ホスト異世界へ行く

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第十三章 進化

決め事

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「最初は婚約発表を行いますよね」
「うん」
「五名揃ってから発表しますか?」
「いや、決まった人から発表していくつもり。まだ見つけてもない人が揃うまで待ったらいつになるか分からないから」

そもそも見つかるのか分からないけど。
紋章だけ分けて貰えたら充分という人じゃないと悪条件を飲んでくれないだろうから。

「では事前に話してあって確率の高いアポトール公爵にお声がけを。私とアポトール公爵の両名を同時に発表すれば閣下が両性だということをみなが知ることになりますし、エルフ族と人族から伴侶を迎えると分かれば人族だけが優遇されるエルフ族だけが優遇されると不安になる人は減ります。折を見て獣人族からも迎えることを明かしておけば獣人族も安心でしょう」

なるほど。
男性の総領を先に発表すれば『男性にしか見えないのに実は女性だったの?』とか『同性婚は禁止なのに二人は良いなんて国は差別してる』という誤解をうむ可能性があるけど、女性のエミーも一緒に発表すれば両性だという正しい情報が広まる。

「プリエール公爵夫妻にご挨拶に行かないとな」
「私から先に説明しておきます。反対された時にはこの身一つで閣下の元に参りますので受け入れてくださいね」
「いや、両親に反対されたら頭を下げて説得する。そんな家出みたいな形で受け入れて親子仲が悪くなって欲しくない」

俺には親族が居ないからいいけど総領は違う。
認めてくれるまでは成婚はもちろん婚約もしない。
俺のせいで親子関係が悪くなるのは嫌だ。

しっかり説得することを話した俺に総領はまたくすりと笑って口付ける。

「冗談です。成婚を辞めるのではなく説得をすると言ってくださって嬉しいですが、反対はされないと断言できます」
「プリエール公爵家の跡継ぎなのに?」
「長子ですので教育は受けましたが、父は健康で現役ですから実際に継承することになるのは先の話です。赤い月が昇ってからは特に弟を継承者にすることを考え父も行動しています」

当事者の総領はもちろん公爵も覚悟ができてるのか。
覚悟が決まるまでには総領も家族も多くの葛藤があっただろうことは家族が居ない俺でも分かる。
仲のいい家族だから尚更。

「俺も天地戦が始まれば英雄として精霊族を守るために戦の最前線に立つことになる。天地戦後も生きてる可能性は低い。だからお互いに悔いのないよう残された時間を生きよう」

魔物や地上に来た魔族から精霊族を守るのが俺の役目。
戦いたくないと思っていても攻撃をされたら反撃をしないと多くの命が奪われると分かっているから戦うしかない。
と言ったけど本当は敗北した方と結末を共にすることを決めているから、残された時間が天地戦までというのは総領やエミーと同じ。

「はい。その日まで閣下のお傍に」

約束を交わして口付ける。
お互いに生きて欲しいという言葉は言わない。
それが心残りになると分かっているから。

「ちなみに夫婦生活は変身後の女性の姿で頼む」
「なぜですか?」
「両性の身体の造りに夢中になりそうだから」

総領は言われて気付いたようでハッとする。
自分でもその可能性が高いと思ったんだろう。

「伴侶の全てを知りたいのは当然では?」
「さっきまで顔を手で覆って見ないようにしてたのに?」
「見て触って覚えるよう言ったのは閣下です」
「大丈夫になったのか?目はすぐに逸らしてるけど」
「直視をするのが一番ダメージを負うもので」

ソファに押し倒されそんなことを言われて笑う。
洋服を着てからは多少目が合うようにはなったけど、それも短い時間だけですぐに視線を逸らす。

「少しこうしていて良いですか?慣れるためにも」
「胸板で良ければ」
「胸でも胸板でも閣下であればそれで」

変身していない俺の胸に顔を寄せた総領は一切躊躇がない。
言葉通り容姿の性別は気にならないようだ。
総領は到底とは思えないし、夫婦生活では女性の外性器と内性器がある俺がになる訳か。

