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運不運
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そして迎えた当日、私はサンドイッチ作りを抜けて、アルバイトの学生の三井くんとテントの方へとやってきた。
「ここか。」
目抜き通りの端っこ、駅からは随分と離れている。
隣2つのテントを抜けたらそこはもう芝生広場に渡る交差点。
「見事に端っこですね。」
「仕方ないよ、車使うんだから。」
「…うん、ですね。」
コーヒーを入れるのに使う水はテントの後ろに停められたキャンピングカーから。だからどうしても車が入れる場所を希望するしかない。
立地がいいとは言えないけれど。公園を出入りする人がどれだけ寄ってくれるか…かな。
それはまあどうでもいい。
チラリと隣の出店を見てため息が溢れた。
見慣れたスポーツショップのロゴ。拓郎が働く店だ。
拓郎の姿は今はなく、スタッフTシャツを着た男の人達が数人懸命に商品を並べている。
イベントは3日間。3日間私はずっとここにいなければならない…のに。
店長は実店舗からは離れられない、基本は私と大学生の男の子とで、時たま安野さんが休憩交代要員として来てくれる。
拓郎も店長みたいに店舗担当だといいなと思う気持ちが半分あって、だけど否応がなく拓郎の近くにいれる嬉しさも半分あって。
複雑だ。
…ううん、隣は隣。関係ない。
隣を気にする暇もないくらい忙しくなればいい。
天気は晴れ、猛暑日予報が出た。
暑すぎて逆に人手が減る心配もしなければならないほど。
よし、気合いを入れて!!よしよし!!
掌で顔を擦って叩いて気合いを入れて。
「野村さん、店長から。」
「はい。」
三井くんから連絡用のスマホを受け取り、耳に当てた。
「もしもし?」
ーあー、野村さん。あのね、発電機に余裕ある?」
「今のところ動作に問題はないですけど。」
氷を入れた冷蔵庫は順調に冷え始めているし、サーバーの動きに問題はない。
ースポットクーラーを使える?」
「スポットクーラー?」
ー隣の店がスポットクーラーを使えるそうなんだけど、電源がないって。
電源を貸してもらえるか?って聞かれたんだ。
じゃあさ、ウチの機器に問題がなければ使って良いって言ってもいい?
ウチの方にも涼しい風が送れると思うって。
「はい、わかりました。」
どうせ一日中発電機は動かす。ウチにはなんの負担もなく、むしろこの蒸れた暑さの中で涼が取れるのはありがたい。
しばらくして大きなスポットクーラーを台車に乗せて、重たそうに押してくるスタッフTシャツを着た拓郎がやってきた。
あー、やっぱり拓郎はコッチか。
拓郎は予めわかっていたらしく、私を見てニッコリと笑い掛ける。
「やあ、優希。今日はよろしく。ねぇ電源だけど。」
「あっ、ああ。聞いてる。ここ、使ってみて。」
発電機の側面にあるACコンセントを指差した。
「電源落ちるとしたら直ぐだから。落ちなかったら多分1日平気。」
と拓郎は言う。
「慣れてるね、やっぱり。」
「まあね、夏の必需品だから。」
そういいながら拓郎は慣れた手つきでスポットクーラーを設置していく。
程なくして風が生暖かいものから冷たい風に変わって、汗ばんだ私の身体をスッと撫でていく。
「凄い…こんなに違うの?」
「最新の。オートキャンプとか野外競技で使うんだ。レンタル用なんだけど持ち出しの許可が出た。」
「へえ、拓郎の所そんなことまでしてるんだ。」
「なんでもやるよ、でなきゃあんな小さな店直ぐに潰れるって。」
しばらく動かしていても機器にもクーラーにも不具合は出なかった。
「よし!今日は涼しく仕事出来る!」
と拓郎やお店のスタッフ達は嬉しそうだ。
今年初めてフェスへの出店を決めたのは拓郎のアイデアと商店街理事との繋がりだそうだ。
飲食物を売る店は既に飽和しかけている。
場所もないし、競合店の参入を拒む古くからの店も多い。
一方で頭打ちになりかけていたイベントの集客を増やそうと頭を悩ませていた、居酒屋の常連客の理事の愚痴を芳ニイがポロリと拓郎に伝えたらしい。
「じゃあさ、公園で遊べる玩具なんてどう?」
拓郎の意見は理事に届き、スポーツ店の店長にも届いた。
「だから、俺、責任者。」
と嬉しそうに胸を張る。
…私もだ。
理事のおじさん達は昔からお世話になっている人ばかり。そもそもウチのカフェの出店が決まったのも私がアルバイトをし始めたから。
「じゃあ、頑張らないとね、お互いに。」
「ああ、だね。」
ため息をついてる場合じゃない。
