嫌すぎる結婚相手と、世界の命運を握ることになりました。

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【06】逃れられない、屈辱の移動手段

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「……降ろしてください」
どうにか馬から振り落とされることなく、目的地に到着した僕は、息を整えながらアルヴィスに向き直る。
次の瞬間――
「わっ……!?ちょ、貴方、何を――!?」
突然、視界がぐらりと浮いた。気づけば、僕の身体はアルヴィスの腕の中にすっぽり収まっていた。
まさかの、お姫様抱っこ。
「降ろすって、こういうことだろ?」
「ふ、普通に降ろせばいいでしょう!?」
僕が慌てふためいていると、騒ぎに気づいた村人たちがこちらに視線を向ける。子供たちは目を輝かせ、楽しそうに声を上げた。
「すごーい!かっこいいー!」
「わあっ!アルヴィス様のお嫁さんだ!」
「王子さまたち、ラブラブー!」
「はぁ!?ち、違います!!」
子供たちの無邪気な声に、顔が熱くなる。大人たちも笑いをこらえているし、兵士たちの生暖かい視線が背中に突き刺さる。
その視線を一身に浴びながら、アルヴィスはようやく僕を地面へと下ろした。
がっしりとした腕から解放されて、ほっと息をついた――その直後。
「足元、気をつけろよ、お姫様」
アルヴィスがからかうような笑みを浮かべて言った。無駄にいい声に、妙に優しげな響きまで乗せて。
「っ……!」
思わず拳を握りしめる僕を見て、ますます楽しそうに笑うアルヴィス。本当に、こいつといると心が休まる暇がない。

――とはいえ。
周囲の様子に目を向けると、アルヴィスを見つめる村人たちの瞳は、どこか温かいものだった。
まるで、頼れる誰かを見るような――深い信頼がそこにある。
(……こんなに慕われているんだな)
彼は乱暴で大雑把な男だとばかり思っていた。けれど、こうして村人たちと向き合う姿を見ると、ただの乱暴者ではないのだと感じる。きっと、力だけでなく、その在り方が人々にとっての支えになっているのだろう。ふと、彼がこの国でどんなふうに生きてきたのか、少しだけ知りたくなった。
「……さて」
アルヴィスがまた余計なことを言い出す前に、僕はさっさと話を進めることにした。
「魔物の襲撃は、どの地域が被害を受けていますか?」
村人たちは一瞬驚いたようだったが、すぐに危機的状況を思い出したのか、真剣な表情に戻る。
「こっちです!」
案内されたのは村の広場に設置された簡易の作戦図。村人や兵士たちが急ごしらえで作ったのか、地図の上には小石や木片が置かれ、魔物と人々の位置を示しているようだった。
「今のところ、襲撃を受けているのはこの南側の森です。村の中心はまだ被害はありませんが、森に住む人たちが逃げてきていて……」
「南側、か」
僕は作戦図をじっと見つめながら、すぐにいくつかの可能性を考えた。
「アルヴィス、村の防壁はどの程度の強度ですか?」
「そこまでしっかりしたもんじゃねえな。獣よけ程度の柵だ」
「なるほど。なら、まず森に向かうのは危険ですね」
「何?」
アルヴィスが怪訝そうに眉をひそめる。
「魔物の動きが分からない以上、突っ込むのは悪手です。まずは兵を分けて、偵察と防衛にあたらせるべきでしょう。森の東側に丘がありますよね?そこに弓兵を配置して、魔物の数と位置を把握します。その間に村の入り口を防衛し、避難が必要なら住民を一箇所に集める……」
状況を整理しながら指示を出していくと、周囲の兵士や村人たちが「なるほど」と頷き始めた。
「それから、魔物の種類が分かれば対策も立てられます。以前の報告では、最近の魔物は……」
「……お前、こういう時は本当に頭回んの早ぇな」
アルヴィスが、感心したような声を漏らす。
「え?」
「いや、ついさっきまでお姫様抱っこで真っ赤になってた奴とは思えねぇくらい、冷静に考えてるなと思ってよ」
「……状況が状況ですから!」
思わずムッとしながら、僕は作戦図を指差した。
「とにかく、まずは情報収集が最優先です。貴方は、戦える兵士の指揮をお願いします」
「おう、任せとけ」
アルヴィスは豪快に笑い、剣を握り直すと、すぐに兵士たちに指示を出し始めた。
――この人は、僕とは正反対だけど。不思議と、こういう時だけは息が合う気がする。

「さ、行くぞ!」
アルヴィスが颯爽と歩き出した瞬間、誓約の印が薄く光る。
「あっ、待っ……!」
光の警告に気づいた僕が慌てて駆け寄るのと、アルヴィスが足を止めるのはほぼ同時だった。
「チッ、やっぱりこの距離でもダメか」
「だから言ったじゃないですか!もう、いい加減ちゃんと考えて……」
「はいはい、分かった分かった」
軽く手をひらひらと振りながら、アルヴィスがこちらを振り返る。だが、その目がふと真面目な色を帯び、じっと僕を見据えた。
「……おい」
「な、なんですか」
なんとなく嫌な予感がして、声が裏返る。
「移動の時、毎回お前の歩調に合わせてたら遅くなるよな」
「……え?」
言葉の意味を理解する前に、アルヴィスがにじり寄ってくる。
「ちょっと失礼」
「ちょ、ま、まさか――」
次の瞬間、ぐいっと体が浮いた。
「なっ……!?」
気づいたときには、僕は再びアルヴィスの腕の中に収まっていた。
「ほらよ、お前の好きなお姫様抱っこ」
「好きじゃないです!何してるんですか!?降ろしてください!」
「却下」
「却下じゃなくて!」
叫ぶ僕を無視して、アルヴィスは軽々と歩き出す。その様子を見ていた村人たちが、くすくすと笑い声を上げた。
「やっぱり王子さまたち、すっごくラブラブだー!」
「幸せそうで憧れちゃう~」
「違うんです!違いますから!!」
必死に否定する僕の声は、アルヴィスの豪快な笑いにかき消された――。
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