ホスト異世界へ行く

REON

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第八章 武闘大会(後編)

最強戦

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団体準決勝が終わり中二日を空けて迎えたこの日。
闘技場コロッセオは今まで以上の熱気と緊張感に包まれていた。

見上げた貴賓室に見える姿。
いつもの王家の姿に加えて四人。
久しぶりに見るその姿があった。

『武闘本大会のクライマックスの一つでもある個人最強戦が行われる本日、勇者方が試合を見届けに参られた』

サクラ、リサ、リク、そしてヒカル。
観戦に来た勇者四人の姿に観客たちは大興奮。
王都の国民でも早々お目にかかれない勇者がそこに居るんだから観客が興奮するのも当然だろう。

『代表騎士個人優勝者、ブークリエ国王都シン・ユウナギ・エロー。一般個人優勝者、フォンテーヌ集落サンドロ。最強戦に挑む諸君には勇者方に恥じる事のない礼節ある試合を望む』

一般参加の部で優勝したのは獣人族の選手。
お互いに貴賓室に向かって跪き国王のおっさんの話に耳を傾けていた。

長い式典もようやく終了。
地上層最大の祭典と言える一ヶ月以上続く武闘本大会も今日の【個人最強戦】と後日行われる【団体決勝戦】を残すのみ。
どちらもだけにいちいち行われる式にも気合いが入るのは仕方ないのかも知れない。

「同じ異世界から来たはずなのに」

式典用の鎧から試合着に着替えるのが面倒だと溜息をつくと獣人の選手からボソッと呟かれる。

「勇者ならまだしもただの異世界人なんて穀潰しだ」

憎々しい目でそう言い捨てて去る選手。
まあそう思う人が居るのも当然だろう。
今まで誰も口にしなかっただけで。

「シン殿?どうかなさいましたか?」
「なにが?」
「何か考えごとをなさっているような」
「また着替えるのめんどくせぇなって思っただけ」

アリーナを降りるとルネから聞かれて笑って誤魔化した。


「少し一人にしてくれるか?試合前に集中したい」
「最強戦ですからね。付添人にお伝えしておきます」
「ありがとう」

更衣室で鎧から試合着に着替えたあと装備を手伝ってくれていたヤンさんや衣装屋に話して一人にして貰う。

「はぁ……内心では思ってる人が多そう」

さっきの選手の憎々しい目。
そう思ってる人も居るだろうとは思ってたけど、直接言われたことはなかったから結構刺さった。

異世界人に金がかかってることは事実。
四人しか使わないのに設備が整った勇者宿舎。
そこに仕える人や警護や警備の数も多い。
衣装や食事も全て国民から徴収した税で賄われている。

でもだから。
この地上層を救う救世主だから。
地上層を救ってくれる人だから仕方ない。

勇者に対してはそう思えても俺は違う。
勇者召喚にオマケで着いてきてしまった異世界人。
それなのに異世界から召喚してしまったからと税を遣われては穀潰しと言われても仕方ない。

「穀潰しか。一応税は納めてるんだけどなぁ」

俺は勇者じゃないから個人税も納めている。
国からはこの世界の都合で召喚したんだから個人税は免除すると言われたけど、この世界の人が召喚したかったのはで俺のようなではないから。

ただ、パトロンは国王のおっさん(のポケットマネー)。
住居は王宮にある騎士団宿舎の特別室。
最初から使用人も用意して貰って衣食住も与えられてたんだから、一般国民からすればVIP待遇なのは間違いない。

「帰れるものなら帰ったんだけど」

溜息混じりの虚しい独り言。
自分で望んで来たんじゃないと言いたいけど、召喚の儀を『異世界人を召喚する儀式』程度にしか知らされていない一般国民に言っても仕方ない。

「試合のことで悩んでいるのではなさそうだ」
「来ちゃったのか。気付かれるほど不安定だった?」
「ああ。放っておいたがまだ悩んでいるようなんでな」
「過保護」

魔祖渡りで直接更衣室に現れた魔王。
座っている俺の前に立って見下ろす。

「獣人が言ったあれが理由か」
「聞いてたのか?放映はされてなかったよな?」
「声は拾っていない。俺は水晶を通して聞いていたが」
「そっか。みんなに聞こえてたんじゃなくて良かった」

