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第十三章 進化
アルシュ領
しおりを挟む総領の両親に挨拶した翌日。
今居るのはアルク国の王都から馬車に乗って一時間ほどの距離にあるアルシュ領のヴェールという街。
「お足元にお気をつけください」
「ありがとう」
乗り合い馬車から降りる俺をエスコートするのはエド。
先に降りていたベルは周囲を確認している。
街の門が見える位置にある馬車の停留所には既に二台の乗り合い馬車が停まっていて、俺たちがプリエール領から乗った乗り合い馬車からも他に数人の男女や家族が降りた。
門の前に並んでいる人の列に俺たちも並ぶ。
その横をすぃっと通り抜けて行く人はこの街の人だろう。
街の出入りは王都と同じく水晶に身分証(ギルドカード)を翳すやり方と門番に通行料を渡して入る二種類。
俺たち三人はギルドカードを持っているから水晶に翳してすぐに街に入ることが出来た。
綺麗に舗装された広い道を少し歩くともう店が。
経済的に豊かなアルク国にある街だけあって、商店だけでなく何気なくある建物もしっかりした造りの二階建てが多い。
「話に聞いてた通り活気のある街だな」
「はい。王都から乗り合い馬車一本で来れますし、この街で商いをする商人が多いのも理解できます」
辺りを見渡しながらエドと会話を交わす。
街に入って数分足らずの入口とも言える場所ですら人が行き交っている。
「ベル。そこまで警戒しなくても大丈夫。姿は変えてるし」
今日の俺の姿は雌性。
英雄の肩書きがついてる元の姿だと領主に話を通して正式訪問として迎えられて自由に見て回ることが出来ないし(安全上の問題で行ける場所が限られる)、話を通さず来ても人が集まり騒動になったりと迷惑をかけてしまうから、自由に行動できるよう雌性になってフード付きのコートで髪の色も隠している。
「愛らしいシンさまを付け狙う下郎が現れるかもしれません。プリエール公爵家の方々も心配していたではないですか」
「いや、あの家族は過剰なだけで」
昨日に引き続き今朝も何度気絶されそうになったことか。
雌性の俺の姿を見たのが総領以外は初だったからそこでも気絶されそうになったし、元の姿よりか弱く見えることもあって出掛ける時まで乗り合い馬車で行くことやエドとベルしか護衛を連れて行かないことを心配されて軽く騒動だった。
「たしかに公爵家のみなさまは過剰気味ではありますが、それほどシンさまを大切に思っている証拠かと。だから元のお姿で出掛けると聞けば襲撃を受けたり熱狂的な人に囲まれ怪我をする心配を、今のお姿で出掛けると聞けば人攫いに拐われたり下心を持つ者が近寄って来る心配をしてしまうのでしょう」
そう話しながら苦笑したエドにベルも大きく頷く。
最初はプリエール公爵家の人たちの変わった言動(この星の人から見ると)に軽く引いてた二人も、昨日一緒に過ごしてみて『この人たちは主人の敵ではない』と信用できたんだろう。
「とは言えベルもやり過ぎなのは確か。人が多いし知らない街だから心配なのは分かるけど、警戒し過ぎて威嚇になってる。ただ通り過ぎようとしてるだけでジロジロ見られたら気分が良くないし、護衛がそんなにも警戒するほどの御仁なのかって逆にシンさまへ注目が行く可能性もある。護衛の自分たちの印象も少なからず主人の印象に影響することを忘れないで」
「ごめん」
エドの説教タイム。
普段(姉と弟)の時は気が強いベルを穏和なエドが宥めることが多いけど、役割のことになるとしっかり『英雄の執事で英雄公爵家の家令』になって姉でも容赦なく注意する。
「よし。説教は終わり。せっかく来たんだから用事を済ませるだけじゃなくて観光も楽しもう。土産も買わないとな」
エドとベルの手を握って笑う。
心配してくれるのも注意するのも主人の俺を思ってのこと。
それが嬉しいしありがたいけど、せっかく来たんだから三人で観光も買い物も楽しみたい。
二人も俺の気持ちを察してくれたのか笑みを浮かべた。
