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第十三章 進化

神界(第五・第六覚醒)

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「目覚めたか」
「……魔神?」

瞼をあげた目に映ったのは魔神。
白いトガのような衣装を着ていて、その背後には真っ白な天井が見える。

「どこ?身体が動かない」

ここはどこなのか。
起き上がって確認したいのに身体が動かない。

「ここは神界の神殿だ。身体は再生中だから動かない」
「……神界?前に精霊神が見せてくれた時みたいに幻?」
「いや。私と精霊神が居る本物の神界だ」

そう言われて魔神の顔をジッと見る。
冗談を言ってる表情じゃない。

「目を隠してない。俺は死んだのか」

いつもは隠している目元の布がない。
見えているその目は魔王と同じブラウンの虹彩。
以前『顔は良いが目は見るな、死ぬぞ』と言っていたから、神界に居ることも合わせて自分が死んだからかと思った。

「死んだ。肉体は」
「肉体は?」
「正確には以前のお前の肉体が死んだ」
「意味不」

やっぱり死んだようだけど、以前の俺の肉体とは一体。

「あ。起きた?」

聞こえてきたのは精霊神の声。
身体が動かないから目だけ動かして声がした方を確認すると、魔神と同じトガのような白の衣装を着た精霊神が居た。

「身体を拘束されてない」

目元は相変わらず隠れてるけど、危険な囚人を拘束しているかのように身体を覆っていた布やぐるぐる巻きになっていた鎖がない。

「返したからね」
「返した?何を?」

二人して意味が分からない。
理解できないのは俺の頭が悪いから?

「キミに返したんだよ。神族の身体を」

そう言って精霊神は俺の額に口付ける。

「じゃあ今の俺の身体は精霊神の身体ってこと?」
「ううん。キミの身体。ボクや魔神に自分の身体はない。でも自由にどんな姿にもなれるし、何物にもならずも居られる」
「……そう言えばそんなこと言ってたな」

魔神の今の姿も作られたもの。
ヒトの姿形に形成された

「何で精霊神が俺の身体を?」
「キミが堕天した時にキミの大切なモノは全て預かったから。戻ってきたら返してあげられるようボクが預かってた」
「よく分からないけどありがとう」
「どういたしまして」

俺の顔を覗くように見る精霊神は口元に笑みを浮かべる。
その言い方だと堕天する前に俺が頼んで預けたんじゃなく、堕天した後に精霊神が自主的に預かってくれたってことか。

「神族の俺の身体はどんな形?元から人外だったけど」
「ヒト型の生命と同じだよ。魔物の身体になる訳じゃない」
「あ、そうなんだ」

どんなクリーチャーになるのかと思ったけど、今の精霊神や魔神のようにヒト型なら良かった。

「そもそもキミの肉体はとっくに死んでたけどね」
「……は?」
慈悲シャリテを使って死んだ」
慈悲シャリテ……急襲の時のアレか?」
「うん」

まさかあの時に一度死んでたとは。
雌性の姿じゃないと魔力の放出が止まらなかったりと身体に異変があったのはもしかしてそれが原因だったのか?

「この星に召喚された時のキミの肉体はあの時に死んだ。今回死んだ肉体はボクと魔神がそっくりに形成した仮の肉体」
「仮の肉体?」
「あの時のキミにはまだ神族の身体は返せなかった。今回の肉体の死で覚醒してまた叙事詩が解放されたから返せたけど」
「全然記憶にないけど覚醒したのか」
「うん」

死んだのに覚醒したとかおかしな話。
いや、そもそも肉体が死んで中身は生きてることが何よりおかしいんだけど。

「もしかして俺は死なない?」
「身体は死ぬけどキミは死なない。でも消滅はする」
「消滅?」
「キミじゃなくなるってこと」

そう話して精霊神は苦笑する。

「身体もこれが最後だ。今までの肉体はキミやボクたちが作った仮の肉体だったから死んでもまた作り直せたけど、今回返したキミの本物の身体は一つしかないから次はない。このさき身体だけがなくなった時にはボクたちと同じ身体のない神に。それすらも消滅すればキミの存在自体がなくなる」

つまりもう生命としては生きられなくなると。
その身体のない俺すらも消滅すれば全て終わり。
俺の存在自体が消えてなくなる。

「私たちが以前お前に自分たちの力を与えることで消滅を防いだことを話したのは覚えているか?」
「うん。一度消して作り直すことも出来たけど、作り直したそれは俺じゃなくなるからって」