式の最中に放映されるのは姿だけ。
宣誓のように選手が話す時には声も拾って放映するけど。

「聞こえていない方が良かったのか」
「それはそうだ。下手をしたら不敬罪になる」

勇者に対しても納得してるような感じだったから、勇者に対する不満因子を持ってる者として不敬罪。
そのくらい勇者はこの地上層で特別な存在だ。

「なぜ言い返さない。勇者と同じ恩恵は受けていないと」
「受けてないのが当然だから。言う程のことじゃない」
「知らないからあんなことを言われたのだろう?」
「どうかな。国王軍の騎士団宿舎に置いてもらってる時点で充分な異世界人優遇はされてるし」

一般国民なら有り得ない話。
その一点だけ見ても異世界人だから特別扱いされてると思ってもおかしくない。

「シン殿。そろそろお時間ですが行けますか?」
「分かった。今行く」

更衣室の外からルネに声をかけられ返事を返す。

「夕凪真」
「ん?」
「今の俺は大切な半身を侮辱されて些か機嫌が悪い。勇者でなくては異世界人お前を受け入れられないような小者に負けることは許さない。俺に直接手をくださせたくなければ勝て」

それだけ言うと魔王はスッと姿を消した。

「……そんなこと言われたら負けられないだろ」

困った魔王さまだ。
試合に集中するしかなくなったじゃないか。
刀を帯刀して、激甘魔王に口元は綻んだ。


「ただいまより代表騎士個人戦優勝者、人族シン・ユウナギ・エロー選手対、一般個人戦優勝者、獣人族サンドロ選手の試合を行います。両者舞台へ」

最強戦は身分を超えた戦い。
種族や自らの名誉をかけて戦う。

「最強戦の勝者こそがこの武闘本大会の真の覇者です。英雄エローに勝利の栄光あれ」

観客の大歓声の中マントを渡す俺にそう言ったルネ。
ルネが試合前にの二文字を口にするのは初めてだ。

「もちろん勝つ」

装備品や衣装を揃え毎回手入れしてくれた職人のために、大会に集中できるよう領主の仕事を代行してくれた人たちのために、頑張れと送り出してくれた王都国民や子供たちのために。
支えてくれた全ての人の思いに報いるために勝つ。

「始め!」

相手選手の目は赤。
最初から覚醒済みの状態だから素早さを活かして突っ込んでくるのかと思えば、相手の初手は闇魔法。
煙のようにも見える闇魔法が俺に直撃する。

「当たった!」
「うん。意表を突かれた。体躯的に武闘派だと思ったのに」
「……効いてない?」
「見ての通り」

意表を突かれたはしたけどノーダメージ。
障壁や無効化をしなくても自分でかけた物魔防御だけで守りきれた。

「そんな馬鹿なことがあるか!」
「そう言われても」

怒り顕に今度こそ突っ込んで来た選手の爪攻撃を刀で防ぐ。

「認めない!俺たち獣人は虐げられても諦めずに生きてきたんだ!いつか人族やエルフ族を見返すために毎日鍛えてきた!召喚で強い力を貰っただけの異世界人とは違う!」
「は?」

力技で押し返し肩を蹴って距離を置く。

「召喚で強い力を貰ったって何の話だ?勇者召喚はただ異世界人をこの世界へ呼び寄せるだけの儀式だぞ?異世界に居た時の素質がこの世界での特殊恩恵や恩恵やスキルになる」

ってエミーや国王のおっさんから聞いた。
魔王もそう言ってたから間違いないと思う。

「特殊恩恵や恩恵なんてない世界から召喚されたタイミングで能力が与えられるのは確かだけど、異世界で持ってなかった素質の能力は与えられない。つまり勇者たちは勇者になれるだけの素質を元から持ってたから召喚の対象に選ばれたんだ」

