ホスト異世界へ行く

REON

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第八章 武闘大会(後編)

個人戦決勝

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長く続いた個人戦。
遂にこの日がやってきた。

代表騎士個人戦決勝。
一人だけ離れた番号を引いたから先々そうなることは予想していたけど。

「胸をお借りします」

決勝戦の相手はエド。
決勝戦にだけ設けられた互いへのの場でエドは俺の前に跪き胸に拳をあてて深くこうべを垂れる。

「エド。跪くな」
「シンさま」
「この場で俺はお前のあるじじゃない。敵だ」

試合の前後に戦う相手へ敬意を払うことはしても、今エドが跪いているのはあるじに対しての行動。

「俺とエドはいま対等の立場だ。どうして跪く」
「シンさまと対等など」
「互いに何人もの代表騎士に勝ってこの場に立ってるんだ。対等に戦わないのはお前に負けて涙を飲んだ者たちへの冒涜だ」

俺たちと戦って涙を飲んだ人がいる。
あるじだからと対等に戦わないならその人たちは何の為にエドと戦い涙を飲んだのか。

「お前はお前に敗北した者たちの悔しさを背負って戦え。俺も俺に敗北した者たちの悔しさを背負って戦う。立て」

俺を見上げていたエドは少し俯きゆっくり立ち上がる。

「俺を倒すつもりでこい。自分の力で獣人族は奴隷じゃないと地上の者に示せ。獣人族もエルフ族や人族と対等だということを、過去に囚われたままのわからず屋の亡霊に教えてやれ」

エドやベルの参加目的は獣人族への偏見を減らすため。
大切なその目的を忘れないで欲しい。

「承知しました。ですがシンさまはいついかなる時も私のあるじです。この場であっても敵にはなりません」

エドはそう言って微笑する。

「理不尽に拐われ帰る場所すら奪われた獣人であれば頷いたでしょう。ですが私は自らの意思でシンさまにお仕えすると決めたのです。自らの意思でお仕えすることと奴隷印で従わされるのでは違います。獣人は自分の認めたあるじにお仕えできることが何よりの幸せ。その幸せを奪わないでください」

これが獣人かと思わされる。
あるじに対する忠誠はどんな時でも揺るがない。

「本気で戦えるのか?あるじが相手でも」
「それがシンさまの望みとあらば」
「その言葉を信じる。あるじに嘘はつかないと行動で示せ」
「承知いたしました」

互いに言葉を交わして胸に手をあてこうべを垂れる。

「ブークリエ国王都代表騎士シン・ユウナギ・エロー。力の限り戦うことをしゅに誓う」
「同じくブークリエ国王都代表騎士エドワード。力の限り戦うことをしゅに誓う」

神への誓いを済ませエドの隣に行って跪き、今度は貴賓室に向かってこうべを垂れる。

『諸君の誓いしかと聞き届けた。気高き心を持つ諸君に勝利の栄光あらんことを』

国王のおっさんので誓いの儀は終わり。
超満員の闘技場コロッセオは観客の大歓声に包まれる。

一度アリーナから降りて試合の準備。
マントを外して長い息をはいた。

「お疲れさまです」 
「こういうのをやらされると国の行事って実感する」
「試合前のひと仕事ですね」

俺側の付添人についてくれてる副団長と苦笑する。
試合前(しかも決勝戦)に余計な一仕事をさせるのは勘弁して欲しいと思うけど、これも大会を盛り上げるためには必要なプロセスなんだろう。

