自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~

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第四十一話「困った時の親頼みについて」

藪を突いて蛇を出す

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 部隊長から連絡を受けた大関と大貫は、ホテル付近の見回りをしていた。
 自転車で。

「本当に人使いが荒いよなあのちょび髭」

「まったくだ。まぁ、こうして筋肉を暖めることができる機会をくれたのは、ありがたいことだがな」

 ママチャリの上に山のような筋肉を乗せた、傍目から見たらちょっと「うわっ」となる物体二輌は、車通りもない車道を一列になって走っていた。
 ここで車ではなく自転車を使うのにも、作戦上の理由があった。エンジン音が目立つ車で、大っぴらに見回りなどしたら、テロリストに余計な刺激を与えてしまうことになってしまうからだ。無論、筋肉を使いたいという二人の意図もあったが。

 そうして人通りも殆どない街中から、更に外れて人が住んでいないゴーストタウン状態の地区に入った所で、二人は同時に、一つの異変を察知した。

「ん?」

「ありゃあ、妙だな」

 上記したように、今、大関と大貫がいる地域は、テロや破壊活動などの煽りを受けて、数年前から住民が居なくなった地区である。そのことは当然、自衛官である二人も知っていた。こう言った場所はテロリストが潜伏する格好の場であり、また市街地で対AMW戦が発生した場合に、被害を減らすために誘き寄せる場所として認知されているからだ。

 つまりはこんな夜中に、灯りがついた建物があり、更には映し出される影から人がいる気配がするだけでも、警戒するには充分な理由になるのだ。そして今は要警戒態勢中である。調べないわけにはいかなかった。

「薮は突きたくないが、蛇を出すのが俺たちの仕事だからな」

「部隊長と駐屯地に連絡は入れておこう。何があるかわからんからな」

 ママチャリから降りた大関が、先行して壁に沿うように身を潜めながら進み、その後ろで大貫が背中に背負っていたリュックから無線機を取り出して、部隊長と、それから駐屯地に不審な人影を発見したことを伝える。

 部隊長からは「そこが実行犯の拠点の可能性もある。時間がない、偵察だけでも任せる」と指示が来て、駐屯地の通信担当からは「至急、増援を送る」と知らせが来た。

 お膳立ては整った。二人はその筋肉まみれの肉体からは想像できないような軽やかな身のこなしで、その建物、元は小さい工場か何かだったらしい物に近づいて行く。

「外に見張りは無し、警戒が薄いな、肝試しか秘密基地ごっこでもしてる学生じゃないのか?」

 大貫がそんな希望的観測を述べていると、扉に横顔をぴたりとくっ付けた大関が、

「いや待て……中から……重機械の音、断続的だな」

「隠れて営業してる町工場なんてオチはないだろうな」

 建物の非常口だっただろう鉄扉に耳を当て、中の様子を探る大関の分析に、大貫がまたも冗談で返す。
 しかし二人とも、中に何があるのか、薄々と感づいていた。何故なら、大貫も耳を当ててみれば、鉄の板越しに聞こえてくるその音、特徴的なモーターの駆動音は、自分達が慣れ親しんでいる物だったからだ。

 顔をお見合わせた二人は丸腰、武器といえば、己の極限まで鍛え抜かれた筋肉だけである。
 流石に、自分の肉体に絶対の自信を持っていても、この状況では理性が働いた。

「……どうする?」

「流石に俺達だけで突入して制圧は無理があるな。応援が来るまで、最短で二、三十分くらいか」

「テロリストが指定した時間にギリギリ間に合わないな……で中にいるのはほぼ関係者と見て間違い無し、となると」

「偵察できるだけして、後は上に投げるか」

「そうだな、一先ず、駐屯地に増援にTkー7付けるように言っとくか」

 同時に頷いて行動方針を確認。大貫が無線機を取り出し、大関が速やかに偵察を実行すべく、扉をゆっくりゆっくりと開けようとドアノブを掴んだ。が、その時、向こう側から力が加えられ、扉が内側に開いた。

「おっ?」

 そこに居たのは、目出し帽を被った明らかに「犯罪者です」と言う風貌の男が二人。相手もまさか扉を開けた先に人がいるとは思っていなかったのか、露出している口元と目元が、驚いたように開かれて、

「「えっ?」」

 などと、揃って間抜けな声を出した。
 そして同じく、まさか扉が勝手に開くとは思っていなかったので、前につんのめった形になった大関と、後ろでちょうど無線機を駐屯地に繋げた大貫が目出し帽二人組を見て固まる。

 まさかのお見合い状態に、互いに数秒間硬直した。その間にも、大貫が持つ無線機の向こうから「大貫?  どうした?  こちら第三師団駐屯地、もしもーし」という、緊張感の無い通信が漏れて、辺りに響いた。これがいけなかった。

 ほぼ同時に我に変えった四人の内、目出し帽の一人が通信機から漏れた音声から、この筋肉二人が何者かを察知して「敵襲!  敵襲ー!!」と叫びながら、回れ右して奥へと駆けて行ってしまった。残った一人が「う、動くな!」と言って着ているジャケットの内側に手を突っ込んで、何かを取り出そうとした。が、

「ふっ!」

 それよりも早く、その目出し帽に拳が叩き込まれた。短い悲鳴をあげて数メートル後方に転がり、痙攣し始めた男を検分しようとして、大関が大貫に止められる。

「ぬかったな……すぐに逃げないと不味いと思うが」

「いや、だが身元を調べるくらい……」

 と大関が言った所で、建物の中、工場で例えるなら作業機器などが収まっているであろう場所から、甲高いモーターの駆動音と、何かを壊す破砕音が聞こえてきた。

 中にいた不審人物、いや、テロリストは余程短気かつ慌てん坊らしかった。中で何が起きているか、そしてこれから何が起きるかを素早く察した大関と大貫は、顔を見合わせて同時にうんと頷くと、大急ぎで自転車の元に走り、巨体をサドルに乗せた。

「「全力ダーシュッ!!」」

 戦略的撤退。それからはもう一目散である。全身の筋力を活用して全力でペダルを漕いでその場から離れる二人のその後ろで、鉄の巨人が廃工場の壁を破壊しながら、道路に足を踏み出していた。

 それに呼応するように、その周辺の廃屋から次々と所属不明のAMWが出現したことを駐屯地の通信担当が知るのは、息を切らせた大貫が通信を入れた約五分後であった。
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