そして俺の素質は〝遊び人〟だったと。
……自分で言って泣きそう‪(  ˙-˙  )スンッ‬

「そうだったとしても!」
「獣人族の生い立ちは多少聞いてる。俺が想像する以上に苦汁を舐めてきたんだろうと思う。だからって自分たちだけが辛いと思うな。俺たち異世界人だって突然見知らぬこの世界に召喚されて家族も恋人も友人も金も日常も全て失ったんだ」

獣人族が大変なのは分かる。
でもだからって異世界人は召喚されただけで強くなれて狡いみたいに言われたら腹が立つ。

「それに異世界人ならただ特殊恩恵を持ってるだけで能力を使えると思ってるのか?鍛えた期間はお前の方が長いとしても、こっちは短期間で鍛えるためにクソッタレ賢者から炎で焼かれるわ水牢で溺れさせられるわ、腕や脚を切り落とされるわ刺されるわ、毎日何十回も死にかけながら鍛えてきたんだ。何の苦労もせず強くなるなんて都合のいい話がある訳ないだろ」

あれ?
俺よく生きてたな。
ほんと話してて泣ける‪(  ˙-˙  )スンッ‬

「お前の人生だ。自分が不幸なことを嘆くのは好きにしろ。ただし、誰かと不幸比べをして人を憎悪に巻き込むな。人族やエルフ族を見返すために今日まで鍛えてきたって言うなら俺に勝て。勝てなければその憎悪は二度と口にするな。迷惑だ」

人を巻き込む憎しみから善いものは生まれない。
行き着く先は醜い憎しみの連鎖だけ。

「絶対勝つ!勝って獣人族の未来を変えてやる!」
「威勢だけじゃ勝てないぞ?」

剣と爪を駆使した攻撃を刀の峰で受け流す。
代表に選ばれなかった人でも優勝者だけあって強い。
いや、人数が多い一般戦で優勝できた人だからこそ強くて当たり前だった。

獣人族の今を思えば俺が負けるべきかも知れない。
獣人族が優勝して強いと分かれば奴隷扱いしなくなる(できなくなる)人が増えるかも知れない。

刀や腕や脚を使い攻撃を流しながらそんなことを考える。
正直、終わろうと思えば今すぐにでも終わらせられる相手。
相手が勝つんじゃなく俺が負けに行く必要がある。

ただ、本当にそれでいいのか。
それで本当に獣人の未来は明るくなるのか。
答えが出せない。

「警告!」

審判が手を挙げて次に指さしたのは俺。
闘技場コロッセオどよめきが起きる中、白線まで一旦戻る。

英雄エローの手数の少なさへの警告です。続けば次は判定負けとなりますのでご注意ください」
「はい」

考えあぐねている間に警告を取られてしまった。
攻撃を流すだけで自分から仕掛けなかったから当然だ。
なにもこんな時に豆腐メンタルを発揮しなくても。
我がことながら感情に左右されていることに呆れた。

「再開!」

溜息をつき審判の声と共に相手選手に向かって行く。
剣と刀がぶつかり重なり合う音が響く。

「負けてくれるつもりか」

そう言われて言葉が出ない。
負けてやるつもりがない訳じゃないから。

「負けてくれるつもりなのに剣は構えるんだな」

迷ってるから当然刀は構えるし攻撃も受け流す。
負けると決めてたら疾うに斬られるか敗北宣言している。

この選手に思い入れはない。
ただ、身近な獣人族にはエドとベルとカームが居る。
アルも、ロザリアも、カムリンも獣人族。
一緒に祝賀会をするくらい親しくなった代表騎士たちも。

