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一章
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しおりを挟む「便利ですわぁ」
神竜から授かった力の瞬間移動で屋敷に戻ったロラ。
本来は知らない場所に移動できないけれど、神竜から知識も授かったロラには思い浮かべることで問題なく使えた。
「ようやく片付けましたのね」
ロラの寝室のバルコニー下の庭で掃除をする使用人たち。
出てくる前は遺体が運ばれていなかったけれど、今はどこかに運んだようでレンガ舗装についた血を洗い流している。
「甲斐性なしが仕事のできる使用人を殆ど連れて行ってしまったから統率がとれなくて苦労しますわね」
ロラは嫌そうに掃除している使用人たちをみてくすりと笑うとバルコニーに飛んで寝室へ戻った。
「予想はしておりましたけれど、やはり食が細くなっていますわね。店主たちのご好意でたくさん頂戴してしまいましたけれど、まさか最初のお菓子で少し苦しくなるなんて」
まん丸の大きなお菓子に見えても膨らんでいるからそう見えるだけで、実際は子どもがオヤツに食べるような量。
貰ったものは街を出てすぐインベントリにしまったけれど、臓器を保護する魔法薬を飲んでおいた方が良さそうと察したロラは元の自分が作った薬を出し小瓶の中身を飲みほした。
「少しずつ量を増やしていきましょう。インベントリにしまっておけば腐らないですから、またいただきましょうね」
お腹を撫でながら肉体に話すロラ。
同調の済んでいない今の肉体はまだ借り物の感覚。
借り物のシャルロットの肉体を大切に大切に慈しむ。
「今度はなにかしら」
魔法薬の効果で胃も落ちついて休憩しているとまたシャルロットの寝室に向かってくる人が。今度は二人。
ソファに座ったまま寛いで待っているとノックをすることもないまま扉が開いた。
白髪混じりの初老の男性と小太りな女性。
男性は家令、女性は家政婦長。
着ているお仕着せの種類で分かった。
「今すぐ部屋から出なさい」
「誰が使っていいと言ったの。物置に戻って」
ノックも挨拶もせずいきなり。
シャルロットがいかに敬われていないか分かる。
「ここは私の部屋よ?なぜ出なければならないのかしら」
「この部屋は奥さまが使う部屋。お前の部屋は物置だ」
「私がその奥さまですのに?」
「お前を奥さまと認めている者など居ない」
家令と話してロラはクスクスと笑う。
普段と違うそんなロラの様子に二人は顔を見合わせた。
「そんな高価そうな衣装をどうやって手に入れたの」
「私の私物ですわ」
「嘘を言わないの!持参した荷物は下着だけだったわ!」
メイドが着古し薄汚れたおさがりしかないはずのシャルロットが質のいい衣装を着ていることに気付いた家政婦長は、笑いながら事実を話したロラにカッとして怒鳴る。
「なぜ荷物の中身が全てだと思ったのかしら。おかしいと思わなかったの?私はドラゴニュート一族の本家令嬢よ?継承者を産む可能性の高い本家の私をドラゴニュート公爵家が本当に数枚の肌着だけを持たせて嫁がせたと思いますの?」
でも他にはと食い下がる家政婦長の隣で家令は青くなる。
それもそのはずで、生家から疎まれている外れのなり損ないを押し付けられたというのが勘違いであれば、シャルロットに対する使用人たちの今までの態度や扱いも、愛妾の元に行って帰って来ない夫の行動も、アレニエ公爵家はドラゴニュート公爵家を侮辱したと当主から宣戦布告されてもおかしくない。
「私、待ちましたわ。15歳で嫁いで1年。私が気の弱いフリをして使用人の所業を観察していることに誰か一人くらいは気付くのではないかと。夫婦の大切な始まりとなる成婚証を交わす時にすら居ない夫も改心してくださるのではないかと」
今までとは別人のシャルロットの姿に嘘が真実味を帯びる。
この姿が本物である方が『ドラゴニュート公爵家』という強い権力を持つ一族の印象通りに思えるからだ。
「ねえ、私がなり損ないだと誰から聞いたの?」
「そ、それは」
「言い淀まず答えなさい」
冷たい目で命令されて家令はゴクリと生唾を飲む。
