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第十一話「模擬戦と乱入者と保護者の実力について」

米国の新型

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 比乃達が敵の追撃を振り切る数分ほど前。テロ鎮圧と、比乃の援護のためにTkー7が小隊単位で出撃し、残るは一個中隊程のAMWとなった駐屯地に向かう、三体の西洋鎧の姿があった。

 その内、先行する二体は低空を重力を感じていないように飛んでいる。それから数百メートル後ろをもう一体、木々の間を縫うようにして走って進んでいた。

 前を先行する小城の『飛んだ方が楽ですよ』という言葉を無視して、ニコラハムは敢えて着地し、機体を走らせていた。

 三次元機動が自由自在に取れると言うのは、確かに魅力的である。だが、AMW乗りとは地を這い、時には跳躍し、地形を最大限利用して戦うものだ。どんな高性能機に乗っていようと、これを守らない者から死ぬ。ニコラハムは自身の経験から、そのことをよく知っていた。

 この男の性根はとにかく小物であったが、兵士、特にAMWの乗り手としては群を抜く程の腕だ。しかし、ここ最近、その戦歴にも傷が付きっ放しだ。
 東京の国際展示場や、廃屋での戦いの雪辱が、ニコラハムの心に影を落とし、ドロドロとした憎悪と、自身の未来への不安を積もらせていた。

 ここまで失敗を重ねては、本国に戻ってもどうなるものか、わかったものではない。少なくとも、何らかの処罰か、最悪の場合、粛清まであり得る。それに、何の成果も無しにおめおめと逃げ帰るということは、心情的にも絶対に出来なかった。

 そのために、今百メートルほど先を先行している二体の西洋鎧に乗っているテロリスト……日本で言う所の市民団体と手を組んだのだ。でなければ、こんな素人に毛が生えた者達と手を組んだりはしない。

 目的は勿論、米軍の最新鋭機。これを奪取し、本国への手土産とすれば、処断は免れるだろう。市民団体に渡しても、どうせ、中国か北朝鮮に運ばれるか、自衛隊による奪還作戦でも行われて、こいつらが殲滅されるかのどちらかだ。そうなるくらいなら、本国で役立たせて貰う。

 それともう一つ、散々邪魔をしてくれた、第三師団の小生意気なパイロットへの復讐もあった。精々、自分の基地が燃え上がるのを見て絶望して貰おうではないか、ニコラハムは獰猛な笑みを浮かべた。

 程なくして、小城ともう一人、小野オノと名乗った、先日の車を運転していた男が乗った機体がこちらに合図した。操縦席に括り付けられた通信機越しに「一キロメートルくらい先に目標を発見しました。好都合なことに単独です」とニコラハムに告げて来た。

 目標が単独で?  そんな馬鹿なことがあるか。ニコラハムは機体と立ち止まらせた。一キロ先、正しくは九百メートル程先を望遠させるように念じる。すると、円形のモニターの中にその光景映し出される。

 そこには、黒と白の塗装がされた細身のAMWが仁王立ちしていた。よく観察すると、腰の両側に大型の砲らしき物を装備していた。

 ニコラハムは逡巡し、すぐにその目的に気づいた。自身の中の警鐘が音を鳴らしている。あの機体は、自分が作戦前に独自に調べた情報に載っていた。

『ははは、腰に大砲なんて抱えてますね。そんなもの効かないというのに』

 しかし、自分にとって好都合な状況だとしか思っていない小城は、ラブラドライトに左手を掲げさせる。すると、その前方の空間が、ぐにゃりと歪んだ。
 ニコラハムが事前に受けた説明によれば、それはフォトンダイトによる強大なエネルギーを、斥力場として形成することで盾とする技術らしい。原理はよくわからないが、四十ミリ砲程度であれば防ぐことができるという代物だった。

 なるほど確かに、この機体の重装甲と合わされば、並大抵の火器は無効化できるだろう。だがしかし、ニコラハムが知っている米軍の最新鋭機は、情報に間違いがなければ、

『はは、そろそろ勧告しますか……あっ、あーそこの米軍機ーー』

 無駄な抵抗は辞めて、と言おうとした所で、小城という男は、閃光と轟音と共に一瞬で消し飛んだ。
 ただあるのは、胴体に巨大な風穴をあけた西洋鎧が、腕を掲げた姿勢のまま墜落したという結果だけだった。

(そうだ、あの機体……XM8は)

 市民団体と合流した後に、調べた情報を思い出す、あれはOFMこいつとの戦闘に特化した機体だ……!  状況を即座に理解したニコラハムは、素早く機体を伏せさせた。森林に身を隠し被発見を防ぐ。
 対して、何の遮蔽物もない空中を悠々と飛んでいたもう一機は、突然の先制攻撃と仲間の死に慌てたのか、荒々しく機体性能任せの、強引な回避運動を取った。

 しかし、相手の射撃技術はそれを大きく上回っていた。かなりの速度で旋回し射線から逃れようとした西洋鎧を難なく捉える。再度、轟音。回避運動を取っていたラブラドライトは、上下真二つになって、呆気なく地面に激突した。

 その光景を木々の間から見たニコラハムは、自分の通説が正しかったことを、改めて理解した。
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