獣人族の未来が明るいものになるなら負けていい。
たったそれだけで変わるのなら迷わず敗北宣言する。

英雄エローなら負けても困らないだろ。異世界人ってだけで生活の面倒を見てくれるんだから。俺たち獣人はこの武闘本大会に人生がかかってるんだ。遊びで出られると迷惑だ」

そう言って振り下ろされた剣。
真正面から振り下ろされたその攻撃を少し上半身をずらして刀で受け止めると大きな金属音が響く。

「……ごちゃごちゃうるせえ!」

腕がビリビリするほどのその重い攻撃に堪忍袋の緒が切れて相手の剣を弾く。

「お前こそ本気で勝つ気があるのか!?負けを乞うより自分の実力で戦って勝てよ!相手の同情心を煽るようなこんな卑怯な手段で勝って誰が獣人族を見直すんだ!」

人が迷ってるのを分かってわざと追い詰めるようなことを言ってるんだろうけど、今の攻撃でもう黙って聞くのはやめた。

「お前、生きてて楽しいか?」

さっきからネチネチと。
負の感情ばかり鬱陶しい。

「俺も召喚されて帰れないと知った時には腹が立った。勇者も俺もこの世界で繰り返されてきた愚かな戦の歴史に巻き込まれた被害者だ。召喚されてこの身以外の大切なものを全て失ったんだから、この世界の人を憎もうと思えば幾らでも憎める」

爪で攻撃してきた腕を掴んでそう話す。
警告を取られたあとだから失格になるリスクもあるけど、これはこの世界の人全てに聞いて貰いたいことだ。

「でも俺は、盾の国の王の役目と言って無関係な異世界人を召喚したことを正当化しようとせず、勇者はもちろん召喚に巻き込まれて帰れなくなった俺の生活まで責任を負ってくれた国王陛下には感謝してる。溢れ者で勇者宿舎には暮らせない俺を保護してくれた騎士団にも感謝してる。右も左も分からない俺が自分の身を守れるように鍛えてくれた師匠にも感謝してる」

この世界に召喚されてまず救ってくれた人たち。
勇者じゃないんだから放り出すことだってできたのにそうしなかった。

「俺を主として仕えてくれてる二人も、この世界の知識に疎い俺に知識を教えてくれる国仕えも、領地経営に手を貸してくれてる貴族家の人たちも、顔を合わせれば他愛ない話で笑わせてくれる冒険者たちも、俺を誰より大切にしてくれる人にも感謝してる。憎むより感謝をすることで助けてくれる人が増えた。今はこの世界が好きだ。この世界に生きる人が好きだ」

負の感情ばかり口にする奴の傍になんて居たくない。
それは異世界も地球も変わらないと思う。

「不幸だと嘆いて人を憎んでいても何も変わらない。だったら自分が動いて環境を変えていくしかない。それが、お前が恵まれてると言った俺の生き方だ。自分で動いて自分の手で手に入れた環境を最初から恵まれてるように言われるのは心外だ」

最初は予定外に召喚された役に立たない異世界人。
そこから自分で考え動いて今の身分や環境を手にした。
俺がこの世界の人を憎んでヌクヌクと騎士宿舎で愚痴ってるだけの奴なら、今の出会いも環境も得ることはなかっただろう。

「最強戦で優勝することで獣人族の未来が明るいものになるなら俺が負けた方がいいんじゃないかと迷ったことは事実だ。でも決めた。お前に勝利は譲らない。獣人族も居る俺たち王都代表が優勝するからお前は安心して負けろ。人を妬むだけで正々堂々と戦わない奴に獣人族の未来を背負うのは荷が重い」