10時になればイベントが一斉に始まる。
そして私と拓郎が喋れる時間はこの後はなかなか訪れなかった。
「ここか。」
目抜き通りの端っこ、駅からは随分と離れている。
隣2つのテントを抜けたらそこはもう芝生広場に渡る交差点。
「見事に端っこですね。」
「仕方ないよ、車使うんだから。」
「…うん、ですね。」
コーヒーを入れるのに使う水はテントの後ろに停められたキャンピングカーから。だからどうしても車が入れる場所を希望するしかない。
立地がいいとは言えないけれど。公園を出入りする人がどれだけ寄ってくれるか…かな。
それはまあどうでもいい。
チラリと隣の出店を見てため息が溢れた。
見慣れたスポーツショップのロゴ。拓郎が働く店だ。
拓郎の姿は今はなく、スタッフTシャツを着た男の人達が数人懸命に商品を並べている。
イベントは3日間。3日間私はずっとここにいなければならない…のに。
店長は実店舗からは離れられない、基本は私と大学生の男の子とで、時たま安野さんが休憩交代要員として来てくれる。
拓郎も店長みたいに店舗担当だといいなと思う気持ちが半分あって、だけど否応がなく拓郎の近くにいれる嬉しさも半分あって。
複雑だ。
…ううん、隣は隣。関係ない。
隣を気にする暇もないくらい忙しくなればいい。
天気は晴れ、猛暑日予報が出た。
暑すぎて逆に人手が減る心配もしなければならないほど。
よし、気合いを入れて!!よしよし!!
掌で顔を擦って叩いて気合いを入れて。
「野村さん、店長から。」
「はい。」
三井くんから連絡用のスマホを受け取り、耳に当てた。
「もしもし?」
ーあー、野村さん。あのね、発電機に余裕ある?」
「今のところ動作に問題はないですけど。」
氷を入れた冷蔵庫は順調に冷え始めているし、サーバーの動きに問題はない。
ースポットクーラーを使える?」
「スポットクーラー?」
ー隣の店がスポットクーラーを使えるそうなんだけど、電源がないって。
電源を貸してもらえるか?って聞かれたんだ。
じゃあさ、ウチの機器に問題がなければ使って良いって言ってもいい?
ウチの方にも涼しい風が送れると思うって。
「はい、わかりました。」
どうせ一日中発電機は動かす。ウチにはなんの負担もなく、むしろこの蒸れた暑さの中で涼が取れるのはありがたい。
しばらくして大きなスポットクーラーを台車に乗せて、重たそうに押してくるスタッフTシャツを着た拓郎がやってきた。
あー、やっぱり拓郎はコッチか。
拓郎は予めわかっていたらしく、私を見てニッコリと笑い掛ける。
「やあ、優希。今日はよろしく。ねぇ電源だけど。」
「あっ、ああ。聞いてる。ここ、使ってみて。」
発電機の側面にあるACコンセントを指差した。
「電源落ちるとしたら直ぐだから。落ちなかったら多分1日平気。」
と拓郎は言う。
「慣れてるね、やっぱり。」
「まあね、夏の必需品だから。」
そういいながら拓郎は慣れた手つきでスポットクーラーを設置していく。
程なくして風が生暖かいものから冷たい風に変わって、汗ばんだ私の身体をスッと撫でていく。
「凄い…こんなに違うの?」
「最新の。オートキャンプとか野外競技で使うんだ。レンタル用なんだけど持ち出しの許可が出た。」
「へえ、拓郎の所そんなことまでしてるんだ。」
「なんでもやるよ、でなきゃあんな小さな店直ぐに潰れるって。」
しばらく動かしていても機器にもクーラーにも不具合は出なかった。
「よし!今日は涼しく仕事出来る!」
と拓郎やお店のスタッフ達は嬉しそうだ。
今年初めてフェスへの出店を決めたのは拓郎のアイデアと商店街理事との繋がりだそうだ。
飲食物を売る店は既に飽和しかけている。
場所もないし、競合店の参入を拒む古くからの店も多い。
一方で頭打ちになりかけていたイベントの集客を増やそうと頭を悩ませていた、居酒屋の常連客の理事の愚痴を芳ニイがポロリと拓郎に伝えたらしい。
「じゃあさ、公園で遊べる玩具なんてどう?」
拓郎の意見は理事に届き、スポーツ店の店長にも届いた。
「だから、俺、責任者。」
と嬉しそうに胸を張る。
…私もだ。
理事のおじさん達は昔からお世話になっている人ばかり。そもそもウチのカフェの出店が決まったのも私がアルバイトをし始めたから。
「じゃあ、頑張らないとね、お互いに。」
「ああ、だね。」
ため息をついてる場合じゃない。
10時になればイベントが一斉に始まる。
そして私と拓郎が喋れる時間はこの後はなかなか訪れなかった。
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