かわいいは正義(チート)でした!

孤子

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第3章

鋼の咆哮

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 「見張りが倒れているぞ!」

 「侵入者だ!絶対に逃がすな!」

 「ここの事を知られれば俺たちの首も飛ぶぞ・・・。」

 扉で昏倒させられた見張り二人にきづかれたようで、外の方から慌ただしい兵士の足音が響いてきた。

 レーンは少し焦った表情をしているが、それほど驚いた様子もないようだった。アイレインに至ってはまるで知っていたかのようにすでに剣を抜き放っている。

 「ここの見張りはかなり多く、頻繁に移動するので見つかるのはわかっていました。まさかライム様が来るとは思ってもいなかったので抜け出るのが遅れてしまいましたが、まあ予定の範囲内です。」

 そう行ってアイレインは階段を駆け下りてきた兵士に向かって駆け出し、そのまま剣に体重を乗せて兵士の喉元に突き入れる。

 全く鍛えられていないような兵士では当然避けることも反応することもできず、アイレインの剣は吸い込まれるように兵士の喉を食い破り、すぐ後ろにいた兵士の顔面さえ貫いた。

 驚きに見開かれたまま二人の兵士が沈み、後続の兵士はアイレインから距離を取るために上へと後退していく。

 兵士の練度はかなり低い。アイレイン一人の方がよほど強いだろうし、私も加われば敵は抵抗することもできないだろう。

 しかし、出口は兵士が下りてくる階段一つであり、圧倒的力量差も物量に任せられればただでは済まない。

 少なくとも母親を連れ出そうとするレーンは危険だ。

 けれどこの騒ぎを大きくすればきっとディラン達が駆けつけてくれる。

 私たちはこの場所にディラン達が向かってくれさえすればいい。

 「アイレイン!下がってください!」

 私たちの声に何の未練も残さずすぐに私たちの後方まで後退するアイレイン。アイレインのとっさの行動に虚をつかれた兵士は茫然としたが、それもつかの間の事でこれ幸いと一気に駆け下りてきた。

 「た~まや~!」

 攻撃性能はあまりないために普段ほとんど使うことのない魔法を練り上げ、兵士たちに向かって放つ。

 眩い閃光を放ちつつ一瞬で兵士たちの前まで距離を詰めた光の玉は突如盛大に火花を散らせて轟音を轟かせた。

 複数の属性の魔法をまとめたこの魔法は薄暗い地下牢を光で染め上げるほどの輝きを一定時間放ち続け、至近距離で聞けばほぼ間違いなく鼓膜が破れるほどの大音量を響かせるこの花火魔法は、基本的にモンスターに見つからないように動くこの世界の人間からすれば間違いなく馬鹿にされる。

 そもそも周囲を明るくするなら他の光魔法やたいまつ、魔動具などで済むし、広範囲にわたって明るくする必要などほとんどない。さらに言えばすさまじい爆発音は周囲のみならず、広範囲にわたって注目させるので、よほどの狂人くらいしか好き好んで使うはずもなかった。

 ドルン山脈では音量を調整していたためにそれほど怒られなかったが、初めて使った時はそれはもうしこたま怒られたものだ。

 しかし今回で言えばそんな調整は全くしていない。

 ディラン達に自分たちの居場所を知らせるための魔法であるため、そして目の前にいる兵士を怯ませてなるべく動かないでもらうためには必要なことなのである。

 (攻撃魔法使えばもっと簡単に終わるのに。)

 (それじゃあ本当に襲撃者になるよ。)

 (向こうはすでに完全武装で攻めて来てるんだし、私たちは王子の友人なんだから大義名分はこっちにあるんだよ。相手は命を狙ってきてるんだから魔法使ってもいいと思うけど?)

 (それは・・・。)

 (正当防衛だよ。確かに圧倒的に力量差のある人たちではあるけど、大群で攻められたらどうなるかわからない。だからそうなる前に各個撃破した。罪にはならないよ。)

 (でも・・相手は人間なんだよ・・・。)

 (命を狙ってくる人間とモンスターにどんな違いがあるの?)

 私と美景が口論している間に相手は混乱が収まりつつある。

 もう一度魔法をぶつけようとして魔力を練り上げている途中で兵士の一人が持っていた剣を思いきりぶん投げてきた。

 ガキィン!