腕を離し蹴り飛ばすとまた怒りを顕に向かってくる選手。
でももうコイツに勝たせるかどうかという迷いは一切ない。
刀を逆に構えて峰で腹部へ打撃を入れた。

「……そこまで!勝者英雄エロー!」

怒り任せの攻撃なんて隙だらけ。
予想した通り思いきり突っ込んできた勢いも合わせて相手選手は一撃でアリーナに沈んだ。

英雄エロー

観客の大歓声のなか肋が折れているだろう相手選手に回復ヒールをかける俺を白魔術師たちが心配そうに見る。

「…………」
「お前さっき遊びで出られると困るって言ってたな。勝手に遊びだと決めつけるな。俺や仲間にも目的があって戦ってる」

目が覚めた相手選手にそれだけ言ってアリーナを降りた。

「シン殿」
「礼節ある戦いをって言われてたのにな」 

不安そうな表情のルネからマントを受け取り苦笑する。
ブチ切れて怒鳴ったんだから礼節の欠片もない。

「……あれ?」

見上げた先の貴賓室に見える姿。
国王のおっさんたち王家とヒカルたち勇者が並んでいる中に一人足りない。

「どうかなさいましたか?」
「いや」

釣られて貴賓室を見上げたルネに訊かれて濁す。
足りないのはリサの姿。
迷って無駄に試合を長引かせてしまったからタイミング悪くトイレでも行ってるんだろうか。

礼節より試合の勝敗に盛り上がる観客たちの声を背に振り返ることもなくアリーナを後にした。

「おめでとう。……でいいのか?」

廊下で待っていたのは王都代表のみんなと魔王。
ロイズから訊かれて苦笑する。

「悪いな。今までの集大成の最強戦がこんな終わりで」
「迷ったんだろ?どっちが獣人族のためになるのか」
「うん。最初は俺たちを支えてくれてる人や応援してくれてる人たちに報いるためにも絶対勝つと思って試合に挑んだけど、あんな顔で獣人族が虐げられてきたとか言われるとな」

負の感情を剥き出しに言われて迷った。
獣人族のことはエドやベルから聞いているし、実際に虐げられているところも自分の目で見たから。

「あの選手は今後が大変でしょうね」
「自業自得」
「ん?」

ポツリと言ったエドとベルに首を傾げる。

「獣人族にとっても異世界から召喚された勇者さま方は救世主で、シンさまは憧れの英雄エロー。その方々にあの暴言。まして生活のことまで持ち出し英雄エローの同情を引こうとするなど獣人族の恥さらしと罵られても仕方ありません」

ああ、それか。
エドが言ったそれは俺も試合中に思った。
試合中の音声は拾われていることを知っていながら異世界人は召喚で強い力を貰っただけなんてよく言ったなと。

「あいつが言う異世界人は俺だけを表してるつもりだったのかも知れないけど、異世界人って括りで話したら勇者にも悪口を言ったのと変わらないのにな。例え勢いでも多くの人の前で言ってしまったことはもう俺にもどうもしてやれない」

俺と極身近の人しか聞いていないところで言ったのなら聞かなかったことにできるけど、放映されてるところで言われてはもうフォローのしようがない。

「シンさまが気に病む必要はごさいません。あの者が自滅しただけのこと。むしろあの者が無様な負け姿を晒したことで多少のヘイトは避けられたかと。言われた当人の異世界人であるシンさまが直接手をくだされたのですから」

そうであればいいけど。
怒っているベルの頭を撫でて宥める。

「あの者は夕凪真が強かったことで二重に救われたな」
「え?」
「倒されたていで決着したが本来は反則負けだろう?」
「ああ、うん」
「反則負け?」

気付いてたかと魔王に苦笑して頷くとドニが不思議そうに疑問符をあげる。

「あの者は後半、攻撃の当たる距離に居ながら頭上へと剣を振り下ろした。夕凪真が咄嗟に体をずらしたことで肩を狙ったように見えたかも知れないが、躱せる者でなければ禁止されている頭部への攻撃で反則負けだった」

