異世界で猫に拾われたので

REON

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chapter.2

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【しかしお前も面倒な相手に目をつけられたな。気になることがあって様子を見ていたから遮ることが出来たが、私が破壊しなければあのまま押し切られていたのではないか?】

妖精や精霊たちに食事をさせるようにと渡した野菜を少し離れた場所で食べさせているブランシュと少女の姿を見ながら溜息をつく天虎。

「今回は救われました。ただ、どちらにせよ婚約を受けるしか道はないかと。受けても断っても厄介事になることは既に目に見えておりますが、断った場合の悪影響の方が大きいでしょうから。居るだけで人々に幸せを齎してくれる妖精姫が成婚してやると言っているのに断るなど言語道断だと」

どちらを選んでもソレイユ公爵家はマイナスを喰うだけ。
婚約の申し出を受け期限を経て成婚してから厄介者を抱えることになるマイナスか、婚約を断り多くの人々から罪人かのように疎まれることになるマイナスかの違い。

「仮に姫の申し出を断わっても今度は皇帝が同じ内容の王命を下すだけでしょう。自分の身内となる皇族としては迎えたくなくとも妖精姫の影響力は欲しいはずですから。王命を断れば私は追放です。隣国との関係を悪化させる行為と判断されれば家族も奪爵や降爵になるかも知れません」

目をつけられた時点で詰んでいる。
自分の不利益にはならない手段で祝福の子の影響力だけを手に入れられるこの機会をあの皇帝が逃すはずもない。
何としても婚約を結ばせるだろう。

【家族を守るために犠牲になると?】
「家族を守りたいのはもちろんですが、この国から追放される訳にはいかないのです。天虎の森があるこの国から」

追放されたら二度とこの国には戻れない。
祝い子さまを守るという誓いが叶えられなくなる。
自分の手で祝い子さまを守りたい。
そのためなら何でもする。

大人たちは少年の決意を知っているだけに複雑な心境。
少年が言うように妖精姫の申し出を断ったとしても皇帝が王命を下してくることは目に見えているし、そうなればもう断ることは出来ない。

王命を断れば反逆と看做され国から追放される。
守りたいと決意した祝い子と二度と会えなくなることは少年にとって最も辛いことだろうから、例え家族が申し出を断っていいと言ったところで無意味だろう。

妖精姫の申し出を受けるか王命を受けるか。
誰から言われるかの違いだけで、追放されないための道を選ぶのならば受けるしかない。

【そうか。ならばもう私が言うことはない】

ヒトの子にとって誰と成婚するかは重要なことだろうに、選択肢も考える時間も与えず光の一族を追い詰めているのを見て邪魔をしたけれど、既に決めているなら言うことはない。
人生をどう生きるかは少年の自由。

【ブランシュ。帰ろう】
『まだみんなご飯食べてるよ?』

話を終えた天虎はブランシュに声をかける。

【一族はこの後予定がある。後は自分たちでやるだろう】
『予定?』
「夕方から晩餐会があってお食事をしますの」
『ご飯の時間なんだ』

天虎と一族の会話が聞こえないよう念話を切られていたブランシュと少女は何も知らず妖精や精霊と戻ってくる。

「次は本を持って私の方から会いに行きますね」
『うん。待ってる』
「約束ですわ」

天虎の衣装を掴んで恥ずかしそうにしながらも少女と約束を交わしたブランシュは嬉しそうに笑みを浮かべた。

【そうだ。姫が連れた妖精だが、あの様子だと消滅する】
「……え?」

ブランシュを腕に抱いて思い出したように話した天虎。
サラリと言う内容では無いそれに一族は一瞬遅れて驚く。

【あの姫も蔓に覆われていた頃は心が美しかったために気に入って傍に居たようだが、今ではもう力を使わされるだけの存在になっている。生まれたばかりでろくに力のない妖精を支配して無理に力を使わせているのだから消滅して当然だ】
「妖精にも信仰の特性が有効なのですか?」
【弱い妖精にはな。格の高い妖精や精霊には効かない】

