ホスト異世界へ行く

REON

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第十二章 邂逅

ティータイム

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「……弟子?」
「はい」

食事を終えて胃に優しいハーブを使ったお茶を飲みながら(俺の異空間アイテムボックスから出したヤツ)弟子を取ることにしたと話すと、アルク国王はティーカップを持つ手をピタリと止める。

「私は学んできた歴史や常識も違う異世界人ですのでそちらは教えて貰う側の立場ですが、特殊恩恵や恩恵以外の七属性魔法や剣や武術であれば教えることが出来ますので」

特殊恩恵や恩恵を使えるのは本人だけ。
それはこの世界の人も同じだけど、精霊族が扱う七属性魔法を全て使えるからどの魔法にも対応した特訓でも付き合えるし、剣や武術も鍛えてあげられる。

「それはまたとてつもない話を持ってきたな。最強の守護者と言われる英雄が弟子を取るとなれば、弟子入りするその者は今後良くも悪くもあらゆる面で注目されることになる」

それは間違いない。
俺たちが黙っていても人から人へと広がって行くだろうし。

「それでその生徒は貴族家の者なのか?」
「総首席のシスト・ボナという青年です」
「ボナ?王宮魔導師のラウロ・ボナの兄弟だろうか」
「はい」

王宮騎士や魔導師の数は多いけど、さすがに隊長クラスの名前だけあってすぐに分かったようだ。

「ふむ……フォコン公爵家の子息であったことは幸いか」
「ラウロさんは公爵家の方だったのですか」
「ああ。既に鬼籍に入っているが、初代の曽祖父は先々代国王の相談役で元宰相。祖父は王宮魔導師団第一部隊の元団長。祖母は国家魔導具研究所の元助教授。父母は国家魔法研究所の現役博士と助手という優秀な経歴を持つ者が揃った家系だ」

それを聞いてお茶を吹き出しそうになる。
とんでもないエリート家系じゃないか。
王家の血筋じゃなく功績で爵位を与えられたゴリゴリ実力主義の公爵家。

「フォコン公爵家の子息であれば少なくとも家柄で後ろ指をさされることはないだろう。英雄との繋がり目当てに悪巧みをする者が居ても早々に近付けるような家系でもない。これが一般国民であれば家族ごと保護しなければ悪事に利用される」

貴族か聞いたのはそれが理由か。
まずはそこを心配するとはさすが国王。

「弟子入りする青年が大き過ぎる重圧に耐えられるかという不安もあるが、それ以前にブークリエ国側が何と言うか。自国の民である英雄が自国に属する人族や獣人族ではなく他国のエルフ族から弟子をとることをよく思わないのではないか?」
「んー……可能性はゼロではないですけど」

あるともないとも言えない。
国王のおっさんは懐が広いから種族でどうこう思わない気がするけど、国同士の関係に繋がる内容となると難色を示す可能性も無きにしも非ず。

「これに関しては三者で話し合う機会を儲けよう。貴殿は全ての精霊族の守護者ではあるが、属しているのはブークリエ国。ブークリエ国王の意見を聞かず話を進めることは出来ない」
「承知しました」

弟子一人とるにも国が関わってくるとは面倒な話。
ただ俺に【英雄】というご大層な肩書きが付いてしまっている限り仕方の無いことでもある。

「それともう一つ。私の領地で異世界料理の店を出す事はお話ししましたが、ブークリエだけではなくアルクの食材も使いたいと考えております。そこで協力して貰う農家や商会には英雄公爵家と契約して貰いたいのですが可能でしょうか」

今までブークリエ国内だけだったけど、今回の訪問でアルク国にしかない物やブークリエ国より質のいい物があることを知ったから、今後はアルク国にも幅を広げようと思っている。

「構わないが、契約を結び定期的に仕入れるということか」
「はい。今考えているのは果物です。アルクにしかないラクの実は絶対欲しいですし、全体的に質がいいと感じました」
「ラクの実?それは大商会でしか扱っていない」
「え?」

