29 / 29
虚構の栄華ネーレ・ガルバルリ 3
しおりを挟む
「時間は?」
魔術は万能ではない。しかし便利だ。地面に穴を開けられる魔術がいくつも存在する。
ただし、俺達は大きな音をたてず、大量の骨が騒いでも地盤沈下しないように補強し、さらに骨から逃げるために小屋から離れた場所に掘り進めなければならない。
そうなると細かく魔術を組むか、手早く順序よく複数人で魔術を使うか。
俺が少々魔術を齧っていても手が足りず、一人で魔術を順序よく使っても時間が足りず。あとは魔術を組むにも考える時間と試す時間が必要で……やはり問題は時間ということになる。
『かかる』
魔術師として研究員になるか、魔術を使ってプロゲーマーになるかを迫られているウサギでも地面を掘っての脱出は時間がかかるらしい。
それでも地面を掘ることを提案したということは地面を掘って脱出できると考えてのことだろう。それは大量の骨から逃げられるほど遠くまで穴を掘り続ける魔力があるということだ。
時間はない。けれど魔力はある。
「なら掘らない。その時間でゆっくりじわじわ結界を使って正面突破というのは?」
『もしかして結界で防御しながら骨の中を歩くのか……埋もれねぇか?』
「埋もれる。けど大会から離脱することはないかな」
大会から離脱……敗退原因となる事柄はいくつかある。俺がやたらと時間を気にしているのは、それが敗退原因の一つでもあるからだ。
加えてこの時間が足りないというのも、もたもたしていると骨が増え、小屋が破壊され、大量の骨に襲われてゲームオーバーするだけでなく、大人の事情もある。
大人の事情というのは開催時間、大会を開催したことによる金銭関係だ。
常設の大会では開催時間を延長しないことが多い。今参加している大会も延長しないタイプだ。のろのろしていては大会が終わってしまう。そのくせ生き残れば勝ちという大会では最初から最後まで隠れてやり過ごそうとするプレイヤーがいるので大会が長引く。隠れてばかりの大会ではつまらない上に、勝者がたくさん現れてしまい大会主催側は商売あがったりである。運営は開催するための金銭だけでなく勝者の分だけ金品を用意しなければならないからだ。
金品用意のため、次回開催をするため、その他もろもろの理由から大会を娯楽として消費する場合も隠れて息を潜めているだけというのは消費者にとっても面白くない。
それ故、大会運営は隠れ場所からプレイヤーを追い出すために様々な方法を使う。
この大会の場合はアンデッド系モンスターのせいで隠れてばかりはいられないが、おそらくうまく逃げ隠れするのはたいへんむずかしい。何度か大会に参加したことがあるので解るが、運営はアンデットが大会参加者に気づきやすいようにしてある。知性のないタイプのアンデッドには序列はあってもルールや遠慮、諦めの心というものがない。気づかれたが最後襲われ続け、じっと隠れてはいられないというわけだ。
だからこそ俺は正面突破を提案した。スタート地点のせいで骨のアンデッドに見つかってしまい、どう逃げてもしつこく追ってくるからだ。
『結界は俺が張るとしてディーが正面を突破するのか? サポート魔術師がいるのに?』
ツーシーは今までサポーターとして活躍してきた。地面に穴を掘ってトンネルくらい作りますよ、サポーターですからといいたいのだろう。
しかし俺だってずっとサポーターだった。
「いやいや、俺が結界係。俺よりツーシーの方が火力出るでしょ? 時間さえあれば」
俺が棒を召喚すると、ツーシーこと小さなウサギは項垂れてか細い声をこぼす。
『……攻撃魔術は得意じゃねぇよ』
ツーシーはそういうけれど、俺は知っている。ツーシーのアーカイブに残っている火力のある攻撃魔術の使用は三回だが、何百回も再生した。魔術の組み立てからコントロールまで綺麗なもので……通ぶってる俺がいうべきことではないが、魔術オタクを感じさせた。
あの三回は専門家が見ても感嘆するレベルだと、一応魔術を仕事にしていた俺は思っている。
「でもできる、でしょ?」
『まぁ……けど……ディーが主役じゃねぇ』
何か煮え切らない態度をとっているなと思ったら、このウサギはやたらと可愛いことをいう。成人男性の低い声でなければ、俺はこの小さないのちを戸惑うことなく抱き上げていたに違いない。
これは成人男性、これは成人男性……と魔法のことばを脳内で繰り返しながら、口を開いた。
「冷たいようだけど、そういうのは取捨選択して。何してても主役は主役なんだから」
俺が主役とは限らないが。