結婚する(婚約からだけど)ことが決まったからか、こんなピッタリと身体が重なる距離でも落ち着いてるように見える。
その姿だけ見れば主人の身体に乗って寛ぐ猫のよう。

「こうして二人で寛ぐ場所としてソファは狭いな」
「閣下も私も身長がありますからね」

ソファは座ること前提で作られていて幅も狭いから、ベッドで隣同士寝転がるようには出来ないのも当然だけど。

「元々エルフ族は人族よりも身長が高いけど、その中でもプリエール公爵と総領は特に高く見える。幾つある?」
「父は187cm、私は189cmです」
「やっぱりそのくらいあるよな。俺が会った精霊族の中で一番背が高いアルク国王陛下と変わらないくらいに見えたから」
「陛下は父と同じ187cmです」
「よく知ってるな。血族とは言え国王の身体情報を」
「陛下の遊び相手が父だったものですから親交があって。いまだに私たち家族しか居ない場では可愛がってくださいます」
「そういうことか」

プリエール公爵は私事の娘の話題をするし、アルク国王も自分の随行医に検査をさせるくらいだから親しいことは分かってたけど、家族ぐるみでアルク国王と親交があるのか。

「威厳を求められる国王ともなると心許せる相手も限られるだろうし、そういう相手が居るなら良かった」

同じ血族でも叔父のルリジオン公のような人も居るし、血族だからと言って必ずしも心を許せる訳じゃないだろう。

「陛下が最も心を許しているのは閣下だと思いますよ?」
「ん?」
「術式を見て閣下のお名前を呼んだくらいですから」
「術式?」

何の話か分からず聞くと総領は身体を起こして俺を見る。

「大聖堂で陛下の治療にあたっていたのは随行医と枢機卿、それと私たちプリエール公爵家です。ご存知の通り私は回復が得意ではないので、賢者の血を使って描いた術式で陛下の自然治癒力を上げ延命処置を行うくらいしか出来ませんでしたが」
「血で?身体は大丈夫なのか?」

血を使う術式は禁忌ともいえるもの。
賢者だけが使える最終手段の術式で、自分の血で描いた術式に魔力と血を流し込むことで強力な魔法が発動する変わりに命を失う覚悟が必要だとエミーから聞いたことがある。

「大丈夫です。閣下のお蔭でこうして無事です」
「俺の?」
「あの術式でパラメータが回復しましたので」
「え?」
「もしやご存知なかったのですか?」
「初めて発動した特殊恩恵と効果だったから」
「そうなのですか」

覚醒して増えた特殊恩恵。
中の人の声でも聞き取れなかったけど、ステータス画面パネルの文字もアスタリスクになっていて読めなかった。
一切が謎の特殊恩恵の効果にパラメータを回復させる効果もあったなんて今聞いて初めて知った。

「私が分かるのは、閣下が普段お使いの範囲上級回復エリアハイヒールを超越した回復効果があるということ。少なくとも陛下の治療にあたっていた者の中で私の他にパラメータが回復した様子を見せた者は居なかったということ。つまり何某かの条件に当てはまる特定の者にしかパラメータ回復の効果はないと思われます」
「条件に当てはまる者か」

同じ室内でもパラメータが回復したのは総領だけ。
あの時はまだ総領が大聖堂に居ることを知らなかったから、存在を認識してるかどうかは関係ないだろう。

「……陛下は?」
「私は魔法検査が使えませんので」
「ああ、そうか」
「心当たりが?」
「いや、ない」

と答えたけど、もしかしたらと思う条件はある。
それは俺と関係性の深いかどうか。
傷付いた人を救いたいと祈っていたから負傷者全員に回復効果があったのは間違いないけど、俺の意思ではなく認識すらしてなくても個人的に別の効果があったとなると『縁の者という特別な存在だから』という理由くらいしか思い浮かばない。