作り直した俺はもう精霊神や魔神が愛した俺じゃない。
だから自分たちの力の一部を与えることにしたと。
そうすることで神族の俺が消滅しないよう防いでくれたということ。

「精霊神と私はお前に消滅して欲しくない。だから今回死んだ仮の肉体は精霊神と私自身を使って作ったものだった」
「……精霊神と魔神自身?」
「私たちという存在の一部を切り取り肉体にした」
「ま、待った。二人は元々無の存在だよな?最初は姿形もなかったけど長い時間を過ごす内に形を成したって」

無とはということ。
二人はから自分たちで形になって全ての創造主になった。

「……形になった自分たちを切り取ったってこと?」
「ああ。だから精霊神と私は一部がない。永遠に戻らない」
「な、なんでそんな自分たちを失うようなことを。長い時間をかけて漸く形になれたの……に」

なんでもなにも、魔神が最初に言っただろうに。
俺に消滅して欲しくなかったと。
そこまでして作った仮の肉体も死んだ。
精霊神と魔神の存在の一部だったそれを俺が殺した。

「……ごめん」

何も知らなかった。
地球に居た頃の俺の肉体は既に死んでたことも、自分の肉体だと思っていた二度目の肉体は精霊神と魔神が自分たちの一部を切り取って作ってくれたものだったことも。

「そんなものはどうでもいい。愛し子に消滅して欲しくないというのは精霊神と私の欲で、お前には関係のないことだ」
「関係あるだろ。俺を思ってしてくれたことなのに。そのお蔭で生命の一人として生きていられたんだから」

肉体がなかったらみんなとは生きられなかった。
気の遠くなるような時間を無で過ごした二人が漸く得た形を使って俺そっくりな肉体を作ってくれたから、今まで誰にも知られることなく、自分すらも知ることなく『夕凪真』として生きていられたのに。

「そんなにも責任を感じているなら全て思い出せ。堕天しても成し遂げようとしたことを終わらせて神界に戻ってこい。以前のように精霊神と私にお前を愛させろ。今はまだ消滅させてしまうから下手に愛すこともできない」

俺の顔に両手を添えて口付ける魔神。
その感情はもう愛着というより執着の域に感じる。
でも不思議とそれが嫌じゃない。

「全て思い出してっていうのはボクも同じ気持ち。キミから預かってたものもまだ全ては返せてないから」
「身体の他にもあるのか」
「ある。キミに返すまでボクはキミと目を合わせられない」
「返せば目を合わせられるようになるってこと?」
「うん。預かってる間は存在が強くなるから、キミに会う時には消滅させないよう存在を弱めないといけない。身体を返したから封印の鎖は外せたけど目はまだ駄目」

俺の所為であの痛々しい姿になってたってことか。

「キミと会う時だけだよ。それに元はボクと魔神の力だし」
「ん?」
「消滅させないよう与えた魔神とボクの力の一部が戻ってきて以前のように存在が強くなり過ぎたから、キミに会うためには抑えるしかなかった。でも全て返したらキミは消滅しなくなるし、ボクも存在を抑えなくてもまたキミを愛せる」

抑えないと消滅させてしまう元の精霊神が強すぎな件。
ぐるぐる巻きの時でもとてつもない圧迫感があったのに。

「誤解してるけど、ボクより魔神の方が強いよ?」
「え?」
「抑えるのが上手いだけ。ボクは苦手だからあの姿になってたけど、魔神が預かってたら目以外は必要なかっただろうね」

精霊神の方が強そうなのに?
そう思って魔神を見る。

「だから私が創った魔族の方が力が強い傾向にある」
「納得した」

一瞬で納得した。
たしかに二人が創った生命で考えると精霊族より魔族の方が全体的にガタイも良ければ力も強い。

「だが器用なのは精霊神が創った精霊族だ。私は細かいことが苦手だが精霊神は得意。互いの特徴が生命に影響している」
「どちらにも得意な部分と苦手な部分があるってことか」

生命からすれば神の得意不得意など誤差でしかないけど。
どちらも創造と再生と破壊ができる時点で生命が到達できるような存在じゃない。

「口付けていい?」
「は?」
「やっと近付けるようになったから」

俺をジッと見る精霊神。
布で隠れて目は見えてないけど見てるのは分かる。
魔神も前回会った時まではそうだったけど、目を隠しているのは俺が二人の目を見れないようにするためだけで、本人たちは布越しでも俺のことはもちろん全てが見えてるんだろう。
そうじゃないなら目隠しをしたまま行動なんてできないし。