強い妖精や精霊には効かずとも弱い妖精は別。
強制的に力を使わされて今となっては消えかけている。
妖精姫が輝いてると言っていた妖精の姿が一族には『切れ掛けの小さな電球』のように見えたけれど、それが正解。
命の灯火が消えかかっている。

【恐ろしいのは無自覚だと言うことだ。本人は自分の強欲さが特性を増幅させている自覚がない。支配している自覚もない。妖精に関しても自分のことが好きだから傍に居るとしか思っていないし、力を使ってくれるのも自分のことが好きだから願いを叶えてくれているとしか思っていない。支配されていて離れることも出来ず、言われれば命令されたのと同じで無理に力を使っているだけなのに】

自覚があれば本人の心の有り様で抑えようもあるが、無自覚に特性を増幅させているから厄介。

【今回同席してみて異様な不快さを感じたと言っていたが、それもあの姫が少年を自分の成婚相手にしようとお前たち一族に目をつけたからだ。あの姫がお前たちを手に入れようと強欲になるほど醜い支配欲となった特性は増幅し、お前たち光の一族もあの姫の特性が膨めば膨らむほど支配欲に抗い不快になる。光は闇に抗うことの出来る唯一の力だからな】

天虎の話を聞いてゾワッとする一族。
本人は無自覚のままそのようなことをしているのかと。

「姫は闇の加護を授かっているということですか?」
【心を操る力は闇の大精霊の能力だ。信仰の特性も人の信仰心という心を操る力には違いない。尤も特性が闇というだけで、この国の皇帝のように闇魔法は使えないようだが】
『加護があっても魔法を使えない人も居るの?』

少年の問いに答えた天虎にブランシュが首を傾げる。

【光と闇はな。その二つは他の加護と違い授かった者が必ずしも闇魔法や光魔法を使える訳ではなく、魔力量が多いとか魔法の威力が強いというような本人の能力値を底上げする力だったり、姫のように身を守る特性として授かることも多い】
『そうなんだ』

光と闇は守護の加護。
その加護を持つ者は能力値が高かったり魔法の威力が高かったり身を守られるような特性があったりするけれど、自分の意思で使う闇魔法や光魔法が使えるかはまた別の話。
意識せず使われている能力と意識して使う能力の違い。

『お兄さんたちは?』
【幼子は鍛えれば回復ヒールも含め治癒魔法が使える】
「え?私、回復魔法が使えるのですか?」
【一族の中で少年とお前は回復ヒール万能治癒オールキュアが使える】
万能治癒オールキュア?」

聞いたことのない魔法に少女だけでなく一族も首を傾げる。

【……そうか。長らく光の力を封じられていたために使える者が居なくなっていたのか】

一族の反応を見て少し考える様子を見せた天虎は独り納得したように呟く。

【そもそも回復系の魔法を使える者の数が少ないが、万能治癒オールキュアに至っては光の加護を持つ者にしか使えない】
「それはどのような魔法なのですか?」
【ヒトの子が使うエリクサーと同じ効果の魔法だ。魔力値で威力は変わるが病と死以外のあらゆる状態異常を治せる】
「凄いじゃないか!ディア!」

ぽかんとする少女を褒め称える初老の男性。
エリクサーは王家が使う薬で一般には出回らないもの。
それと同じ効果となるととてつもない価値のある能力。

「私もその魔法を使えるのですか?」
【お前は精霊魔法の一つとして使えるようになる】
「ディアは魔法で、私は精霊魔法でということですか」
【ああ。人々を導く宿命の許に産まれたお前たち光の一族は一族の者にしか使えない特殊な魔法が幾つか存在している】
「他にもあるのですか!?」
【ある。その反応を見るに継承されていないようだな】

光の加護を持つ者が使える魔法は万能治癒オールキュアだけではない。
でも現代の長である初老の男性が他にもあることを知らなかったということは先代から継承されていないのだと察した天虎は小さな溜息をつく。

【精霊使いの少年は攻守の光魔法。お前と青年は攻撃系の光魔法。幼子は治癒も含め守備系の光魔法に特化している。少年は精霊使いという稀有な存在だけに例外としても、精霊使いではないお前たちも人々を導く光の一族として特別な力を授かっているというのに廃れてしまったとは勿体ない】