「まだ団体戦と強者戦は残ってるけど、ここまで長かった」
「一番長いのは個人戦ですからね。あとは早いですよ」

本大会の期間は約一ヶ月(正確には一ヶ月以上)。
その中の殆どの期間を個人戦に費やしたと言える。

「ただいまよりブークリエ国王都代表英雄エロー対、ブークリエ国王都代表エドワード選手の試合を行います。両者舞台へ」

審判の声であがる歓声。
個人決勝戦の今日は立ち見席まで用意されただけあって開始前から物凄い熱気を感じる。

「よし。試合はもちろん英雄エローの仕事も頑張ってくる」
しゅのご加護のあらんことを」

帯刀して短く息をはく。
みんなが俺に望むのは英雄エローの姿。
手を組み祈る副団長に微笑してアリーナへ上がった。

「本日の決勝戦ではルールに二つの変更点がございます。一つ目は時間が無制限であること。二つ目は決着方法に場外判定が加わりました。舞台外の地面に体が触れた時点で敗北となりますのでご注意ください。その他の禁止事項等に変更はございません。ご理解いただけましたか?」
「「はい」」

どちらの変更点も最初から知らされていた内容。
決勝戦では時間無制限になる変わりに場外判定が付くことは大会が始まる前のルール説明で既に聞かされていた。

「両選手は白線までお下がりください」

目の前に立っているのは俺の専属執事バトラー
主従関係でもあり家族のような存在でもある。
でも試合の間だけは敵。
お互いに今まで倒してきた人たちの想いを背負って戦う。

「始め!」

開始と同時に瞼をあげたエドの目は赤。
いつものように短剣や魔法を使うんではなく、覚醒した獣人族の最大の特徴でもあるスピード勝負で突っ込んでくる。

「痛」

咄嗟に引いたものの鋭利な爪で切れた腕。
約束した通りに倒すつもりできていることが分かって、切れた傷を舐めた口元は自然と笑みで緩んだ。

素早い動きでの拳(爪)勝負。
掴まれないよう避けてはいるものの、今の戦いを見て誰がエドを魔法士と思うだろうか。格闘士も真っ青のレベル。

「素早さでは分が悪いな」

エドが素早さでくるならこちらはリーチの長さ。
二の腕を蹴るとエドの体が吹っ飛ぶ。
今までの試合は刀での攻撃が中心であまり使わなかったけど、元々俺が得意なのはこっち蹴り

「……蹴り一つでこの威力ですか」
「強化魔法もかけてるからな。折れたか?」
「自分が回復ヒールを使えることに感謝します」

二の腕の骨が折れたようでエドは苦笑する。
回復ヒールを使えるのはお互いさま。
だからこそ多少の無理もできる。

「わざわざお待ちくださいましてありがとうございます」
「最初だけだぞ?次は待たない」
「それ以前に何度も折られては堪りません」

回復と同時に数本のナイフを投げたエドは、避けてバランスを崩した俺との距離を一気に詰め肩を掴むと首元に噛みついた。

「どうせ噛みつくなら色気のある噛み方にしてくれるか?」

首に喰い込む鋭い牙。
その痛みはまるで肉を食いちぎろうとする猛獣のそれ。
エドの顔面を掴んだ手のひらに魔力を送るとそれを感じ取ったのか、エドはサッと離れて血のついた口元を拭う。

「同性に色気のある噛み方をされて嬉しいのですか?」
「俺はパンセクシャルだからな。男性も女性も両性も男の娘も男装女子もニューハーフも許容範囲だ」
「分からない言葉が多すぎます」

この異世界の人には理解できない言葉らしい。
伝わらないことを残念に思いつつ爪での攻撃を避ける。

覚醒後のカムリンや他の獣人族とも戦ったけど、原始還りという覚醒をしたエドの素早さと力の強さは一つ抜きん出ている。
パワーも素早さも揃っているから硬くて長い爪での攻撃がとてつもなく危険だ。

爪とナイフと魔法を駆使したエドの戦いに観客は夢中。
大会が始まったばかりの頃は獣人族の選手が出ると反応が悪かったのに、今となってはこの変わりよう。

エドが強いからというのはあるだろう。
大会中だからというのもあるだろう。
でも地上層の人たちの心に一石投じたことは間違いない。

「エド。その力は正しいことに使えよ?」

爪で裂かれた腕の痛みを感じながら蹴って距離を置く。

「正義のためにということですか?」

そう問いながらもエドは攻撃の手を止めない。

「なにが正義でなにが悪かなんて立場次第で変わるものだろ。自分が正しいと思うことに使え」

俺がエミーから教わったことの一つ。
力がある者は力の使いどころを誤ってはいけないということ。
エドの強さは使いどころを誤れば脅威になる。

「自分の考えが誤りだった時にはどうすればいいですか?」
「その時には俺が正してやる。家族として、友として、あるじとして。ただし、悪さをした相手への俺のお仕置きは痛いぞ?」

