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第十七話「宝石箱と三つ巴の救助作戦について」
嫉妬
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志度と心視の二人で構成された比乃救出チームは、ミッドウェー島の南部へと回り込んだ。安久や宇佐美達から十分ほど遅れてサンド島へと上陸。そこから北に向かって移動していた。
志度達から見て左側。建物や木々に隠れて見えないが、爆発音や発砲音が断続的に響いているのが聞こえる。また、夜にも関わらず、上がった火の手に照らされた空が明るくなっていた。上官二人は、相当に大暴れしているらしい。志度は戦々恐々とするように、思わず呟く。
「二人とも派手にやってるなぁ……」
それにしても、何機を相手取っているのだろうか、先程から戦闘の止む気配が全く感じられない。心視が若干心配になったのか呟く。
『あと二十分……保つ?』
今回の作戦は敵地に乗り込んでから、迎えの船が来るまでが、とにかく長い。そして、帰還のタイミングが非常にシビアだった。戦闘時間だけでなく、帰りに船まで自力で戻る時間を考慮して戦わなければならない。
長く敵地に船を置いておけないので、仕方のないことであったが、その間に戦闘を続けなければならない囮役の二人へ掛かる負担は、相当の物だろう。しかし、そんな心視の不安の一言に対し、志度は特に気にした様子はなく。気楽そうな口調で
「流石に敵が全滅する方が先だろ、あの二人だぜ?」
『……確かに』
「むしろ、敵を全滅させて暇になったらどうするかを考えた方が有意義だと思うぞ」
そんなことまで言ってのける。それほど、あの二人に寄せる信頼は厚いということだ。そんな軽いやり取りをしながら、二機のTkー7改が島の中心部近くまで移動した時、先行していた志度の機体のセンサーが、人一人分の小さい熱反応を拾い上げた。
何かと思い、そちらにカメラを向けズームする。炎が照らす薄明かりの中、建物の近くからこちらの様子を伺う様にして出てきたのは、松葉杖を付いて、Tkー7改を見上げている、救出対象の姿だった。
「比乃?! 自力で脱出したのか!」
志度が声を上げて心視に通信を入れるよりも早く、心視のTkー7改が降車姿勢を取りながらコクピットハッチを開き、搭乗者は飛び降りるような勢いで装甲の上を駆け降りて行く。
「比乃……!」
松葉杖を片方あげて、こちらに手を振る比乃に、飛びつくように抱きついた。受け止めた側が「おっと」と松葉杖を片方取り落としてしまうが、そんなことも気にしない。
遠くない場所でまた爆発が起き、煙が上がる。すぐ側は戦場であり、ここは敵地のど真ん中だった。しかしそれでも、心視は彼をぎゅっと抱きしめた。もう二度と離したくないとばかりに、涙を浮かべながら、力を込める。
「やぁ心視、久しぶり」
抱き締められた比乃は、困ったように頰を掻いて、とりあえず空いた片腕で心視を抱き締め返した。心視がすすり泣きながら、より一層腕に力を込める。
「迎えに来てくれたんだ」
「うん……」
「そっか、ありがとう」
「心配……した。たくさん……」
「ごめん」
『あー、二人とも、感動の再会はいいんだけど』
そこに、志度が気まずそうに声を掛けたので、比乃は心視をそっと離して、近くにしゃがみ込んだTkー7改に大声で声を掛けた。
「志度もありがと! それで、敵?」
『どういたしましてって、そうそう、反応が一機向かって来てる。心視も早く機体に乗れ……比乃はっと』
そこまで言うと、志度もコクピットから降りて来た。脇に長さ五十センチ程の木箱を抱えている。素早く比乃の元まで駆け寄ると、木箱を開いて見せた。中には履き慣れたいつもの義足。比乃が「おお、僕の足!」と感激して受け取ると、自分達が歩いて来た方を指差した。
「これ履いてここから南に六百メートルの海岸に行け、プレゼント兼帰りの足が置いてある」
「了解、急いで向かうよ」