魔王の言う通り。
途中でブチ切れた理由はそれ。
反則負けになる攻撃をしてはあるのかと。

「あの程度の攻撃を夕凪真が避けられないとは思わないが、仮にあの攻撃が当たって死ぬようなことがあれば、あの獣人が同族に罵られるだけでは済まされなかった」
「命を狙ったって判断されれば罪になりますからね」

違う。魔王が言っているのはそんな話ではない。
殺意を持って俺を殺せば天地戦になっていたということ。
みんなが居るから表には出していないけど、内心怒っていることは伝わった。

「もう終わったことだ。それより着替えてくる」
「俺たちは特別室で観ておくから」
「うん」

この後は優勝授与式。
試合がなかった四人も付き添って(生で試合を観たくて)来てくれたけど、式に出るのは試合をした俺だけ。
また鎧に着替える必要があるから一旦みんなと別れて更衣室に向かった。

「俺は魔界に戻る」
「今?」
「ああ。またな」

更衣室に向かう廊下で言われ、立ち止まった俺にチークキスをした魔王は魔祖渡りでスッと帰って行く。

いつもながら急な帰還。
今日の予定はもう式だけだし団体戦の決勝も数日空くから、試合観戦が目的の魔王は地上に居る意味がないんだろうけど。
我が道をゆく魔王のそれに今更驚きはなく独りで更衣室に再び歩き出した。

英雄エロー。最強戦優勝おめでとうございます」
『おめでとうございます』
「ありがとうございます」

更衣室で待っていた防具職人と衣装屋。
祝いの言葉を口にしながらも浮かない顔。
あの試合の後ではこうなるのも仕方ない。

「警告まで貰った不甲斐ない試合を見せてすまなかった」
「不甲斐ない……あ!違います!我々は自分たちの今までを恥じていただけで!」

先にみんなへ詫びるとアランさんが慌てて否定する。

「召喚されたことで勇者さまや英雄エローが失ったものの重大さを考えず、どうして今まで浮かれていたのだろうと。自分がその立場であれば身を裂かれる思いだと言うのに」

ああ、そっち。
あの選手だけじゃなくて俺も余計なことを。
いや、ヒカルたちのことを考えれば言って良かったのか。

「勇者たちにはその気持ちを忘れずに居てやって欲しいけど、俺のことは気にしないでいい。アイツらに比べれば両親も兄弟も恋人も居なかった俺は失ったものも多くないから」

サーコートを脱ぎながらそう話す。
俺が取り戻せないのは店の仲間やオーナーやハルという存在だけで、地位や名誉や金はこの世界でもどうとでもなるから。

「気を使わせるようなことを言って悪かった」
「いえ、そんな」

もう一度謝ったものの雰囲気は微妙なまま。
アランさんが話題を変えてその後は違う話をしたものの、それすらも気を使われている感が拭えなかった。


鎧とマントに着替えて優勝授与式。
最強戦の閉幕式も兼ねているから戦った獣人族も一緒。

「最強戦優勝者 シン・ユウナギ・エロー。前へ」
「はい」

両国王の長い話が終わっていよいよ授与。
代表個人戦の時にもそうだったけど、この時だけは両国王がアリーナに降りてきて直接優勝商品を渡される。

「シン・ユウナギ・エロー。武闘本大会最強戦を制した者の証として、両国より栄誉勲章を与える」
「恐悦至極に存じます」

マントを外して両国王の前に跪いた俺に、まずはエルフ国王から勲章のついた赤の襷をかけられる。
また勲章か……と内心思うけど、全種族で行われる武闘本大会の最強戦に勝つことはそれほどに大きな功績ということ。