いつヒトの子から聖印が封じられたのか分からない。
けれど少なくとも今生きている者の記憶には残されていないほど昔のことで、光の一族も同様に一族の者だけが使えるはずの能力が廃れて後世に継承されなくなったのだろう。

『天虎さんが教えてあげれば?』
【私が?】
『天虎さんは色々な魔法を知ってるし、分からなくても光の大精霊さんに聞けば教えてあげられるんじゃないかなって』
「め、滅相もないことで!神や大精霊に教わるなど!」

サラッと言ったブランシュに驚き初老の男性が止める。
神や大精霊から魔法を教わるなどとんでもないこと。
娘として扱われているブランシュは例外。

『でも魔法が使えればもっと人を救えるよ?冒険者になって困ってる人を助けるみんなには必要な力だと思うけど』

初代が主人公の物語を読んだブランシュにとって、光の一族は多くの人々を救う一族。
以前少年からまだ幼い少女以外はみんな冒険者になって依頼を受けている話を聞いていたからなおさら。

「恐れながら天虎さま。分不相応な図々しい願いだと承知しておりますが、私に一族の魔法をご教授願えませんでしょうか。私はまだ冒険者にはなれておりませんが、授かった力が誰かを救うことに繋がるのでしたらお役に立ちたいと思います」

ブランシュの言葉を聞いてハッとさせられた少女はドレスのスカートを掴み跪くと天虎へ願いを口にする。
それに続いて意を決したように一族も跪き頭を下げた。

【衣装が汚れると言っただろうに】

綺麗な衣装を着ているのに汚れることも厭わず跪いた一族を見た天虎は溜息をつくと魔法で軽く浮かばせる。

【私しか覚えていないなら仕方がない。教えてやろう。光の大精霊にとっても力が失われるのは不本意だろうからな】
「ありがとう存じます!」
「感謝申し上げます!」

嬉しそうにお礼を言った少女に続いて一族も感謝を伝える。
本来なら大精霊が与えた力が継承されようと廃れようと神の天虎が関わることはしないけれど、今回は太陽神に愛された初代の子孫でありブランシュが気にかけている光の一族だから。

【一族の長であるお前にこれを預けよう】

一族を地面に下ろして衣装に浄化をかけたあと天虎がインベントリから出したのは、水属性を表す紋章と同じ水滴の形をしている澄み渡る海のような青々とした色の美しい宝石。

『わあ、綺麗。お水の形かな?』
【ああ。大自然の恵みである水の形をしている。身につけることが出来るよう首からかけられる装飾品にしておこう】

天虎の手からふわりと浮かんだ宝石が小さな竜巻に包まれ光を放ったかと思えばすぐに消えてネックレスに変わった。

【受け取れ】
「は、はいっ!」

魔法でふわりと飛んで来たネックレスを両手でキャッチした初老の男性。
見たことのない美しい宝石に一族は感嘆の声を洩らす。

【それはアクア山の湖底に沈んでいる結晶の欠片だ。大精霊アクアの魔力を含んで結晶化したそれに風のウェントゥスの魔力を組むことで私と話ができる道具に変えておいた。お前たち光の一族だけが使える専用の道具だと思っておけ】

それを聞いて一族は驚く。

「魔道具を一瞬でお作りに」
「魔道具と呼んでいいのか悩ましい代物だかな」

アイテムボックスのように魔法を組み込んだ道具を魔道具と呼ぶけれど、死山であるアクア山の湖底にある結晶に大精霊ウェントゥスの魔力を組み込んだ魔道具など当然存在しない。
またとてつもない価値ある物を預かってしまったと青年や初老の男性は苦笑を浮かべた。

