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第三話「基地を襲撃された際の迎撃方法について」

憤り

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「Tk-9各機のフォトンドライブに異常負荷発生。機能不全を起こしていたようです……Child1反応喪失?!」

 Tk-9各機のコンディションを監視する通信士が告げたそれに、指令所内がざわついた。
 その報告を発令所の最後尾の席で聞いた部隊長は、ぴくりと眉を動かす。新しく出した煙草を強く灰皿に押さえ付けて、出来る限り声を荒げないように比乃の安否確認を急かす。

「機士のバイタルは確認できるか」

「できません……搭乗席が損傷ないし大破している為と思われます。HMDからの脳波受信サインは確認できているのですが、容態までは……」

 通信士が告げる、搭乗席の大破――通常であれば、この時点で搭乗員は死亡しているか致命傷を負っていることを示す。
 知らない仲でもない、自分よりも十歳近く年下の少年が、生死不明の状態になった事実に副官が息を呑む。
 その副官の目の前、部隊長が火の灯ったままの煙草を押し潰す。その内心煮え繰り返っている感情を抑えているように見える彼が、淡々と通信士に指示を下す。

「……救出班を編成する。機甲科、航空隊を召集しろ。目的は意識不明のTk-9一番機搭乗員の確保と機密保持。機甲科と航空支援を持って標的を牽制。child2とchild3を支援する。日比野三等陸曹を救出せよ。救出を終え次第、飽和攻撃にて損耗していると思われる正体不明機を殲滅する」

「了解。待機中の機甲科小隊各位へ」
「攻撃ヘリに出撃要請」
「特殊救護班へ非常呼集」

 指示を受けた通信士らが、一斉に基地内に召集連絡を掛け始める。それを尻目に、部隊長はまた吸えなくなってしまった煙草を屑篭に放り込んで、立ち上がった。

「五分で出させろ。悪い、ちょっと席外すぞ」

 そのまま発令所を出ようとする部隊長を、副官が慌てて止めに入る。
 どうにも冷静さに欠けている状態らしいこの指揮官は、下手すると自分が戦車に乗って突撃し兼ねない。
 そう思ったのは、出口に向かおうと振り返った際に見えたその表情が、これまで見たことがない程、険しく見えたからだ――視線を向けられたら、そのまま射殺されてしまいそうな迫力があった。

「まさか……現場指揮なんて言い出すんじゃないでしょうね。止めてくださいよ」

 止めたら何かされそうと思えるほどの形相を前に、顔を若干引きつらせながらも、副官は補佐の義務を果たそうとする。身を震わせながらも部隊長の行く手に立ち塞がった。
 しばしの間、通信士のやり取りを背景に沈黙が流れ――

「……何を勘違いしとるか。ちょっと医務室行って氷嚢もらって来るだけだ……指焼いちまった」

「あいちち」と、部隊長が少々芝居掛かった動きで振る手を副官が見る。どうやら押し付けていた煙草の火に触れて火傷したらしく、その指先がほんのりと赤くなっていた。

「あんまりに痛くて頭が冷めた。というわけでしばらく頼むぞ」

「は、はぁ……」

 肩をさっと押されて道を開けると、先ほどの剣呑とした雰囲気はなんだったのか、部隊長は普段通りの様子で発令所から出て行った。
 ぽつんと取り残された副官は、いつの間にか汗ばんでいた額を征服の裾で拭った。普段は規則規則と煩い彼女が、首元に手をやって、息苦しさを解消するために襟元を緩めた。あの部隊長を前にして、緊張がどっと抜けたのだ。思わず壁に寄りかかる。

「……あんな顔してるの、始めて見た」

 *   *   *

「さてと」

 駐屯地の正門ゲート。現在は緊急事態ということで歩哨も誰も立っていないそこに、迷彩服の男が一人立っていた。機士科の自衛官が操縦服の上によく羽織る、薄手のジャケットを身につけていた。
 中肉中背、特徴がないと言われる、印象に残り難い顔をしたその男は、数時間前にトレーニングルームで大貫らと会話していた自衛官、山口だった。

「さて、と」

 山口は繰り返す。先ほど、この一カ月間かけて用意した細工を発動させた所だった。後は標的を拉致して帰るだけであった……が、しかし、その人物が駐屯地内に見当たらない。山口は面倒なことになったと、舌打ちを一つ打つ。

 人づてに聞いて回る内に、その人物は厳重過ぎて仕掛けが施せなかった最新鋭機で出撃し、タンザナイトらと戦闘を始めたというのだ。流石に、AMWに乗っている人間を拉致することはできない。目標が基地に戻ってからというのも一瞬考えたが、そもそも、AMW如きであれに勝てるわけがない。下手をすれば死んでいるかもしれない。

 このままではなんたる無駄足、無駄手間。

(……最優先目標は達成できなかったが、後顧の憂いは絶って置くべきってな)

 頭の中で副次目標の達成に切り替えた山口は、ふと思い出したかのように、足元の布袋を一瞥した。百五十センチほどのそれを、足で乱暴で道路の脇に転がす。そして、服の中に仕込んだ得物の具合を確かめて、気だるげに肩を鳴らす。

 その風貌は、一月前にやってきた新人という雰囲気は一遍も見られない。特殊部隊か暗殺部隊など、そういった後ろ暗さを持つ者のそれであった。

「給料貰ってるんだ。最低限の仕事はしとかないとな」

 ぐっと伸びをしてから、山口はもう一度足元の布袋を見た。

「せめてものお情けだ。お仲間に墓でも立てて貰いな、山口さん」

 本物の山口だった物が納まったそれを、無造作に路肩へと蹴り転がした。成り代わっていた……否、現在進行形で山口に成り代わっている男は、隊員が慌ただしく走り回る駐屯地の中、誰にも咎められることなく、悠々と発令所へと歩みを進めた。

 そして目的の部屋へと続く通路に入った所で標的を見つけた。それも都合よく、単独でいる。
 山口は口元が歪みそうになるのを押さえながら、ポケットの中の得物を握って、いつもの様子で目標に声をかけた。

「部隊長! こんなところにいらしゃったんですか!」
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