自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~

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第三十九話「再びの帰郷とそのおまけについて」

修学旅行

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 あの学校占領の大騒ぎがあってから半月後。生徒達が心配していた延期や中止などと言った問題も無く、修学旅行は当初の予定通り行われた。

 羽田空港から何の遅れも無く飛び立った旅客機は、テロリストにハイジャックされることも、謎の航空勢力に襲われる事もなく、無事平穏なフライトを続けていた。

 問題があったと言えば、乗っていた歓天喜地高校の生徒達が喧しかった事くらいだろうか。生徒達の他にも一般客が数十名乗っていたのだが、それでもほとんど貸切状態の機内。

 教師からはしゃぐなと言われて、それに素直に従う良識派を除けば、彼ら彼女らは“至って普通の”高校生らしく、細やかに騒いだ。それをスチュワーデスがやんわりと静止しようとしているが、焼け石に水と言った様子であった。

 比乃はどちらかと言えば良識派の側の人間であったし、今更、旅客機に乗った程度で喜べるような人生経験をしてきてはいない。それは同僚である志度と心視も同じはず……なのだが、

「うおーすげーぞ比乃!  これテレビ見れるぞテレビ!  映画見ていいか?!」

「ゲームも……できる、みたい……やってみて、いい?」

「……お好きにどうぞ」

 二人は軍用機以外に乗ったことがなかったので、割と大はしゃぎであった。映画とゲームに没頭し始めた同僚達から目を離すと、比乃は耳にイヤホンをして、周囲の喧騒をシャットアウトした。

 たかがジャンボジェット機に乗ったくらいで、何がそんなに楽しいのか、比乃にはいまいち理解できなかった。
 そんな護衛対象の一人が聞いたら「人生を無駄にしているぞひびのん!  もっと楽しんで生きろ!」とでも言わそうな事を思いながら、比乃の意識は次第に眠りへと落ちて行った。


 比乃が目を覚ますと、旅客機が目的地である那覇空港に到着した時だった。寝ている間に特に問題は起きなかったらしい。スチュワーデスがどこかぐったりしているのが気になったが、比乃はあえてそれに言及することはしなかった。

 周囲の生徒達が荷降ろしをして降りる用意をしているのを見ながら、比乃はうんと伸びをして、同じように座席の上にある収納スペースから手荷物を降ろしている志度と心視に声をかける。

「映画とゲーム、どうだった?」

「お、起きたのか比乃。面白い映画だったぜ、対象年齢十歳とか書いてあった気がしたけど、あれは子供向けじゃねぇな」

「ゲームも……中々、面白かった……つい熱中しちゃった」

「それは良かったね」

 そんな会話をしつつ、心視が降ろした自分の手荷物を受け取って、席を立つ。
 旅客機に添えつけられたタラップを降りると、どこか懐かしい、もう秋も中頃だと言うのに、どこかむっとする湿気を帯びている気がする空気と、肌を焼くような強い日差しを感じながら、比乃は那覇空港――懐かしの沖縄へと降り立った。

 ***

 それから、歓天喜地高校二年生の一行は、クラス毎に別れて、定番の観光スポット……というよりも一応の名目である平和学習のために、慰霊碑だったり、塹壕跡地だったりへと行かされ、そこで百年近く昔に起こった大戦について、係員から説明を受けたりした。

 係員が熱心に、身振り手振りを交えて熱のこもった解説をしている中、大半が欠伸をしながら聞いていたのは、その話の退屈さから考えても、仕方がないこととも言えよう。今を生きる若者に取って、大昔にあった歴史上の話など、割とどうでもいいのである。

 そうして、午前中の予定を済ませた二年A組一行は、自分達が宿泊するホテルに荷物を置くと、エントランスに集合した。先程までとは打って変わって、何かを今か今かと待ちわびている様であった。出口の方を向いてクラウチングスタートの構えを取っている生徒もいる。

 点呼を行い生徒が全員揃っていることを確認した担任が、それらを特に咎める事もなく、ごほんと大きく咳払いする。

「えー、長ったらしい話はお呼びでないだろうから一言だけ、現地の方々に迷惑はかけないこと、以上。それでは解散」

 担任のその言葉を待っていたとばかりに、六、七人の班に別れた生徒達が、一斉にホテルの出口へ向けて駆け出した。
 あまりの状況の変化の早さについていけない比乃ら自衛官組と英国組の五人に、この学校のテンションに慣れきっている、同じ班の紫蘭と晃が慌てた様子で、

「しまった、スタートダッシュに乗り遅れた!」

「急ぐぞみんな、タクシーが全滅しちまう!」

「いや、流石にタクシーは無くならないと思うけど」

「「そんな保証どこにあるんだ!」」

 比乃の言葉に耳を貸さず、二人揃ってハリーハリーハリー!  と五人を急かしながら、出口へと駆け出す。急かされた比乃達も、妙にテンションが高いクラスメイトや友人を前に、何が何だかわからぬまま手荷物を抱えて、後に続いた。

