ホスト異世界へ行く

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第九章 魔界層編

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「話を聞くこと自体は賛成ですが、別の役目を与えるとしても城仕えとして魔王城へ迎え入れることはお控えください」

食事を済ませて食後のひと休憩。
周りの人には聞こえないよう魔王が防音魔法をかけて、さっき俺と話してお嬢とゲルトさんから話を聞くことになったと説明すると、山羊さんが珍しく反対意見を口にする。

「まだそこまでは考えていないが、なぜ反対なんだ?」
「半身さまの弊害になることが目に見えているからです」
「半身の?」

俺?なんで俺?
全く無関係のお嬢だけど?

「ロッテが魔王さまの半身に選ばれると思っていた城仕えが多いのです。披露式を終えてようやく落ち着こうとしているいま城に迎えれば新たな火種を投下することになり兼ねません」

お嬢が魔王の半身?
初耳なんだけど。

「城仕えから勘違いされるような関係だったってこと?」
「関係どころか仕事以外の話をした記憶すらないが」
「じゃあなんで?」
「俺に訊くな」

俺だけじゃなく魔王にも初耳だったようだ。
何かしらの関係がない限り勘違いしないと思うけど。

「どこからそのような突拍子もない話になったんだ」
「案内役という役目をお作りになって与えたからです」
「ん?」
「なるほど。特別扱いしたからか」
「はい」

職務を作って与えた本人は理解できなかったみたいだけど、俺は聞いてすぐどうしてそんな話になったのか分かった。

「何の事情も知らない城仕えからしたら、新しい職務を作って与えるほどお嬢を可愛がってると思ったんだろ。たった一人に特別な職務を与えたんだから勘違いするのも分かる」

なかった役目を作って与えてしまったことが元凶。
案内役という新しい職務を与えられた人が何人も居るなら勘違いしなかっただろうけど、たった一人のための役目を作って与えれば勘違いされても仕方ない。

「魔王さまには半身をお作りいただく必要がありますので実際そうなる可能性も考え噂を否定しませんでしたが、ロッテを迎え入れては半身さまのお立場を疑う者が出てくるでしょう」

否定してしまうと本当に魔王が選んだ場合にお嬢の立場が悪くなるから否定せずにいたけど、俺が半身になったのに半身(の候補)と思われてたお嬢を迎え入れたら城仕えが困惑すると。

「ゲルトさんとお嬢もそう思ってたりして」

冗談で言うと四天魔の四人からチラっと見られる。
……あれ?もしかして図星?

「なる。それを聞いてお嬢の不遜ふそんな態度の謎が解けた。上官にあたる四天魔のクラウスさんが案内するって言ってるのに従わなかったのも、マロウド扱いの俺に不敬って言葉を使ったのも、自分がフラウエルの半身に選ばれると思ってるからだったと」

冗談が図星だったなら前回の不可解な行動も納得。
魔王に次ぐ上官の四天魔の命令に従わないし、魔王が連れてきたマロウドに敬意を払うどころか不敬という言葉を使うし、まるでお偉いさんみたいな言動をする子だと不思議に思ってれば。

「お嬢からすればクラウスさんは魔王との貴重な時間を邪魔する奴で、俺は自分の半身になる魔王の眷属に触る不敬な奴と。そりゃ遠慮も努力もしないよな。魔王に嫁げば四天魔より上の立場になるし、案内役も半身になるまでの腰かけ仕事だし」

魔界の王の半身になるまでの期間限定で案内役という特別な職務を与えられたと思っているから、上官の四天魔も客人の俺も半身の自分より下の身分になる奴だと思って強気だったと。
権力を笠に着る権力者のテンプレのような子だ。

「俺が半身なのも大概だけど、少なくともお嬢だけは半身にしなくて正解だな。契約前から権力者気分で人を見下す奴を半身にしてたら独裁妃が誕生してた。お嬢に権力を持たせたら四天魔や城仕えどころか全魔族が不幸になる未来しか見えない」

