼女の場合はシンさまの背後を取れる実力者でしたから効くまで押さえ込むつもりで使用したのだと思います」
「ああ、そっか」

試合中アイテムの使用も可。
念のためポーションや解毒を用意してる選手も多そうだ。
だから女性騎士も解毒を飲まれないために押さえる時間が短くて済むよう麻痺毒を使ったのか。

「少なくとも今後シンさまに使用する者は居ないと思います。解毒以前に効かないことが分かりましたから」

そう話して苦笑いされる。
……ますます特異体質扱いされそうだ。
一応ピリピリ程度には効いたんだけど。

「ただいま」
「シンさま。予選通過おめでとうございます」
「おめでとうございます」
「ありがとう」

特別室に戻るとエドとベルが大きく尻尾を振りながら真っ先に出迎えてくれて、お礼を言いながら頭を撫でる。

「大丈夫か?麻痺毒だったみたいだけど」
「なんともないから大丈夫」
「麻痺毒が効かないってシンの身体はどうなってんだ」
「さあ。理由は分からない」
「「さすが規格外」」

なんともない俺を見て‪(  ˙-˙  )スンッ‬とするロイズとドニ。
全く必要なかったけど形だけでも解毒薬を飲んでおけば良かったか。

「代表騎士のみなさま。本日の予選はこれで終了となりますので宿舎でゆっくりお休みください」
「まだ時間が早いのに二戦目はやらないんですか?」
「はい。一般参加の予選と合わせて予定を組んでおりますので代表騎士戦だけ先に進めてしまう訳には」
「ああ。なるほど」

副団長から話を聞いてロイズは納得する。
代表騎士は一般参加者より人数が少ないのに先に進めては優勝者同士が戦う“最強戦”までの日にちが空くことになるから、仮に早く終わったとしても予定通りの日程で進めるつもりなんだろう。

「そういうことらしいから着替えて帰ろう」
「うん。時間が出来たならゆっくり風呂に入りたい」
「一緒に入るか?」
「断る」

全力で断るドニに笑いながら特別席(室)を出た。

「そういえばシンの相手選手、強烈なキャラだったな」
「ああ、うん。楽しい奴だった」

更衣室で着替えながらロイズから言われて笑う。
あれだけオープンな変態は地球でも出会ったことがない。

「性格はアレだけど、シンの背後を取れるくらいなんだから実力はあったよな。性格はアレだけど」
「性格がアレじゃなければ素直に凄いって思えたのに」
で伝わるのが笑える。ただ、試合に関して言えば攻撃の威力は並の男以上だったし、戦い甲斐のある相手だった。またいつか機会があれば戦ってみたい」

と加減してはいけない相手。
代表騎士に選ばれるのも納得の実力だった。

「試合自体は見応えのあるいい試合だったとは思いますが、試合中のシンさまと代表騎士の会話で誘えば簡単に靡きそうだと勘違いした者が居そうで心配です。既成事実を作られないよう今まで以上に親しくする相手は選んでください」

そう忠告してエドは苦笑する。

「たったあれだけの会話で?」
「シンさまは自身の価値がどれほどのものかイマイチ実感がないようですが、英雄エローと親しくなるため手段を選ばない女性も居れば、娘やトラップ用の女性に既成事実を作らせ第一夫人につかせることで紋章分けを狙う者も居ると思います」
「紋章分け?」

ってなんだ?
初めて聞いたけど。

「貴族同士が成婚した際は大抵の夫婦が位の高い方の紋章を家紋に選びます。特級国民のシンさまの相手は王家でもない限り階級も高く影響力も絶大な英雄エローの紋章を選ぶでしょう」

なるほど。
国民階級で言えば特級国民の上は大公と国王しか居ない。
位が高い方というならたしかに俺の紋章を選ぶだろう。

「夫人だけでなく夫人の親族も関係者として紋章を使用することが許されますので、もし英雄エローの紋章を掲げて商売が出来れば安泰でしょうね。仮に商売していないとしても英雄エローから紋章分けされた家として強い権力を得られます。シンさまご本人はもちろん、紋章でさえもそれだけの価値があるんです」

……ぇぇぇぇえええ!
たかが紋章なのに!?

「エドが言うように親しくする相手は見極めた方がいい。相手が女性の時は特に。例えお前には結婚する気がなくても相手によっては傷物にした責任ってだけで結婚を迫られるぞ」
「異世界怖ぇぇぇぇ」

いや、俺が居た世界でもそうか。
同意の上の行為だったのに後から言い出す人もいる。
ただ、紋章がそれだけ重要な役割をするというなら、少し気に入った程度の軽い気持ちで遊ぶにはリスクが高すぎる。

「クズの俺には辛い世界だ」
「遊ぶなとは言ってないだろ。相手は選べってだけで」
「気をつける」

そもそも誰でもいい訳じゃないけど辛い。
真っ盛りな健全男子には辛い。
ロイズに答えつつ項垂れる。

「シンの場合は娼館に行くのも目立って無理そうだし、その手の専門の人を雇ったらどうだ?上流貴族みたいに」
「やりたいだけならそれでいいだろうけど、俺はその状況まで持って行く過程も込みで楽しみたい派だから却下」