この貴族然の振る舞いは一朝一夕で身に付くものではない。
生まれた時から厳しく躾られる貴族家で育った者。
「なんなのよ!偉そうに!」
「辞めろ!」
「はい?なり損ないの言うことを信じ、痛っ!」
家令と違ってまだ自分の置かれた状況を理解出来ていない家政婦長の頬を何かが掠って痛みに声をあげる。
「え……え?」
頬を触った家政婦の手のひらについている血。
掠った物を見ればペーパーナイフが壁に刺さっていた。
「次は目に突き刺しましょう」
ロラが手に持っているのは蓋をとった万年筆。
ペーパーナイフも万年筆も部屋に備え付けられている物。
当然タネも仕掛けもない通常品で、本来ならそれを投げたところで壁に刺さるような代物ではない。
「私は何の力もない竜のなり損ないなのでしょう?何の力もないのですからきっと刺さりませんわ。動いては駄目よ?」
ロラは美しく上品に笑みを浮かべる。
むしろその美しさに恐怖を覚えた家政婦長は腰が抜けてその場にへたりこんだ。
「もう一度だけ機会をあげる。誰から聞いたのかしら」
「……だ、旦那さまの愛妾です」
完全降伏した家令は正座で床に額を擦りつけながら答える。
「まあ。旦那さまの愛妾はドラゴニュートですの?」
「ち、違います!奥さまのように由緒ある家系では!」
「でしたらいつの間にか流布していた私の噂話を聞いて旦那さまに話したのでしょうね。そして旦那さまも貴方たち使用人も真実を見ようとせず噂話を信じて私を虐げていたと」
内心では両親が犯人かと思っていたけれど、嫁がせる相手に公爵家の恥をわざわざ晒すほど愚かではなかったようだ。
元々出回っていた噂を愛妾が知っていて甲斐性なしに吹き込んだというのが真実。
「1年間まともに声を出さなかったせいか、貴方たちとお喋りをしたら喉が渇きましたわ。今ある最高品質の茶葉を使った紅茶を用意して頂戴。明日からは最高級の茶葉を用意して」
「し、承知しました!」
「食事はしばらくスープを中心に消化にいいものを心がけてくださればいいわ。長いこと廃棄前の固いパンや腐ったお料理しか口にしなかったせいか胃が小さくなってしまったの」
生殺与奪の権利を握られている恐怖に家令は汗が吹き出る。
仮に孫がそんな扱いを受けていたことがドラゴニュート一族の当主の耳に入ったらアレニエ公爵家など簡単に潰される。
「それから最高級の衣装や装飾品を扱っているセンスのいいデザイナーを何名か呼んで頂戴。全ての支払いはもちろん貴方たちが横領している私のための経費を使ってね」
家政婦は呆然としたまま。
家令は恐ろしくて顔をあげられないまま。
なぜそのことを知っているのかと。
いや、言っていた。
気弱なフリで使用人の所業を見ていたと。
あの言葉に嘘はなかったと言うこと。
「はい、解散。二人とも役目を果たしてちょうだい」
「「承知いたしました!」」
ロラがパチンと手を叩いた音にビクッと体を震わせた二人は弾かれるように寝室を出て行った。
「シャルロット嬢。どうやら愛妾にもお仕置きが必要なようですわ。貴女が力を持っていない事は事実でも、最も強い権力を持つドラゴニュート公爵家の悪い噂を流布するなんておいたが過ぎますもの。お口を縫いつけて差し上げないと」
影で悪い噂を話していても咎めようがないけれど、誰が悪い噂を流布したのか一族の耳に入れば貴族侮辱罪が成立する。
仮に一族の誰かが知れば愛妾は無事では居られない。
ただそれはシャルロットを侮辱したことへの怒りではなく、ドラゴニュート公爵家を侮辱したという怒りだけれど。
「ここへ嫁ぐまでの15年間は生家の家族たちに苦しめられてきたのですもの。ドラゴニュート公爵家の名が滅びる日まではシャルロット嬢も名前と権力を存分に利用させて貰わなくてはね。家族も利用する側か利用される側かの関係ですわ」
コツコツとバルコニーの方から音が聞こえて振り返る。
「まあ。もう見つかりましたの?」
扉を開けた下に置かれていたのは葉のついた瑞々しい枝。
頬をくすぐるそよ風にロラはフフっと笑うと扉を開けたまま部屋に戻ってインベントリから長い神杖を取りだす。
「では始めますわ」
両手で持った神杖の先端でノックするかのように床をコツコツ数回叩くと、叩いた部分の床を中心に魔法陣が描かれる。