今後はティーカップを持つ俺の手が止まる。

「正確には他の商会でも扱っているが、そちらのラクの実はランクが低く潰して飲み物にするような質のものだ。あれはアルクでも育てるのが難しくてな。質の高い物を育てられる果樹園が限られているためにブークリエには流通させていない」
「ええ……そうなんですか」

それは予想外。
アルク国にしかない果物だとは分かってたけど、ブークリエ国で売られてないのはそんな理由だったとは。

「ふむ。後日プリエール公の屋敷に行くと話していたな」
「はい。ヴィオラ嬢の経過を確認させて貰おうかと」
「ではプリエール公爵家の商会と契約を結ぶといい。質のいいラクの実の果樹園の殆どはプリエール公が所有している」
「よろしいのですか?アルク国内でも質の高いラクの実は貴重ということでしょうに、ブークリエ国に流れてしまって」

俺としては願ってもないことだけど、数が限られているならアルク国内でも質の高いラクの実の需要は高そうだけど。

「貴殿には大恩があるのでな。誰もが分からなかったバルビ王家の呪いの正体を解明して私の命を救い今も治療にあたってくれているだけでなく、アルク国内に残る負の気を浄化して教会の悪事すらも暴いて民の生命や生活を守ってくれた。今後も貴殿が授ける医療の知識で救われる民の数は増えるだろう。その貴殿が欲しいと望むものならば許可して当然だ」

やだ……イケおじ。
今のはきゅんときた。
やるな、アルク国王。

「他に欲しいものはないのか?」
「特には。許可をいただけるだけで十分です」
「流通を許可しただけで十分とは謙虚な」

ティーカップを口に運んで無言になるアルク国王。
本来はアルク国内でしか出回らない物の流通許可を出してくれたんだから十分なんだけど。

「アルク国でも爵位を持たないか?」

数分ほどで口を開いたアルク国王の話を聞いてまたお茶を吹き出しそうになる。

「……はい?」
「貴殿は英雄を名乗ったその時から種族の壁を超えて全ての精霊族の守護者となった。言い方は悪いが既に貴殿は人族だけのものではない。エルフ族のものでもあるのだから、このアルク国にも貴殿の籍や爵位があっておかしくはないだろう?」

とんでもないこと言い出したぁぁぁああ!
ニヤリと笑うアルク国王の悪い顔よ。

「今後エルフ族と交流を深めると言っていた貴殿にとっても悪い話ではない。いつでも来れるようこの王都にも屋敷を、その他にもアルク国の領地を下賜しよう。その土地ならばアルク国でしか育たない物を育てることも出来て商売の幅も広がる」

ふぁぁぁぁぁああ!
すっごい魅力的な話で畳み掛けてきた!
策士!アルク国王は策士!

「どうだ?悪くない話だと思わないか?」

椅子から立ち上がって俺の背後に回ってきたアルク国王は耳元で悪魔の囁きをする。

「英雄の貴殿に民は平等を求めていて伴侶も全ての種族から娶る必要がある。一つの種族に偏れば省かれた種族の民は不安になってしまうからな。それはあってはならないことだ」

うん。それは分かってる。
俺自身は種族で優劣をつけるつもりはないけど、そんなこと口で言っても心から信用はできないだろうし。
結婚しなくていいならそれが一番だけど、英雄公爵家を残すためには結婚して後継者も育てる必要がある。

「だがアルク国にも籍がありアルク国の民でもあるとなればみな安心すると思わないか?それに領地や屋敷があればエルフ族から娶った伴侶の屋敷はそこに用意できる。第一夫人はブークリエの本邸、第二夫人はアルクの別邸というように」
「なるほど。それなら相手からしても変わらずエルフ族が暮らす国で暮らせるという安心感はあるでしょうね」