観光や買い物は後でゆっくりすることにして、街中を走る小さな乗り合い馬車で目的地に向かった。
「商業地区とは違って長閑ですね」
「うん。向こうはあんなに人が沢山居たのに」
ヴェールに入ってすぐの所は商業地区。
そこを奥に行くと街の人が暮らしている住居地区がある。
そちらは田園が広がっていて別の街に来たかのよう。
「ヴェールは初めてですか?」
「はい。美味しい果物があると聞いて」
「そうでしたか。ありがとうございます。ヴェールには商業地区が目的で来られる方が多いですので、住居地区に向かうこの馬車に観光客が乗るのは珍しいと思いまして」
今日も昨日に引き続き天気がいいから景色を見たくて幌なしの小さな乗り合い馬車に乗ったけど、御者はこの街の人らしく気さくに声をかけてきてくれて話をする。
「この街は果物が特産品だと伺ったのですが」
「はい。ただ最近は他所から来た商人があらゆる物を販売しているためにヴェールの特産が何かを知らない方も多くて」
「そうだったんですか」
「王都に行けば見栄えのいい果物が売られていますし、わざわざ果物をここに買いに来る必要もないので仕方ないですが」
エドに答えた御者。
街が発展するのはいいことだけど、特産品のはずの物の影が薄くなってしまったことには複雑な心境なんだろう。
田園風景の中を進みながら御者からこの街の話を色々と聞かせて貰ってる間にも終点まで到着。
後は歩いて目的地に向かう。
「様々なお話をありがとうございました」
「お代はいただきましたよ?」
礼を言いながらエドが渡したチップにきょとんとした御者。
「お心付けです」
「え!こ、こんなに受け取れません!」
「街の人ならではの貴重なお話しをお聞かせくださったことに対するお礼ですからどうぞお受け取りください。ためになるお話をありがとうございました」
俺が言葉を付け足してカーテシーでお辞儀をするとベルも同じくカーテシーで、エドも胸に手をあててお辞儀をする。
「あ、ありがとうございます」
「こちらこそありがとうございました。ごきげんよう」
受け取ってくれたことを確認して再度お礼をしてから終点の停留所から離れた。
「人のいい御者でしたね」
「うん。穏和で気さくな人だったし、何より街のことは実際に暮らしてる住民から話を聞くのが一番だからな」
俺たちの目的が果物だと知って嬉しかったのか、この辺りの田畑では何を作っているとか、果樹園の数や何の果物を作っているとか、農家の人たちの大変さまで、詳しい人から聞かないと分からないようなことも教えてくれて為になった。
「立派な領主屋敷だな」
「そうですね」
この位置から少し離れた丘の上にある大きな屋敷。
御者が領主の別邸だと教えてくれたそれを横目に見ながら住居地区を進んで行く。
ポツリポツリとある建物は住居や倉庫。
畑があったり果樹園があったりと様々だけど、この街で暮らしている人たちの生活が垣間見えた。
「あ。あれではないですか?あの大きめの建物」
「ああ、それっぽい」
長閑な景色を眺めながら歩いていて、住居や倉庫とは違う造りの建物を道の先に発見したベルが指をさす。
「ランコントル商会。ここだ」
大きなログハウスの上の看板を読むと、目的地だった『ランコントル』の文字が。
「ってことは隣の家がレオポルトとアリアネの住居か」
アルク王都校で出会った二人。
あの時の『また』という約束を果たしにこの街へ来た。
「貴族と聞いた記憶が」
「うん。騎士爵のコーレイン家」
「謙虚なお屋敷ですね」
「たしかに」
商会はログハウスの作りながらそれなりの広さがありそうなサイズだけど、隣接する住居の方はベルが謙虚と表すのも納得の小さなログハウス。
「慎ましい生活をなさっているようですね」
「そうみたいだ」
騎士爵は領地を与えられない一番下の爵位。
それでも貴族には違いなく、途中で見かけた家とあまり変わらない大きさの屋敷に暮らしてるとは思わなかった。
そんな話をしてると商会のドアが開く。
「本当に家まで送らなくて大丈夫?」