俺も何の役にも立たないクソな半身だけど、少なくとも人を見下して威張り散らす奴よりは害が少ない。
余計な混乱を招く目立ちたがりより無害な無能の方がましと思ってそこは勘弁して欲しい。

「マルク以外の三人もその噂を知っていたのか?」
『はい』

即答。
知らぬのは亭主(主君)ばかりなり。
特別に役目を作って与えたことは事実だし、みんなも魔王が誰を選ぶか分からないから否定しなかったんだろう。

「噂が広まっているとなるとそのままには出来ないな」
「噂を聞いた上でフラウエルの気持ちはどうなんだ?その気があるなら公妾こうしょうとして城に迎えるのもありだと思うけど」
公妾こうしょうにするのは反対です。自分が魔王さまの半身になると信じていた者が素直に下の身分におさまると思えません。成り代わろうと半身さまのお命を狙うに違いありません」

俺の意見に猛反対する赤髪。
たしかに大人しく愛人に収まるタイプじゃないだろうけど、半身にするつもりはないと話して納得するかも微妙。

「落ち着けウィル。歴代の魔王は公妾こうしょうを数名抱えていたらしいが、俺は魂を分けた半身以外の者を傍に置くつもりはない。半身も選択肢の一つとして提案しただけだ」
「失礼いたしました。ご無礼を」
「お前が半身を心配して言っていることは分かる」

赤髪も魔王に負けず劣らずの心配症。
最近は心配症の親の領域に達してる気がする。
有り難いことではあるけど。

「話を聞き本当に勘違いしていたなら半身にするつもりはないと話す。守人の長のゲルトの娘だから役目を与えただけで、まさかそのように誤った捉え方をされると思わなかった」
「それほど王の特別ってものは民にとって大きな価値があるってことだ。実際の理由は何であれ、誤解をうむような特別な職務を作って与えてしまったことはフラウエルが悪い」
「ああ。そこは反省しよう」

溜息をつく魔王に苦笑する。
職務一つで勘違いされてしまうんだから魔王って立場も大変だなとは同情するけど。

「決まったところで早速戻ろう。ねぐらへ行かせているロッテからは後日訊くことにして、今日はゲルトから話を訊く」
「揃って訊かなくていいのか?」
ねぐらに行かせたのは既におこしたことで罰を与えたからだ。それはしっかり最後まで受けて貰う」
「なるほど」

たしかに罰を受けさせてる途中で連れ帰っては駄目か。
それこそまたとして勘違いされてしまう。
納得して席を立って六人で牧場(?)へ戻った。





「本当に半身さまは一緒に聞かないんですか?」
「うん。フラウエルとマルクさんが居れば充分だろ」

魔王と山羊さんはゲルトさんと話すために牧場(?)内の建物に入って行き、残りの四人でまだ入浴中の祖龍たちが出て来るのを待っていると赤髪から問われる。

「ですが、半身さまももう魔王城の正式な城主ですので城に属する者のことは直接お耳に入れておいた方がいいのでは」
「守人たちはまだ俺が半身だってことを知らないし。下手すれば自分と娘の恥になるような内容のことを見知らぬ奴に聞かれるのは気分のいいものじゃないだろ」

俺が魔王の半身だと分かってるなら城主の一人として事情を聞いてると諦められるだろうけど、ただの見知らぬ奴が同席してたら『お前はなんで居る』となってもおかしくない。

「半身さまは本当にお優しい方ですね。ゲルトは別としてもロッテにはあれほど不遜な態度をとられたというのに」
「優しさじゃなくて揉め事の火種になりそうなことは避けたいだけ。フラウエルは知ってるけど俺は仕事に関していうと割とシビアな方。もし俺がフラウエルの立場なら努力しないお嬢みたいなタイプは親しい人の子だろうと解任させてる」