ロラはその中心に逞しい生命力を持つ枝を置いた。
「我は始祖ヴァンピールの能力を継承する守護者なり。名はロラ・カタストロフ・ヴァンピール。己が命を代償に正義を遂行した美しき妖精に無罪の救済を。主神の聖寵を与え給え」
魔法陣が光って床に置いていた枝が空中に浮かぶ。
「貴女が帰る場所はここよ」
ふわりと現れた小さな光の玉。
うろうろしているのを見てロラが場所を教えると、空中に浮かんでいる逞しい生命力を持つ枝へ重なり眩い光を放った。
「お還りなさい。美しい妖精さん」
姿形を現したのは背中に羽根の生えた小さな妖精。
パチリと瞼をあげるとロラを見て周りを飛び回り、風も妖精の復活を喜び部屋のカーテンを揺らす。
「ごめんなさい、妖精さん。私は貴女の知るシャルロットではないの。シャルロット嬢は神の腕に抱かれ眠っているわ」
魂が違うことを不思議そうに見る妖精に説明するロラ。
シャルロットが自ら死を選んでしまったことも、欠けてしまったシャルロットの魂の欠片をロラが集めていることも。
そのために生命を殺めることになることも。
シャルロットを救ってくれた妖精だからこそ正直に話した。
「ふふ。大丈夫ですわ。私はヴァンピールですもの。清らかな魂は救い、濁った魂は破滅に導く。それが私の宿命。シャルロット嬢が来世では愛情に溢れた者たちの元に生まれ変われるよう、欠けてしまった彼女の魂の欠片を取り戻しますわ」
心配そうな表情で様子を伺う妖精にロラは答える。
審判を下し有罪の魂を滅することがヴァンピールの宿命。
星や肉体が変わろうと魂に刻まれた宿命は変わらない。
「さあ、大自然にお帰りなさい。主神が創造した星が、守護神が育てた生命が健やかであるよう共に願いましょう」
妖精はくるりと一回転したかと思えばロラの周りを飛び回って妖精の粉を振りまく。
「……まあ、」
体内に感じる強い生命力。
痩せ細っている肉体を早く回復するために元のロラが魔法で作った栄養液をしばらく飲むつもりでいたけれど、液薬を使わずとも生命力が溢れている。
「妖精さんのお蔭でシャルロット嬢の肉体の回復が早く済みそうですわ。このような素晴らしい力をありがとう」
お礼を言ったロラの頬に妖精は口付ける。
蘇らせてくれたお礼に。
仲睦まじい様子の二人に花の香りのする優しい風が吹いた。
・
・
・
部屋から出たあと執事室に向かった家令と家政婦長は。
「これからどうするの!?」
「従うしかないだろう。全て知っている上で泳がされていただけなんだから。今も見逃されただけに過ぎない」
それでなくとも使用人が一人亡くなり事故処理に時間を奪われイライラしていたのに、なり損ないが勝手に物置から出て部屋を使っていると聞き追い出しに行ったらあのざま。
「私はイヤよ!あんな子どもに従うなんて!」
「好きにすればいいだろう?殺されてもいいならな」
「ただ少し投擲の腕があっただけじゃない!」
「少し?あれを見て少しと言える図太さが羨ましい」
「なんですって!」
声を荒げる家政婦長に家令はこめかみを押さえ溜息をつく。
少しでも言葉を間違えば本当に突き刺される。
家令はそのことを肌で感じていた。
あの娘は決して『何の力もないなり損ない』ではない。
圧倒的な力で破壊するドラゴニュートの象徴のような存在。
その恐怖を感じなかったと言うなら幸せなことだ、と。
「君は料理人へ奥さまの要望通りに伝えてこい。それと侍女たちに言って奥さまの部屋へ紅茶を運ばせるように」
「奥さまって」
「早くしろ!私はまだ死にたくはない!」
家令は鼻で笑う家政婦長の言葉を遮り机を叩く。
これ以上に機嫌を損ねられたらどうしてくれるのか。
ロラが生殺与奪の権利を持っていることが恐ろしかった。
「なんなのよ。あんな小娘を怖がって情けない」
執事室を追い出された家政婦長はイライラしながら廊下をズカズカと歩く。
「あの小娘が急に態度を変えたせいで今まで使えてたお金が使えなくなるじゃない。注文したオーダーのネックレスの代金どうしてくれるのよ。弱味さえ握られてなければ……あ」
独りでブツブツ文句を言いながら厨房に向かっていて何かを思いつき足を止める。
「そうだ。いいことを思いついたわ」
そう呟くとニヤリと笑った。
