亡国の王子に下賜された神子

枝豆

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穢れた国

無我夢中

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僅かとはいえ禍を一度取り出せたのにまた戻す事に迷いが出た。
「…サキカどうした?」
止まってしまった私の手を見てレオが心配そうに覗き込んで…。

「禍を出すためにはもう一度入れなきゃならないの…。私もそうやって直したの。
でも…量を間違えると…どうしよう。」

満タンから取り出せたのはきっと僅かだから、そこにより僅かな禍を入れる、そんな微妙な量の調節なんかしたことがない…。

するとレオが私を抱き込んだ。
「間違えちゃいけない。これからの事はこの場所にサキカがいたから起こることだ。そうじゃなければきっとこの人はそのままだった。
それに全てを取り除けても命が助かるかは別だ。
ロキも言っていただろう死ぬと。ここまで結晶になっていて生きているかどうかは正直微妙だよ。

償いは俺にも分けて。やれる事はやってあげよう。」

…後悔したくない。やれるだけのことはやってあげよう。
レオの言う通りだ。

薄らとまだらになったところに指を当てた。
その手にレオが手を重ねてくれる。

フワッっと私の身の内から禍が出ていく。直ぐに吸い上げるように意識をする。
そしてまた出す、そして入れる。

呼吸をするように、それを繰り返した。

まだらの部分が手の平よりも大きくなった。
冷たい肌に温かさが生まれた。
私に入ってくる禍が熱を帯び始める。
入れて吸って、また入れて…。

石になった人の瞼がピクリと震えた。ゆっくりと閉じて開かれる、これ、まばたきだ!!

「生きてる!!」

そこからは早かった。その人が無意識に禍のやり取りをし始めたみたいだ。
…生きたがっているんだ、きっとこの人は。

「最後には必ず全部取ってあげるから、お願い私を信じて!!」
聞こえているかはわからない、だけど動く瞼でパチパチとまばたきを繰り返している。

…聞こえてるんだ。
そう思うと頑張れる。

入ってくる禍がドロっとしたものに変わる。
それを身体の中で転がして、また少しだけ入れる。

次第にその練り上げた禍がそのまま私と彼女の間を行き来し始め、私の呼吸が乱れ始める。

「ハア…ハア…。」
「一度サキカも出そう。」
レオがそっと唇を首に当ててくれる。

「うん…。」
コロコロと身体の中を転がして、指先から小さな石を出した。

もう一度。
出して、入れる。
また出して、また入れる。

また身体の中を巡る渦が大きく激しくなる。
少しずつ肌色の場所が増えていく。
そして私の中の熱いものも増えていく。

ひたすらそれを繰り返していく。


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