 そうして、瞬く間に担任一人になったエントランスで、どこからか取り出したパンフレットを片手に、担任は呟いた。

「若いって良いなぁ……」

 それはさて置いて、自分も他の教員と合流して、生徒の監視という名の旅行を楽しまなければ……生徒達には負けてられないと表情には出さずに意気込み、しかしそれでものんびりとした足取りで、担任もホテルの出口へと歩き始めたのだった。

 ***

 那覇空港から分乗したタクシーで十分程。まずは腹拵えということで、土産屋や飲食店が立ち並ぶ観光スポットの一つ、国際通りへと一同はやってきた。

 適当な場所で降りて、手近な店に入って料理を注文した七人は、これからの行動について話し合っていた。
 と言っても、どこに行って何をするかは、事前に打ち合わせてあるので、班長である比乃が確認するように語るだけなのだが。

「……というわけで、この後は当初の予定通り、まず沖縄ワールドに行こうか」

 沖縄ワールドとは、遊園地か何かのような、ほんわかした名前の割にしっかりとした観光名所で、琉球時代の街並みを再現した街並みや、沖縄の動物の代名詞であるハブの博物館。そして玉泉洞という大きな鍾乳洞が売りの複合施設である。
 比乃も昔、部隊長に連れられて行ったことがあるが、中々面白い場所である。

「それから、少し遠いけど水族館にも行く予定だったね。夜七時の夕食までにホテルに戻ればいいから、時間的には余裕があるけど、少し巻きで見ないといけないかな」

 言いながら、比乃が地図と携帯端末で移動時間と滞在時間を計算して割り出している間に、料理が運ばれて来て、各々が「いただきます」と口をつけ始めた。

 比乃も端末と地図を鞄にしまって、料理に手をつけようとした時、口に放り込んだ食事を咀嚼して飲み込んだ紫蘭が「それなんだがな比乃」と切り出した。

「今日のそれらの予定は、全てキャンセルだ」

「……えっ?」

 口に運んでいた料理をぽろりと落としそうになり、慌てて皿に戻した比乃が、こめかみをヒクヒクさせながら「それは、どうして?」と一応聞く。

「うむ、実を言うと、直前になって良い観光名所の予約が取れてしまってな。今日はそこで半日潰せそうなんだ」

 その言葉に、比乃は溜息を吐いた。隣で名物的な蕎麦をずるずる啜っていた志度と心視が、それをごくりと飲み込んで、

「おいおい、突然の予定変更は作戦中だけで十分だぜ」

「比乃の案……駄目、だった?」

「や、そういうわけではないんだが」

「……予定変更するにしても、もっと早く報告して欲しかったんだけど……報連相は大事だよ?」

 せっかく予定を立てたのに、と恨めし気な目を向ける比乃に、紫蘭は後頭部に手をやって笑顔で、

「いやぁ、直前で言ったらサプライズになるかと思って」

「なるか阿保!  俺も初耳だぞ!」

 箸を置いた晃のチョップを受けた。後頭部に強烈な一撃を受けた紫蘭が「あいたーっ!」と悲鳴をあげる。
 いつもの流れをスルーして、突然の予定変更に、比乃はため息を吐いて困り顔でこめかみを抑える。

「そこ、予約ってことはキャンセルしたら色々困るとこだよね?  そしたら、今日行く予定だった所は明日に回そう。明日は丸一日自由行動だし、早起きすれば問題なく動けるでしょ」

 今回の修学旅行は二泊三日。初日は午後が、二日目は丸一日、最終日は午前中いっぱいが自由行動時間となっている。高校生の旅行にしてはかなり自由度があるスケジュールであった。

「流石は日比野さん。対応力がありますね」

「私達は、沖縄のどこに行っても楽しめそうだから、予定変更でも構わないんだけどね」

 比乃と紫蘭らが騒いでいる間に食事を済ませて、何故かメニューにあった紅茶を飲みながら、メアリとアイヴィーは事も無げに予定の変更を承諾する。まぁ、この二人はそう言うだろうな、と比乃は内心で苦言が出なかったことに安心する。

「それで、どこに行くつもりなの?」

 頭を抑えて呻く紫蘭に、半目を向けて比乃が問う。すると紫蘭は、顔を下に向けたまま不敵な笑みを浮かべて、

「ふふふ……それは」

「それは?」

 俯いていた紫蘭が顔を上げて、にんまりと笑みを作って言った。

「行ってからのお楽しみだ!」

 晃の腕が、再度唸った。
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