異世界のロボット乗りは大変です。~少女と機士の物語~

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第一章「異世界の機士」

1.4.6 決断のとき

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 謁見の間を出て、従者が慌ただしく動き回る通路を抜けて、自室へと向かった。そこでベッドに腰掛けたとき、ようやく御堂は一息つくことができた。

「騎士か……」

 呟いて、気晴らしのつもりで窓から外を見る。開けた場所に、何か祭りの用意がされているのが見えた。そこに布に包まれた遺体が集められ、並べられていた。

(まさか祝い事ではあるまいし、死者を奉る方の祭りか)

 御堂は謁見の間へ行く前に、遺体の顔を見る機会が偶然あった。並ぶ遺体の中に、自分に軽口を聞いてくれた兵たちがいたのを見て、酷く感傷的な気持ちになった。

(あのとき、俺が下手に時間稼ぎをしようとせず、提案を受けていれば、牢にいなければ、彼らを助けられたのだろうか)

 考えて、その浅ましさに自嘲した。それは所詮、IFの可能性を考えて、自分自身の感情を慰めたいだけの思考だと御堂は分析した。だが、そう考えてしまうだけ、犠牲になった彼らへの心情的な入れ込みがあったことは、否定できなかった。
 そもそも、自分が牢にいて、ラジュリィが来ていなければ、彼女はあっさりと拉致されていた可能性が高いのだ。それを考えれば、どちらの方が被害がなかったかで測ると、まだマシだと思えた。そういうことにした。

(親しくなった人が殺されるのは、どこでだって悲しいものか)

 ベッドに上半身を寝かせて、両腕を後頭部にやる。枕にした手で、小さく頭を掻いた。今度について動き方を模索しなければならない。まず、騎士になる件を受けた場合だ。

(騎士になると、本格的にこの土地に、この世界に縛られることになってしまう。それだけは避けたかったが……メリットがないわけじゃない)

 メリットとは、安定した地位、立場、権利が得られることだ。この世界にしばらくいることになるなら、手にしておきたいものだ。だが、それに対するデメリットも当然だが、存在する。

(騎士でいるための責務が生じてしまう。それを自分の好き勝手で放棄するのは、危険が伴うだろうな)

 これは地球での現代社会でも同じだ。相応の地位に立てば、相応の責任が生じる。簡単に止めると言うわけにもいかなくなる。日本の社会ならば、罰則や罰金で済むかも知れないが、この中世染みた世界におけるそれは、下手すれば処断である。

(提案を蹴った場合は、この逆か……相応の自由と、相応の不自由と、先行きの見えない旅が待っている)

 御堂がもし、見知らぬ土地へと繰り出すことを良しとする、俗に言う冒険家体質であったなら、迷いはしなかっただろう。だが、生憎と御堂は安定志向の人間だ。いらぬ危険は避けるし、石橋は充分に叩いてから渡る。

 これが地球での旅なら、まだなんとかなるかもしれない。だが、ここは異世界、御堂の常識がほとんど通じない土地だ。価値観すら相容れない場合もあるだろう。そんな場所で、誰からの保護も受けずに情報収集の旅をするのは、無謀とすら思えた。

(しかも、こちらを選ぶと、あの娘がつきまとうことになるな)

 ラジュリィの存在が、ここでも引っ掛かりになった。連れていって欲しいと語った彼女の目は本気だった。連れて行けば御堂はお尋ね者になるが、置いて行けば厄介な追跡者となる。しかし、城に残れば、こちらを取り込むためにどんな手段を用いてくるかわからない。

(あちらを取れば、こちらが通らぬ、か)