しかもその時に総領は禁忌の術式で魔力と生命力(血)をゴリゴリに削られている最中だっただろうから、俺の縁の者を死なせないようパラメータが回復したんじゃないかと思う。
そうなるとアルク国王のパラメータも回復したと思うけど、国王の魔法検査は決められた人しか出来ないし公表もしないから確認のしようがない。

「これを嫉妬というのですかね?」
「ん?」
「陛下が目覚めて最初に名前を呼んだのは閣下。条件に当てはまる者と聞いて閣下が最初に思い浮かんだのは陛下。そのことが少し腹立たしいと感じるのは嫉妬かと」

そう言って総領は苦笑する。
総領のパラメータが回復したと言ったから、同じ縁の者のアルク国王も回復したんじゃないかと思っただけなんだけど。

「それでも構いませんが。誰かと比べるでも倣うでもなく私は私らしく閣下を愛しますし、好意の種類は様々でも閣下が私を好意的に見てくれていることは事実ですから」

啄むようにキスする総領に少し笑う。
その切り替えの早さもポジティブ思考も好きだ。
心残りがないよう天地戦までは自由に生きたい総領とは束縛し合う関係にはならないだろうし、理想的とも言える関係性を築けそうな総領に声をかけて良かった。

「さっきの話だけど、あの術式を見てすぐに陛下は俺の特殊恩恵だと分かったってことか?」

本当は術式じゃなくて魔法陣だけど。
術式のことなんて一切知らないし。

「はい。見知らぬ複雑な術式文字だったことと、お身体の一部が欠損して心臓も数回止まった陛下がみるみる回復するのを見て閣下の能力だと私も気付きましたが、陛下は目覚めてすぐに閣下のお名前を口にして、また命を救ってくれたのかと」

そういうことか。
術式で気付いたんじゃなくて、神に近かった時代の初代エルフの感覚で神族の俺の存在を感じ取ったんだろう。
理由が分かっても話せないけど。

「気付いた理由は分からないけど、陛下も含め一人でも多くの人を救うことが出来て良かった。俺が来た時にはもう息絶えてた人のことは救ってはあげられなかったけど、今回の事件で自分が救えなかった人が居たことは忘れず、せめてその人の大切な人は救えるようこれからも鍛えたいと思う」

散っていった命を思って塞ぐことはしないけど、その人が大切に思っていた人を救うことが俺からの餞。

「誰に言われずとも己に誓う閣下は根っからの英雄ですね。精霊族の一人として頼もしいですし、ありがたいことではありますが、私は閣下の良い部分も悪い部分も見たいです。それこそが成婚する一番の特権ですから。既に閣下が心を許している方に私だけが遅れをとらないよう努力をすると誓います」

それを聞いて笑い声が洩れる。

「たった数回会っただけでこれだけ寛いでいられるのは充分心を許してると思うけど。プロポーズまでしたのに」

総領と会ったのは今回で三回目。
ブークリエ国に戻る時に数分だけ会ったあの時を含めてもまだ四回目なのに『成婚しないか?』とプロポーズしたんだから、普通の人の感覚なら考えられないスピード婚(約)だ。

「自覚のある悪い部分を話しておく。俺は束縛されるのが苦手な自由人で、好みのタイプの誘いには弱いチョロい奴で、生粋の貴族の総領と違って堅苦しい口調も態度も苦手だ。メンタルをやられると部屋に閉じこもるし、考えるより先に身体が動くことも少なくないから心配や迷惑をかけることになる」

自覚のあるクズ。
特に自由で居たいのは結婚しても変わらないだろう。
やりたいようにやるし、心配をかけないよう誰かを見捨てることもできない。

「良いですね。自分の本能に忠実なヒトらしくて」

ふっと笑った総領。

「詳しくは追々知って貰うことにして、私のことも幾つか話しておきますね。まず束縛されるのが苦手なのは私も同じです。行動を指示されるのも苦手で自分のことは自分で決めたいですし、興味のある人とない人の差が激しいです。生粋の貴族の生まれでも休日は時間が許す限り寝ていてだらしないですし、研究に没頭してる間は寝るのも忘れて心配も迷惑もかけます」