「……消滅しない?まだ再生中らしい俺の本物の身体」

本物の身体を失ったら次はないと言っていたのは精霊神で、まだ身体を動かすことも出来ない今でも耐えられるのか。
そう思って聞くとクスクス笑われる。

「大丈夫だよ。今は聖域の神界だからボクの存在も多少分散されてるし、一番力を持つ目を見られなければ消滅しない」
「じゃあ良いけど」

口付けるくらい別に。
魔神なんて確認もせずしてるし。
先に確認する紳士な精霊神を少し見習って欲しいくらいだ。

「ありがとう」

お礼を言って口付ける精霊神。

「…………」

え、長くね?
軽くして終わると思ってたのに長い。
首から下の感覚はないけど首から上の感覚だけはあるからなおさら、その感覚にだけ集中してしまう。

「……ん?んん?」

じわじわと身体の感覚が。
少しずつだけど、今までのように指先一つ動かせなかった身体の存在を感じ始めた。

「ま、待った!」

完全に身体の感覚が戻って顔をそらす。

「ど、どういうこと?」
「動けるくらいには再生できたみたいだね」
「そうじゃなくて、なんか体内に本来なら入らなさそうな太さのブツが……え?それ、どこに入ってんの?」

感覚が戻って気付いたのは体内にある何か。
何で入ったのか分からないくらいの物体が入っていることに気付いて自分の身体を見たけど、なんでこんな状況にという疑問よりむしろに疑問を持つ。

「……何で俺の身体にないはずの部分が追加されてんの?」
「本物のキミの身体は両性だから」
「は?」
「神族は無性か両性だよ。神の身体に男性も女性もない」

衝撃の事実に唖然とする。
精霊神と魔神は無性でどちらにもなれると話してたけど、俺の本物の身体は両性だったのか。

「んじゃ顔も中性的になってるってこと?」
「顔も身体も全く変わってない。脱いで下を見ない限りキミが雄性から両性に変化したことに誰も気付かないだろうね」
「今までの肉体は両性ということ以外はこの本物の身体とそっくりだった。だから容姿は変わらない」

じゃあ見慣れた自分の肉体に女性の生殖器だけが追加された状態になってるってことか。

「両性ってことは月経や妊娠や出産は?」
「しない。生殖行為をする分にはどちらも問題ないけど、それに伴う繁殖能力まではない。今までもなかったよね?」
「え?そういうとこも本物の身体と同じだったってこと?」
「そう。キミが子を設けるなら魔力で作らないと無理」
「ってことは両性の魔族と同じ?」
「魔族とも違う。魔族に子宮はないけどキミにはあるから」
「そこは精霊族寄りの造りなのか」

今までの俺の肉体も生殖器はあっても繁殖能力がなかった。
女性の生殖器が増えてもそこは変わらないと。

「身体の事は分かった。分かったというか、これが俺の本物の身体なら悩んでも仕方ないから受け入れる。で、もう一つ聞きたい。何で魔神がその新たに追加された部分に入れてる?」

現実を受け入れるしかない身体の作りはさて置き、今まさに真っ最中だったことの説明を聞いていない。
身体の感覚がなかったし身動きも取れなかったから気付かずに平然と話してたけど。

「以前特性を抜く時にキミの肉体に手を入れたよね?」
「うん。それが今回は手じゃなくて陰茎ってこと?」
「魔神の体液が必要なんだ。修復と再生効果があるから」
「ああ、そんなこと言ってたな」

あの時はキスをしながらだったから唾液。
今回はから出るな魔神の体液で再生してるのか。

「最初はボクたちの血を飲ませたけど逆に消滅しかけて」
「創造神の血とか人類の猛毒になりそうな代物を飲ませないでくれる!?血中の魔力成分が強過ぎて昇天するだろ!」
「今のキミなら大丈夫かと思ったんだけど」
「意識がない間に本物の身体も消滅しなくて良かった」

魔王や俺の血すら人に飲ませたら死ぬと聞いてたのに、創造神の血なんて即死の毒物でしかない。
幾ら俺が本物の身体に戻ったからってまだ再生する前に強烈なものを与えないで欲しい。
危うく両親から無垢に殺されるところだった。

「ボクの体液にも同じ効果があるから本当はボクがあげたかったけど、まだ全て返し終わってない今のボクが唾液よりも効果が高い体液をあげるのは危険だろうから魔神にお願いした」
「思い留まってくれて良かった」

