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第一幕 悪役公爵令嬢(闇魔法使い8歳)王宮書庫殺人事件

31. マッサージ

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 闇の身体強化魔法に睡眠効果があることを知った私は、これでお父様の睡眠不足を解消できると思ったが、実は闇の身体強化魔法には副作用があった。
 このままでは、お父様に闇魔法を使うわけにはいかないと、断念しようとしたが、よく考えたら、髪の毛が黒くなる副作用なら、元々黒髪のお父様には全く問題がなかった。

 と、いうわけで、今日の夕食後、私はお父様に闇の身体強化魔法をかけることにした。

「お父様、相変わらずお仕事がお忙しいようですわね」
「マリー、そうなんだ、もう、くたくただよ」

「でしたら、私がマッサージをして差し上げますわ」
「マリーがか? それはありがたいが、できるのか?」

「任せてくださいな。さあ、さあ、寝室のベッドに行きますわよ」
「ベッドの上でするのか! 本格的だな」

「私にマッサージは特別ですからね。すぐに眠くなりますわ」
「そうか、そうまでいうならそうするか」

 私とお父様が一緒に寝室に向かうと、お母様も興味をそそられたのか一緒に付いてきた。
 もちろん、マッサージというのは口実で、闇の身体強化魔法をお父様にかけるためだから、できればお母様には見られたくなかった。だが、マッサージを行う振りをしていれば闇魔法を使ったことはわからないだろう。
 家庭教師のクロード先生に闇魔法の使用を止められている以上、私が闇魔法を使えることは、サラには話したが、まだ、お父様たちには内緒だ。
 お母様に気付かれないか心配ではあるが、心配ばかりしていては何もできない。

 寝室に着くと、早速、お父様にはベッドでうつ伏せになってもらった。

「これでいいのか?」
「バッチリですわ。それではいきますわ」

 私は、お父様に馬乗りになると背中に両手を当てた。

「おお、これはいいな。コリがほぐれる感じがするぞ」

 まだ、闇の魔力を流していないのに、押すだけで気持ちよさそうだ。
 どれだけ凝っているのだよ。という話である。

「これは序の口、これからが本番ですわ」

 私は、お父様の背中を押しながら、徐々に闇の魔力を送り込んでいく。

「んーん。何かヌメーっとした感じがするが、何か薬でも塗ったのか?」
「いえ、何も塗っていませんわ」

「そうか……、フアー。なんだかとても眠くなってきて……」
「そのまま寝ていて構いませんわ」

「グゥー、グゥー、グゥー」

 お父様はそのまま寝入ってしまった。

「マリー、今のはなに?」

 少し離れた所で様子を見ていたお母様が私に尋ねてきた。
 まさか、闇魔法がばれたのだろうか?
 私は少し焦るが、そんなことはお首に出さず、落ち着いて返事をする。

「マッサージですが」
「ただのマッサージには見えなかったけど?」

 これは気付かれたか?
 どうやって誤魔化そう……。

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