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宴会
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21時少し前、なかなか引かなかった前の宴会のお客様がどうにかこうにか退店した後に入ってきたのはジャージやスポーツウェアの集団だった。
「こんばんは、お邪魔します。」
「いつもありがとうございます。」
丁寧に頭を下げて入ってくる集団に、岸野のおばさんは駆け寄って、丁寧に頭を下げた。
「いつも拓郎がお世話になってます。」
拓郎の働くスポーツショップの忘年会だった。
チラリと見ると夏に一緒に働いた顔がチラホラ見える。
「あっ!野村さん!!」
見知った顔のひとりと目が合うと声を上げた。
「お久しぶりです。あの時はどうも。」
挨拶だけしてなるべく厨房に入ることにした。
突き出しはもう小鉢に入れてスタンバっている。最初は…サラダと、焼き鳥…と。予約メニューを確認して、私ができる事を探していく。
「ユウちゃん、お願いこれ。」
おばさんが紙に書いたドリンクのオーダーを見せてくる。
「えーっと、ビールが…8、ウーロンハイが2…」
数に合わせてジョッキを出していくとおばさんがビールを注いでいく。
ビール分を除いて氷を入れていく。
完全な流れ作業だ。この辺りはもう阿吽の呼吸、慣れた感じだ。
あっという間にトレーに2枚にドリンクが並ぶ。
それをおばさんと持って座敷に入ったとき、異変に気付いた。
拓郎がいない…。
拓郎が働く店の忘年会、拓郎の実家なのに…。
「あっ、そのままこっちで回します。」
とトレーに手が添えられた。
あっ、あ!
「すみません、お願いします。」
ヤバ、油断した。
気にしちゃいけない、私が気にしちゃいけない。
「全く…あの子ったら。」
ごめん、ちょっと外見てくるわね。
岸野のおばさんが溜息と共に店の外に出ていく。
おじさんが逃げた理由はきっとこれだ。おじさんはきっとこの光景を見たくなかったんだ。
きっとまた恵美さんが拓郎をスマホで縛り付けているんだ。
それでもなんとか穏便にしておきたいおばさん、怒鳴りつけたいのを必至で堪えているおじさんだから。
「ユウ、これ。」
芳ニイが料理が載ったお皿を軽く持ち上げた。
「どこ?」
「3番。」
「…母ちゃんは?」
「拓郎を探しに。」
芳ニイがはあーっとため息をついた。
きっと芳ニイも察したに違いない。
私たちにとっては見慣れた光景。
「そんなに気になるなら来りゃいいじゃん、あの宴会なら来れるだろう。」
「ね。」
昔働いていたお店の忘年会、社員の彼女、少し図々しいと思う人はいるかもしれないけれど、受け入れては貰えるだろう。
カウンターに座っておばちゃんや芳ニイ相手に飲んで待っていたっても良い。
5年目中堅社員を忘年会から引き剥がすよりはずっとマシだろうと思う。
芳ニイはそのまま黙って揚げ物を仕上げ始める。
チラリと見ると通常よりも品数が多い。
普段のお礼なのか…礼儀知らずの弟を思ってのお詫びなのか。
ガラリと扉が開いて、スマホを耳に当てて拓郎が入ってきた。
続けて入ってきたおばさんがスッと拓郎の手からスマホを取り上げる。
「乾杯くらいきちんとしなさい、でないとみんなが始められない。」
拓郎にだけじゃない、きっと電話の向こうの恵美さんにも聞こえているはずだ。
そしてそのままおばさんがスマホを耳に当てて喋り出す。
「恵美ちゃん、元気にしてるー?恵美ちゃんもこっちに来なさいよ。たまには顔見せに来ても。
えーそんな事言わないでよ。
お正月は?」
おばさんはこのまましゃべり倒すつもりだ。
その間拓郎は宴会に参加出来るから。
拓郎は私達の方は見もせずに無言で靴を脱いで座敷に入って行った。
「10分。」と私。
「15分。」と芳ニイ。
私達が予想したおばさんが恵美さんを繋ぎ止めておける時間だ。
予想に反しておばさんはそれから1時間スマホに向かってマシンガントークを炸裂してた。
おばさんだけは恵美さんに優しく接してあげる。
それが息子のためだとおばさんは骨の髄まで染み込んでわかっているから。
店番?
