亡国の王子に下賜された神子

枝豆

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祠の村

フロー村の叔父

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とうもろこし栽培が盛んなフローに住む叔父様は、トムといい、やっぱりとうもろこし栽培をしている、この辺りでは割と大きい農家の主であった。

ザンキュットのお祖父様と同じく、アルを快く迎え入れ、アルが神子賜りを受けた事を我が事のように喜んでくれた。

「こちらが神子様ですね。」
アルの横に立つ私に優しい微笑みを向けて、丁寧に挨拶をしてくれる。

私が握手をしようと差し出した手を申し訳なさそうに握るトムさんの手は、太く大きく、農作業で培われた働く人の手だった。

「神子様の御手に、このような無骨な手を合わせるのは申し訳ない。」
と恐縮している。
「いえ、私はただの女の子となんの変わりもないです。それに一生懸命に働く男の人の手です。素晴らしい手です。
どうか自信を持って下さいね。」

わしわしと私の頭を撫ででくれたお祖父ちゃんを思い出す手でもある。
私はこの掌は好きだ。

ありがとう、と感激しているトムさんにはカイルという息子がいて、私達に紹介してくれた。

「レオと同じ歳です。本来旅立つ時期なのですが…。」
「父上、私には旅は必要ありません!」
きっぱりと言い切る。
「何を言う!
神子まで下賜されながら、神殿にも王族にも媚びることなく旅をするレオを見習えよ。
それでもブランの者か!なんと情けない息子よ!」

あら、親子喧嘩勃発!
まあまあと教授が宥めに掛かる。

「行くも自由、行かぬも自由。
ブランは何にも縛られない、それで良いと思いますが。」
レオの言葉に一同が黙り込んだ。

「そうね、自由で良いんじゃない?」
私もそう言葉にした。
レオのそういう考え方は結構好きだ。

「俺は突き上げる強い思いを旅立つ事に感じていました。
しかしサキカを賜ったとき、僕は神子と共にイェオリに留め置かれそうになりました。
旅をしないという選択肢を示されたのです。
その時一旦は旅をする事を諦めました。
今こうして旅が出来ているのはサキカのお陰です。

もしカイルに同じように強い思いがあって、旅をしないという選択をするのならば、迷いがないぶんだけ、僕よりも濃いブランの血があるのだと、僕は思います。」

「ありがとう、レオ。
レオにそう言ってもらえると、自信になる。」
カイルは嬉しそうにアルを見て礼を言った。

突き上げる思いというのに何か実感を伴うものがトムさんにはあるのかもしれない。
さっさとトムさんはその話を切り上げてしまった。

「レオに感謝しなくてはな。とりあえず一旦座りなさい。」

来る途中に見た築山の話をすると、そこはおそらくフロー家の畑だろうとの事。
フロー家はその名が示すとおり、この村の領主様で、築山のあたりはフロー家の荘園になるそうだ。

フロー家に会うならカイルの方がいいだろう、とトムさんはカイルさんに案内を命じた。
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