【お前たちにも予定があるだろう。都合のつく日が分かったらそれに魔力を流せ。私と繋がって話すことが出来る】
「承知いたしました。お心遣い感謝申し上げます」

そういうことかと納得した初老の男性は感謝を伝える。
一族が神と敬う天虎が決めたことなら自分たちは従うというのに、そうはせずこちらの都合に合わせてくれる心遣いに。

「無くさないよう気をつけねば」

そう話しながら早速首元にかけた初老の男性はいそいそとシャツの中に仕舞う。

【安心しろ。万が一落としてもお前の元に必ず戻る。それに奪おうとする愚か者が居ればその結晶自体が攻撃を行う】
「……え?」
【言っただろう?光の一族だけが使える専用の道具だと。私が繋がることを許可していない者が略奪しようとすればお前の身を守りつつ反撃を行う仕様になっている。ヒトの子の中には美しい物を見ると奪いたくなる愚か者が居るからな】

それなら安心……していいのだろうか。
たしかに奪われる心配はしなくて済むけれど。

「……落とした際に誰かが拾ってくれたという場合には」
【お前の元に戻る前の極僅かな時間に誰か拾ってしまったらということか?その結晶が反撃するのは悪意を持つ者に対してのみで、拾った者がそのまま盗もうとしなければ問題ない】
「そうですか。それなら安心しました」

首にかけてあるから可能性は低いけれど、仮にチェーンが切れるなりして落とした時に善意で拾ってくれた人が攻撃されるとなればとんでもないことになる。
ただそれは無いようで初老の男性はホッとした。

【帰る前にこれだけは話しておこう】

天虎のその言葉で一族は改めて姿勢を正す。

【私の娘はよほどお前たちが好きなようだ。今日ここへ来たのも失われた歴史の鍵となる物語を思い出すため。初代皇帝の彼奴の子孫のお前たちに出会って物語を思い出したから、教皇の子孫の現皇帝に会えば王権が移る理由となった神託を思い出して私やお前たちに教えてあげられるのではないかと】

そう話して聞かせながら天虎はブランシュの頭に口付ける。

【以前湖で私たちが何気なく話していた王権の疑問に答えるためだけに此処へ来る決意をした。ヒトの子から呪い子と疎まれ火を放たれたブランシュにとって、それがどれほど勇気のいることだったか。最初は怯えて私にしがみついていた】

全ては私たちの疑問に答えるため。
誰の記憶にも遺されていない失われた歴史は物語を読んだブランシュにしか語れないから。

【私は娘が可愛い。その娘が好いているお前たちにならば魔法も教えよう。だが忘れるな。私が生命に恵みを齎す再生の神であると同時に滅びを齎す破滅の神でもあることを。ブランシュを傷つけ泣かせる者は何者であっても許しはしない】

神の天虎にとって身分など関係ない。
ヒトの子はヒトの子でしかなく、容易く滅ぼせる存在。
忠告としてそれを改めて宣言された一族は背筋がヒヤリとするのを感じながら深く頭を下げた。

【さあ、森に帰ろう。ブランシュ】
『待って。お兄さんたち』
「はい」

天虎の腕に抱かれているブランシュが声をかけると一族は顔をあげる。

『ごめんなさい。皇帝を見ても物語を思い出せなかったの』
「そ、そんな謝罪など!」
「ご好意が嬉しかったです!ありがとう存じます!」

ぺこりと頭を下げたブランシュに一族は慌てる。
という形になった自分たち一族の歴史を思い出すために勇気を振り絞って森から出て来てくれたのだから、その気持ちだけで充分。

『思い出したら必ずお兄さんたちにも教えるね』
「お気持ちは嬉しいのですが、どうかご無理はなさらず」
『ありがとう。でもサヴィーノとクリステルもきっとそれを望んでると思うから。そんな気がするの』

ブランシュ自身にもなぜそう思うのか分からない。
でもそう感じる。

『天虎さんが小麦粉と卵を買ってくれたから、次に会う時は前回よりも美味しい料理を食べて貰えるよう頑張るね』
「私も今より身体が頑丈になるよう頑張りますわ!ブランシュさまの美味しいお料理をたくさん食べられるように!」

張り切って答えた少女にブランシュはモジモジする。

『……またすぐに会える?冬の間は会えなかったから』
「もちろんすぐですわ!本をお渡しする約束と天虎さまに魔法を教わる約束をしているのですもの!」
『そっか。良かった』

