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第四十四話「終末に向かう前の出来事について」
幼馴染
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外国人のスキンシップって色々すごいんだなぁ。とか思いながら、比乃はいい加減、自機が駐機してある区画に向かおうと足を動かした。だが、足を向けた方向から、こちらに早足で向かってくる小さい人影を二つ見つけて、歩みを止めた。
自分の同僚であり、幼馴染みでもあるその二人。心視と志度は、片や、珍しいほどに不機嫌さを表情に表していて、その後ろの方は、呆れたような顔をしていた。何かあったのかな、と比乃は首を傾げる。
「二人ともどうしたの?」
何故、自分にそのような表情を向けているのだろう、そう不思議に思った比乃が訪ねるが、会話をする距離まで近づいてきた心視は、眉を八の字に曲げて、口もへの字という「私は今、凄く不機嫌です」と物語った顔のまま、喋ろうとしない。ただ、その視線から、比乃を責める意思が感じられる。視線が痛いとは、このようなことを言うのだろうか。
どうしたものかと、志度に助け船を求めて視線を向けると、白い髪を左右に揺らして首を振り、口で「やれやれ」と言って、肩を竦めた。
「あれだ、心視は拗ねてるんだよ。比乃がアイヴィーとか、あのアメリカの女とばっかりいちゃついてるから」
「いちゃついては……いなかったけど」
志度の言葉に、比乃はなんだか気恥ずかしい感じがして否定した。しかし、誰がどう見たって、あれはいちゃついていたようにしか見えなかった。それはつまり、こういうことに疎いこの二人の目にも、そういう風に写っていたわけで、
「いーや、あれはラブコメってたね。俺でもわかる。心視にもわかる。ラブコメの波動ってやつを感じちゃったね」
「どこで覚えたのそんな波動。だからって、どうして心視が不機嫌になってるのさ」
同僚にここまで言われても、理解を示さない比乃に、心視が更に数歩近づいて、その胸を右の拳で叩いた。叩いたと言っても、ぽかっとか、そういう擬音が出るような、軽いものであった。
「……心視?」
その遠回しな意思表示に、比乃が疑問符を浮かべている間に、左手でもう一度、ぽかりと叩く。両手を相手の胸元に押し付けて、小さい、小さい声で、
「……比乃、何もわかってない……鈍い……鈍感……そういうの、よくない」
「良くないと言われても……」
「命取りに……なるよ?」
命の危険があると言われ「えっ、そこまで?」と戦慄する比乃の態度に、心視と志度は同時に深い溜め息を吐いた。この同僚は、自分たちと比べれば、ずっと一般人に近い感性を持っているのに、こういう感情だけが、抜け落ちているかのように鈍い。
これはいつか是正しなければならない、そのためにも、今はさせることがある。
「とりあえずあれだ。比乃」
「うん」
「俺と心視の頭を撫でろ」
「うん?」
突然、何を言い出すのだろうかこの同期は、という意味の「うん」だったのだが、志度はそれを了承と受け取ったらしく、頭をずずいと差し出してきた。心視も、不機嫌顔のまま、それに続く。
「ええっと……」
相手の意図が掴めず、どう反応すればと考える内に、白髪頭と金髪頭が、頭突きでもするかのように、こちらに押し出される。
同期の行動に戸惑うことは、今に始まったことではない。なので「これは考えても仕方が無いやつだな」ということで無理矢理に納得して、比乃は両手を同期二人の頭に乗せた。
そのまま、手を左右に動かし、きめ細かい髪に指を通す。自衛官という職に就いている上に、特にケアをしている様子もないのに、手触りが異様に良かった。まるで、高級な糸の束に触れているようにすら思えてくる。体質の差なのかな、と呟きながら、手を動かす。
志度は、目を細めて比乃の手に頭をぐりぐりと擦り寄せてくる。同じ男に頭を撫でられて、嬉しい要素などあるのだろうか、比乃は疑問に思いつつも、それに負けないように力強く撫でる。
心視の方は、最初こそ顔は不満げだったが、志度とは対照的に優しく、割れ物を取り扱うように頭を触れている内に、眉と口元がいつも通りの形に戻った。むしろ、普段よりも緩んでいる気もする。