空に手を掲げると眩く輝く光。
その光は粒となって巨大なフォルテアル神の姿になる。
やっぱりエドはだったようだ。

「……フォルテアルさま」

それを少し驚いた表情で見上げたエドは微笑する。

「シンさまの思う正義が私の正義です。地上最強のあるじにお仕えできることを誇りに思います」

そう言ってアリーナに跪いたエド。
力を尽くして戦ったその表情は満足そうだ。

「胸を張れエド。お前は強い。俺もエドとベルのあるじに選ばれたことを誇りに思う」

掲げた手をおろすと、光の粒で作られたフォルテアル神はエドを抱きしめるように優しく両腕に包んだ。

「……そこまで!勝者ブークリエ国王都代表英雄エロー!」

光が消えアリーナに倒れていたエドの意識を確認した審判がサッと手を挙げると、今まで静まり返っていた闘技場コロッセオは割れんばかりの大歓声に包まれる。

「シンさま」
「おはよう。エド」

四方八方からかけられる大歓声に手を振り応えていると後ろから声が聞こえ、振り返ると既に身体を起こしていたエドは自分の体を見てキョトンとしている。

「今のは一体」
「気持ち良かっただろ?」
「あの……傷が治癒しているのですが」
「へー。そんな効果があるのか」

エドは傷だらけだった体の傷がなくなっていて首を傾げ、回復ヒールをかけにあがってきた白魔術師たちも何が起きたのかというように唖然としている。

観客の歓声がざわめきに変わったのは次の瞬間。
審議を報せるランプが点っていた。

「シンさま」
英雄エロー

心配そうに俺を見るエドと白魔術師たち。
賢者の能力を使ったと思っているのか不安そうな表情のみんなの頭を撫でた。

『控えよ』

ガラス越しの貴賓室に姿を見せた国王二人。
エルフ族の国王の言葉で貴賓室に向かい跪く。

『今の試合、禁じ手を使用した英雄エローを失格としエドワードを勝者とする』

俺本人に訊きもしないで判断するか。
本当に大した独裁者国王だ。

英雄エローに問う。今のは賢者の能力だったのだろうか』
『なにを』
『賢者たちには貴殿の使った力が何か判断できないようだ』

あっさり終わらせられるのかと思えば国王のおっさんが口を開いてエルフ国王の言葉を遮り言葉を続ける。

『聖属性の光魔法と回復ヒールを使った複合魔法ではないかという賢者もいる。だが賢者でも攻撃魔法と回復魔法は複合できないという賢者もいる。複合できないならば賢者の能力ではないと私は思うが、貴殿の口から真実を聞かせてほしい』

なるほど。
審議した結果、賢者でも判断ができなかったと。
判断できなかったのに禁じ手で失格にしようとしたのはどこのどいつ様なのか。

「陛下。今の技は属性魔法ではなく恩恵にございます」
『恩恵?ふむ。だから賢者にも判断が出来なかったのか』
「此の度の大会で賢者の能力を使用しないことは両国王陛下にお誓いしました。その誓いを破るような不敬はいたしません」

俺が使ったアレは恩恵の〝神の裁き〟。
賢者の能力を使わないという約束は破っていない。

『そのような恩恵など聞いたことがない』
「私は異世界人ですので、この世界にどのような恩恵が存在するのかまでは存じ上げません。ですが私がその恩恵を持っていることは嘘偽りのない事実です」