「大丈夫だって。心配症なんだから」
「当たり前でしょ?お腹の子に何かあったらどうするの」
「少しは歩かないとね」
中から出て来たのは二人のご婦人。
一人は妊娠中らしくお腹の大きなご婦人、もう一人はエプロンをしているご婦人。
「ほら、お客さまじゃない?」
「あ、失礼いたしました。どうぞ中でご覧ください」
「ありがとうございます」
商会の前に居た俺たちに気付いたご婦人が言うと、エプロン姿のご婦人は謝罪したあと笑顔で声をかけてくる。
「ほらほら接客」
「もう。本当に大丈夫なのね?」
「大丈夫。まだ生まれる気配がないから困ってるのに」
心配そうなエプロン姿のご婦人の背中を押すご婦人。
接客しろと促されてるということはエプロン姿のご婦人は商会の従業員だろうけど店員と客という感じではないから、親しさから見て仲のいい友人同士なんだろう。
「臨月なのですか?」
「そうなの。予定は過ぎたのにまだ生まれなくて」
「お子さまは双子でしょうか」
「え?良く分かったね」
「お腹が大きいので。私と弟も双子なんです」
「あら、貴女たちも?」
妊娠中のご婦人に声をかけたのはベル。
たしかに大きなお腹をしているから双子と言われると納得。
「ご自宅はここから近いのですか?」
「ええ。私の足で十五分くらいかしら。どうして?」
「ご迷惑でなければ私の従者をお連れください。もし帰り道で産気づいても彼女でしたらすぐに対応が出来ますので」
「え!いいいい!大丈夫よ!」
「その方がこちらのご婦人も安心でしょうから」
接客はしないといけないけど友人も心配。
それが伝わったからベルを連れて行くよう提案する。
万が一途中で産気づいてもすぐ対応できるように。
「でも知らない人に送って貰うのは」
「申し遅れました。レオポルトさまとアリアネさまからご紹介を受けて商会へ訪問いたしました、メテオールと申します」
「執事のエドワードと申します」
「召使のベルティーユと申します」
たしかに知らない人に付いて来られるのは怖いだろうと気付きフードを降ろしてカーテシーで挨拶をする。
「「英雄色」」
俺を見て同じことを言ったご婦人二人に微笑む。
「あ!もしかして、アルク校の体験入学で御一緒した」
「はい。一人で来ていた私を心配して一緒に回ろうとお声がけくださいました。その際に家の隣にある商会で果物を販売しているとお聞きしまして、本日は果物を買いに」
「やっぱり!帰ってきてから二人とも英雄色の可愛らしいご令嬢と出会ったと嬉しそうに話してたんです!」
二人が話したようで特徴色ですぐに気付いたご婦人。
こういう時は分かりやすい特徴があって良かったと思う。
「体験入学の際にレオポルトさまとアリアネさまから大変良くしていただきました。私の従者もそれを知っておりますので、御二方にご迷惑をおかけするようなことは決していたしません。万が一の時のためにどうぞお連れください」
怪しい者じゃないのを話してもう一度提案する。
なぜそう感じたのか自分でも分からないけど今日中にお腹の子供が産まれる気がしたから。
「お言葉に甘えたら?私もその方が安心」
「うーん……でも良いの?主人から離れることになっても」
「弟がおりますので。よろしければお供いたします」
「……じゃあお願いしようかな」
心配する友人を慮って折れた感じだけど、臨月のご婦人の自宅までベルが送り届けることになった。
「ありがとうございます」
「いえ。お節介をしただけですので」
深々と頭を下げたご婦人にそう返す。
下手したら帰り道に産気づく可能性があるから俺としても心配だっただけで、たんなるお節介だ。
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。レオポルトとアリアネの母、サンドラ・コーレインと申します」
「ご挨拶ありがとうございます」
一般国民だろう友人が帰った後カーテシーで挨拶を交わす。
俺の方は苗字や爵位名を名乗ってないけど、従者を連れてる時点で貴族だとは分かってるだろうから貴族式の挨拶で。