その提案は却下。
貴族の中には専属で夜伽の相手を雇う人も居るらしいけど、最初からそれ目的に雇った子とでは駆け引きの緊張感を味わえないからつまらない。

エドやロイズからそんな無慈悲な忠告を受けながら着替え、ベルの着替えが終わるのを待って控え室を出た。

「みなさま、初戦突破おめでとうございます」
「ありがとう」
『ありがとうございます』

控え室の前で待っていたのは団長と魔導師。
二人の足元には術式が描かれている。

「開幕日の騒動を踏まえて術式を代表宿舎前に繋げる許可がおりましたので、本日はこちらからお帰りください」
「今日も出待ちしてる人が居るのか」
「はい。それ自体は禁じていないのですが前回と同じ騒動になると危険ですので、王都代表のみなさまは特例で」
「分かった」

魔導車に乗って宿舎に帰るのは簡易パレードのようなもので全ての代表騎士がそうすると聞いてたけど、さすがに開幕式の日に逮捕(拘束)者まで出たから術式の使用が許可されたようだ。

「明日は予備日ですのでごゆっくりとお休みください」
「うん。ありがとう」

予備日=試合がない日。
と言っても各地の代表も訓練はするだろうけど。
術式を展開してくれたんだろう一言も喋らない魔導師にも軽く頭を下げて術式に入った。

「お帰りなさいませ。王都代表騎士のみなさま」
「宿舎長」

術式を抜けた先は宿舎の中庭。
宿舎前と言ってたから出入口付近に繋げたのかと思ってれば。

「中庭で術式を使って良かったんですか?」
「本来禁止ですが事情が事情ですので、王都代表が闘技場コロッセオとの行き来で利用する転移術に限り許可いたしました」
「ありがとうございます」

宿舎のルールでは魔力が漏れないよう作られている訓練室以外での魔法や術式の使用は禁じられている。
中庭も宿舎の敷地だから本来は禁止だけど、攻撃のための術式ではない転移術(式)に限定して許可してくれたらしい。

英雄エロー。お時間よろしいでしょうか」
「はい」

受付に行ってルームキーを準備して貰っていると、紙を手にした別の受付嬢から声をかけられる。

「この後の予定に変更があるのですが、付添人がご不在とのことですので英雄エローへ直接お伝えしてもよろしいですか?」
「お願いします」

付添人のルネが不在だから俺に。
と言うことらしい。

「19時より会食が行われることになりました。王都代表のみなさまのお部屋へは18時半に着付師が訪問いたしますので、そのお時間にはお部屋に居ていただければと存じます」
「分かりました」

今日は試合が夜までかかるはずだったから会食の予定は入ってなかったけど、予選が早く終わり代表騎士が戻って来ることになったから、宿舎内の食堂が混んでしまうことを考えパーティホールで出来る会食にしたんだろう。

『ごゆっくりお寛ぎください』
「ありがとうございます」

丁寧に頭をさげる受付嬢たちにお礼を言って五人で最上階に繋がる術式に乗った。

「今日は受付が空いてて良かったな」
「他の人は魔導車だから。まだ帰りついてないんだろ」
「ああ、そうか」

珍しく空いてると思ったけど俺たちは術式で帰って来たから早かっただけで、ドニが言うようにまだ帰りついていない代表騎士も多いんだろう。

「でもたしかに空いてて良かった。少し休みたい」
「体力より精神的に疲れたよな。今日は」
「言えてる」

ロイズやドニにルームキーを渡しながら苦笑する。
行く前からエルフ族の王がなにか言い出すんじゃないかとハラハラしていたけど、予想を裏切ることなく色々あってみんなも疲れただろう。

「お疲れでしたら入浴のお手伝いを」
「マッサージもいたします」
「体は疲れてないから大丈夫。二人も時間まで休め」
「「ですが」」
「んじゃ一緒に入るか?」
「「それは」」

さすが双子。
揃って赤い顔をするエドとベルに笑う。

「必要な時は俺の方から頼むから。それ以外の時は自分たちの体を休めることをまず考えろ」
「……分かりました」
「お気遣い感謝いたします」

多少納得がいかないような表情はしているものの最終的には納得してくれた二人の頭を撫でた。

それぞれ自分の部屋に戻って俺もバスローブだけ用意してそのまま風呂を済ませる。
髪や体を洗う間に溜めていたバスタブにゆっくり浸かることができてようやく一息つけた。

あがって水を飲んでいると気の抜けたあの音。

「ルネ。お帰り」
「ただいま戻りました。試合後でお疲れのところ申し訳ありませんが、少々お時間いただけますか?」
「うん。入ってくれ」
「失礼いたします」

部屋を訪れたのは王都に戻っていたルネ。
封筒を抱えたルネを部屋に招き入れる。

「思ってたより早かったな」
「大会中で人が少ないとあって事務課も空いておりました」
「そっか。座ってくれ」
「失礼いたします」

言われてみればそうかと思いつつ対面のソファに座って貰う。

「こちらが仮申請書です」
「ありがとう。助かった」
「いえ」

ルネから渡されたのは開発者権の仮申請書と証明。
これで“特許出願中”の状態になったから、もし誰かがスパイスの情報を盗んで申請しようとしてもポーラさんの申請の可否が決まるまでは受け付けて貰えない。