知らない間に二度も命の危機を迎えたとか洒落にならない。
再生してあげようという優しさはありがたいけど。

「でも何か変な感じ。入ってる感覚はあるけど痛くもなければ気持ちよくもない。ただただ入ってるだけ」

むしろ切れて怪我をしててもおかしくない大きさの代物が自分の中に入ってる感覚はあるのに、一切なにも感じない。

「まだ完全に再生した訳じゃないから。ただ、再生して感覚が戻っても痛みはないよ。魔神がキミの痛覚を消してるから」
「どういうこと?」
「痛みを感じさせるもさせないも自由ってこと。だって魔神とボクに実体はないから。キミの体内に入ることも出来る」
「……怖いんですが」
「例えばそういうことも出来るって話をしただけで本当には入らないよ。魔神とボクを受肉した生命と同じ存在として捉えても無意味だってこと。心臓を貫いて痛みだけを感じさせて怪我はさせないってことも出来るのがボクたちだから」

もう存在そのものが概念上の何かのよう。
でもこうして目に見える存在として居るし、触れたら通り抜ける幻ではなく相手からもこちらからも触ることができる。

「うん。考えても無駄だから止めた」

二人が神だから。
結局それしか結論はない。

「思ったけど動かなくてもイけるの?」

意識がない時は動いてたのか知らないけど、少なくとも俺の目が覚めてからは一度も動いてない。
身体の感覚はなくても魔神の顔を見て話してたんだから、動いてれば『何をしてんの?』くらいには疑問に思ってる。

「あれ?そもそも神ってイったり出たりするもんなの?」
「形を成してる時は。ただ、果てるも果てないも出すも出さないも自由だし、動いても動かなくても果てられるし出せる」
「ほんとなんでも出来るな」
「そうだね。魔神とボクが出来ないことは生命もできない」

生命と同じことも出来るし、生命とは違うことも出来ると。
自分の意思でどうとも出来るんだからさすが万物の創造神。

「ん?二人に出来ないことなんてあるのか?出来るけどやらないんじゃなくて、やろうとしても出来ないこと」
「あるよ。唯一ボクたちでも出来ないことが」
「どんなこと?」
「それは秘密」
「……まあ唯一の弱点ってことだもんな」

万物の創造神にも出来ないこととか興味があるけど、それが二人の唯一の弱点ということでもあるから言うはずがないかと納得する。

「話はここまでにして先に再生してしまおう。実体を持たせるまでは魔神がやってくれたから、後はボクも協力するよ」
「うん。二人ともありがとう」

スペアのない本物の身体。
今までは仮の肉体を住処にしていた神族だったけど、本物の身体が再生してからは身体も中身も神族になるということ。
精霊神と魔神から誕生した時そのままの神族に。


それからどのくらいの時間が経ったのか。
もう時間の感覚もない。
でも確実に身体の感覚は戻っていった。

その感覚は仮の肉体だった時と同じ。
全く変わらないから感覚に慣れるための時間も必要ない。
唯一変わったことは、違う種類の快楽が変身していない時の身体でも体感できるようになったということだけ。

途中からで精霊神も加わって痛覚以外の感覚は感じられるようにしてくれたから、その後からは本能に忠実なクズの俺らしく難しいあれこれよりも快楽に夢中に。
二人のとんでもないものが入っていることに『再生しても身体がおかしくなりそう』と言ったら、『今のこれは入ってるけど入ってない状態。ボクたちは実体がないから』と言われた。

入ってる感覚はあるし気持ちよくもなれてるから実体がないと言われても良く分からない。
ただ、とても入るとは思えないモノが入ってることや、常識で考えたらそんなモノが入れば大怪我必須なのに何ともないことを考えると、実体がないというのも本当なのかもと思う。

入っていると思わされているだけ。
気持ちいいのもそう思わされているだけ。
ということなのか、それも分からない。

分からないけど行為自体は生命の性行為そのもの。
それが時間の感覚がなくなるほど続く。
いつしか再生が進んで感覚が戻るほど『これが自分の身体だ』と思うようになってきて、二人の身体のことも以前から知っているように思えて不思議な気分だった。





「どう?違和感は?」
「全くない」

ベッドから降りて立ち上がってみた身体に違和感はない。
今まで通り自分が思うように身体は動かせているし、叩いたり抓ったりすると痛みも感じる。

「新しい身体になったのに目の複視はそのままなのか」
「今回死んだ肉体の経験を引き継いでるからね」
「仮に病気があったらそれも引き継いでるってこと?」
「うん。肉体が死んだその時のまま、治る怪我も治らない怪我も引き継いでる」