……うん。
総領もなかなかの自由人だな。

「何より性生活がではないことは覚悟してください」
「おかしな性癖でもあるのか?」
「私にとっては普通ですが一般的には普通でないようです」
「例えばどんな?」
「それは実際に体感して貰えれば。ただ、加減は出来ますし相手に合わせて辞めることも出来ますので安心してください」

俺は割とどんなプレイも許容範囲だけど精霊族は普段も行為も慎ましい人が多いようだし、総領の性癖も普通じゃないというだけの可能性も充分ありうる。

「つまり絶対に嫌なことなら断っていいってことか?」
「はい。ヒントを出しておくと見た目とは違うとだけ」

見た目?
見た目によらない性癖ってこと?

「ああ、エミーと同じ加虐性愛者サディストか」
加虐性愛者サディスト?」
「この世界では知らないけど、俺が居た異世界では性的嗜好の一つに分類される。身体的には縛ったり叩いたり、言葉で精神的な苦痛を与えたりして性的興奮を覚える人のことを言う。加虐すること自体に興奮する人も居れば、相手が浮かべる苦痛の表情を見て興奮するパターンの人も居るけど」

あらゆる性的嗜好の人が揃っていた地球では珍しくなかったけど(俺もどちらかと言うとサド寄りだし)、たしかに性に閉鎖的な精霊族の中だと全く慎ましくないサドは異質なのかも。

「……つまりアポトール公爵に縛られたことがあると?」
「動けないよう魔法で拘束されたことはあるけど、エミーの場合は性行為より戦ってる時がサド。訓練中に楽しそうに笑いながら攻撃して痛めつけたり罵ったりするし、強くなったらなったでそれを返り討ちにすることに興奮する変態の戦闘狂」

楽しそうに笑いながら攻撃してくるし、ゴミを見るような目で人を踏みつけるし、上から目線で罵ってくるし、打ち負かすと嬉しそうに興奮するから加虐性愛者で間違いないけど、道具を使ってどうこうするSM的なサドではない。

「私も多くの人が想像するような営みをする方ではないので先駆者が居るなら安心しました。自制心はあるので優しくしようと思えば出来るのですが、つまらないというか物足りないというか、途中で冷めてしまうんです。それならお互いのためにも行為はしないと決めてしまった方が気持ち的には楽です」

いや、俺の方は安心じゃないけどな?
見た目とは違うと言われたから優男風の容姿とは逆と考えて加虐性愛者なのかと思ったけど、それが道具を使って行うSM的なプレイの話なら俺はされるよりする側でいたい。

「その時になって考えよう。俺にもボーダーラインがある」
「はい。隠しておくのは不誠実ですので話しましたが、痛くないよう優しく耳許で甘い言葉を囁きながらという女性が好みそうな性行為は私には出来ないとだけ理解していただけたら」
「了解」

要は王家や貴族が閨担当の教育係から教わるようなお綺麗な一般的プレイじゃないということだろう。
俺も相手の好みに合わせてやり方を変えるタイプだし、極一部の人にしか突き刺さらない激萎えするようなプレイじゃなければ問題ない。

「婚約前に性癖の話にまで至るとは思わなかった」
「異世界では契約や盟約を交わさないのですか?」
「え?性癖のことまで交わすの?」

貴族は成婚する時に夫人が使える金額や子供の人数や役割やなどの大事なことを書面にして契約を交わしたり、互いにして欲しくないことや守って欲しいことを決めて盟約を交わすことは知ってたけど、そこに性癖も含まれるってこと?