俺の特殊恩恵は誰も持ってなさそうだけどな。
ふざけ散らかした名前ばっかだし。
ということは口にせずエルフ国王に答える。

『恩恵の名を言ってみよ』
「罪人でない限りステータスを訊かれても答える必要はないと伺っております。私はいつ罪人になったのでしょうか」
『答えられないのであれば信用ならん』
「国王陛下自らが地上の決まりごとを反故なさるのですか?」

いや、正直その気持ちは分かるけど。
ただ恩恵の名前がという色々な問題が勃発しそうな名前だし、そもそも言わなくていい決まりがあるんだから言わないと信用しないっていうのは子供の争いだ。

『今この場で問われているのは賢者の能力か否か。賢者の複合魔法でなかったことを証明するためにも、聖属性の攻撃魔法と回復魔法が貴殿に複合できるかをこの場で見せてほしい』
「試したことはないですが証明になるのであれば」

聖属性は回復ヒール以外滅多に使わないし、攻撃するのに回復する意味も分からないから試してみたことがないけど。

英雄エロー。障壁をかけ上空でやるように。危険だ』

ぇぇぇぇぇぇえ!
危険なことやらせようとしてんのぉぉお!?
エミーの忠告に内心驚く。

「えっと、先に舞台へ物魔障壁を」
「障壁は私が」
「魔力は大丈夫か?」
「はい」
「私も使えます」
「じゃあ舞台の方の障壁は二人で頼む」
「承知いたしました」

舞台の障壁はエドと審判に任せて〝大天使の翼〟で上空に飛んで自分にも物魔障壁をかける。

「光の攻撃魔法と回復ヒールか……」

想像するのが難しい。
光の攻撃魔法……某ごにょごにょ護符剣でいいか。
エミーが危険だって言ってたからチキンレベルの魔力で作ったごにょごにょ護符剣に回復ヒールをプラスし

「シンさまっ!」
英雄エロー!』

試行錯誤して発動させた途端に目の前で起きた大爆発。
観客たちから悲鳴のような声がおきた。

「……殺す気か!誰だ俺の恩恵を複合魔法とかふざけたこと言った賢者!証明で死ぬとこだっただろ!出来るかこんなの!」

これは怒っていいところ。
障壁をかけてたから無事だったけど危うく死ぬところだった。

『忠告しただろう?危険だと』
「エミーか!言ったクソ賢者はエミーか!」
『私が言うはずないだろ。攻撃魔法と回復魔法は複合できないことが常識なのに。国王陛下の御前だ、落ち着け』

そうだった‪(  ˙-˙  )スンッ‬
今のはエミー(賢者)への怒りだからセーフ……のはず。

「ご無礼を。驚きのあまり取り乱しました」

すぐさま跪いて(空中だけど)こうべを垂れる。
腹の中はまだムカついてるけど。

『ここまでの危険なこととは思わずすまないことをした。特殊な力を持つ異世界人の英雄エローならば複合も可能なのではないかという話だったために証明させたのだが』
「勿体ないお言葉を。証明の機会を与えてくださった国王陛下に感謝いたします」

言わずに済むよう考えてくれた国王のおっさんに恨みはない。
あるのは危険だと知ってる複合魔法を使ったなどと世迷いごとを言ったアホ賢者だけだ。

『アルク国王。これで証明にならないだろうか』
『得体の知れぬ恩恵を認める訳にはいかない。会場に居る国民に危険が及ぶやも知れぬ。恩恵も禁じ手とする』

またか。
賢者の能力の次は恩恵まで。
どれだけ俺の能力を封じたいんだ。

「お言葉ですがアルク国王陛下。恩恵を禁じ手とするのであれば、今まで恩恵を駆使して戦ってきた代表騎士も今後の団体戦で使用できなくなります。エルフ族の代表騎士にも恩恵を使う者がおりますが、それを踏まえてのご決断でしょうか」

恩恵の種類はさまざま。
能力を上げたり下げたりする恩恵を使う人もいれば攻撃として使える恩恵を持っている人も居る。
それを禁じ手にしたら恩恵もありで勝ち進んできた団体戦が一気に崩れる。