前回の肉体を丸々本物の身体に引き継いだってことか。
怪我があった場所も背中の刺青もそのまま。

「今のお前の本物の身体が病で死ぬことはない」
「え?そうなの?」
「神族は病にかからない。以前の肉体に病があって引き継いでいても、その身体になった時点で治っている。ただ外部から受ける怪我や体内にある魔力が尽きた時に負うダメージなどは別だ。神族でも実体を持っている間は怪我をする。大怪我をすればその身体も死ぬということを覚えておけ」
「分かった」

切り刻まれようとも再生する身体ではないということ。
かからないから病で死ぬことはないけど怪我では死ぬ。
身体も命も永遠にあるものではないと。
気をつけないといけないのは今までと変わらない。

「あのさ、俺が神界に来てどのくらい経ってる?」
「あの星の時間で数百年ほどだろう」
「……はい?」

なんの冗談?
身体を確認していた顔を上げてベッドに居る二人を見る。

「キミが目覚めるまでに数百年かかったからね」
「いや、え?」
「神界とキミが居た星では流れる時間が違う。ここでは数時間の出来事でも向こうでは数百年の時間が経ってる」
「……戻ってもみんなもう死んでるってこと?」

そんなのもう戻る意味もない。
生きているとしても辛うじて魔王が生きているかどうか。
俺のことなんてとっくに忘れてるかも知れない。

「安心して。キミの肉体が死んだ時間に戻るから」
「ん?」
「戻ったら神界での時間はなかったことになる」
「あ、狭間と同じ?」
「狭間は世界と世界の間にあるけど、神界はキミが居た星とは別の世界。キミが以前に居た地球もまた別の世界。世界と世界が干渉し合わないよう狭間は帳尻を合わせる役目を持つ」

また世界規模の難しいことを言ってる。
元の時間に戻れるってことは理解できたけど。

「一つ一つの世界は流れる時間が違って、別世界の生命が別世界に渡ればそこに時間の歪みが生じてしまう。歪みから生じるのは崩壊。それまでバランスが保たれていた全ての世界が崩壊してしまう。そうならならないよう狭間は帳尻を合わせるために別世界へ渡る者の時間を渡る先の世界の時間に合わせる」

魔神が教えてくれたそれを聞いて背筋がぞっとする。
二人が創った世界構造が如何に複雑なのか、崩壊しないよう如何に考えて創られているかということはよく分かった。

「……待った。じゃあ仮に勇者や俺が地球に戻れるとしたら召喚される前の時間まで戻れるってこと?」
「召喚された一瞬前の時間に戻る。戻った瞬間からあの星での時間はなかったことになる」

つまり地球に居なかった時間はなかったことに。
召喚されたのが一歩踏み出したタイミングだったとしたら、地球に戻った時は一度は召喚されたその時間を超えて今度はしっかり地面に足がつくことになる。

「それって経験した事や記憶もなかったことになるのか?」
「なる。その人の時間がリセットされた状態になるから、自分が召喚されたことも戻ってきたことも知らない」

そんな話を聞きながらまたベッドに戻って座る。

「もしかして勇者や俺が地球に戻れる手段があったりする?国王のおっさんからは元の世界には戻れないって聞いたけど」
「勇者召喚は呼び寄せるだけで戻すことは出来ない」
「あ、やっぱりそうなんだ」

みんなが知らないだけで本当はあるのかと思ったけど、そんな甘い話ではなかったらしい。
精霊神がまるで別世界から元の世界に戻った人が居るような言い方をしてたから勘違いした。

「そもそも勇者召喚は禁忌なんだよ。魔神とボクは生命が世界から世界を渡ることを許してない」
「……え?」
「でもボクたちが創った世界の構造を歪めた神が居る。星と生命を憂いて。星と生命のために自分の神力を全て使って」

とんでもない神が居たもんだ。
というか、万物の創造神が創った構造を変えられる力を持つ神が存在することも驚きなんだけど。

「……月神か?」

精霊神と魔神の最初の子供。
自分たちの代理をする神を魔力で創る創造神が唯一、自分たちの意思で創った訳でも魔力を使って創った訳でもない神。
魔神が精霊神に触れたことで芽生えた特異な存在。