照れくさそうにモジモジするブランシュに和む一族。
ヒトに怯えていた祝い子が自分たちに会える日をそんなにも待ち望んでくれていたのかと思うと感動すら覚える。

【先程はいつでもいいように言ったが早めに予定を空けろ】
「はい。そういたします」

祝い子が会いたがっているから早く。
ブランシュの一言で意見を変えた天虎に一族は笑った。


「天虎さまは祝い子さまを大切にしておられますね」
「本当に。恐れ多い話ではあるけれど、娘にはつい甘くなってしまうところは同じ父親として親近感を覚えてしまう」

天虎とブランシュが去ったあと、少年の母と青年はそう会話を交わしてくすくすと笑う。

「しかし思わぬことを知った。無自覚と言え、まさか妖精姫と呼ばれている隣国の姫がヒトの心を支配しているとは」
「はい。ただ、話を聞いて腑に落ちました。存在しているだけで神かのように崇める人々の異様な信仰心の理由が」

幾ら姫君や祝福の子だと言ってもさすがに異様。
何かを齎してくれるどころか自分勝手に振舞い周りに迷惑をかけているだけの姫が何故か敬われているのだから。
王家という高い身分だけに下手なことも出来ず厄介だと溜息をつく初老の男性と少年。

「妖精も消滅してしまうと言っておられましたね」
「ああ。姫は点滅している妖精をキラキラしていると言っていたが、私には切れ掛けの電球にしか見えなかった」
「お兄さまもですか?私も最後の力を振り絞って輝いているように感じました」

少年も少女も感じたのは妖精の異変。
姫が言っているような『好意的な輝き』には見えなかった。

「それで間違っていない。灯火が消えようとしている」
「妖精はそうなの。消滅が近付くとああして輝く」
「そうか。デスティネやボヌールにも分かるんだね」

少年はデスティネの身体を撫で、少女はボヌールを手に乗せて慰めの口付けをする。
天虎と同じくデスティネとボヌールも仲間の最期を感じ取っているようだ。

「なにか救う方法はないのか?」
「あの祝い子が支配していて逃げられないから無理だ」
「逃げたくても逃げられないの。祝い子の力は神から授かった力だから、まだ弱いあの子たちじゃ逃げられない」
「うーん……そうか」

どうにか救う手段がないか聞いた初老の男性はデスティネとボヌールから話を聞いて唸る。

「このまま消滅した方がいい」

悩んでいる様子の初老の男性に言ったデスティネ。

「妖精は清らかな大精霊の魔力の塊。だからお前たち家族のように白く美しく清らかな魂のヒトの子を好んで力を貸す。でもあの妖精たちは気味の悪い祝い子に支配されて逃げられず力を使い続けて黒に染まってしまった。妖精が最も嫌う黒に。一度黒に染まった妖精はもう元には戻らない。全てが黒に染まって悪妖精になってしまう前に消滅したがっている」

その話を聞いて一族は胸が締め付けられる。
儚げに点滅していたあの妖精たちは自分たちが最も嫌うものになってしまったことを苦しんでいるのかと。

「ディア泣かないで!大丈夫だから!妖精は再生するの!」

少女が泣くのを見たボヌールは余計なことを言うなというように小さな身体でデスティネに飛び蹴りする。

「この星に再生の天虎神と大精霊が居る限り再生する!また大精霊の魔力で白の妖精になるから心配しないで!」
「……そうなの?」
「そう!だから悲しいことじゃないの!逆に今のままの方が自由になれなくて苦しいから、再生するのはいいことなの!」

身振り手振り、身体全体を使って少女を慰めるボヌール。
再生できることを聞いたディアは漸く安心して涙を拭う。

「教えてくれてありがとう、ボヌール」
「どういたしまして!」

微笑み合う少女とボヌールを眺めるデスティネ。
苦手なはずの嘘をつくほど気に入ったのかと苦笑する。

本当は再生などしない。
妖精もヒトの子と同じく誕生して消滅すれば終わり。
唯一、再生の天虎神が同じ妖精として再生させない限り。

「優しい子だね、ボヌールは」

ボヌールの話が嘘だと察し、小声で言って苦笑した少年にデスティネは素知らぬ顔でそっぽを向いた。

    
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