魔術は万能ではない。しかし便利だ。地面に穴を開けられる魔術がいくつも存在する。
ただし、俺達は大きな音をたてず、大量の骨が騒いでも地盤沈下しないように補強し、さらに骨から逃げるために小屋から離れた場所に掘り進めなければならない。
そうなると細かく魔術を組むか、手早く順序よく複数人で魔術を使うか。
俺が少々魔術を齧っていても手が足りず、一人で魔術を順序よく使っても時間が足りず。あとは魔術を組むにも考える時間と試す時間が必要で……やはり問題は時間ということになる。
『かかる』
魔術師として研究員になるか、魔術を使ってプロゲーマーになるかを迫られているウサギでも地面を掘っての脱出は時間がかかるらしい。
それでも地面を掘ることを提案したということは地面を掘って脱出できると考えてのことだろう。それは大量の骨から逃げられるほど遠くまで穴を掘り続ける魔力があるということだ。
時間はない。けれど魔力はある。
「なら掘らない。その時間でゆっくりじわじわ結界を使って正面突破というのは?」
『もしかして結界で防御しながら骨の中を歩くのか……埋もれねぇか?』
「埋もれる。けど大会から離脱することはないかな」
大会から離脱……敗退原因となる事柄はいくつかある。俺がやたらと時間を気にしているのは、それが敗退原因の一つでもあるからだ。
加えてこの時間が足りないというのも、もたもたしていると骨が増え、小屋が破壊され、大量の骨に襲われてゲームオーバーするだけでなく、大人の事情もある。
大人の事情というのは開催時間、大会を開催したことによる金銭関係だ。
常設の大会では開催時間を延長しないことが多い。今参加している大会も延長しないタイプだ。のろのろしていては大会が終わってしまう。そのくせ生き残れば勝ちという大会では最初から最後まで隠れてやり過ごそうとするプレイヤーがいるので大会が長引く。隠れてばかりの大会ではつまらない上に、勝者がたくさん現れてしまい大会主催側は商売あがったりである。運営は開催するための金銭だけでなく勝者の分だけ金品を用意しなければならないからだ。
金品用意のため、次回開催をするため、その他もろもろの理由から大会を娯楽として消費する場合も隠れて息を潜めているだけというのは消費者にとっても面白くない。
それ故、大会運営は隠れ場所からプレイヤーを追い出すために様々な方法を使う。
この大会の場合はアンデッド系モンスターのせいで隠れてばかりはいられないが、おそらくうまく逃げ隠れするのはたいへんむずかしい。何度か大会に参加したことがあるので解るが、運営はアンデットが大会参加者に気づきやすいようにしてある。知性のないタイプのアンデッドには序列はあってもルールや遠慮、諦めの心というものがない。気づかれたが最後襲われ続け、じっと隠れてはいられないというわけだ。
だからこそ俺は正面突破を提案した。スタート地点のせいで骨のアンデッドに見つかってしまい、どう逃げてもしつこく追ってくるからだ。
『結界は俺が張るとしてディーが正面を突破するのか? サポート魔術師がいるのに?』
ツーシーは今までサポーターとして活躍してきた。地面に穴を掘ってトンネルくらい作りますよ、サポーターですからといいたいのだろう。
しかし俺だってずっとサポーターだった。
「いやいや、俺が結界係。俺よりツーシーの方が火力出るでしょ? 時間さえあれば」
俺が棒を召喚すると、ツーシーこと小さなウサギは項垂れてか細い声をこぼす。
『……攻撃魔術は得意じゃねぇよ』
ツーシーはそういうけれど、俺は知っている。ツーシーのアーカイブに残っている火力のある攻撃魔術の使用は三回だが、何百回も再生した。魔術の組み立てからコントロールまで綺麗なもので……通ぶってる俺がいうべきことではないが、魔術オタクを感じさせた。
あの三回は専門家が見ても感嘆するレベルだと、一応魔術を仕事にしていた俺は思っている。
「でもできる、でしょ?」
『まぁ……けど……ディーが主役じゃねぇ』
何か煮え切らない態度をとっているなと思ったら、このウサギはやたらと可愛いことをいう。成人男性の低い声でなければ、俺はこの小さないのちを戸惑うことなく抱き上げていたに違いない。
これは成人男性、これは成人男性……と魔法のことばを脳内で繰り返しながら、口を開いた。
「冷たいようだけど、そういうのは取捨選択して。何してても主役は主役なんだから」
俺が主役とは限らないが。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる