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第三十三話「文化祭の大騒ぎについて」

閑古鳥の対策

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 一悶着あったものの、パイロットスーツ喫茶は好評で、中々の売り上げを出した。主に扇情的な様相の女性陣と、比乃の料理の腕が功を奏した結果となった。これには実行委員の晃も、いつの間にかスタッフのまとめ役になっていた紫蘭もにっこりである。

 そして二日目。ミス歓天喜地高校コンテストと言う、女子生徒ナンバーワンを投票と審査で決めるイベントがあり、それにメアリやアイヴィー、紫蘭に心視までもが参加して、白熱したアピール勝負をして大いに盛り上がった。

 その他にも、並行して開催された料理自慢対決では、決勝戦にて、調理部の鉄血の料理人を名乗るゴツい男子生徒と、持ち前の女子力で勝ち進んだ比乃が対決した。結果、ほんの僅差で鉄血の料理人が勝利。最後は、健闘を称え合って、両者が涙を流しながら抱き締め合う暑苦しい出来事もあった。

 また、その裏で行われた男子腕相撲大会では、おおよその予想通り、志度がその圧倒的身体能力を持って無双した為にまともな大会にならず。名誉チャンピオンに任命という名の“来年から出場禁止“を言い渡されたりと、各々は企画されていたイベントを存分に満喫していた。

 そうしてやってきた文化祭最終日。二年A組の教室は――

「……客が来ない!」

「来ないね」

「来ませんねぇ……」

 紫蘭、アイヴィー、メアリが暇そうに手に持ったメニュー表をパタパタする。そう、パイロットスーツ喫茶は、三日目にして、まさかの閑古鳥が鳴く状況に陥っていたのだ。

 単純に飽きられたのか、それとも他の要因があるのか、定かではないが、あまりよろしくない状況なのは、厨房で暇そうに待機している比乃から見ても確かだった。

「ううむ……このままでは打ち上げコンパの予算に影響が出てしまうぞ……」

「そうなの?」

「ああ、打ち上げコンパだけは、学校からの予算ではなく模擬店の売り上げで予算を組んで行われる。つまり、売り上げが悪いとその分だけ規模がしょぼくなってしまうのだ」

「その、打ち上げコンパと言うのは何なんでしょう?  何か打ち上げるのですか?」

「端的に言えばパーティみたいな物だ。今年はお前たちも、ひびのんたちもいるし、盛大な物にしようと思っていたのだ。というか、会場の予約はすでに済ませてある。コンパ会場を決めるのは私の担当だしな」

「へぇ、初耳だなそれ……もし、売り上げが足りないとどうなるんだ?」

「うむ、ざっと売り上げ予想を組んで、それに合わせたランクの店を予約しておいたからな。予想よりも売り上げが下回った場合は、足りない分をクラスで自腹切ることに――」

「阿保かお前は!」

「あいたーっ?!」

 途中から会話に混ざっていた晃が、持っていたメニュー表で紫蘭の後頭部を引っ叩いた。すぱーんっと良い音が教室に響き渡るが、それと同時に、話を聞いていたクラスメイトたちがざわつき始める。

「おいおい、打ち上げで自腹ってマジかよ」
「えー、私今月財布ピンチなんだけど……」
「というか、何故、誰にも相談せず勝手に店を予約してんだ」
「森羅だからだろうなぁ……」

「静まれぃ、静まれーい!  売り上げさえ予想に到たちすれば問題ない!  だからそんな目で私を見るな!」

 段々と視線が痛くなって来たのか、紫蘭が慌てて場を制しようとする。そこへ、教室へと一人の男子生徒が飛び込んで来た。富田である。肩で息をしながら「報告!」と声を上げる。

「他のクラスの仮装喫茶、すげぇ盛り上がってるぞ!」

「なにぃ?  二番煎じ三番煎じが何か策を企てたというのか?」

「ああ……すっげぇ過激な水着で接客してた。エプロンすら着けてねぇ」

 その報告に、男子生徒たちが「おおっ?!」と、一斉に声を上げて、我先にと教室を飛び出そうとする。が、その前に紫蘭が腕を組んだまま、脚で扉をばんっと閉めて制止した。

「なるほど、遂にPTA判定ギリギリの策に出たわけか……余程焦ったと見える。余裕の無さが丸見えだ」

「け、けどよ森羅、それでもあれは余りにも有効過ぎる作戦だぜ。どうやって対抗するんだよ」

 富田たちが、何か対抗策はないのかと、紫蘭に問うように視線を向ける。数秒、考えるように俯いて、唐突に顔を上げて「ふっ」と息を吐くと、思いついた対抗策を告げた。それは、

「ならばこちらも露出度を上げるしかあるまい!  鋏を持てぃ!」

「いや駄目だからね」

 どこからか取り出した鋏で、スーツに切れ込みを入れようとした彼女の後頭部を、厨房から事を見守っていた比乃が素早く引っ叩いて止めた。もっとも、耐刃繊維のスーツは、鋏などでは切れないのだが、乱暴に扱うと比乃が怒られるのである。

「スーツは乱暴に扱わないって約束で貸し出してるんだから、そういうのは禁止だよ」

「うう……脳細胞が死んでいく……では、半脱ぎはどうだ?」

「ふむ、半脱ぎ……」

 今、紫蘭や他の生徒たちが着ているパイロットスーツは、前に首元から股にかけてファスナーが付いていた。それを上げ下げする事で、着脱する仕組みになっている。それを下ろせば、確かに扇情的な姿にはなるだろう。しかし、

「……それ、下手したら丸見えにならない?」

 比乃のもっともな意見に、しかし紫蘭は躊躇する様子もなく、

「ぎりぎりで止めておけば平気だろう!  私は売り上げの為ならその程度、造作もなく出来る!」

 彼女の男らしい宣言に、男子生徒の二度目の「おおっ?!」という声と、女子生徒たちの「ええー?!」という困惑と抗議の声が上がった。

「私、そこまで露出するのはちょっと……」
「森羅と違って芸人枠じゃないし……」
「そこんとこ一緒にしてほしくないって言うか……」

「おいそこ!  私は芸人でもなんでもないぞ!  お前たちと同じ普通の女子高生だからな!」

「というか、模擬店の内容だけじゃなくてそこまで二番煎じなのもなぁ」

 晃の一言に、またしてもうーんと悩み始める一同、そこで、心視がはたと閃いた。

「だったら……料理の味で、勝負すれば?」

「それも無くはないが、うちのメイン料理長。昨日の料理自慢対決で負けてるからな……」

「いやぁ、面目無い」

 参加チーム十数の内、一応は二位を勝ち取っている比乃が、申し訳なさそうに頭を下げた。ちなみに、件の調理部の模擬店は、行列が並ぶ人気店となっている。そこと客を取り合うのも、中々難しいだろう。

「うーむ……それでは最後の手段だが、致し方ない」

 紫蘭はエプロンのポケットから携帯端末を取り出して、クラス全員に見えるように掲げて見せて言った。

「サクラを呼ぶぞ!  今日は日曜日だし、今からでも家族とか呼べるだろ!」

 彼女の提案に、クラスメイトたちは仕方がないと、携帯端末を取り出して、各々誰かしらに連絡を取り始めた。流れ的に、比乃たちも呼んだ方が良いのだろうが、自分たちの知り合いの大半は沖縄か国外である。少し悩んでから、

「あ、そうだ」

 比乃は一つ、心当たりを思い出して、携帯端末を操作し始めた。それを見た志度と心視も、習うようにして連絡を取り始める。
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