「二人は主人と販売用の果物を取りに果樹園へ行っておりまして。じき戻りますのでよろしければ中でお待ちください」
「ありがとうございます。それまで商会の販売物を見せていただいてもよろしいでしょうか」
「どうぞ。小さな商会でお恥ずかしいですが」
案内されて入った中には棚やテーブルが並んでいる。
余計な物が置かれてなくて素朴で落ち着く店内だ。
「窓際にテーブルと椅子があるということは店内で飲食物をいただくことが出来るのですか?」
「果物を使った数種類のドリンクも扱っておりますので」
やっぱりイートインスペース。
女性が好みそうな可愛らしいテーブルクロスが敷かれた丸テーブルが二つと横長のテーブルが壁際にある。
「体験入学の際にアリアネさまからお誘いいただいてカフェテリアに足を運びましたが、商会でも果物のドリンクを取り扱っていたから熱心にメモを取られていたのですね」
俺に好みの味を聞いてメモしていたアリアネ嬢。
レオポルトとも熱心に濃さや果物の配分など話していた。
「あ、それがきっかけで取り扱うようになったのです」
「え?あの後から始めたということですか?」
「はい。商業地区は賑わっておりますが住居地区まで足を運んでくださる方は少ないですから、何とかここまで足を運んで貰えないかとあの子たちも色々と考えてくれて」
なるほど。
御者も住居地区に向かう馬車に観光客が乗るのは珍しいと言ってたから、ここまで足を運んで貰える何かをアリアネ嬢たちも考えたんだろう。
「商業地区に商会のお店は出していないのですか?」
「小さくても以前はあったのですが」
「以前は?」
言いにくそうな様子を見て首を傾げると商会の扉が開く。
「収穫して来たよ」
「お帰りなさい」
扉から箱を抱えて入ってきた男性。
恐らくレオポルトとアリアネ嬢の父親だろう。
その姿を見て夫人はすぐ扉に向かう。
「あ、失礼し……」
客が居ることに気付いて謝ろうとしたんだろうけど、俺を見て言葉が止まった。
「え、英雄色」
「きゃあ!」
唖然として箱を落としたのを見て夫人が声をあげる。
「どうした!」
「お母さま!?」
母親の悲鳴で掛け込んできた二人。
「「え?」」
何事かと驚いた様子だった二人は俺と目が合うと停止した。
「メテオール!」
先に声をあげたのはアリアネ嬢。
ハッとしたレオポルトと一緒に走って来ると俺に抱きつく。
「本当に来てくれたんですね!」
「約束しましたから」
「また会えて嬉しいです!」
まるで興奮した犬。
喜びを全身で現すアリアネ嬢の背中を軽く叩く。
「レオポルトさまもご無沙汰しております」
「ああ。まさか本当に足を運んでくれるとは」
「約束は守ります」
レオポルトの方は『付き合いで言っただけ』と思っていただろうから、本当に来たことに驚いたようだ。
「申し訳ありません。ありがとうございます」
「いいえ」
男性が落とした果物を風魔法で箱に入れるエド。
再会に喜ぶこちらの邪魔はせずスっと行って手伝うエドは気の利く有能な執事。
「先ほどサンドラ夫人から二人は販売用の果物の収穫に行っているとお聞きしましたが、あれもそうですか?」
「ああ。その予定だったが、落としたから売れない」
「食べられない訳じゃないからドリンクにすれば大丈夫」
「そうしよう」
箱から転がったのは青(緑)のアプール。
落ちたアレも販売用だったのか聞いた俺に答えた後ドリンクにして販売することを話す二人の会話を聞きながら鑑定する。
「蜜柑味なのか」
「え?」
「ん?」
「あ、美味しそうな果物ですね」
鑑定結果に出たのはまさかの蜜柑味。
アプール(この星の林檎)の色違いにしか見えないその見た目で青リンゴかと思ってたからつい口にしてしまった。
「試食してみるか?気に入ればまた収穫してくる」
「よろしいのですか?」
「ああ」
「落ちた果物をメテオールに?」
「あ。そうか」
「大丈夫です。汚れたのは皮だけですし」
「貴族のご令嬢とは思えない言葉だな」
召喚されるまでただの一般人だったからな。