仮面の言葉を否定する。
それは地球に居た時から一切変わっていない。
努力して頑張ってる奴には手を貸すし、大事にもするけど。

「無関係の俺が何で同席するんだって言われたら半身だって話さないといけなくなるかも知れない。御目見おめみえまでは隠すのが普通なんだろ?話す事態になるのは避けないと」

俺がと前に出る時と影にいる時は弁えてる。
もしかしたら半身に選ばれないことを知れば親子共々考えを改めるかも知れないから、今は何より誤解を解くことが先決。
俺は必要そうなら後で教えて貰えばいい。

「色々と考えておられるのですね」
「何も考えてないと思ってたのか?」
「いえ?天真爛漫てんしんらんまんな方だとは思っていますが」
「いいように聞こえる言葉で誤魔化したつもりだろうけど、この場合は何も考えてなさそうな奴って意味だよな」
「滅相もないことです」

クルトと俺の会話に仮面と赤髪はクスクスと笑った。

「あ、湯浴みが終わったようです」

赤髪の声で龍舎を見ると中から守人や祖龍が出て来る。
ほんと大きくなったな、アミ……ュ

「ピィィィィイ!」
「待て待てっ!加減っ!死ぬっ!」

俺たちを真っ先に見つけて勢いよく走って来るアミュを、止まれと両手を前に出して大声で止める。

「……あ、ありがとう。みんな」

俺の前には赤髪とクルト、その前にはラヴィの図。
ラヴィが尻尾でアミュの突進を止めたお蔭で助かった。
みんなも今の勢いはヤバイと察して焦ったのか、咄嗟に前へ出たクルトや赤髪、俺を腕におさめ障壁をはった仮面からもホッと安堵の息が聞こえた。

「アミュ。寝てる間に成長してたからまだ実感がないんだろうけど、アミュの体はもう他の祖龍たちと変わらない大きさになったんだ。前みたいに甘えてきても抱き上げてやれないし、飛びついてきても抱き止めてやれない。今みたいに突っ込んでこられたら大怪我をするから加減してくれ」

アミュの前に行って八日間で成長した巨体を見上げる。

「その変わりたくさん撫でてやるし俺の方からこうして抱きつくから。一緒に空の散歩も行こう。今までとは方法が変わるってだけで、これまでと変わらずアミュが大好きだ」

抱きつく俺の頭に鼻先でスリスリするアミュ。
これからは抱き上げてやるのではなく背中に乗せて貰う側になるけど、アミュが可愛いことは変わらない。

「ピィー……ピィ!」

抱きついていた腕がスカッとして「ん?」と見下ろした地面には白龍。

「ピィピィピィ!」

うん、今日も可愛い。
小さくてかわい…………(  ˙-˙  )スンッ‬

『ぇぇぇえええええ!?』

出会った頃のように俺の脚をよじ登り頭頂に登ったアミュ。
……な に が 起 き た ?

「ど、どういうこと?祖龍って退化もできるの?」
「聞いたことがありません。守人たちは知っているか?」
「い、いえ!長年祖龍の生態を見てきましたが、私たちも退化する祖龍など聞いたこともございません!」

アミュを頭に乗せたまま振り返り四天魔に聞くと唖然としていた四天魔の中から仮面が答えてくれて、祖龍に詳しい守人たちにも聞いてくれたけど誰も見たことがないらしく大きく横に手を振られる。

「び、病気か!?何かの病気か!?ちっさくなる病!?」
「落ち着いてください。そのような病はありません」
「魔王さまなら何か知識をお持ちかも知れません」
「そっか!魔界の生き字引が居た!聞いてくる!」