 どちらを取っても、リスクがある。ならば、より後悔が少なそうな道を選ぶべきだ。先ほどのムカラドの言葉が脳裏に浮かんだ。

「……いざというときの決断力のなさは、俺の弱点だな」

 己の優柔不断さ具合が腹立たしいくらいだった。御堂が悶々としていると、扉がノックされる音がした。また来客である。御堂は寝転がったまま「誰だ」と誰何した。

「ミドール、私です。ラジュリィです。ファルベスもいます、少しお話をよろしいですか?」

 今し方、御堂の悩みの種となっていた少女と、それに付き添う従騎士がやってきた。御堂は身を起こし「しばしお待ちを」と何度目かになる台詞を言い、扉を開ける。そこには、私服姿のラジュリィと、薄い皮鎧を着たファルベスが立っていた。

「どうしたのですか、ラジュリィさん。それにファルベスも」

「私もファルも、昨晩のお礼をまだ、きちんとしていなかったので……危ない所を二度も救っていただきました。ミドールには感謝してもしきれません。ありがとうございました」

「ミドール殿、此度の戦いでは命を救ってくれて、本当にありがとう……ブルーロ様も、改めてきちんと礼をしたいと言っていたわ」

「ああ、そんなこと……」

「そんなこと、ではありません。ミドール、貴方は二度も貴族を救い、城を救い、領地を救ったのです。これは大変なことなのですよ?」

「はぁ……」

 どうにも実感が薄そうな気の抜けた返事をする御堂に、ラジュリィとファルベスは揃って呆れるように首を振った。あまりに強い力を持ちすぎると、こういうことに疎くなってしまうらしい。

「そんなことでは私との旅が大変になってしまいますよ? 常識を知らないと苦労するのですから」

「……その話は、まだ続いていたのですか」

「当然です。城から出るなら、私を連れていってください。必ず役に立ってみせますから、これでも勉強は出来ますし、俗世にも知見があるんですよ」

 胸を張って自分の有用性を語る領主の娘。御堂は助けてくれと、側に控える従騎士に視線を送った。

「ファルベス、止めてくれないのか」

「わ、私としてはラジュ姉様がミドール殿と出て行ってしまうのは、悲しいことなのだけれど……姉様がどうしてもそうすると決めたのなら、止めはしないわ」

 そういう彼女の目尻には涙すら浮かんでいる。そんなに嫌なら止めてくれよ、と御堂は溜め息を吐きそうになった。

「ラジュリィさん。貴女を連れて行くわけにはいきません。諦めてください」

「いいえ、諦めませんよ、ミドール。連れて行ってくれないのなら、必ず連れ戻して、今度こそ牢屋行きです。父上もお認めになってくれます」

「……そこまでする価値が、自分にありますか?」

 困り顔で御堂がした問いに、少女は満面の笑みで答えた。

「勿論です! ミドールは私にとって運命の人なのですから!」

 少女の瞳はまた、薄らと情念が煮詰まったような特徴的な色を見せていた。その目に一切の迷いも疑いもなかった。心の底から本当にそう思っている。御堂は、思わず頬を引き攣らせた。

(この娘を、若い少女を、ここまで狂わせてしまったのは、誰だ?)

 自問する。その答えは、御堂自身が良く自覚してしまっている。

(情緒不安定で衝動的なところがある幼い子供を放置して、旅に出ることができるか?)

 自問する。そうしてしまった責任と、それを放っておけない性分であることは、よくわかっていた。

(だが、本当に着いてこられたら、非常に困るし、この世界に縛り付けられるのも――)

 三度目の自問。俯いて悩み、考え込む御堂の手に、ラジュリィの小さい手が重なった。顔をあげた御堂の真正面に、端正な少女の顔が来る。その目は先ほどまでとは違って、拒絶されることに怯えを感じていると思わせるものだった。

「私と共にいてくれれば、貴方が帰るまでの間、ずっと私が支えます。助けます。だから、どうか……」

 そう懇願し、頭を下げるまだ十六の少女を前にしたとき、御堂は己の甘さと優柔不断さ、そしてこの少女らと一緒にいることを、それほど嫌がっていない本心を持っている自分自身を強く呪った。

「……わかりました」

 御堂は、一つの大きな決断を下した。結局、これがどれだけの後悔を生むかどうかまで、考えることはできなかった。
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