笑うレオポルトやアリアネ嬢と一緒に果物を拾い終えた三人の所に行く。
「傷んでないのは」
しゃがんで緑のアプールを両手に取って一つずつ調べるレオポルトとアリアネ嬢。
「傷んでないのをどうするんだ?」
「メテオール嬢に試食して貰う」
「ば、馬鹿!落ちた物を貴族さまにお出しするなんて!」
「構いません。中身が床についた訳ではないのですから」
慌てて止める父親に言うと『え?』という顔をされる。
まあ普通の貴族令嬢なら嫌がるだろうけど。
「これは?」
「ああ、これなら良さそうだ」
「試食ですから傷んでいても構いませんよ?」
「いや。どうせなら食感も楽しんで欲しい」
「ありがとうございます」
俺としてはいかにも売り物にならなそうな見た目の物で良かったんだけど、試食だろうと拘りがあるのはさすが。
「洗って剥いてきますね」
「お手数になりますから私が」
俺に見せて洗いに行こうとしたアリアネ嬢の手から受け取り魔法で作った水球で表面を洗って風魔法で皮を向く。
その間にエドが魔導鞄から出してくれた皿に六等分に切ったそれを並べた。
「いただいても?」
「は、はい!どうぞ!」
「ありがとうございます」
実も林檎にしか見えないそれをピックで刺してくれたエドから受け取り口に運ぶと、鑑定に出ていた通り地球で食べていた懐かしい蜜柑の香りがする。
「……美味しい」
本当に蜜柑。
食感はシャクシャクの林檎なのに味は完全に蜜柑。
知らずに出されたら蜜柑の形を思い浮かべてただろう。
「やはりメテオール嬢の好みの味か」
「ん?」
「カフェテリアでジェネルーを選んだだろう?これはパルファンという名の果物でジェネルーよりも安価で販売されている果物だが、似た味のこれも好きなんじゃないかと思った」
ああ!カフェテリアで飲んだあれか!
あっちは完全に蜜柑の見た目だったし飲み物にしてもつぶつぶが入ってたから全くの別物だけど、味という一点ではたしかにそっくり。
「レオポルトさまの予想通り好きな味です。美味しい」
「良かった」
果物を気に入って貰えたのが嬉しかったのかレオポルトは表情を緩ませる。
「どうぞ従者の方も召し上がってください」
「私は護衛中ですので」
「エド。一ついただきなさい。美味しいですから」
「ではお言葉に甘えて」
アリアネ嬢に断ったエドへ食べるようすすめる。
貴族の従者や護衛としては途中で飲食物を摂らないのが常識だけど(トイレに行きたくなるから)、俺の場合はエドやベルと一緒に飲み物も飲めば食べ物も食べる。
今日は正体を隠してる俺に合わせて一般的な従者や護衛を装ってるから断ったんだろうけど。
「初めていただきましたが、酸味がある果物なのですね」
「苦手ですか?」
「いえ。とても美味しいです」
「ありがとうございます」
アリアネ嬢もエドの感想を聞いてニコニコ。
この兄弟はほんと果物(を褒められるの)が好きだな。
「ジェネルーより多少糖度は低いと感じますが、これだけの高い質の果物を安価で販売しているのですか?」
「アルク国の気候で育つ果物ですので輸送料や税のかかる場所で販売する際には少し価格があがりますが、パルファンは比較的一般国民でも手に取りやすい価格帯の果物の代表です。一つの樹にかなりの数がなることと育て易いこともあって」
「なるほど。だから安価で販売できるのですね」
二人の父親が教えてくれたそれを聞いて納得する。
そのまま食べるなら糖度の高いジェネルーを好む人が多いだろうけど、料理として使うのなら糖度が低めのパルファンの方が細かい味の調整ができて使い勝手がいい。
「メテオール?」
「すみません。一つの樹にかなりの数が実ると聞いてどのようになっているのかと気になって」
また悪い癖でどんな料理に使えるだろうと考えていて顔を覗き込むように見たアリアネ嬢に誤魔化す。
「それなら見に行きませんか?」
「え?」
「うちの果樹園。他の果物もありますし」
「部外者の私が見てもよろしいのですか?」
「大丈夫だよね?」
「ああ」
そんな軽い感じ?
