溺愛ゲーマー

つる

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虚構の栄華ネーレ・ガルバルリ 3

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「時間は?」
 魔術は万能ではない。しかし便利だ。地面に穴を開けられる魔術がいくつも存在する。
 ただし、俺達は大きな音をたてず、大量の骨が騒いでも地盤沈下しないように補強し、さらに骨から逃げるために小屋から離れた場所に掘り進めなければならない。
 そうなると細かく魔術を組むか、手早く順序よく複数人で魔術を使うか。
 俺が少々魔術を齧っていても手が足りず、一人で魔術を順序よく使っても時間が足りず。あとは魔術を組むにも考える時間と試す時間が必要で……やはり問題は時間ということになる。
『かかる』
 魔術師として研究員になるか、魔術を使ってプロゲーマーになるかを迫られているウサギでも地面を掘っての脱出は時間がかかるらしい。
 それでも地面を掘ることを提案したということは地面を掘って脱出できると考えてのことだろう。それは大量の骨から逃げられるほど遠くまで穴を掘り続ける魔力マギがあるということだ。
 時間はない。けれど魔力マギはある。
「なら掘らない。その時間でゆっくりじわじわ結界を使って正面突破というのは?」
『もしかして結界で防御しながら骨の中を歩くのか……埋もれねぇか?』
「埋もれる。けど大会から離脱することはないかな」
 大会から離脱……敗退原因となる事柄はいくつかある。俺がやたらと時間を気にしているのは、それが敗退原因の一つでもあるからだ。
 加えてこの時間が足りないというのも、もたもたしていると骨が増え、小屋が破壊され、大量の骨に襲われてゲームオーバーするだけでなく、大人の事情もある。
 大人の事情というのは開催時間、大会を開催したことによる金銭関係だ。
 常設の大会では開催時間を延長しないことが多い。今参加している大会も延長しないタイプだ。のろのろしていては大会が終わってしまう。そのくせ生き残れば勝ちという大会では最初から最後まで隠れてやり過ごそうとするプレイヤーがいるので大会が長引く。隠れてばかりの大会ではつまらない上に、勝者がたくさん現れてしまい大会主催側は商売あがったりである。運営は開催するための金銭だけでなく勝者の分だけ金品を用意しなければならないからだ。
 金品用意のため、次回開催をするため、その他もろもろの理由から大会を娯楽として消費する場合も隠れて息を潜めているだけというのは消費者にとっても面白くない。
 それ故、大会運営は隠れ場所からプレイヤーを追い出すために様々な方法を使う。
 この大会の場合はアンデッド系モンスターのせいで隠れてばかりはいられないが、おそらくうまく逃げ隠れするのはたいへんむずかしい。何度か大会に参加したことがあるので解るが、運営はアンデットが大会参加者に気づきやすいようにしてある。知性のないタイプのアンデッドには序列はあってもルールや遠慮、諦めの心というものがない。気づかれたが最後襲われ続け、じっと隠れてはいられないというわけだ。
 だからこそ俺は正面突破を提案した。スタート地点のせいで骨のアンデッドに見つかってしまい、どう逃げてもしつこく追ってくるからだ。
『結界は俺が張るとしてディーが正面を突破するのか? サポート魔術師がいるのに?』
 ツーシーは今までサポーターとして活躍してきた。地面に穴を掘ってトンネルくらい作りますよ、サポーターですからといいたいのだろう。
 しかし俺だってずっとサポーターだった。
「いやいや、俺が結界係。俺よりツーシーの方が火力出るでしょ? 時間さえあれば」
 俺が棒を召喚すると、ツーシーこと小さなウサギは項垂れてか細い声をこぼす。
『……攻撃魔術は得意じゃねぇよ』
 ツーシーはそういうけれど、俺は知っている。ツーシーのアーカイブに残っている火力のある攻撃魔術の使用は三回だが、何百回も再生した。魔術の組み立てからコントロールまで綺麗なもので……通ぶってる俺がいうべきことではないが、魔術オタクを感じさせた。
 あの三回は専門家が見ても感嘆するレベルだと、一応魔術を仕事にしていた俺は思っている。
「でもできる、でしょ?」
『まぁ……けど……ディーが主役じゃねぇ』
 何か煮え切らない態度をとっているなと思ったら、このウサギはやたらと可愛いことをいう。成人男性の低い声でなければ、俺はこの小さないのちを戸惑うことなく抱き上げていたに違いない。
 これは成人男性、これは成人男性……と魔法のことばを脳内で繰り返しながら、口を開いた。
「冷たいようだけど、そういうのは取捨選択して。何してても主役は主役なんだから」
 俺が主役とは限らないが。
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