 アイレインがいつの間にか私の前に立ちはだかり、投擲された剣を弾き返した。

 「戦闘中に考え事をするのはあまり褒められたことではありませんよ。」

 静かに私に言うと、すぐに剣を構えなおして次の攻撃に備える。

 確かに練度では大きく劣っているものの、残念ながら向こうには豊富な武器がある。知恵もある。モンスターとの確かな違いが単純な物量差ではないことを悟らせる。

 「大人しく投降しろ!」

 先頭に立つ兵士が槍を構えながら吠える。その顔には余裕の笑みが浮かんでいた。

 「あなた方はこの場所の事・・実験の事について知っているようですね。」

 アイレインがそう問いかけると、兵士はみんな下卑た笑みを浮かべてあざ笑う。この場にいる全員が知っているようだった。

 「かなり金払いがいいんでな。最初はやばいやつに関わったと後悔したが、すぐにどうでもよくなったよ。」

 兵士の言葉に強い怒りを示し、母親を引きずるように背負うレーンが目を見開いた。

 「金・・・そんなもののために、ここのみんなを・・お母様をこんな風にしたというの?」

 「まあ男爵様は別の目的があるみたいだけど、俺たちからすれば金がもらえるなら何でもいいからな。」

 醜くゆがめられた笑みにレーンはさらに怒りの表情を強くする。

 私たちも強い嫌悪感を抑えきれない。

 「さて、話なんてしても意味ないからな。侵入者は全員殺せと言われてるんだ。館には客人もいらしているらしいし、手っ取り早く終わらせるとしようか。」

 その兵士の言葉を聞いた後ろの兵士がざっと前に出て、手にしたそれを構える。

 「それは!?」

 「知ってるのか?まあいい。どうせすぐに戦場にも投入されるんだ。それにお前たちはここで死ぬんだから関係ないことだしな。」

 5人の兵士が構えたそれ。黒く鈍い輝きはひどく邪悪で、それでいて洗練された形状は美術的ですらある。鉄の筒を補強し、持ち手の部分は手の形に合わせてきれいに加工されている木は丁寧に磨かれているようで、それだけでも相当技術の高い人間が関わったと一目でわかる。

 あまりにもこの世界に不釣り合いな武器。

 「レーン、アイレイン、下がって!」

 「放て!」

 私たちが目の前にいるアイレインと後ろにいたレーンをかばうように前に出て魔法を行使するのと、兵士の号令が出されるのがほぼ同時だった。

 鋼の獣が轟く咆哮は先ほどの花火よりも大きくはないが、それでもかなりの大音量を放ちながら赤々と輝いた鉄の塊を吐き出す。

 勢いよく飛び出したそれは私が咄嗟に行使した風の障壁によって大半が逸れていったが、一発だけは私の額に吸い込まれていった。

 バシュン!

 眉間を撃ち抜かれた私を見てアイレインとレーンが言葉なく驚きに目を見開く。

 眉間を撃ち抜いたことがわかって先頭にタス兵士は声をあげて笑った。

 「クハハハ。まさかここまでの威力とは思わなかったよ。魔法の障壁すら貫通するとはさすが魔銃だ!」

 兵士に笑いにほかの兵士もみんなうっすらと笑みが浮かぶ。

 「ライム!」

 「ライム様!」

 レーンとアイレインが撃ち抜かれたまま動かない私たちに声を上げる。

 けれど大丈夫。これじゃ私は死なない。傷一つつくはずがない。

 私たちはスライム。これが人間だったら即死だったけれど、スライムである私に物理攻撃はほとんど通用しない。

 体をそぎ落としたり強く叩きつけたりされればわからないけれど、少なくとも貫かれるくらいならどれだけされても私には効かない。

 兵士がいつまでも倒れない私たちを不審に思って笑みを浮かべたまま視線を戻す。

 その兵士に向かって私は笑って見せた。

 「それは魔銃というのね。まさかそんなものができているなんて知らなかった。」

 平気そうな顔をして余裕の笑みを浮かべ、さらに言葉を発した私に心底驚くように兵士が一歩後退る。

 「ば、馬鹿な!そんなことありえない!頭を撃ち抜かれたのだぞ!生きていられるわけがない!」

 「生憎と、頭を銃で撃ちぬかれたくらいじゃ死ぬことも傷つくこともないんですよ。この体は。」

 私たちは見せつけるように眉間に空いた穴を埋め、元通りにする。

 それを見てこの場にいる全員が息をのんだ。唯一事情を知っているのだろうアイレインも、その情報が真実だったことが裏付けられたことに少なからず驚いていた。

 「・・化け物・・・。」

 「そんなこと言わないでください。傷つくじゃないですか。」

 悪戯っぽい笑みを浮かべて見せるが、兵士たちは私の顔が悪魔のそれと同じように見えるようで、恐怖に身を震わせていた。

 「その通りだ。私のかけがえのない友人に駆けるような言葉ではないぞ。」

 兵士の後方。階段の方から一段一段優雅に、堂々と降りてきた偉丈夫の声に全員が振り向く。

 剣を片手に涼しい顔で降りてきたその人は、しかしながら王族特有の威厳に満ちた空気を纏って恐れおののく兵士たちを冷たく見据える。

 「やっと来てくれましたか。ディラン。」

 「待たせてすまない。少しうるさい蠅を黙らせてきたんだ。」

 階段を降りきり、ディランは兵士たちを一瞥すると抜き身の剣を先頭に立つ兵士の喉元に突き付ける。

 ディランの後ろに控えていたポートも槍を構えて牽制している。

 「即刻武装を解除せよ。これ以上は問答無用で処刑することになる。」

 静かに言い放ったその言葉に誰も逆らうことができず、全員武器を地面に投げ捨てたのだった。
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