アリアネ嬢が確認すると父親もすぐに頷く。
「あ、でももう一人従者が」
と言ってる最中に扉が開く。
「ご自宅まで無事にお戻りになりました」
「ありがとう」
「助かりました。ありがとうございます」
「お役に立ちましたなら幸いです」
入って来たのはベル。
俺に報告したあとお礼を言った夫人にもちょこんとスカートを掴んで軽くカーテシーで応える。
「メテオールの侍女ですか?」
「あ。そう言えばサンドラ夫人以外にはご挨拶がまだ」
母親には挨拶をしたけど果実園から戻ってきた父親やレオポルトやアリアネ嬢には紹介してなかった。
少なくとも俺の従者だってことは分かってるだろうけど。
「改めまして、メテオールと申します」
「執事のエドワードと申します」
「召使のベルティーユと申します」
俺と一緒に貴族爵を持つ父親にまず挨拶をしてから、エドとベルは次いで長男のレオポルト、妹のアリアネと挨拶する。
「ありがとうございます。デニス・コーレインと申します」
「どうぞよろしくお願いいたします」
挨拶はカーテシーとボウアンドスクレープで。
この場で苗字や爵位名を名乗るつもりはなかったから、俺の方から先に名乗った。
「ご挨拶も終わりましたから果樹園に行きましょう」
「ありがとうございます」
俺の手を掴んだアリアネ嬢はニッコニコ。
相変わらず元気で明るい。
「果樹園まで十分ほど歩くが大丈夫か?」
「はい。お供させてください」
「小さいのだから荷車に乗った方がいいんじゃないか?」
「お兄さままたそんなことを!」
「疲れてしまいそうだから言っただけで」
「言い方の問題です!」
体験入学の時にも聞いたそんな兄妹の会話に笑う。
言葉を選べないレオポルトも相変わらずだ。
「ほらほら!みんなで果樹園に行って収穫しよ!」
「え?お母さまも行くの?お店は?」
「閉めて行くよ。貴方たちから話を聞いて遠くから足を運んでくれたんだから一番美味しそうな果物を収穫しないとね」
「うん!」
母親も商会を閉めて一緒に来るらしく、アリアネ嬢は嬉しそうに大きく頷いた。
カタンカタンと揺れる荷車。
一度目の収穫分の箱を全て降ろしたそこに乗せられて果樹園に向かう。
「メテオール、お尻は痛くないですか?」
「大丈夫です。申し訳なさは凄いですが」
荷車の隣を歩いているアリアネ嬢から聞かれて答える。
貧弱な見た目のせいでたかが十分足らずの道を歩くことすら心配されて、結局は布を敷いた荷車に乗せられてしまった。
「レオポルトさま、重くないですか?」
「小さなメテオール嬢を乗せたところで変わらない」
「大丈夫です。お兄さまは毎日この道を通って収穫後の果物を運んでますから」
荷車を引いてるレオポルトに聞くとアリアネ嬢がスっとレオポルトの所に行って軽くパンチしながらフォローを入れる。
「小さい小さい言い過ぎです」
「本当のことだろう?」
コソコソ話す二人に苦笑する俺とクスクス笑うエドとベル。
たしかにエルフ族と比べて背が低めの女性が多い人族の中でも雌性の時の俺は小さいけど。
「十分ほどですとご両親は到着した頃でしょうか」
「もう着いてると思います」
話題を変えるために話しかけたエドに答えたレオポルト。
錠を開けて準備をしておくと言ってコーレイン夫妻は一足先に行っている。
「「あ」」
声を漏らした二人にどうしたのかと首を傾げる。
「「ご挨拶申し上げます」」
荷車を止めて挨拶をした二人。
誰に挨拶したのかと二人の後ろから覗く。
「今から収穫ですの?」
「そうです」
「大変ね。泥まみれになって収穫するのだから」
「今日は果樹だけですから」
「でも虫が居るのでしょう?」
誰かと思えば訓練校で会ったアメリア嬢。
仲良し三人組なのか、カフェテリアで会った時と同じくパストルとジェレミーの兄のレアンドルも一緒にいる。
自分たちより国民階級が上の三人が居たからわざわざ足を止めて挨拶したのか。
「ようやく従業員を雇えたのか」
「こちらの方々は従業員じゃありません」
「なんだ、違うのか。まあ今の経営で雇えるはずもないな」
この三人(二人)も相変わらず。
貴族の礼儀に従って足を止めて挨拶をしたレオポルトとアリアネ嬢に嫌味を言って笑っている。
「いかがなさいますか?」
「潰しましょう」
「落ちつけ。下手に事を荒らげると迷惑がかかる」
コソッと聞いたエドとコソッと潰そうとする黒いベル。
部外者の俺たちが事を荒らげてコーレイン家が後ろ指をさされて商いをできなくなったら困る。
パストルとアメリアだけならまだしも領主家の長子のレアンドルが居るから。
ヴェールはルセ家の領地の一つ。
本家は王都にあるらしいけど、元財政官僚の祖父母が引退後にここで暮らし始めたとプリエール公爵から前情報を貰った。
だから街中で会ってもおかしくないんだけど……。
「毎日虫と戯れているから図々しいのかしら」
「逞しいと言ってやれ」
「あら優しいのね」