「万物の創造神の二人が創った絶対的な世界構造を歪めるために自分の神力を全て使ったから身体を失ったのか?」

無から創造する神が創造した物事を歪められる存在。
二人の魔力を使って創造した神にはそこまでの力があるとは思えないから、可能性があるとすれば特異な存在の月神だけ。

「俺の中に入ったのも星や生命を見守るためなのか?」
「半分は正解。半分は不正解」

そう答えたのは精霊神。

「世界の構造を歪めたのが月神というのは正解。今でも変わらず星や生命を見守ってるというのも正解。でも見守るためにキミの中に入ったという部分が不正解」

話しながら精霊神は顔を近付けると口付ける。

「さっき言ったよね?ボクたちも出来ないことがあるって」
「うん」
「それが月神。月神は遙か未来を見る未来視という力を持っていたから星と生命が辿ることになる結末を憂いていた。でもボクたちの魔力で創った神じゃないからかな。月神が見た未来や考えてることだけはボクたちにも知ることが出来なかった」

全てを知る創造神の二人でも知ることが出来ない存在。
月神が見る未来や考えを知ることが、唯一二人にもだと。

「なんだろう…………痛い」

じわりと胸が痛む。
これは俺の中に居る月神の痛みだろうか。
俺自身はなにも悲しくないのに自然と涙が出る。

「ボクたちの愛しい子。キミが全てを思い出すには様々な経験を重ねて覚醒を繰り返すしか手段がない。でも魔神もボクも信じてるから。必ず全てを思い出してくれるって。ボクたちと過ごした日々のことも全て。ずっと待ってるから」

精霊神から額を重ねられると自分の意思とは関係なく徐々に瞼が下がる。

「我々が愛した美しくも愚かな愛子。愚かなお前でも私たちは変わらず愛している。もう一人の私たちとして、両親として、この先もお前を愛し見守り続けよう。帰りを待っている」

魔神の低く優しい声。
愛おしい者を思って紡がれるその声に閉じかけた瞼の隙間からは涙が落ち続ける。

「「運命を決めるのはキミ(お前)だ」」

二人の体温が離れると今まで自分の身体を支えていたベッドの感覚も消えて浮遊した身体が落下する。

「……***」

俺の両親。
そして愛しい二人。

閉じた瞼から滲み出る涙は落下する身体から離れ空に舞う。

月神。
どうして月神が俺の中に居るのか分からない。
どうして俺の中を選んだのかも分からない。

でも月神も精霊神と魔神を愛してることは分かる。
その『愛』がどんなものか分からないけど愛は愛だ。
愛おしいと思ってるんだから愛には違いない。

月神は二人が憎くて世界構造を歪めた訳じゃない。
二人に刃向かいたかった訳でもない。

失いたくなかったんだよな?
愛する二人が創造した星と生命を。

二人が創造した星と生命が愛おしかったんだよな?
だから見えてしまった結末を憂いた。

失いたくなかった結果が二人の創造した世界を歪めること。
世界と世界を渡ることの出来る手段だった。

生命が世界と世界を渡れる手段を使って何がしたかったのかは分からないけど、 精霊神にしても魔神にしても月神にしても、神ってヤツはみんな思考がぶっ飛んでるな。

「俺もか」

神族の俺も決して普通じゃない。
そのことに気付いて自嘲しながら瞼を上げた。

どこまでも真っ白な世界。
そこを落下して行く身体。
狭間なのか別の何かなのか分からないけど。

「約束する。成し遂げようとしていたことを思い出して終わらせる。それが俺にしか出来ないことなら俺が終わらせる」

だから待っててくれ。
必ず約束は守るから。

【ピコン(音)!神族シン・ユウナギ第六覚醒。特殊恩恵〝誓約〟を手に入れました。これによりが解放。同時に〝主神に愛されし者〟を手に入れました。これにより〝神魔に愛されし遊び人〟は〝主神に愛されし遊び人〟に進化しました】

久々に『遊び人シリーズ』が更新されたな。
どうせ更新されるならそのの部分を変えて欲しいんだけど、今回もその部分は残ってるのが小憎たらしい。

「どっちが名付けたのか知らないけど、名付けのセンスはないってことだけはハッキリ言っておく」

それだけは伝えて再び瞼を閉じる。
どれだけ落下を続けるのか分からないけど、次に目覚めた時はきっともう地上に居るだろう。

【おやすみなさい】
「おやすみ。中の人」

スペアのない本物の身体。
それを返して貰った俺は身体も中身も揃った神族になった。
    
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「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

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