頭頂にアミュを乗せたまま慌てて魔王と山羊さんの居る守人の宿舎に走る。

「フラウエル!マルクさん!大事件だ!」

気配を辿って向かった先の部屋のドアをバタンと開けて大変なことが起きたことを話す。

「どうし……アミュか?その頭のは」
「そう!退化したんだ!病気か!?病気なのか!?」

椅子に座っていた魔王は問いながら立ち上がり山羊さんと歩いて来ると俺の頭頂にいるアミュを抱き上げる。

「病にかかっている香りはしないな」
「はい。毛艶もいいですし健康体です」
「ピィピィ!」

二人から匂いを嗅がれてむず痒いのかピィピィ鳴くアミュ。
病気が原因で退化した訳ではないようだ。

「何があって退化したんだ」
「湯浴みが終わって出て来たアミュがまた俺に突撃してこようとしたから、大きすぎてもう抱き止めてやれないから加減してくれって言い聞かせたら急に」

俺に助けを求め短い手足をパタパタ動かすアミュを受け取りながら、ついさっきアミュに言い聞かせた内容を説明する。

「ゲルト。退化した祖龍を見たことがあるか?」
「いえ、初めて拝見しました。考えられるとすれば、我々魔人のように魔力を抑えることで御体が縮んだとか。尤も魔力を抑えることができる龍族の話も聞いたことはございませんが」

守人長のゲルトさんでも見たことがないらしい。
一体アミュの体に何が起きたというのか。

「あ。勝手に入ってごめん。話の邪魔したのも」
「構わない。慌てるのも分かる」

俺の頭頂にまた登ったアミュをまじまじと観察する魔王。
生き字引の魔王にも初めての事態のようだ。

「方法は分かりませんが、マロウドさまからもう抱きあげて貰えないことを知りそれが嫌で退化したのでしょうか」
「恐らくそうだろう。アミュは体の成長が早かっただけで中身はまだ子供だ。まだまだ甘えたいのに出来なくなったことが嫌だったんだろう。体内に異常は見られないが、退化したのか縮んだだけなのかを知る必要があるな」

体内に異常がないと聞いてそれだけは安心する。
龍族特有の病気でもあるのかと思ってハラハラした。

「大丈夫なら外で待ってる。話し中に乱入してごめん」
「いや、異変が見られたら教えて貰わなくては困る。話を終えたらすぐに行く。クラウスたちと待っていてくれ」
「うん。ゲルトさんもお騒がせして申し訳ありません」
「いえ。お気遣い感謝申し上げます」

チークキスをする魔王に返しゲルトさんにも謝って守人の宿舎を出た。

「は、マロウドさま」
「どうでしたか?」
「何かご存知でした?」

俺が宿舎を出ると走って来た三人。
クルト、また半身って言いかけたな?

「三人とも退化した祖龍は初めて見たらしい。方法は分からないけど俺に甘えられなくなったのが嫌でこうなったんじゃないかって。体内に異常はないらしいけど、退化したのか縮んだだけなのか知る必要があるって言ってた」

魔界層でも初めてのこと。
そのをおこしたアミュは人の頭頂でご満悦そうに尻尾をパタパタしてるけど。

「ラヴィ。アミュの体内に異常はないって」

守人たちと居た眷属たちのところに行ってアミュの体に異変はなかったことを説明すると、ラヴィは俺の頭頂を陣取るアミュをパクと噛み持ち上げ少し離れた場所の地面におろす。

ジーッと見つめ合う親と子。
それを周りでジーッと見つめる四天魔の眷属たち。
一体何をしているのか。

「ピィ!」
『ぇぇぇえええええ!?』

しばらく見つめ合ったかと思えばアミュが突然鳴いて元の成長したサイズに戻ってまたみんなで驚く。

「ピィ!」
『!?』

もう一度鳴いたと思えばまた小型化。
……俺 の 眷 属 天 才 か 。

「は?」
『え?』

ラヴィから順にポンポンポンポンと小型化した眷属たち。
それを目の前で見ていた俺も四天魔も守人たちも唖然。

言い直す。
祖 龍 た ち 天 才 か 。

「凄いなラヴィたちも出来るのか」
「ノブル、子供の頃に戻ったみたいだ」
「シュヴァリエにもこんな力があったとは」
「ちゃんと元にも戻れるかい?オネット」

驚くことにラヴィもサジェスもノブルもシュヴァリエもオネットも姿を縮小させたり元に戻ったりが可能。
今までは誰もやらなかっただけで少なくとも眷属の祖龍たちは元から持っていた能力なんだろうか。