「どんな感じだった?手応えは」
「近日中に権利を取得できるかと。英雄エローが料理人に教えている食事のメニューにもスパイスが使われているとあって、王宮でもMsミズ.ポーラのお店から買い付けているとのことですので」
「ああ!そっか!」

それは好都合。
スパイスを使う料理やポーラさんの店で買えることを教えておいて良かった。

「これが通ればポーラさんの努力も報われる」
「そうですね。権利を得られれば国から開発援助も受けられますし、生産量が増えれば生活も今より潤いますから」

国から援助を受けて工場を作ることも可能だし、従業員を雇って量を生産できるようにもなる。
何より情報を盗んだところでもう自分の手柄には出来なくなるからアル一家の安全にも繋がる。

「ありがとう。ルネが協力してくれて本当に助かった」
「いえ。私は努力をした方が泣き寝入りをしなくてはならない事態になるのが嫌なだけですので」
「うん。ありがとう。ルネが優しい奴で良かった」
「優しい訳では……国仕えですので国民のためになるならば」

しどろもどろに答えるルネに少し笑う。
申請書の正しい書き方や通り易い推薦状の書き方を教えてくれたりと、大会には関係ないことなのに協力してくれたんだから充分優しい。

「ルネって普段は師団でどんな仕事をしてるんだ?」
「主に一般国民に関する書類分けなどを。新人ですので」
「その仕事って他の新人ではできないのか?」
「いえ。師団に入って二年以内の者がする仕事です」
「じゃあルネが減っても成り立つか?」
「え?まあ、はい。何人もおりますので」

ルネはまだ配属一年目と師団長が言っていたから、後一年は同じ仕事をするってことだ。

「西区の経理に携わってみないか?」
「……はい?」

書類を仕舞いながら聞くとルネは素っ頓狂な声をあげる。

「信頼できる経理役がほしいんだ」
「え、それは」
「ありがたいことに師団の人たちには色々と手伝って貰ってるんだけど、経理だけは万が一にも不正があったら困るってことで今は師団長が一人でやってくれてる」

俺がもっと勉強しておけば良かったんだけど、残念ながら俺はただの馬鹿で役に立たない。
俺がやっていることは西区の住人との会合や必要建築物を提案すること、その他には工事の手配や許可を出すための視察などが主で、金に関しては師団長任せになっている。

「西区の支援を申し出てくれてる貴族も増えたことで手伝いを頼んだ当初よりも師団長の負担が大きくなるのは明らかだ。このまま師団長一人に任せてたら体を壊しそうで怖い」

師団長としての仕事と西区の相談役としての仕事。
そして今後は幾つかの貴族家から寄付や援助を受けることが決定していて今まで以上の大金が動くことになるから、今の内に師団長と組んで仕事をしてくれる経理役を捜しておきたい。

「だからルネに手を貸して貰いたい」
「ですが私はまだ新人で師団長さまの信頼は」
「西区の領主の俺自身が信頼できる人に頼んでるんだ。仮にルネが裏切ったとしてもそれは師団長の責任じゃない」

ルネを信頼して声をかけたのは俺。
だからもしルネが裏切ったとしても俺が人を見る目がなかったってことだから、降爵や褫爵されて働いてでも穴を空けた分は補う。

「……どうして出会ったばかりの私を信頼できるのですか?」
「さあ。直感」
「はい?」
「直感で信頼できる奴だと思ったから」

身も蓋もない回答をするとルネはポカンとする。

「いや、やっぱり言い直す。もし裏切られたとしても仕方ないって思える人だからっていうのが正しい」
「?」
「自分がこの人になら裏切られても仕方ないって思える相手だってこと。だから俺を裏切る時には一切の情も残さないよう綺麗に裏切って欲しい。憎まずに済むように」

首を傾げるルネにまた少し笑う。

「まあ大会が終わるまで一ヶ月あるからゆっくり考えてくれ。師団長や国王のおっさんにはもしかしたらってことで相談しとくけど、ルネ本人が嫌なら断ってくれていいから」

強制はしない。
書類分けの仕事の方が好きなら邪魔をするつもりはない。

「シン殿は突拍子もないことを考える方ですね」
「そうか?」
「スラム化した地区を欲しがったり本大会の代表騎士に一般国民を選んだり。そして今度は新人の私を重要な経理に」
「他人から見れば突拍子のないことでも俺は今してることが間違ってるとは思わない。だから笑われてもいいんだ。自分が間違ってると思うことをして失敗するより正しいと思うことをして失敗する方がいい。誰の責任にも出来ない俺の責任だ」

自分が決めて行動したことは自分の責任。
自分が信頼した人に裏切られてもそれは自分の責任だから誰も憎まずに済む。

「本当に……変わった方でいらっしゃる」
「よく言われる」

変態変人とは前に居た世界から言われていたこと。
即答して返すとルネは声を洩らして笑った。
    
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バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

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