『得体の知れない恩恵を持つ者は英雄エローしか居るまい。国民に危険の及ばぬ恩恵は禁じ手としない』

つまり俺だけ恩恵も禁止ってことか。
賢者の能力に気を付けても今度は恩恵でこれとか。
恩恵を使ってる代表騎士は大勢いるのに。

「また始まったのか!いい加減にしろ!」
「どれだけ英雄エローの力を禁じるんだ!」
「こんなの武闘大会じゃない!」
「大会をつまらなくするな!」

超満員の闘技場コロッセオが観客の怒声に包まれる。
今日は立ち見席まで用意されただけあって前回の騒動の時より観客の声は大きい。

「国民を利用するな!俺たちは危険だと思ってない!」
「自分が英雄エローを潰したいだけだろ!」
「なんで弱いエルフ族に合わせなきゃいけないんだ!」
「自分たちだけでやれ!人族と獣人族を巻き込むな!」

あちらこちらからあがる怒号。
貴賓室の中では国王のおっさんがエルフ国王を止めているような様子が見える。
また前回のように捕らえろとか言おうものなら収拾がつかなくなるからだろう。

「国王。もういい。俺が棄権する」

貴賓室の前に飛んで行って国王のおっさんに声をかける。

「頼むから俺を潰す為だけに国民の楽しみを奪わないでくれ」
『シン殿』
「この大会は精霊族にとって五十年に一度しかない大事な行事なんだろ?俺はもう自分の持つ力でここまで代表騎士たちと戦えたから悔いはない。期待して送り出してくれた人たちには申し訳ないけど大会参加を辞退する。個人戦の優勝もエドだ」

俺が参加してる限りエルフ国王の駄々は続く。
その度に大会のルールを変えられたら国民だって心から楽しめるはずかない。

『シン殿待って欲しい!いま一度話を』
「ごめん。正直もう振り回され疲れた。同じ異世界人でもみんなに能力を知られてる勇者と違って、見知らぬ特殊能力ユニークスキルを持つ異世界人ってだけの俺はこの世界の異物なんだって分かった」

一人だけ特殊能力ユニークスキルを持って召喚されてきた異世界人。
勇者はこの世界で知られた存在でも俺は得体の知れない異世界人でしかない。

言いたいことは話してアリーナにおりる。

「シンさま」
「ごめんな。エド」

涙を堪えるエドの頭に額を重ねる。
一度はエドが罰を覚悟で訴えてくれたのに結局こうなってしまった。

英雄エローが出ない武闘大会なんて中止しろ!」
「アルク国王は英雄エローに謝罪しろ!」
「異世界から来てくれた英雄エローに謝れ!」
「こんな大会中止だ!国民を舐めるな!」

判断を待つ間にも再び起こった批難の声。
アリーナ以外の場所に物が投げ込まれる。

「舞台に近いスタッフは舞台に上がれ!」

集団心理。
怒りが感染して取り返しのつかない状況になっている。

『鎮まれ!』

国王のおっさんの声も観客には届かない。
怒りの矛先は貴賓室の王家に向けられている。
それを見ていて黒い影が貴賓室へ向かっていることに気付く。

「エド!舞台に障壁を!」
「はいっ!」

再び翼を出して貴賓室へ飛ぶ。

「くそっ!間に合わない!」

騒ぎに便乗して動いた影は五つ。
その影二つが貴賓室に近付くと障壁ごとガラスが砕けた。

「大じょ!」
「なんだコイツらは」
「え?フラウエル?」
「変わったことをする。命を代償に障壁を砕くとは」

貴賓室へ飛び込むと居たのは魔王。
庇うように国王のおっさんの前に立っていて、その両手には頭を持たれてダラリと力の抜けている黒いローブの二人が宙ずりにされていた。

「シン!横!」
「危な!」

エミーの声で辛うじて剣を避けて鞘付きの刀で鳩尾に打撃を打ち込み気絶させた。

「みんな大丈夫か!?」
「我々に怪我はない。この者の障壁で護られた」
「良かった。ありがとうフラウエル。助かった」
「命を救われた。感謝申し上げる」
「このようなことで国王に死なれては困る。他はついでだ」