人族と獣人族はまだしもエルフ族は文化が違う。
俺に嫁いで環境が変わったせいで心を病んで欲しくないし、アルク国内で生活させてあげられるなら悪い話じゃない。
そんな俺の耳元でアルク国王はふっと笑い声を洩らす。

「本音を言おう。私自身が貴殿と繋がりを深めたいだけだ」

そう言われて顔を見ると苦笑しながら口付けられる。

「私が貴殿に与えられる最大のものは爵位と領地。それを与えて治療が終わっても貴殿との縁を繋いでおきたいという私欲で言っている。平等を願う民が安心できるよう英雄との繋がりを確かなものにしたいという気持ちも全くの嘘ではないがな」

王としての国益、一人の人間としての私欲。
どちらも本音だと言うことか。

「今の私は実の姿の雄性ですが躊躇なく口付けましたね」
「実の姿の時にはされたくないのか?」
「されたくないのではなくて、陛下が平然としたことに少し驚きました。同性に興味がなさそうなのに」

アルク国王は完全なノーマルだと思ってたから治療中も雌性体になるだけじゃなくて女性らしく振舞っている。
実の俺の姿が過ぎって勃たないとか行為をしたくないとならないように。

「個人の自由とは思っているが私自身は興味がない」
「ですよね?」
「だが貴殿は別だ。男性の姿の時と女性の姿の時では美しさの種類が違うというだけで、どちらも人とは思えないほど美しいと感じているし、どちらにも不思議と惹かれる」

ああ、縁の者だからの感情なのかも。
口付けられながらそれに気付く。
本来は女性しか性の対象にはならないけど、それも本能なのか縁の者の俺に対してだけはが芽生える。
異性や同性という分類ではなく縁の者という分類の存在。

「無自覚なのか分からないが、私だけではなく何故か貴殿にだけは惹かれてしまうという男性も少なくないだろう。容姿の美しさももちろん関係あるだろうが、それだけではない不思議な魅力を感じる。神と対峙しているがごとく抗えない何かを」

なるほど、そっちもあるのか。
魔族ほどではないものの、精霊族も創造神の子供の俺には惹かれるというようなことを魔神だか精霊神だかが話してたな。
もちろんそのの種類は様々だろうけど。

「朝から二回したのに駄目ですよ」
「実の姿に戻ったら冷たいではないか」
「いま雌性になっていたとしても同じことを言ってます」

キッパリ断言した俺にアルク国王は笑う。
少しちょっかいを出したかっただけで本格的にに及ぶつもりではなかっただろうけど。

「話しておきたいことも話しましたし、そろそろ私は部屋に戻ります。陛下に御報告のある方々も待ってるでしょうから」

療養中でもベッドで出来る仕事はやっていると知っている。
あらゆる人が国王に報告をしたり紋印やサインを貰ったりするのを待っているだろうから、俺は邪魔にならないよう退散。

「爵位の件ですが、それも三者で話し合う機会に。私自身は魅力的な話だと思っていることは先にお返事しておきます」

そもそもブークリエとアルクで籍を持って二重国籍にならないのかと疑問ではあるけど、もし駄目なら話し合いの時に国王のおっさんがNOを出すだろうし、文化も常識の違う世界で育った俺が一人で決められるような内容じゃない。

「ではそのように。この後も城内には居るのだろう?」
「はい。あ。よろしければどこか鍛錬の出来る場所をお借りできませんか?こちらに来てからは室内で最低限に身体を動かすことしか出来ていなかったので」

アルク国に来てからは部屋で筋トレするくらいしか出来なかったから、公務のない今日は久々に鍛えておきたい。

「それはちょうどいい。治療前と治療中の今の能力の変化の確認をしたいから少し付き合って欲しいと頼むつもりだった。私は幾つか役目を済ませてから足を運ぶが、貴殿は先に行って鍛錬できるよう王宮にある第一訓練所を開けさせよう」
「安静にするよう申しましたが?」
「激しい鍛錬をする訳ではない」

