自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~

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第四十六話「結末を迎える者たちについて」

保護者の教示

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 妹弟子の操る玉虫色の西洋鎧が、宇佐美のTk-7改に迫る。フォトンによって形成された刃と、フォトンをまとった刃がぶつかり合う。既存の物理法則を逸脱したもの同士が緑の火花をあげる。

「どうしてあなたが……!」

 思ってもいなかった突然の再会と、自分が大切にしていた妹弟子からの殺意に、宇佐美は戸惑いを隠せなかった。何故、数年前に行方不明になっていた妹分が、こんなところで、OFMなんかに乗って、自分に襲いかかってくる?

『腕は鈍っていないようですね。宇佐美の姐さん』

 刀を構え直し、こちらを見据える敵機からの外部音声は、聞き間違えもしない、確かに妹弟子だった暁美のものだ。

「何故、あなたがそんなものを……」

『それはこちらの台詞です、けれど、これは都合が良い』

「都合が良い?」

 暁美が刀を振り上げ、上段の構えを取る。彼女が一番得意としていた型だ。

『私は、昔から貴女を越えたかった。しかしあの日、テロに巻き込まれて、自衛隊ではなくジュエリーボックスのメンバーに救い出された時、もう私にそれを叶えることはできないと思っていた』

 話ながらも、OFMが数歩歩いたかと思うと、次の瞬間には突風のような勢いで接近。宇佐美の目の前まで来ていた。機体性能に頼っていない、純粋な身のこなしによる動作だ。

「っ!」

 上から思い切り振り下ろされた一撃を、宇佐美は辛うじて右へ避けた。すり足と重心移動によるそれは、無意識に近い回避運動だ。そして、その無意識で光分子カッターを相手に斬り返そうとしたが、寸前で止めた。反撃に移らず、後ろに下がることで相手の間合いから逃れる。

『気付けば、私はこんな大層な得物を扱うにまでなった。しかし、聞けば貴女も似たような得物を扱っていると言うではないか、そしてお誂え向きに、決戦の場まで用意された』

 暁美は切っ先を宇佐美に向けた。

『貴女を越えるためだけに、私は強さを求めた。それを今、終わりにする』

 OFMがまた一歩、歩いたかと思うと加速した。彼女の何年前からもの癖にして、得意な動きだ。しかし、過去の思い出よりもずっと鋭く、速くなっている。

 宇佐美の機体が、下から掬い上げるような斬り上げを、刀で受けずに身を逸らして避ける。刃が翻って、横一文字の薙ぎに変化する。逸らしていた上半身を更に倒すことで、これも避ける。倒れるままに勢いを任せて、片手を地面に着いて蹴りを放った。

 武術で言うならば、変則的なカポエラに近い。一撃を胴体に受けた西洋鎧が、後ろによろめく。相手が姿勢を整えるより先に、宇佐美は身を起こして刀を振りかぶっている。

『!』

 しかし、その刃が敵機を切り伏せるには至らなかった。装甲に接触する直前で、宇佐美が刀を止めたのだ。

「……やめましょう、どうして、私があなたを斬らないといけないの」

 宇佐美はこれまで、刀を一度抜けば、敵対者を斬り殺してきた。それを、刀を持ってして敵を討ち取る者の流儀だと思っているからだ。敵に対して不要な慈悲は持たない。それが彼女の信条だった。だが、それでも、宇佐美は妹弟子を斬ることができなかった。

 何年も共に腕を磨き合い、稽古をつけ、育てた相手を、冷酷に殺害することができない。これが私の甘さか、と宇佐美は己の中にある感情を自覚した。

『なめるな!』

 だが、暁美はそれを振り払うように、刀を横薙ぎに振るった。宇佐美は後方に飛んで距離を取る。

『貴女はいつもそうだ……自分より弱い者を下に見て、手加減して、侮って……だからこそ、私が越えなくてはならないと思った』

 暁美の西洋鎧の腕が、怒りに震えて、刃がぶれるように揺れる。

『その覚悟すら、貴女はそうして馬鹿にするのか!』

「な、私はそんなこと……!」

『もういい、貴女が本気を出さないなら、そのまま私に斬られて死ね。その後、貴女の大事な者を斬り殺す。その甘えをあの世で後悔しろ!』

 言った直後、暁美の西洋鎧に変化があった。背中からフォトンの粒子を大放出し、翼のような形状に変化する。持っていた刀が、大きく、太く、変貌する。それをまた、上段に構える。迷いなど一切無い。こちらを殺すことしか考えていないという意思を、ひしひしと感じる。

 これを光分子カッターで受け流すのは無理だろう。武器ごと斬り伏せられるのは目に見えてる。

 それに、彼女は言ってしまった。宇佐美が守りたいと思った者を殺すと、宣言してしまった。故に、宇佐美の中で均衡を保っていた天秤が、大きく傾いた。この瞬間、目の前にいるのは妹弟子ではなくなった。

 こいつはテロリストだ。宇佐美の瞳が、すっと細まった。

『死ねよや! 宇佐美 優!』

 一歩踏み出して、敵が加速する。どれだけ成長していようと、昔から変わらない悪癖。動きを予測し易いから直せと、あれほど言ったのに、結局直っていない。
 上段の構えも、相手が格上の時は使うな言った。攻撃主体の動きだけでは生き残れないと教えたはずだ。
 刃の軌道は見るまでもない。相手を屠ることしか考えていない。守りを捨てた斬撃。

 ――最後の最後まで、あなたは私の言いつけを守れなかったのね。馬鹿な子。

 勝負は一瞬で決まっていた。胴体の左側面を大きく抉られた西洋鎧は、刀を振り下ろした姿勢のまま崩れ落ちた。

「昔、一番最初に言ったわよね。自分を守ることもできない剣に、勝ち筋は得られないって」

 それは何故か、単純だ。

「自分も守れない人間が、他人を守ることもできない。そして、守るものがない人間ほど、弱い生き物はいないのよ」

 残心の構えを解いたTk-7改が手にしていた光分子カッターが、音を立てて砕け散った。最後の一撃で、稼働限界を迎えていた。軍事兵器とはいえ、これも刀だ。無理な使い方をすれば、簡単に壊れてしまう。

「……私も、修行が足りないわねぇ」

『おい、宇佐美、無事か』

 そこに、安久の機体が着地した。見れば、短筒を失い、スラッシャーも片方なくなっていた。それでも、四肢間接に損傷が見られないのは、流石と言ったところか。

「無事だけど、色々限界。それにしても、フォトンバレットもカッターも無しに、どうやったの?」

『人間。無理をすればなんとかなるということだ』

「なるほどね」

 それだけで、この相方がどんな無茶をしたかを察したので、それ以上は聞かなかった。

「それにしても、もう矢尽き刀折れってやつよね。私たち……どうする?」

『うむ、行っても足手まといになる可能性はある……が、行くしかあるまい。あいつらを庇ってやるくらいなら、できるからな』

 相変わらず、弟想いなことで……宇佐美は苦笑して、機体を動かす。武装を失ったが、まだ戦闘機動を取るには問題なさそうだ。

「それじゃ、行くとしますか」
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