事切れている誰かを床におろしながら俺と国王のおっさんの感謝をサラリと流す魔王。
国王どころか護衛の人たちまでも障壁で守っておいてとかツンデレちゃんか。

「暴徒化した観客……ではないな」
「違うだろうね。この姿に見覚えがある」
「あの時の襲撃犯と同じか」
「……ああ。西区の」

西区を襲った襲撃犯。
顔の下半分を隠す口布と黒いローブ。
エミーと師団長から言われて思い出す。

「人族が犯人か」
「エルフ族も居る」

魔王がエルフ国王に見せたのは事切れた二人。
命を代償にしたあまりにも惨い姿を見たエルフ国王はヒッと短い声をあげる。

「どうした。自国の民だぞ?国王なら目を逸らすな」
「そのようなものを見せるな!この者を不敬罪で捕まえろ!」
「面白い。捕まえてみるか?」
「フラウエル。今はそれどころじゃない」

エルフ国王をからかってる場合じゃない。
そもそもエルフ族の護衛たちは一歩も動かなかったけど。
いや、何重にも護られた貴賓室に突然現われて砕けない頑丈な障壁をはるような人物に適うはずがないと察したのか。

「別室へ行きませんか?プリンセスにはお辛いでしょう」
「どうぞ殿下はお下がりください。ワタクシは次期国王です。自国の民が起こした事から目を逸らす訳には参りません」

エルフ族の王家と違いピシッとしたルナさまと王妃。
本当は二人だって見たくないだろうし襲撃されて怖かっただろうに、それを人には見せないよう振舞っている。

「国王陛下。民にお言葉を」
「うむ。民に怪我はないか?」
「はい。襲撃されたのは貴賓室だけです」
「暴動はどうなった」
「襲撃の影響で今はおさまっています」

師団長から言われて騎士団に観客の様子を聞いた国王のおっさんは頷く。

「シン殿。私は貴殿を異物などと思ったことはない」

俺にそう言って国王のおっさんは砕けたガラスの前に立つ。

「諸君。突然のことで嘸かし驚いたことだろう。襲撃した犯人は既に全員拘束した。安心して欲しい。諸君に怪我がなく何よりだった。冷静な判断に感謝する」

襲撃されたのは自分たちなのにこの冷静さ。
さすが国王。

「肝心の試合結果だが、違反行為ではなかったことは先程証明された。従って英雄エローの優勝に変更はない。恩恵も大会ルールで使用が認められているものをその年の都合で禁じることはしない。後日改めて英雄エローの優勝授与式を行う」

貴賓室まで響いてくる大歓声。
俺本人よりも先に観客へ言うとかやってくれる。

……いや、先に言ったのか。
『異物などと思ったことはない』
あれが国王のおっさんの答えだったんだろう。


襲撃があったから優勝授与は後日にして閉会。
観客たちはスタッフの誘導で会場を出て行く。

「フラウエル。使って悪いんだけどみんなに先に帰るよう伝えてきてくれるか?詳しくは宿舎に戻ってから話すって」
「分かった」

待ってるだろうみんなに伝言を頼むと、事切れてるエルフを何故かずっと調べていた魔王は魔祖渡りを使いスっと消えた。

「あの者は何者だ」
「我が国に属する賢者とだけ話しておこう」

国王のおっさんまで遂に魔王を賢者と。
国の上層部しか正体を知らない極秘人物扱いの賢者は、強いけど誰か分からない魔王を誤魔化すには都合のいい役どころなんだろう。

「フラウエルの奴、ずっと何を見てたんだ?」

気絶させた襲撃犯たちは既に連れて行かれたけど、事切れた二人はまだ置き去りのまま。
ローブを捲って体を確認してたようだけど。

「……刺青?」

辛うじて残ってる腕の皮膚に何かの絵柄。

「刺青?とはなんだ?」
「俺の背中に絵が描いてあるだろ?あれ」
「貴様の仲間ということか」
「それは誤解です。私のそれと同じくこの者たちも腕に模様を彫っているということです」