しかし、こちらに来ている敵は一機……ただの雑兵が単独で来るとは思えない。恐らくは、オーケアノスかステュクスか、ドーリスらの内の誰かだろう。
全員、パイロットとしての技能は勿論のこと、その乗機である水陸両用機も、並みの量産機よりはずっと高性能なはずだ。比乃は、その場で借り物の義足を取り外しながら、急いで機体に戻る二人の背中に向けて忠告する。
「多分こっちに来てるのはAMWもパイロットも桁違いだ、気をつけて!」
すでに機体に滑り込むように乗り込んだ二人のTkー7が、了解したように親指を立てた。
「私たちよりもあんなのがいいんだ……へぇー」
遠くからやり取りを見ていたステュクスは、自分でも不思議に思うくらい、つまらなそうな声色で呟いた。本来であれば、妨害のために攻撃を仕掛ける所だったのだが、足元にどうやって逃げ出したのか、目標である比乃がいてそれができなかった。
それはまぁ、良い。目の前の邪魔な玩具を破壊して、さっさと確保すればいいだけだ。遠くへと走り去って行く比乃を尻目に、彼女は望遠カメラの中で起動した機体、自衛隊のTkー7を見やる。
(それにしても、あの金髪頭……)
あの時、狙撃されて壊された愛銃のこともそうだし、同じ狙撃手として負けたことに対する腹立だしさもある。だが、それとはまた別に、目標と抱き合っていたのを見たら、何故だか無性にイライラした。
それはもう私たちの物だ。だと言うのに、あいつらはそれを横取りしようとしている。そんな感情が、少女の胸内で渦巻いていた。
数日間、共に居ただけの間柄だと言うのに、そんな比乃と心視たちに向けて抱いたこの感情をなんと呼ぶのか、幼い彼女はまだ知らなかった。
「……感動の再会は済んだかしら?」
ステュクスは機体を跳躍させ、構えを取った二機の前に降り立つと、スピーカーをオンにして挑発する。言いながら、機体のリミッターを解除。これはオーケアノス以外が使用することは禁じられていたが、今回は特別だ。
「この間はよくもやってくれたじゃない、先生には無理するなって言われてるけど、私」
そして二機が短筒を取り出したのとほぼ同時に、機体を真正面から突撃させ――
「借りはすぐ返さないと気が済まないのよね!」
それを構えるよりも速く、大鷲のように広げられたクローアームが、両方の短筒を切り裂いた。
志度達から見て左側。建物や木々に隠れて見えないが、爆発音や発砲音が断続的に響いているのが聞こえる。また、夜にも関わらず、上がった火の手に照らされた空が明るくなっていた。上官二人は、相当に大暴れしているらしい。志度は戦々恐々とするように、思わず呟く。
「二人とも派手にやってるなぁ……」
それにしても、何機を相手取っているのだろうか、先程から戦闘の止む気配が全く感じられない。心視が若干心配になったのか呟く。
『あと二十分……保つ?』
今回の作戦は敵地に乗り込んでから、迎えの船が来るまでが、とにかく長い。そして、帰還のタイミングが非常にシビアだった。戦闘時間だけでなく、帰りに船まで自力で戻る時間を考慮して戦わなければならない。
長く敵地に船を置いておけないので、仕方のないことであったが、その間に戦闘を続けなければならない囮役の二人へ掛かる負担は、相当の物だろう。しかし、そんな心視の不安の一言に対し、志度は特に気にした様子はなく。気楽そうな口調で
「流石に敵が全滅する方が先だろ、あの二人だぜ?」
『……確かに』
「むしろ、敵を全滅させて暇になったらどうするかを考えた方が有意義だと思うぞ」
そんなことまで言ってのける。それほど、あの二人に寄せる信頼は厚いということだ。そんな軽いやり取りをしながら、二機のTkー7改が島の中心部近くまで移動した時、先行していた志度の機体のセンサーが、人一人分の小さい熱反応を拾い上げた。
何かと思い、そちらにカメラを向けズームする。炎が照らす薄明かりの中、建物の近くからこちらの様子を伺う様にして出てきたのは、松葉杖を付いて、Tkー7改を見上げている、救出対象の姿だった。
「比乃?! 自力で脱出したのか!」
志度が声を上げて心視に通信を入れるよりも早く、心視のTkー7改が降車姿勢を取りながらコクピットハッチを開き、搭乗者は飛び降りるような勢いで装甲の上を駆け降りて行く。