「優勝おめでとう」
「幸甚に存じます」

国王のおっさんからかけられたのはマント。
赤の布に金糸で武闘大会の紋が刺繍されているもの。

「覇者シン・ユウナギ・エロー。貴殿には今後、最強戦を制した強者としての正しい振る舞いを期待する」
「尽力して参る所存でございます」

エルフ族や人族の軍人が前後左右を囲む中で両国王にこうべを垂れる。

「これにて最強戦を閉幕する」

国王のおっさんの締めの言葉で観客席からは大歓声と拍手があがった。

式も無事に終わり退場。
退場の際に恨めしく睨んできた獣人族の選手に胸に手をあて一礼してからアリーナを降りる。

「お疲れさまでした」
「ありがとう」

俺の紋章が入ったマントを受け取るルネ。
短い会話だけ交わして俺はいつも通り観客席に愛想を振り撒きながら会場を後にした。

「残るは代表騎士戦だけか」
「はい。それに勝利すればシン殿は三冠となります」
「国の繁栄のためにも優勝をかっさらって帰らないとな」

そう話しながら更衣室に向かう。
王都に帰ったら帰ったで後日また優勝パレードを行う予定らしいけど、今はその面倒な行事のことは考えずにいよう。

「シン」
「……え?リサ?」

名前を呼ばれて振り返るとそこに居たのはリサ。
思いもしなかったその姿に驚く。
勇者なのに独りで居るんだから驚かないはずがない。

「シン!」
「どうしたんだ。護衛は?」

走って来て抱き着くリサを受け止める。
なんでこんな所に。

「シン殿。ここは人目が」
「すぐ貴賓室に連れて」
「いや!戻らない!」

東側の出入口はスタッフも出入りするから人通りも多い。
勇者が居ることに驚かないはずがなく注目を浴びていることを気にするルネに答えると、リサから食い気味に止められる。

「転移して少し話す。ルネは先に更衣室へ行っててくれ」
「承知しました」

ここでそのまま話す訳にもいかず、泣いているリサを抱き上げ人の通らなそうな更衣室の奥の廊下に転移した。

「どうしたんだリサ」

人が居ないことを確認して廊下におろす。

「……痩せたな。寝てるのか?」

しゃがんで見上げたリサの目の下には隈。
化粧で誤魔化してるけど近くで見るとハッキリ分かるし、長袖と長いスカートで体を隠しているけど以前よりも痩せている。

「もう私たちのことはどうでもいいの?」
「は?なんの話だ」
「シンは私たちが居なくても関係ないんでしょ?この世界で英雄になったから私たち勇者と会わないんでしょ?」
「そんな訳ないだろ。落ち着け」

泣きじゃくり過呼吸を起こすリサの背中を撫でながら精神安定の魔法をかける。

「リサ!シン!」

転移してきたのはヒカル。
慌ててるということは捜していたんだろう。

「来ないで!」

リサはそう言って俺の後ろに隠れた。

「ヒカル。何があったんだ」
「……それは」

口篭るヒカルに首を傾げる。

「勇者さま!」

理由を聞く前に現れたのは魔導師。
二人、三人と転移してきた。

「白魔術師さま、お戻りになってください」
「いや!戻りたくない!」
「ここは危険ですので」
「来ないで!」

魔導師を激しく拒むリサ。
せっかく精神安定をかけたのにまた過呼吸をおこす。

「先に戻ってください。俺が連れて行きますから」
「ですが勇者さま」
「居られると興奮してなおさら酷くなるんです」
「……分かりました。戻って陛下にお伝えします」
「頼みます」

ヒカルから言われて魔導師たちは居なくなり、リサの泣きじゃくる声が静かな廊下に響く。

「状況が把握できないんだけど、みんなで焦って捜してたってことはリサは何も言わず俺の所に来たのか?」
「うん。トイレまで護衛で着いて行った女魔導師と女騎士を眠らせて。戻って来ないから魔導師が見に行ったら」

魔導師と騎士は眠らされていてリサの姿がなかったと。
それはヒカルたち勇者まで一緒に捜して回るはず。

「リサ。そんなことをしたらみんな心配するだろ?」
「シンには分からないよ!自由に生きてるシンには!」

そう怒鳴りながらリサは俺を睨む。

「シンはいいよね!私たちと同じ異世界人なのに自由に遊んでいられるんだから!勇者じゃないから死ぬ心配もないし!シンはこの世界に何しに来たの!?役に立たないのに!」
「リサっ!お前」