「貴族は政略結婚が主ですので当然含まれます。夜伽に関して多いのは回数についての盟約で、子を授かるまでは週に一度、授かってからは月に一度というように話し合いで決めます」
「外せない仕事の予定みたいだな」
「子作りも貴族の義務ですので」

キッパリ言った総領。
断言するくらい貴族にとっては当たり前のことなんだろう。

「それ以上はしないという訳ではないですよ?子を授からなければ肩身が狭い思いをするのはお互いさまですから、そうならないよう最低でもその回数は必ず行うという約束であって、仲のいい夫妻でしたらその時々の気分で行うでしょうし」
「ああ、そういうことか」

政略結婚で結ばれた相手だけに行為自体をしたくない夫婦も居るだろうけど、貴族にとっては重要な跡継ぎを遺すために最低でもその回数はして義務を果たしましょうということか。

「私たちはどうしますか?」
「最初から子供を授からないと分かってるから義務でする必要がないし、したくない人はしなくて構わない」

白い結婚(肉体関係のない夫婦のこと)でも全然いい。
俺としてもその気がない人と無理にしたいと思わないし。

「するもしないも自由ということですか?」
「うん。俺にも性欲はあるけど、義務だからやるって人とやっても楽しめない。ただ性欲を解消するだけなら一人でやる方が気軽だし、疲れるだけの行為を無理にする必要ないだろ」

子供が出来る人なら公爵家の跡取りを授かるために必要な行為だとしても、出来ない俺にとって性行為は快楽を得る手段。
そこが合わない人とやってもお互いの時間と労働力が無駄になるだけだし、自分で手軽に済ませて解消する方がマシ。

「私はしたいです」
「じゃあしよう」
「では回数を決めずお互いのその時の気分ということで」
「俺としてもその方が助かる」

やりたい時にやる。
それがベスト。

「……私はしたいですって。正直者」
「私も健全な男性ですので。ヒトとしても性的にも魅力を感じている閣下としたくないと言うはずがありません」

慎ましい精霊族のはずなのにどストレートな正直者だと思って笑うと総領は苦笑する。

「プレイ内容の許容範囲は広い方だから総領の性癖にも付き合えるとは思うけど、俺からも一つ条件がある。行為の最中は自分の本能を曝け出して快楽に溺れるくらいでいい。お互いに気持ちよくなれないならやる意味がないと思ってるから」

俺がそういうタイプだから義務(義理)ではしたくない。
性欲を発散する為にやるのに逆にストレスを溜めたくない。

「言われずともそうなるかと。好きでもない有象無象とするのと狂おしいほど好きな人とするのでは違いますから。好意が溢れ過ぎて盛りのついた獣にならないよう気をつけます」

総領もなタイプか。
俺もそうだから性の不一致というパターンはなさそう。
慎ましい行為は望んでない。

「見た目は無害そうな優男風なのに性癖はアニマルとかギャップ萌えで最高だろ。むしろ好みのポイントが増えた」

正しく『昼は淑女、夜は娼婦』というアレ。
ギャップに弱い俺の性欲を擽ってくれる。
色気のあるスタイルのいい美形で、優男風の顔の裏に一筋縄ではいかない腹黒さも持ってる策略家で、トドメに性癖の歪んだアニマルとか、俺の好み以外の何者でもない。

「閣下は好みのタイプが少々特殊ですね」
「ただ容姿がいいだけの人じゃ満足できない。俺は人生を楽しみたいんだ。食事の時には美味いものを食べて腹も心も満たされたいように、性行為だってお互いに楽しみながら快楽で満たされたい。そういう本能に忠実なタイプの奴は嫌いか?」
「いえ?私もそうですので」

くすりと笑った総領は軽く口付けて答える。
俺もそれに返すと今度は深く重なって舌を絡めてきた。

この人とは馬が合いそうという直感は間違ってなかった。
これも縁の者だからなのか、単純に好みのタイプだからなのか分からないけど、ただのキス一つでも妙に性欲を擽られる。
絡めてくる舌の動きもしっかり男っぽくていい。

男性とやる時は男性とやりたいからするんであって、女性っぽい男性は求めてない。
女性とやる時は女性とやりたいからするんであって、男性っぽい女性は求めてない。

男性とやる時に求めるのは男らしさ。
女性とやる時に求めるのは女らしさ。
女性っぽい男性とするなら最初から女性とやればいいし、男性っぽい女性とするなら最初から男性とやればいいだけ。