これは言っても無駄だな。
昨日も止められて不満だったらしいし。

「承知しました。ただし本当に確認する程度で」
「ああ。約束する」

俺なら魔力譲渡や回復ヒールも使えるし少しくらいなら。
細身のエルフ族の割に鍛えた身体をしているから今まで鍛錬を続けてきたんだろうし、俺が一日鍛えないとなんとなく落ち着かないようにアルク国王も似たような考えなんだろう。

後で第一訓練所で会うことを約束して寝室を出た。

英雄エロー公爵閣下」

扉の前に騎士と数名の有識者が居て声をかけられる。

「先ほどは大変な御無礼をいたしました」
「ん?なんの話だ?」
「お食事の件で。閣下の鑑定を疑うような結果になってしまいましたので謝罪させていただきたくお待ちしておりました」

何のことか分からずに聞くと有識者の中の一人がそう説明してくれて、跪いた全員から頭を下げられる。

「面を上げよ。跪き頭を垂れる必要はない。諸君は間違っていないのだから」

無礼でも何でもない。
有識者たちは当然のことを言ったまで。

「英雄の私であろうと安易に信用せず陛下の御身を第一に考えての諫言。それを聞いて陛下が受け入れるかは別としても、陛下に仕える者としては正しい諫言だった。謝罪は不要だ」
「寛大な御心に感謝申し上げます」

今度は感謝で頭を下げた有識者に少し笑って寝室を離れた。

「真面目で丁寧だな。アルク国の有識者は」

独り言を言いながら廊下を歩いて来賓室に向かう。
間違ったことは言ってないのに疑う結果になったからとわざわざ待っていて謝るんだから。
俺がそんな当然のことで怒るような気の短い奴と思われてるならショックだけど。

英雄エロー公爵閣下」

二度目。
来賓室の前で待っていたのは師団。
次から次にどうした。

「お疲れのところをお引き留めして申し訳ございません。恐れながら少々お時間をいただけますでしょうか」
「構わないが何かあったのか?」
「先ほどのお食事の件でお話しがございます」

え?師団もその話題?
あの場に師団員は居なかったから有識者や使用人から聞いたんだろうけど。

「承知した。話すのは部屋の中でも良いか?」
「はい」

警護に立っていた騎士が開けた扉から部屋に入る。
今日も部屋を空けている間に綺麗に整えられていた。

「かけてくれ。話を聞こう」
「ありがとう存じます」

上着は脱いで椅子の背にかけて師団の対面に座る。

「鑑定をさせなかったことが問題になったのだろうか」
「いえ。それは陛下のご判断ですので」

あれ?違うのか。
それが問題になったのかと思えば。

料理人コックから給仕が手のつけられていない食事を下げてきたと報告を受けて確認したところ、全て下げるよう閣下から指示をされたとのことで直接お伺いしたく参りました」

あ、そっち?

「たしかに私の分も含め全て下げるよう言った。その際に陛下のメニューを考えている者へ限度を考えるようにと言伝を頼んだのだが、それは伝わっていないのだろうか」
「伺いました。ただ量は減らしていると」

そう料理人が言ってたってことか。
アルク国王も量は減らして貰っていると言ってたけど。

「私の言った限度とは量ではない。時間は昼食時とは言え、寝起き後の最初の食事が肉汁溢れる分厚いステーキでは逆に食欲もなくなる。まして陛下はいま療養中でベッドで過ごす時間が多く、体調を崩していた間も食事をしていなかったのだから胃が重いものを受けつけない。表情には出していなかったが、小さく切ったステーキを水で流し込む姿を見てお止めした」

あのまま食べていたら気分が悪くなってただろう。
健康体の俺ですらメニューを見て朝からヘビーな料理ばかりだと感じたんだから。

「陛下ご自身が通常食に戻すよう指示したことは聞いた。だからと言ってただ豪華な食事を出せばいい訳ではない。食べる者のことを考えて作ってこその料理人ではないのか?見栄えがいい物を作って満足しているのなら話にならない」