まんま、犬と猫だな、と思いながらも、どちらも頭を引かないので撫で続けていると、唐突に志度が口を開いて、目を細めたまま口だけ動かして、語り出した。
「俺はさ、比乃にこれ以上、何かを求めようとは思わないんだ。むしろ、比乃に何をしてやれるかって考えてたぜ。戦うことしか知らない俺を、あんな楽しい世界に馴染ませてくれたのは、比乃だからさ、こんなに良いことをしてもらったのに、もっとって強請るのは、我が儘ってもんだぜ」
すると、隣の心視が、その言葉に続けるように話す。
「私は、志度と、少し違う……比乃にしてもらいたいこと……まだまだ、沢山ある。だから、比乃が死なないように、私も死なないように、頑張って訓練した……だから、こうして、頑張ったご褒美、先取りでもらってる……」
そう言った心視に、志度が視線を向けて、にやりとする。
「心視、お前、我が儘だな?」
心視も、志度の方に視線だけ動かして、無表情のまま言う。
「女の子は……少し、我が儘な方がいいって……みんな言ってた」
そんな幼馴染み二人を話を聞いて、比乃は自分も思っていたことを述べる。
「僕だって、二人には沢山助けてもらったし、これからだって、助けてもらうことがきっとある。そんな関係がずっと、続けばいいとも思ってる」
「だったら、今回の作戦は」
「絶対……成功させる」
「そうだね。負けられない戦いだ」
そう言って、比乃が二人の頭から手を放す。そのまま降ろそうとした手を、志度と心視が片手ずつ掴んだ。怪訝そうにする比乃に、二人は、どちらともなく頷きあって、まるで祈るようにその手を両手で包んだ。
「俺たちは、比乃を絶対に守る。そのことを、忘れないでくれよな」
「それが……私たちの、お願い……」
「……わかった、しかと胸に刻んでおくよ。本当に、頼りにしてる」
二人の願いを聞いた比乃は、その願いを受け取った。そして、三人で笑い合う。
同期にして幼馴染みの三人、その結束は、何よりも強いのだ。
それで満足したのか、二人は比乃の手を放した。志度は興奮したようにぐるぐると回り始め、心視もどこか浮かれたような様子で虚空を見つめる。
「うおー! やる気出た! というか俺が女だったら色々とやばかった!」
「私も、やる気、出た……志度が女だったら、真っ先に始末してた……」
「えっ、始末?!」
「良いシーンだと思ったのに、何を物騒な話してるの……ほら、機体の調整しに行くよ」
先導して歩き始めた比乃に、心視と志度が「はーい」と着いて行く。すっかり、いつも通りになった三人は、自分たちの機体がある区画へと去っていった。
その様子を一番最初から、離れたところで見守っていた兄貴分と姉貴分は、自分たちの部下にして、弟と妹である三人のやり取りが微笑ましいとばかりに、優しげな表情をしていた。
自分の同僚であり、幼馴染みでもあるその二人。心視と志度は、片や、珍しいほどに不機嫌さを表情に表していて、その後ろの方は、呆れたような顔をしていた。何かあったのかな、と比乃は首を傾げる。
「二人ともどうしたの?」
何故、自分にそのような表情を向けているのだろう、そう不思議に思った比乃が訪ねるが、会話をする距離まで近づいてきた心視は、眉を八の字に曲げて、口もへの字という「私は今、凄く不機嫌です」と物語った顔のまま、喋ろうとしない。ただ、その視線から、比乃を責める意思が感じられる。視線が痛いとは、このようなことを言うのだろうか。
どうしたものかと、志度に助け船を求めて視線を向けると、白い髪を左右に揺らして首を振り、口で「やれやれ」と言って、肩を竦めた。
「あれだ、心視は拗ねてるんだよ。比乃がアイヴィーとか、あのアメリカの女とばっかりいちゃついてるから」
「いちゃついては……いなかったけど」
志度の言葉に、比乃はなんだか気恥ずかしい感じがして否定した。しかし、誰がどう見たって、あれはいちゃついていたようにしか見えなかった。それはつまり、こういうことに疎いこの二人の目にも、そういう風に写っていたわけで、
「いーや、あれはラブコメってたね。俺でもわかる。心視にもわかる。ラブコメの波動ってやつを感じちゃったね」
「どこで覚えたのそんな波動。だからって、どうして心視が不機嫌になってるのさ」
同僚にここまで言われても、理解を示さない比乃に、心視が更に数歩近づいて、その胸を右の拳で叩いた。叩いたと言っても、ぽかっとか、そういう擬音が出るような、軽いものであった。
「……心視?」