「ほんっっとにこの屋敷の使用人は無能ですわぁ……。ただ飲み物を支度するだけでこんなに時間がかかるなんて。ヴァンピール公爵家のメイドでしたら秒で支度してくれますのに」
ヴァンピール公爵家のメイドは主人が望む時に支度できるようアイテムボックスに多種の飲み物やお菓子を入れている。
魔法を使う人が少ないこの星で秒の支度はさすがに無理だろうと分かっていたけれど、まさか一時間近く経ってもまだ運ばれてこないことにロラは呆れていた。
「自分のインベントリにも入っておりますけど、無視すれば役割を果たさず済むと思われては困りますからね。本来シャルロット嬢が享受するはずだったことは全ていたしませんと」
持っているけれど出さない理由はもう一つ。
ロラがインベントリにしまってある飲み物類は全てが何かしらの効果のある薬草茶だから。
嗜好品に分類される紅茶などの飲み物は侍女やメイドが秒で支度をしてくれていたら自分が持ち歩く必要がなかった。
「あ、ようやく」
寝室に向かってくる人物は四人。
四人の中の一人はカートを押している。
『お飲みものをお持ちしました』
「どうぞお入りになって」
シャルロットの肉体に宿って初めて聞いたノックの音。
ロラの許可を得てから扉が開く。
「お待たせして申し訳ございません。質のよい茶葉がちょうど切れていたために街へ買いに走らせておりました」
「まあ、そうでしたの。それはご苦労さま」
部屋に一歩入ってまず頭を下げて謝罪したのは家政婦長。
謝罪が終わると私服姿の三人が入ってくる。
三人ともシャルロットの専属侍女。
三段のケーキスタンドが一つ。
二段フルーツスタンドが一つ。
お菓子やフルーツを載せたそれやカトラリーを侍女たちがテーブルに置き、家政婦長は取り皿やミルクやシュガーポットを置いた。
「お取りいたしますか?」
「結構よ。自分でとりますわ」
「承知しました」
家政婦長がロラに話しかけている間に侍女の一人がティーカップに紅茶を注ぎ、注ぎ終えたそれをロラの傍に置く。
「お待たせしました」
「ありがとう」
ミルクも砂糖も入れず左手でソーサーを持って右手でティーカップを持つ。
「「…………」」
そんな姿を見て侍女たちは少し目を見合わせる。
メイドや家政婦長からシャルロットが突然変わったことは先に聞かされていたけれど、本当に別人のようだと。
いつも長い前髪で目元が隠れているうえに俯いていたのに、顔が見えるよう前髪を切って後ろ髪も綺麗に整えられている。
それだけでなく髪は潤いサラサラで肌も雪のように白く、シャルロットの顔に合った薄化粧をして綺麗な衣装も着ている。
紅茶を飲む姿勢や仕草も淑女の見本のように上品。
堂々としたその姿はまさしく貴族。
幼い頃から教養を叩きこまれた淑女。
見入る侍女たちとは違う意味でロラに見入る家政婦長。
たしかに飲んでいる。
口をつけるフリではなく確実に飲んでいる。
それなのに何故、と。
「あ、あの、奥さま」
「なにかしら」
平然とした顔で家政婦長を見るロラ。
カップを手にしたまま愛らしく首を傾げる。
「い、いえ。申し訳ございません」
「なにかお話があったのではなくて?」
「そちらの茶葉の味はお口に合いますかと」
「ええ。私の生家のあるアヴァール地域が生産地のアムール茶ですもの。母と私と妹は好んで飲んでおりましたわ。ただ、男性の口には少し甘さのあるフルーティーな味があまり合わないのか、父や兄は滅多に口にしませんでしたけれど」
とってつけたような質問にロラは微笑みながら答える。
聞きたいことはそれではないでしょうにと思いながらも。
「……ご家族とティータイムを?」
「おかしいかしら。家族ですもの。当然ではなくて?」
「い、いえ、おかしくは」
「あ。巨大な斧や大剣を振り回す屈強な父がティータイムというのが想像できなかったのかしら。ふふ。気持ちは分かるわ。でも不器用なだけで家族の前では優しいのよ?」
紅茶の話は事実でも家族の話は嘘。
シャルロットは家族とティータイムどころか食事すら一緒にしたことがない。