だから総領のように女性らしさは一切感じない相手は好き。
しっかり男性として俺というを狩ろうとしている。
狩る側ハンター狩る側ハンター攻防戦性行為もそれはそれで楽しい。

「そのまま初めそうな勢いだな」
「閣下が自分の伴侶になると思うと自制心が。せめて婚約するまでは誠実さを欠くなとは自分でも思うのですが」

服の中に手が入ってきて言うと自分でも思っていたらしく困ったように笑う。

「俺は婚約するまで触れるなってタイプじゃない。ブークリエ国軍が到着するまでは時間もあるから全然このまましても構わないけど、着替えを届けに来てくれたことを知ってる国仕えや待たせてる総領の従者は疑うだろうな。人目のない部屋に二人きりで長時間こもって何をしてるんだろうって」

城には無断で入れないし英雄に会うにも許可が必要。
当然総領も先に師団へ報告をして話を通しただろうから、アルク国王に頼まれて俺の着替えを持ってきてくれたことも俺が居る来賓室に居ることも師団や警備は知っている。

「この場で今すぐにでも婚約発表をしたい気分です。それなら婚約者との仲を深めているだけのことで、火遊びで偉大な英雄に手を出した不届き者と断罪されずに済むのですが」

そんな返事を聞いて笑う。
婚約者(恋人)でもないのに保護法で守られている俺に手を出した(しかも王城で)となれば問題になることは総領も承知。
同意の上でなら何の問題もないけど、まだ両性だと知られてない今は余計な噂にならないようやめておいたほうがいい。

「ご両親に話を通して婚約してからにしよう。今この瞬間の欲求に流されて性欲は満たされても、一度のそれが今後する成婚の障害になったら困る。もう俺の中では総領と婚約して成婚することが決定事項になってるから」

国王の血族で国の重鎮でもある公爵家だから信頼されて様々なことを任されてるんだろうに、貴族の常識に反して不誠実なことをしたと思われるのはよろしくない。
結婚(婚約)する相手だからこそ、俺とのことで総領やプリエール公爵の名声が落ちるようなことはしたくない。

「私にとっても決定事項です。婚約まで我慢できるかは分かりませんが、その時はせめて王城ではない場所にしますね」

これは婚約まで待ちそうにないな。
そうなっても賢い総領なら上手くやるんだろうけど。
悪い顔をしている総領に笑い声が洩れた。


今日話して約束したことは婚約後に盟約として書面で交わすことと、今は事件が起きたばかりだから落ち着いたら先に両親へ話しておくと言って総領が帰ったあと、そのままソファでひとりウトウトしていると腕輪の魔封石がチカチカする。

「はい。誰?」

半分寝ぼけながら魔力を通すと映し出されたのは魔王。

『寝ていたのか。起こしてすまない』
「大丈夫。うとうとしてただけだから」

正装をしている魔王。
今日は全ての魔族に向けて行われる新年の祝儀だから、顔を出す必要がなくなる夜までは正装したままでいるんだろう。

『地上の祝儀はもう終わったのか?』
「祝儀は問題なく無事に終わったけど、そのまま祝賀ムードで続くはずだった一般国民の祭りは中止になったと思う」

新星ノヴァの祝儀の日も王都では祭りが開かれる。
俺は明日の夜に魔王城で行われる祝い(魔王軍の人との晩餐)に半身として参加するから、それまでにやれることはやっておこうと思って今回は行かないつもりだったけど。

『祝儀の後に何かあったということか?』
「うん。一般国民を巻き込む爆破事件が起きて死者も出た。それでもブークリエはまだ被害が少ない方で、同時に事件が起きたアルク国の被害の方が大きい。俺が今居るのもアルク国」

魔王に祝儀が終わってからのことを説明する。
死者が出ている時点で充分な被害だけど、爆発した数が多かったアルク国の被害はもっと深刻。

『爆発物の注意を怠っていたのか?』
「ううん。勇者たちも参加する祝儀だから警備は普段よりも厳重だった。広場に入る人は全員が手荷物検査を受けてるし、不審物が仕掛けられてないかの点検も軍が数日前から何度も繰り返してる。それでも発見できなかったのは体内だったから」
『体内?』
「うん。体内に埋め込んでたんだと」