それはもちろん私の役目だ。
「こんばんは、お邪魔します。」
「いつもありがとうございます。」
丁寧に頭を下げて入ってくる集団に、岸野のおばさんは駆け寄って、丁寧に頭を下げた。
「いつも拓郎がお世話になってます。」
拓郎の働くスポーツショップの忘年会だった。
チラリと見ると夏に一緒に働いた顔がチラホラ見える。
「あっ!野村さん!!」
見知った顔のひとりと目が合うと声を上げた。
「お久しぶりです。あの時はどうも。」
挨拶だけしてなるべく厨房に入ることにした。
突き出しはもう小鉢に入れてスタンバっている。最初は…サラダと、焼き鳥…と。予約メニューを確認して、私ができる事を探していく。
「ユウちゃん、お願いこれ。」
おばさんが紙に書いたドリンクのオーダーを見せてくる。
「えーっと、ビールが…8、ウーロンハイが2…」
数に合わせてジョッキを出していくとおばさんがビールを注いでいく。
ビール分を除いて氷を入れていく。
完全な流れ作業だ。この辺りはもう阿吽の呼吸、慣れた感じだ。
あっという間にトレーに2枚にドリンクが並ぶ。
それをおばさんと持って座敷に入ったとき、異変に気付いた。
拓郎がいない…。
拓郎が働く店の忘年会、拓郎の実家なのに…。
「あっ、そのままこっちで回します。」
とトレーに手が添えられた。
あっ、あ!
「すみません、お願いします。」
ヤバ、油断した。
気にしちゃいけない、私が気にしちゃいけない。
「全く…あの子ったら。」
ごめん、ちょっと外見てくるわね。
岸野のおばさんが溜息と共に店の外に出ていく。
おじさんが逃げた理由はきっとこれだ。おじさんはきっとこの光景を見たくなかったんだ。
きっとまた恵美さんが拓郎をスマホで縛り付けているんだ。
それでもなんとか穏便にしておきたいおばさん、怒鳴りつけたいのを必至で堪えているおじさんだから。
「ユウ、これ。」
芳ニイが料理が載ったお皿を軽く持ち上げた。
「どこ?」
「3番。」
「…母ちゃんは?」
「拓郎を探しに。」
芳ニイがはあーっとため息をついた。
きっと芳ニイも察したに違いない。
私たちにとっては見慣れた光景。
「そんなに気になるなら来りゃいいじゃん、あの宴会なら来れるだろう。」
「ね。」
昔働いていたお店の忘年会、社員の彼女、少し図々しいと思う人はいるかもしれないけれど、受け入れては貰えるだろう。
カウンターに座っておばちゃんや芳ニイ相手に飲んで待っていたっても良い。
5年目中堅社員を忘年会から引き剥がすよりはずっとマシだろうと思う。
芳ニイはそのまま黙って揚げ物を仕上げ始める。
チラリと見ると通常よりも品数が多い。
普段のお礼なのか…礼儀知らずの弟を思ってのお詫びなのか。
ガラリと扉が開いて、スマホを耳に当てて拓郎が入ってきた。
続けて入ってきたおばさんがスッと拓郎の手からスマホを取り上げる。
「乾杯くらいきちんとしなさい、でないとみんなが始められない。」
拓郎にだけじゃない、きっと電話の向こうの恵美さんにも聞こえているはずだ。
そしてそのままおばさんがスマホを耳に当てて喋り出す。
「恵美ちゃん、元気にしてるー?恵美ちゃんもこっちに来なさいよ。たまには顔見せに来ても。
えーそんな事言わないでよ。
お正月は?」
おばさんはこのまましゃべり倒すつもりだ。
その間拓郎は宴会に参加出来るから。
拓郎は私達の方は見もせずに無言で靴を脱いで座敷に入って行った。
「10分。」と私。
「15分。」と芳ニイ。
私達が予想したおばさんが恵美さんを繋ぎ止めておける時間だ。
予想に反しておばさんはそれから1時間スマホに向かってマシンガントークを炸裂してた。
おばさんだけは恵美さんに優しく接してあげる。
それが息子のためだとおばさんは骨の髄まで染み込んでわかっているから。
店番?
それはもちろん私の役目だ。
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