食べる人のことは一切考えてないメニューの数々。
アルク国王が普段はそれを好んで食べているんだとしても、体調によって食べたいと思えない時もある。
いつも豪華な物を出せば喜ぶと思っているなら大間違いだ。

「私は今朝のメニューに目を通していないので何をお出ししたのか分からないのですが、つまり陛下のお食事に携わる栄養士や料理人コックは通常食というお言葉をそのまま受けとり、通常時に召し上がるような料理をお出ししたと言うことでしょうか」
「ああ。油の匂いで具合が悪くなると判断して下げさせた」

そういうこと。
相手が療養中だってことの配慮がないメニューだった。

「閣下のお出しになった料理を召し上がることになったのはそういった経緯でのことだったのですね」
「料理を持っていたのは自分の領に建てる予定の異世界料理店で出せそうなメニューを幾つか試作して異空間アイテムボックスにしまってあっただけの偶然だが、その中で今の陛下の体調でも負担にならない料理を選び鑑定もかけた上で召し上がっていただいた」

他の料理も入ってるけどその中でも今のアルク国王の体調に合うものを選んだし、万が一もないようしっかり鑑定もした。
国王に出す食事としては質素だっただろうけど。

「栄養士や料理人コックからすれば部外者の私に自分たちの領域を荒らされたようで気に入らなかったかも知れないが、これについては謝らない。陛下の御身を思えばこそ逆に体調を崩し兼ねない料理は下げさせ、私が作った身体の負担にならない料理を召し上がっていただくことが最善だったと今も思っている」

俺は悪くないと他責に逃げるタイプじゃないし、自分が悪かったと思えば謝るけど、今回の自分の行動はあの場で出来ることの最善だったと思っている。

「ええ。閣下に謝罪していただく必要など一切ございません。鑑定の件も陛下ご自身が閣下を信頼して召し上がったのですから何の責任もございません。両者からお話しを伺って誰に非があるかは十二分に分かりました。王家の食事に携わる者たちが陛下のお身体を考慮していないとはお恥ずかしい限りです」

あ。この人笑顔で怒るタイプだ。
栄養士と料理人コックの無事を願う(祈り)。

「御無礼を働いた上に図々しい願いなのですが、陛下へお出しになったお料理をご教授願うことは可能でしょうか。大変美味しそうに召し上がっていたと聞いたものですから、料理人コックに作れるものであればまた陛下にお出しできると思いまして」

和食料理店で出すつもりの料理の一つなんだけど。
……まあ良いか。
アルク国王が美味しそうに食べてたと聞いたからまた出してあげたいという優しさを無下にできない。

「一つだけ約束して欲しいのだが、私が教えたレシピで開発権をとらないで欲しい。言ったように異世界料理の店で出すつもりで考えた料理なんだ。教えた私が店で使えないのは困る」
「ああ!たしかにそうですね!」

師団は優しさで聞いたことでも、それを覚えた料理人が勝手に自分で開発した物として登録してしまう可能性もある。
だから対策をとってくれるなら教えるのは構わない。

「では食に携わる者たちには口外禁止を誓わせ、権利科にもご教授いただいたレシピについては閣下以外の者からの申請を受けつけないよう禁止令を出すという対応で如何でしょうか」
「承知した。手間をかけさせてすまないが頼む」
「こちらこそ無理を申しまして申し訳ございません」

約束して貰った上で異空間アイテムボックスからさっきアルク国王と食べた物と同じ豆腐鍋とお粥(雑炊)を出す。

「どのようなものか自分でも試食した方が安心だろう」
「私がいただいてもよろしいのですか?」
「ああ。試食した上で王家にお出しすることに問題がなければレシピを教える。ただし、教える際にはレシピを書いて渡すのではなく私が直接教える。見知らぬ物を使った見たこともない料理を作れと言われても全く同じ物を作るのは難しいだろうからな。王家の食卓にいい加減な物を出されたくない」