「本家のドラゴニュート公爵家には洞窟に籠り断食して過ごす試練があるのだけれど、私も成婚前にもう一度と思って試練を行ったら普段の時以上に痩せてしまって。祖父からは心配だから成婚は延期にしようと言われたのですけれど、夫婦の始まりとなる日を延期するなんて旦那さまとなる方に申し訳ないでしょう?尤も旦那さまが居られない成婚の誓いだったのですから祖父の言う通り延期した方が正解でしたけれど」
ロラの話を聞き家政婦長だけでなく侍女たちも真っ青に。
噂通りに生家で虐げられていたから痩せていたのではなく、飲まず食わずの試練を行ったから痩せていたのかと。
しかも当主の祖父は孫のシャルロットを可愛がっている。
その孫をアレニエ公爵家は虐げ尚更痩せ細らせた。
竜の怒りは神の怒り。
その恐怖に侍女たちは震える。
もしシャルロットが当主に全て話せばみんなの命はない。
「アムール茶は名前の通り恋人や家族といった愛する方々と飲むお茶ですの。一人で飲むのは寂しいわ。旦那さまの代わりに家政婦長が私のティータイムに付き合ってくださる?」
「め、滅相もございません!私では分不相応です!」
「そんな事ないわ。私が誘ったのだから。さあ座って」
立ち上がったロラは家政婦長を椅子に座らせると替えのティーカップにとぷとぷと紅茶を注ぐ。
「それでしたら侍女たちに是非!」
「駄目よ。この子たちは知らないもの」
「……え?」
上品な仕草で真っ赤な紅茶を注ぐロラはくすりと笑う。
「この子たちも家令や貴女から横領のおこぼれを貰って宝石や衣装を買っているし、真冬に入浴と言って冷たい水をかけたり暴力を奮ったりするけれど、それはまた別のお話。コレに関しては知らないもの。自分のしたことの責任は自分がとらなくては駄目でしょう?侍女のせいにしようとしては駄目よ」
恐怖を感じるほど美しく笑うロラは魔法でグツグツと煮立たせたティーポットの紅茶を家政婦長の頭からかけた。
「ぎゃああああああ!」
絶叫して椅子から転げ落ち床を転がる家政婦長。
侍女たちは腰が抜けてその場にぺたりと座りこむ。
「ご存知なかったのね。ドラゴニュートに毒は効かないの。ただ味は分かるから美味しくありませんでしたわ。私にだけ美味しくない猛毒を飲ませるなんて狡いと思いませんこと?貴女が盛ってくださった猛毒なのだからどうぞ召し上がって?」
煮えたぎる紅茶をかけられのたうち回る家政婦長の顔を掴んだロラはあいている口にティーカップの中の紅茶を流し込む。
「ぐ……ぐぐ……」
喉元を掻きむしる家政婦長は苦しそうに藻掻く。
「それが家政婦長が見たかった私の姿ですのね。公爵家の財を横領していたことや虐待していたことが露見する前に私を殺して侍女に暗殺の罪を押し付けたかったのに、残念ね」
もがいている家政婦長の傍にしゃがんでいるシャルロットの微笑みはまるで天使のような無垢な笑顔。
優しい笑みで煮えたぎる紅茶をかけ、優しい笑みで猛毒を口に流しこんだ。
「貴女たちも飲みたい?」
「い、イヤです!ごめんなさい!お許しください!」
「もう二度としません!死にたくない!」
「申し訳ございません!」
目の前に来たロラを見上げて侍女たちは泣きながら謝る。
「よろしくてよ。何度でも地獄を見せてあげますわ」
それを見てロラはくすくす笑うと指を鳴らした。
左手にソーサーを持って右手でティーカップを口元に運んだロラの手が止まる。
「家政婦長。この紅茶おかしな香りがしますわ」
「か、香りですか?」
「もう結構よ。下げて頂戴」
「では新しく入れ替えて」
「結構よ。紅茶一つも満足に出せない人にまた頼むと思って?この紅茶の生産地は私の生家があるアヴァール地域ですの。祖父に送ってくれるよう頼んで自分で淹れますわ」
余計なことを言われる前に毒を飲ませて殺すつもりが。
家政婦長はスカートを掴んでギリギリと歯を食いしばる。
「家政婦長が飲んでいいわ。買いに行かせたのですから」
「わ、私は結構です!紅茶はあまり好きでは!」
「そう。貴女も父や兄と同じなのね」
そしてまたロラは家族のティータイムの話をする。
試練の話も再び。
そして家政婦長と侍女三人が真っ青になるのも再び。
「食事まで休みますわ。片付けて頂戴」
今度は怯えながら片付けをする四人。
今以上の恐怖を味わったのにとロラはくすりと笑った。
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