ヒカルが怒鳴るのを止めて苦笑する。
勇者じゃない俺が役に立たないのは事実だから。

「もう訓練したくない!討伐なんて行きたくない!白魔術師さま白魔術師さまって、私の名前は白魔術師さまじゃない!なんで私がこの世界の人を助けなきゃいけないの!?何の関係もないのに!死にたくない!帰りたい!」

思いの丈をぶち撒けるリサの姿は痛々しい。
その訴えは当然で、何一つ間違っていない。
そんな当然のことさえ叶わず心が折れてしまったんだろう。

「ねえ!シンは魔王と契約したってほんと!?」

なんでそれを。
突然変わった話題に息を飲む。

「契約?」
「シンが魔王の仲間になったなんて嘘だよね!?シンは私たちの敵じゃないよね!?私たちを裏切ってないよね!?」
「リサ。誰にそんな嘘を言われたんだ」
「知らない!でも言われたの!シンは私たちを裏切ったって!精霊族の敵だって!勇者の敵だって!」
「そんなことがあるはずないだろ」

ヒカルは聞かされてないのか。
じゃあリクとサクラも知らない可能性が高い。
誰が何の目的でリサにだけ話したのか。

「リサ。俺はお前たちの敵じゃない。精霊族の敵でもない」

魔王と契約したことは事実。
その行為が裏切りと言われたらその通り。
ただ、それを話してしまうと今の状態をなおさら悪くさせてしまうことが明らかだから認める訳にもいかず、敵じゃないという確かな事実だけを伝えた。

「じゃあどうして会いに来てくれないの!?」
「それは領主の仕事とか訓練とか」
「私たちよりこの世界の人の方が大事なんだね!それならシンが行けばいいじゃん!私たちより強いんだから独りで魔王を倒してよ!そしたら私たちは死ななくて済むから!」

リサの頭に手のひらをあて睡眠魔法スリープをかける。
興奮している今は何を言っても無駄だ。

「……眠らせたのか」
「うん」

カクリと力を失ったリサの体を抱き上げるとヒカルは近付いてきて溜息をつく。

「いつからだ?眠れてないみたいだし痩せた」
「酷くなったのは二・三週間前」
「休ませて貰えないのか?」
「いや。休みは最初から変わらず週一でくれてる。それにリサはしばらく訓練に出てきてない。国王陛下がそうしてくれた」
「そっか」

休みがあっても改善されないのは当然か。
リサの望みは叶えられていないから。

「シンと時間が合わなくなった後も特に変わった様子はなかったんだ。ただ、個人訓練が始まって勇者の間でも顔を合わせる時間が減って気付いた時にはもう元気がなかった。国王陛下に話してリサの訓練は中止して貰ったけど遅かったみたいだ」

悔しそうに話すヒカルの頭に額を重ねる。

「ヒカルが悪いんじゃない。俺も忙しさにかまけてみんなに会いに行かなかった。少しずつでも会って話を聞いていればこうならなかったかも知れない。任せたままで悪かった」

勇者のヒカルたちと勇者じゃない俺の生活は別々。
俺と違って四人は同じ勇者宿舎内で同じ生活をしているから大丈夫だろうと楽観的に考えていたと思う。

「なんでシンが謝るんだよ。シンは俺たちと違って自分で仕事をして生活をしないといけないことは分かってる。当たり前のことをしてるだけなのに謝るな」

でも同じ世界から来た同朋だから。
その繋がりがある限り自分のことだけでは駄目だった。

「……国王のところに行こう。ベッドで休ませてやりたい」
「うん」

リサをゆっくり休ませたい。
話は後ですることにして互いに転移した。

 
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旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

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部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
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不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

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16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

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新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

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「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

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