説明しながらアルク国王に出した時と全く同じ物をテーブルの上に用意した。

「こちらは豆腐鍋。こちらは雑炊だ。豆腐鍋の中の食材はこの皿のタレにつけて食べる。あくまで試食として出しただけだから食後で腹が減っていないようなら味の確認だけしてくれ」
「承知いたしました」

二つの土鍋の蓋を空けて説明すると師団は眼鏡をくいっとあげて興味津々に料理をガン見する。

「申し訳ございません。お恥ずかしながらこちらを存じ上げないのですが、フォークの他はどのように使うのでしょうか」
「陛下も同じ反応だった。白の食器はレンゲと言って汁物や雑炊を食べる時に使うスプーンと思ってくれれば。真ん中の二本の棒は箸と言って私の居た日本ではこれで食事をしていた」

知らないのも当然。
俺の屋敷には職人に頼んで作って貰った地球では馴染みある調理器具や食器が揃ってるけど、市場には出回っていない。

「……むぅ」

困っているのを見て笑いながらアルク国王にもしたように試しに箸を使って見せると難しいらしく苦戦して唸る。
アルク国王が器用だっただけでやっぱり苦戦するのが普通だよなと思いながらフォークで食べるようすすめた。

「……美味しい」

上品な所作で食べた師団は目を輝かせる。
どうやら師団の口にも合ったようだ。
この世界の人の口にも合うなら豆腐鍋は決まりだな。

「これが異世界の豆腐というお料理ですか。ぷるんとしていて噛まずとも飲み込めるほど柔らかく上品なお味。タレにつけていただくとそちらの味に染まって濃厚なお味に。どのお料理にも馴染みそうな変化を感じさせる素晴らしいお料理ですね」

いや、アルク国の人みんな食レポ上手すぎだろ。
気に入ってくれたらしくパクパクと食べ進める師団を微笑ましく眺めた。

「つい本格的に食事を」

散々食べてハッとした師団に笑う。
夢中で食べて試食だということを忘れていたようだ。

「美味しそうに食べてくれて嬉しい。私自身あらゆる国の料理を食べ歩いていたほど食べることが好きだが、自分が作った料理を美味しそうに食べてくれる人を見るのも好きだ。食事とは生きるために必要不可欠なもの。生涯で回数の限られている食事の一回を私の料理で満足して貰えるなら幸せだ」

食事はヒトにとって必要なものだからこそ。
美味しいものを食べて満足して貰えたら俺も幸せ。

「陛下が美味しそうに召し上がっていたというのも納得のお料理でした。味の美味しさはもちろんですが一つ一つの食材に丁寧な仕事がなされていて、閣下の心遣いを随所に感じます。私どもは陛下の安全を優先するあまり警戒しすぎて、美味しく召し上がっていただくことを疎かにしていたように思います」

たらい回しの鑑定のことか。
地球でも昔の偉い人には毒味役がいて本人が食べる時には冷めてたなんて話を聞くけど、この世界でも国王に万が一がないよう周囲の人たちの警戒心が強くなってしまうのもわかる。

「銀食器を使って確認をしている上に、この世界には鑑定という便利な魔法がある。レベルの高い鑑定師が鑑定して問題がなければ少し警戒を緩めてもいいのかも知れないな」
「はい」

警戒するのは悪いことじゃない。
問題は警戒し過ぎていると言うこと。
最初にレベルの高い鑑定師に鑑定して貰って問題がなければそのあと誰が鑑定したところで結果は同じなのに、時間を置いて改めて鑑定してから漸く安全と判断して出すという工程をとっているからアルク国王の口に入る時には冷めきってしまう。