「比乃……!」
松葉杖を片方あげて、こちらに手を振る比乃に、飛びつくように抱きついた。受け止めた側が「おっと」と松葉杖を片方取り落としてしまうが、そんなことも気にしない。
遠くない場所でまた爆発が起き、煙が上がる。すぐ側は戦場であり、ここは敵地のど真ん中だった。しかしそれでも、心視は彼をぎゅっと抱きしめた。もう二度と離したくないとばかりに、涙を浮かべながら、力を込める。
「やぁ心視、久しぶり」
抱き締められた比乃は、困ったように頰を掻いて、とりあえず空いた片腕で心視を抱き締め返した。心視がすすり泣きながら、より一層腕に力を込める。
「迎えに来てくれたんだ」
「うん……」
「そっか、ありがとう」
「心配……した。たくさん……」
「ごめん」
『あー、二人とも、感動の再会はいいんだけど』
そこに、志度が気まずそうに声を掛けたので、比乃は心視をそっと離して、近くにしゃがみ込んだTkー7改に大声で声を掛けた。
「志度もありがと! それで、敵?」
『どういたしましてって、そうそう、反応が一機向かって来てる。心視も早く機体に乗れ……比乃はっと』
そこまで言うと、志度もコクピットから降りて来た。脇に長さ五十センチ程の木箱を抱えている。素早く比乃の元まで駆け寄ると、木箱を開いて見せた。中には履き慣れたいつもの義足。比乃が「おお、僕の足!」と感激して受け取ると、自分達が歩いて来た方を指差した。
「これ履いてここから南に六百メートルの海岸に行け、プレゼント兼帰りの足が置いてある」
「了解、急いで向かうよ」
しかし、こちらに来ている敵は一機……ただの雑兵が単独で来るとは思えない。恐らくは、オーケアノスかステュクスか、ドーリスらの内の誰かだろう。
全員、パイロットとしての技能は勿論のこと、その乗機である水陸両用機も、並みの量産機よりはずっと高性能なはずだ。比乃は、その場で借り物の義足を取り外しながら、急いで機体に戻る二人の背中に向けて忠告する。
「多分こっちに来てるのはAMWもパイロットも桁違いだ、気をつけて!」
すでに機体に滑り込むように乗り込んだ二人のTkー7が、了解したように親指を立てた。
「私たちよりもあんなのがいいんだ……へぇー」
遠くからやり取りを見ていたステュクスは、自分でも不思議に思うくらい、つまらなそうな声色で呟いた。本来であれば、妨害のために攻撃を仕掛ける所だったのだが、足元にどうやって逃げ出したのか、目標である比乃がいてそれができなかった。
それはまぁ、良い。目の前の邪魔な玩具を破壊して、さっさと確保すればいいだけだ。遠くへと走り去って行く比乃を尻目に、彼女は望遠カメラの中で起動した機体、自衛隊のTkー7を見やる。
(それにしても、あの金髪頭……)
あの時、狙撃されて壊された愛銃のこともそうだし、同じ狙撃手として負けたことに対する腹立だしさもある。だが、それとはまた別に、目標と抱き合っていたのを見たら、何故だか無性にイライラした。
それはもう私たちの物だ。だと言うのに、あいつらはそれを横取りしようとしている。そんな感情が、少女の胸内で渦巻いていた。
数日間、共に居ただけの間柄だと言うのに、そんな比乃と心視たちに向けて抱いたこの感情をなんと呼ぶのか、幼い彼女はまだ知らなかった。
「……感動の再会は済んだかしら?」
ステュクスは機体を跳躍させ、構えを取った二機の前に降り立つと、スピーカーをオンにして挑発する。言いながら、機体のリミッターを解除。これはオーケアノス以外が使用することは禁じられていたが、今回は特別だ。
「この間はよくもやってくれたじゃない、先生には無理するなって言われてるけど、私」
そして二機が短筒を取り出したのとほぼ同時に、機体を真正面から突撃させ――
「借りはすぐ返さないと気が済まないのよね!」
それを構えるよりも速く、大鷲のように広げられたクローアームが、両方の短筒を切り裂いた。
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