「レオポルトさま、アリアネ。そろそろ参りましょう?」
「あ、ああ。待たせてすまない」
「ご挨拶だけはと思って」
二人で隠れている俺には気付かずベラベラ嫌味を並べる二人の会話を遮りレオポルトとアリアネ嬢に声をかける。
「な、なんてことをしているの!?荷車に載せるなんて!」
「ご令嬢に無礼だろう!」
俺にハッと気付いて駆け寄るパストルとアメリア。
「お嬢さまに近付かれては困ります」
「それこそ無礼ですよ」
素早く剣とサーベルを抜いたエドとベルは二人が俺にそれ以上近付けないよう互いの武器で道を遮った。
「忠告いたします。お下がりください」
エドが静かにそう言うと二人は後退りする。
その間もずっとレアンドルは動かないまま。
まだ声すらも聞いていない。
「失礼いたしました。私の護衛は心配症なものですから」
「い、いえ」
「こちらこそ考えず近付いてしまい失礼をいたしました」
あの時『公爵家だろうと許さない』と言ったことを覚えていたのか、俺のことを自分たちより国民階級が上だとすっかり思っているようで急にしおらしくなる。
「ヴェールは商業も農業も盛んで活気のあるよい街ですね。アルシュ候爵が長子、レアンドル・ルセさま?」
荷車からレアンドルに声をかける。
「見えている物だけを見ればそうなのだろう」
返ってきたのは予想もしなかったそんな返事。
「言葉は正すべきか?御仁の国民階級が分からない」
「そのままで構いません」
言葉遣いを聞いたレアンドルに少し興味がわいて荷車から降り自分から近付く。
「レアンドルさまはご自身のアルシュ候爵家が管理をする領地に思うところがあるのですか?」
「それを聞いてどうする。私の話などつまらないだけだ」
「つまらないか楽しいかを決めるのは私ですわ」
目の前まで行って答えるとレアンドルは少し笑う。
「好奇心旺盛なご令嬢のようだが、友人や従者を待たせてまで聞く話でもないだろう。私の知人がレオポルトやアリアネに失礼を働いたことはお詫びする」
胸に手をあて軽く頭を下げると俺の横を通り過ぎた。
「レアンドル」
「待って」
振り返ることなく歩いて行くレアンドルを追いかける二人。
話に聞いていたような祖父母や母親から甘やかされて自由奔放に生きてる駄々っ子には見えなかったけど、自分より国民階級が上だと思っている俺の前だから取り繕っただけなのか?
「メテオール、ありがとうございます」
「あのまま二人の嫌味を聞かされるところだった」
俺にお礼を言うアリアネ嬢とレオポルト。
「相変わらずですね。あのお二人も」
「級友だった頃から変わらない」
「伯爵家と領主の候爵家ですから今のように運悪く出会ってしまったらご挨拶をするしかなくて」
溜息をつく二人。
嫌味を聞かされてうんざりしているようだ。
「気を取り直して今度こそ行きましょう」
「ああ」
「そうですね!」
果樹園の先を指さして一歩踏み出すとフワリと身体が浮いて荷台に降ろされる。
「お兄さま!レディを荷物のように!」
「すまない。つい箱と同じ感覚で」
「もう!」
普段から手伝っている果物を収穫した箱を荷車に載せる時の感覚で俺を載せたらしく、怒るアリアネ嬢と深く頭を下げて謝るレオポルトにエドとベルと俺は笑った。
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これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
世の中は意外と魔術で何とかなる
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新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
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『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
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「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
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バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
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バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
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