その遠回しな意思表示に、比乃が疑問符を浮かべている間に、左手でもう一度、ぽかりと叩く。両手を相手の胸元に押し付けて、小さい、小さい声で、
「……比乃、何もわかってない……鈍い……鈍感……そういうの、よくない」
「良くないと言われても……」
「命取りに……なるよ?」
命の危険があると言われ「えっ、そこまで?」と戦慄する比乃の態度に、心視と志度は同時に深い溜め息を吐いた。この同僚は、自分たちと比べれば、ずっと一般人に近い感性を持っているのに、こういう感情だけが、抜け落ちているかのように鈍い。
これはいつか是正しなければならない、そのためにも、今はさせることがある。
「とりあえずあれだ。比乃」
「うん」
「俺と心視の頭を撫でろ」
「うん?」
突然、何を言い出すのだろうかこの同期は、という意味の「うん」だったのだが、志度はそれを了承と受け取ったらしく、頭をずずいと差し出してきた。心視も、不機嫌顔のまま、それに続く。
「ええっと……」
相手の意図が掴めず、どう反応すればと考える内に、白髪頭と金髪頭が、頭突きでもするかのように、こちらに押し出される。
同期の行動に戸惑うことは、今に始まったことではない。なので「これは考えても仕方が無いやつだな」ということで無理矢理に納得して、比乃は両手を同期二人の頭に乗せた。
そのまま、手を左右に動かし、きめ細かい髪に指を通す。自衛官という職に就いている上に、特にケアをしている様子もないのに、手触りが異様に良かった。まるで、高級な糸の束に触れているようにすら思えてくる。体質の差なのかな、と呟きながら、手を動かす。
志度は、目を細めて比乃の手に頭をぐりぐりと擦り寄せてくる。同じ男に頭を撫でられて、嬉しい要素などあるのだろうか、比乃は疑問に思いつつも、それに負けないように力強く撫でる。
心視の方は、最初こそ顔は不満げだったが、志度とは対照的に優しく、割れ物を取り扱うように頭を触れている内に、眉と口元がいつも通りの形に戻った。むしろ、普段よりも緩んでいる気もする。
まんま、犬と猫だな、と思いながらも、どちらも頭を引かないので撫で続けていると、唐突に志度が口を開いて、目を細めたまま口だけ動かして、語り出した。
「俺はさ、比乃にこれ以上、何かを求めようとは思わないんだ。むしろ、比乃に何をしてやれるかって考えてたぜ。戦うことしか知らない俺を、あんな楽しい世界に馴染ませてくれたのは、比乃だからさ、こんなに良いことをしてもらったのに、もっとって強請るのは、我が儘ってもんだぜ」
すると、隣の心視が、その言葉に続けるように話す。
「私は、志度と、少し違う……比乃にしてもらいたいこと……まだまだ、沢山ある。だから、比乃が死なないように、私も死なないように、頑張って訓練した……だから、こうして、頑張ったご褒美、先取りでもらってる……」
そう言った心視に、志度が視線を向けて、にやりとする。
「心視、お前、我が儘だな?」
心視も、志度の方に視線だけ動かして、無表情のまま言う。
「女の子は……少し、我が儘な方がいいって……みんな言ってた」
そんな幼馴染み二人を話を聞いて、比乃は自分も思っていたことを述べる。
「僕だって、二人には沢山助けてもらったし、これからだって、助けてもらうことがきっとある。そんな関係がずっと、続けばいいとも思ってる」
「だったら、今回の作戦は」
「絶対……成功させる」
「そうだね。負けられない戦いだ」
そう言って、比乃が二人の頭から手を放す。そのまま降ろそうとした手を、志度と心視が片手ずつ掴んだ。怪訝そうにする比乃に、二人は、どちらともなく頷きあって、まるで祈るようにその手を両手で包んだ。
「俺たちは、比乃を絶対に守る。そのことを、忘れないでくれよな」
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二人の願いを聞いた比乃は、その願いを受け取った。そして、三人で笑い合う。
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それで満足したのか、二人は比乃の手を放した。志度は興奮したようにぐるぐると回り始め、心視もどこか浮かれたような様子で虚空を見つめる。
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