自分の眷属を腕に抱いている四天魔は嬉しそう。
眷属たちも主人のその喜びが伝わってるのか、嬉しそうに勢いよく尻尾をパタパタしていて可愛い。
俺も頭頂を陣取るアミュに加えラヴィとサジェスを両腕に抱いて、みんなのその微笑ましい光景に笑みが浮かんだ。


「これは一体」

子供の姿になった眷属の祖龍たちと狩猟訓練という名のボール遊びをしていると、話を終えた魔王と山羊さんとゲルトさんが来て驚いた表情をする。

「ラヴィとサジェス。主が戻ってきたぞ」

小さな羽をパタパタさせるラヴィとサジェス。
魔王と山羊さんにそれぞれ二人の眷属を渡す。

「サジェスが幼祖龍だった頃を思い出します」
「ああ。ラヴィもあの頃の姿だ」

大人の姿では絶対に見せない尻尾のパタパタ。
魔王と山羊さんに抱かれたラヴィとサジェスも他の眷属たちと同じく嬉しそうだ。

「懐かしくなったが、ずっとこのままでは困るな」
「そこは大丈夫。みんな元に戻れることも確認済み」
「自在に操れるということか」
「うん。アミュとしばらく見つめ合ったと思えばラヴィたちも同じように小型化して驚いた。ここに居る六匹しかできないのか祖龍ならみんなできるのかは分からないけど」
「そうか。今後調べなくてはならないな」

そう話しながら魔王は愛おしそうにラヴィを撫でる。
成人した姿では出来なくなってしまった形の触れ合いに懐かしさを隠しきれないみたいだ。

「抱くと分かるが単に退化したのではないようだ」
「そのようですね。サジェスも幼祖龍の時にはここまでの魔力はありませんでしたので。ゲルトが言ったように魔力を抑えることで体を縮めているというのが正解かと」

体は小型化していても魔力は幼い頃より高いらしく、魔王と山羊さんは撫でる手は止めずに話す。

「まさか祖龍も魔力制御が可能だったとはな。魔界の長い歴史の中でも知られていなかっためでたいことが今この時に起きたのは果たして偶然か必然か」

チラっと俺を見た魔王と山羊さん。
いや、頭頂で寛ぐアミュを見たのか?

「小さくなれると分かれば今後ますます祖龍の活躍の場が広がります。魔族の繁栄を感じずにはいられないですね」
「ああ。喜ばしい限りだ」

ニッコニコの山羊さんと俺にチークキスをする魔王。
俺は何もしてないぞ。
後でアミュを褒めてやってくれ。


「調査が済むまでこのことは守人の間だけで留めておくよう。いつでも自在に姿を操れるのであれば大した問題にはならないだろうが、愚かにも幼祖龍になっている時を狙って眷属を盗もうとする者が現れないとも限らない」
「はっ。仰せのままに」

たっぷり遊んだあと城に帰ることになり眷属たちには元の姿に戻って貰って、魔王は改めて守人たちに口外を禁ずる。
盗もうとした暁には怒って元の姿に戻った巨体からモグモグされることが目に見えてるからの意味でも危険。