隣にしゃがんで確認する師団長に説明するとエルフ王愚王に仲間だと疑われ‪(  ˙-˙  )スンッ‬となる。

「体に絵を描いてる者など訊いたことがない」
「そのようですね。この世界では見た事がないと私の執事バトラーも話しておりました」

ジトっと俺を見ているエルフ王愚王
目潰ししてやりたい。

「本来王家の前で肌をさらすことは不敬にあたりますが、今回は疑いを晴らすための行動ですのでお目こぼしを」

完全に人を疑っている目のエルフ王愚王に溜息をつきサーコートと鎖帷子チェインメイルとTシャツを脱いで半裸になり背中を見せる。

「私の背中のこれは異世界の刺青というもので、墨がついた針を何度も皮膚に刺すことで絵柄を描いております。私のこれと襲撃犯の模様は全く違うことがお分かりいただけるかと」
「うむ。見事な絵画だ。腕のよい絵画士が描いたのだろう」

いや、そこじゃなくて!
……まあいいか。疑いは晴れたみたいだし。

「両王妃とプリンセスには大変な御無礼を」
「お気になさらず」
「見ておりませんので」
ワタクシも見ておりません」

女性陣(王妃二人とルナさま)が気まずそうに目をそらしていることに気付いて謝りながらすぐにTシャツを着る。
うん、見てたんだな(察し)。

「これは術式ではないか?」
「私もそう思うよ。大部分は欠けてしまってるけど」

俺がエルフ王愚王に背中を見せてる間も調べていた師団長とエミーは模様の一部を見て術式だと思ったようだ。

「その術は以前にも見た」
「フラウエル」
「伝えてきたぞ」
「ありがとう」

魔祖を使いスっと戻ってきた魔王。
エルフ族の国王や付き人はビクッとする。

「以前見たって何処どこでだい?」
「箱だ」
「箱?……あっ!!」

西区に魔導槍を撃った砲台に入っていたあの箱か。
言われてみればあの時の襲撃犯と同じ衣装だし(ローブ+口布)、腕に描かれた術式が同じでもおかしくない。

「箱とはなんだ」

……エルフ王愚王は白だな。
魔王が事切れてるエルフ族の襲撃犯を見せた時に知っている様子はなかったし(むしろビビってた)、今も箱の存在を知っていて惚けてるようには見えない。

「嘘は言っていない。関わっていないようだ」
「やっぱそうか。今そう思ってたところ」

魔王と俺の会話を聞いてエミーと師団長も頷く。
国ぐるみなのか国民が単独やったのかで戦争になる話も出ていたけど、少なくともこのことでは戦争をせずに済みそうだ。

「アルク国王。これは我が国ブークリエと貴国アルクに関わる重大な問題のようだ。大会中ではあるが緊急会議を行おう」
「承知した。国に関わることであれば捨て置けぬ」

キレ者っていうのも間違いじゃなかったのか。
駄々っ子の部分しか見てないからいい方に聞いてた為人ひととなりは信じてなかったけど、状況と国王のおっさんの様子で即座に判断をしたってことはただの馬鹿ではなかったらしい。

「国王陛下。私たちはここで。仲間に報告がありますので」
英雄エロー、賢者殿。命をお救いくださり感謝申し上げる」
「それについては私からも礼を言う」

国王のおっさんとエルフ国王が礼を言うと部屋にいるみんなが魔王と俺に頭を下げる。

「身に余る光栄に存じます」

みんなに正式な礼で返し、俺の背中に手を添え待っている魔王に微笑する。

「心強き盾の王よ。あの時交わした俺との約束をたがえることのないよう。それまで死ぬことは許さん」

魔王は国王のおっさんにそれだけ言い残すと俺を連れて魔祖渡りを使った。

 
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新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

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