報告の際に国王のおっさんから聞いた話。
爆破犯の近くに居て重症を負いながらもシェルの回復で生き残ることが出来た人たちから状況を聞いたらしい。
祝儀が終わって祭りに行こうと話す国民でごった返す中、一人の男が突然爆発したと。

『最初から周囲を巻き込んで自爆するつもりだったのか』
「そういうこと。アルク国は祝儀の最中に爆破したんだけど、犯人の中に聖職者が居て国王や王妃が使うバルコニーの傍に仕掛けられてて襲撃も受けてる。その犯人もブークリエ国の犯人と同じく教皇や枢機卿を巻き込んで自爆したらしいけど」

こっちはアルク国王から聞いた話。
アルク国王は重症の身でありながら襲撃犯を粛清してそのあと生死を彷徨っていたから、尋問官が逮捕者に尋問して吐かせた話や聖職者の話を目覚めてから聞いたようだけど。

『民を救うはずの聖職者が命を奪うとは愚かな』
「本当に。ただその犯人っていうのが普段からアルク大聖堂に居る聖職者じゃなくて、結界をはるために他所の教会から手を貸して貰った人の中の一人だったらしい」

アルク大聖堂は問題が起きたばかり。
教皇や枢機卿も逮捕されて結界をはるための魔力が足りないから他所の教会から来て貰ったらしい。
信心深く真面目な人だったから誰一人として企みに気付けなかったと教皇代理(アマデオ枢機卿)が言っていたと聞いた。

『それでお前は大丈夫なのか?』
「大丈夫。勇者が襲撃を受けたから咄嗟に庇って銃で腕を撃たれたけど、回復したから今はなんともない」

以前の肉体は死んでしまったけど。
でもそれを言ったらどうして生きているのかを話さないといけないし、何より不安にさせると分かっているから言わない。

「そうだ。俺、両性になったから」
『……は?』
「覚醒したら身体も変化して両性になった」

覚醒したタイミングで両性になったことにして話すと魔王は無言のまま固まる。

「息してる?」
『……創造神の寵児のお前を常識に当てはめるには奇怪過ぎて大抵のことには驚かなくなったが、遂に性別までが変化を』
「種族が変化したことの方が大きかったと思うけど?」

俺が奇怪なんて今更だろうに。
そう思う俺に魔王は顳かみを押さえる。

「両性の俺はイヤか?嫌いになった?」
『そんなことがあるはずがないと知りながら小賢しい』

知ってる。
魔王には俺の魂色が見えているから、両性になろうと女性になろうと例えクリーチャーになろうとも俺だと分かるだろう。
そしてどんな姿の俺でも好きで居てくれることも。

「フラウエル。俺もフラウエルが好きだから」
『……また月喰期の支度をさせるつもりか』
「俺がフラウエルに好きって言うことが天変地異が起きるレベルの一大事のように言わないでくれる?」

ふんと目線を明後日に向けている魔王は少し照れくさそう。
ギャップで萌え死にそうだから辞めて欲しい。

「両性になった身体は真っ先にフラウエルに見せるよ」
『見せられては止められなくなるだろうに』
「良いけど?二日間はそっちに居るんだし」
『明日の祝いの晩餐は中止にすると伝えておく』
「それは駄目だから!」

止める俺に魔王はニヤリと笑う。
今の今まで照れてた癖に。

起きた事件のことを考える暇もないくらいに魔王と話す。
夜まで眠ろうとしていたのも起きて一人でいると考えてしまうからで、祝儀の合間の貴重な休憩なのに魔王が通信を辞めないのも俺の心境を察してだと思う。

必要以上のことを考えて塞ぐことはしない。
国王のおっさんやアルク国王が言っていたように残された人の日常を取り戻すことが大事。

普段通りの俺で時間の許す限り半身の魔王と話し続けた。

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「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

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