「龍族たちを頼んだぞ」
『はっ』
「ラヴィ。先導を」

魔王から体を撫でられたラヴィは勇ましい咆哮をあげて先に飛び立ち、それに続いてみんなも空に飛び立った。

「どうだった?ゲルトさんにそれとなく話せたか?」

飛行が落ち着いてから早速どうなったのか聞く。

「四天魔の耳にも入っていることをロッテや守人と常に居るゲルトが知らないはずがないと気付いてな。訊かずとも分かったからロッテを半身に選ぶつもりはないと否定した」
「そっか。四天魔もお嬢の考えを知ってたってことは、そう思ってることをお嬢本人が誰かに話したってことだもんな」

城仕えたちの噂は適当に湾曲できるから別として、お嬢の考えはお嬢自身が口にしないと誰にも分からない。
それなら親のゲルトさんの耳にも入っているはず。

「決まっていないことを軽々しく話さないようロッテに注意はしていたらしいが、やはり俺が特別な任を与えたことで娘は気に入られているのではないかと内心では思っていたようだ」
「だろうな。全部正直に話したのか?」
「ああ。誤解させるようなことをしてしまったことは詫びて、俺が案内役という今までなかった任を作るに至った理由やロッテの今後の身の振り方を考えるよう話してきた」

親としては複雑な心境だっただろう。
でもそれを俺たちや守人の前で顔に出さなかったゲルトさんは長として立派な人だと思う。
娘には甘いけど。

「ゲルトさん自体は信頼のおける守人なんだ?」
「そうでなければ大切な眷属の世話を任せたりしない」
「そっか」

魔王が与えた『特別』は特別だったようだ。
親子で守人を希望しているゲルトさんが喜ぶだろうと、ただそれだけの思いで特別な役目を作って娘に与えたんだろう。
まさかそれがお嬢はもちろん城仕えやゲルトさんにすら勘違いを生んでしまうとは思いもせずに。

「ゲルトさんが分かってくれたことは一安心だけど、問題は我の強いお嬢が考えを改められるかどうかだな。今まで自分が魔王の半身になると思って自分より下の存在に見てた四天魔を敬えるかどうか。権力を笠に着る人ほどそれを失ってもプライドが邪魔をして受け入れられないパターンを散々見てきた」

一度上がってしまった生活水準を下げるのは難しい。
それと同じく心も、一度になった人は立場が逆転したことを認められず受け入れられない人も多い。
権力を笠に着て威張り散らすタイプはなおさら、下に見ていた人より自分の方が下の立場になったと認めたがらない。
尤も今回は権力者側になった事実もない勘違いだけど。

「守人は魔王軍の職務の一つ。半身に選ぶつもりで任に就かせた訳ではないと話しても変わらず振る舞うようであれば守人から除名する。ゲルトにも、誤解させた責任として何かしらの任は与えるがそれでも変わらなければ除名すると話してきた」
「そうなんだ」

除名するとまでハッキリ伝えたのなら親のゲルトさんがお嬢に心を入れ替えるよう言い聞かせるだろう。
魔王にも誤解させてしまった責任があるように、ゲルトさんにも甘やかしてワガママ娘に育ててしまった責任がある。

「考えを改めて一から頑張ってくれるといいな。やる前からやったことがないから無理とかワガママを言わずにまずは努力してみて、その中でお嬢に向いた役目が何かを見つけてほしい。守人の仕事においては最高の見本が傍に居るんだから」

本当に守人になりたいなら最高の見本が目の前にある。
それを活かしてお嬢が活躍できる場を見つけて欲しい。

「やはりお優しいですね。半身さまは」
「本人は認めたがらないから困ったものです」
「受け入れられない人の見本ですね」
「いや俺そんなひねくれてないし」

仮面と赤髪とクルトから言われて反論すると、魔王と山羊さんは声に出して笑う。

「魔王さまが選んだ方が半身さまで良かったと思います」
「ああ。俺もそう思っている」
「ピィ!」
「お前たちもそう思うか」

俺を俺として受け入れてくれる人や眷属たち。
その人たちを俺に出来る形で大切にしたいと思う。
そう思って口元は綻んだ。
 
    
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