地球には鑑定なんて便利な魔法はなかったから遅効性の毒の可能性も考え少し時間を空けて様子を見るのも分かるけど、鑑定魔法は遅効性だろうが即効性だろうが毒は毒と出るんだから、時間を置いて鑑定し直しても意味が無い。
つまりその過程はすぐに省いても問題がないと言うこと。

「焦る必要はない。陛下とも十分に話し合って改善していけばいい。料理人に教える日や時間が決まったら教えてくれ」
「承知いたしました。お心遣い感謝申し上げます」

師団が出て行ったあとテーブルの上を片付けて(洗うと言われたけど断って自分の異空間アイテムボックスにしまって)いると、また誰か来たらしく扉をノックされる。

「近衛騎士が閣下へお目通りをと」
「近衛騎士?通してくれ」

近衛騎士=王家の護衛。
王家専属の位の高い近衛騎士が何でここに。

「失礼いたします」

来賓室の前で警備に付いている騎士が開けた扉から入ってきたのは鮮やかな金色の髪と濃い紫の虹彩をした美丈夫。
俺と同年代くらいの若い青年に見えるけど、赤の制服(軍服)を着ているから近衛騎士で間違いない。

英雄エロー公爵閣下へご挨拶申し上げます。近衛所属ノア・ベルマンと申します。陛下よりご下命を賜り馳せ参じました」
「丁寧な挨拶をありがとう」

ピシッとした制服の着こなしにピシッとした敬礼。
丁寧に挨拶をした近衛騎士に俺も敬礼で返す。

「下命を賜ったとのことだが陛下はなんと?」
「閣下の鍛錬の場として王宮第一訓練所を解放するようにと。第一訓練所を管轄する私も同行させていただきます」
「ああ、そのことか」

御大層な感じだから何を命令されて来たのかと思えば。
いや、国王に言われたんだからで正しいんだけど。

「承知した。待たせてすまないが着替える時間が欲しい。今まで師団が居て話をしていたからまだ何も支度をしていない」
「はっ。お部屋の前でお待ちしております」
「ありがとう」

また胸に手をあて敬礼をした近衛騎士は部屋を出て行った。

「さすが近衛。美貌も一流だな」

そんな独り言を呟きながら残りを片付ける。
王家の傍について護衛する近衛騎士はブークリエ国でも家柄がよく清潔感があって容姿の優れた人が多い。
実力ももちろんのこと。
だから近衛騎士はなれる人の数が少ないエリート集団。

急いで着ていた服を脱ぎ歯磨きと洗顔を済ませて乾燥しないよう化粧水で簡単に肌を整える。
待たせてるからのんびりケアしている時間はない。

異空間アイテムボックスから出した訓練着に着替え眼帯も変えて準備完了。
最後に黒のクロークを羽織って部屋を出た。

「待たせてすまない」
「滅相もないことでございます」

廊下の壁際に直立不動で待っていた近衛騎士。
俺の部屋の護衛についてる警備の二人も釣られるようにピシッと立っていて、どこか緊張しているような様子だった。

「では行こう」
従者ヴァレットは訓練所にはお連れにならないのですか?」
「ん?ああ。アルク国には一人で来ている」
「……え?」

俺が近侍や従者を連れて来ていないことを知らなかったらしく聞かれて答えると驚かれる。

「自分の世話は自分でする。とは言えありがたいことに清掃や洗濯は城の使用人がやってくれているがな。私は秘密ごとも多いだけに巻き込まないよう一人で行動する方がいいんだ」

今回は特に訪問した理由が王家に関することだったから。
可愛いエドやベルに墓場まで持って行くような秘密ごとを増やさせたくない。

「貴殿も余計な秘密ごとを増やしたくなければ私のことを深く知ろうとはせず上辺の付き合いで留めることをお薦めする。それを承知で乗り越えてくる者のことは歓迎するがな」

口元に人差し指をあて秘密とジェスチャーしながらそう冗談を言って笑った。
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「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

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