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一年目、五歳

第32話 博物館を見学するの。

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 レイニィの首都シャイン滞在二日目、今日は、仲良くなったサニィが首都シャインを案内してくれることになった。
 お供は、侍女のスノウィと護衛のアイス。エルダは用事があると言う事で別行動だ。
 他の護衛も今回はサニィの護衛も付くので休暇を取ってもらった。

 昨日気になったが入れなかったお店を見て回る。
 洋服屋さんに装飾品のお店に、雑貨屋さん。
 港町ライズでは見たこともない物も多く、レイニィはとても喜んだ。

 昼食はサニィの勧める食堂で、レイニィは唐揚げ定食、サニィはハンバーグ定食。半分ずつシェアして美味しく食べた。
 サニィは人と分け合って食べたことがなかったようで、初めての体験に感動していた。
 デザートのプリンまで美味しくいただいたのであった。

 午後からは、サニィの推しである博物館に案内された。
 この博物館はオーパーツが展示されており、その研究施設でもあった。

 オーパーツの殆どが、異世界のアーティファクト。つまり第七界から落ちてきた物であった。
 レイニィにとっては、見慣れた物や、寧ろ骨董品といえる物だった。

 それでも、それらが整然と、いかにも貴重品ですといった様子で並べられていると、見て回るのも面白かった。

(うわー! 零戦かな?)

 太平洋戦争時代の戦闘機が展示されていたのにビックリしたり。

(懐かしい。これって動くのかしら)

 玉子型の携帯ゲーム機を懐かしんだりした。

 中には、明らかにポイ捨てされたであろう、空き缶やペットボトルがあり。
 それらが大切そうに展示されているのを見て、思わず吹き出しそうになっていた。

「そして、これが最新のオーパーツよ。五年前に発見された物で、これのおかげで紙の質が大幅に改良されたのよ」
「おお、それはありがたいの」

 レイニィは気象観測の記録を残すために紙をよく使っていた。
 前世の紙と然程劣らないこちらの紙に、他の技術に比べ、紙の品質が良い事を不思議に思っていたが、そういった理由があったかと、その展示物に感謝した。

 紙が自由に使えなければ、記録を残す事もままならない。
 天気予報にとって、過去の気象記録は、何ものにも替え難い貴重なものだからだ。

 レイニィは感謝を込めて拝む様にそれを見た。

「これは……」

 思わず絶句するレイニィ。
 それは、レイニィが前世で飛ばしてしまった、気象予報士資格試験の不合格通知だった。
 サニィはレイニィが絶句しているのが、感動したためだと勘違いし、嬉しそうに不合格通知の説明を続けた。

「そして、このオーパーツの凄いところは、紙の品質向上に役立っただけではないの。
 ここに書かれているのは、多分文字よ。
 今、多くの研究者がこの文字を解読しようと頑張っているの。もしかしたら、とんでもないことが書かれているかもしれないわ」

 確かにとんでもない事だ、レイニィにとって。
 これが自分の不合格通知だと知られたら、恥ずかしくてお天道様の下を歩けない、レイニィは不合格通知を凝視する。
 魔法で燃やしてしまおうかと、悪魔の囁きが頭を占める。

 レイニィは火魔法も習得していた。
 首都シャインに来るまでの五日間、馬車で旅をしながら、エルダから魔法の訓練を受けていたのだ。

 火魔法は簡単だった。
 燃やそうと思う物の温度を、魔力を使って上げていけばいいのである。
 その温度が発火点を超えれば自然と火が付く。
 火の勢いを強くしたければ、風を吹かせ、空気を送り込んでやればよい。

 レイニィが最初に言っていた、炎の矢とは違うが、レイニィの魔力があれば、離れた場所の物でも発火出来る。
 何かが飛んで来る訳でもなく、いきなり発火してしまうのだ。
 ある意味、こちらの方が凶悪である。

 レイニィはそっと手を上げる。
 その手をスノウィが掴んで、止めた。そして、黙って首を横に振る。

 普段からレイニィの様子を見ているスノウィは、レイニィの不穏な様子に気付いた様だ。
 事を荒立てない様、言葉に出さずにレイニィを諫める。
 ハッと、我にかえるレイニィ。

「この発見が世界を変えるかもしれないのよ。凄いでしょう」

 サニィのハイテンションな説明はまだ続いていた。

 レイニィは、前世の名前は絶対に言わない、と心に刻んだのだった。

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