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元社畜はプロゲーマーの夢を見るか? 2
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急に俺のやる気が満々になり、いい顔までしてしまったせいだろう。スカウトマンが顔を上げて二度首を傾げた。
「ありがとう、ございます……?」
驚くべきか喜ぶべきか、はたまた不思議がるべきなのか。スカウトマンは悩んだらしく、そのすべての感情を順々に表情に変え、また首を傾げる。
スカウトマンがそうなってしまうのも仕方ない。俺だってツーシーという名前がこれだけ自分に衝撃とやる気を与えるとは思っていなかった。
ガサガサと草が揺れる音を聞きながら、一歩踏み出し、自らを落ち着かせるため俺は空いた手を胸に置く。
「一応確認しますが、ツーシーとは……あの魔法使いのツーシーですよね?」
「そうですそうです! もしかして、あなたも……?」
恐らく『魔法使い』ということばにピンときたのだろう。実はツーシーというプレイヤーを『魔法使い』と称するのは、彼のコアなファンだけだ。
ツーシーはパラレルマギ配信者として少し有名なパラレルマギプレイヤーで、魔術で他のプレイヤーをサポートするのが得意である。しかし彼が有名なのはとある配信の炎上と人気配信者の友人だからであり、彼の魔術の多様さと扱いの巧みさに惚れ込むのはかなりコアなパラレルマギプレイヤーだ。それゆえ、彼を『魔法使い』と称するのも、ごく一部だけである。
スカウトマンはそんなごく一部のファンにあたるらしい。嬉しそうに目を輝かせた。
「ツーシーのファン……というのも何か違う気もするんですが……告白大炎上のときの当事者というか、なんというか……気になるじゃないですか」
好きなのにいいわけをして認めない大ファンみたいになってしまい、俺は眉間に皺を寄せる。
確かに俺はツーシーというパラレルマギプレイヤーが好きだし、彼の戦闘スタイルは魔法使いというに相応しいと思う。配信は少なく、さもすれば彼の友人の配信に出ている回数の方が多いくらいだが、それらすべてを漁って何度も繰り返し見ている。
素直にファンというべきかも知れない。だが、俺を素直にファンだといわせないとうか、ファンにさせない配信をツーシーが一度だけ行っているせいで、俺はファンだといえなかった。
その配信は告白大炎上と呼ばれている配信で、端的に説明すると『ディーというパラレルマギプレイヤーはすごいサポーターだがサポーターじゃなくてもめちゃくちゃすごい』という内容だ。
この『ディー』というのが、昔の俺である。そんなこと配信されてしまって、それを一番最初に認識してしまったらいつまでもそう思って欲しいしファンといいづらいというか、自慢したいというか、肩を並べたいというか……複雑な心境だ。
しかも上手い具合に悪意のある切り抜きをされて炎上してしまったせいもあって、ツーシーのゲームプレイ動画より有名なので俺は更に複雑な気分である。
「ちょうどいらっしゃらない時だったんで知らないかと」
「いえ、リアルタイムでは見てないんです。ちょっと耳にすることがありまして……最初は俺のことだと思っていなかったんですが、結構ラナーさんが擦るものだから」
パラレルマギにいなかった時期、つまりブラック会社にいた時期だが……あの頃は仕事以外は何もできず、トイレに行くにも仕事のことを考えていた。魔法を使ったゲームの中でも特殊なゲームであるパラレルマギを起動させる暇なんてなかったわけだ。もちろん、動画だのライブ配信だのを見る余裕もなかった。
俺がツーシーの炎上を知ったのも、ツーシーを知ったのも、ツーシーの友人である有名配信者ラナーが魔法百周年記念配信をしてくれたからだ。俺はその配信のおかげで今ここにいる。
「ああ、確かに……なるほど、それでお調べに」
「はい。それで大炎上した配信を見てしまって……それからずっと気になっていたし、そこまでいうならしてもらおうかなって」
ラナーのおかげでパラレルマギにまたハマっているし、会社も辞められたわけだが、それはそれとしてツーシーの炎上配信だ。
ツーシーはその配信上で俺をすごいと褒め称え『俺がディーさんとパラマギバトロイするならディーさんがサポートじゃダメだって、俺あの人のこと主役にしてぇもん』といってしまったのである。
そんなこといわれた俺の気持ちも考えて欲しい。そんなもの『ウワァー! 一緒にゲームして下さい!』である。
「ありがとう、ございます……?」
驚くべきか喜ぶべきか、はたまた不思議がるべきなのか。スカウトマンは悩んだらしく、そのすべての感情を順々に表情に変え、また首を傾げる。
スカウトマンがそうなってしまうのも仕方ない。俺だってツーシーという名前がこれだけ自分に衝撃とやる気を与えるとは思っていなかった。
ガサガサと草が揺れる音を聞きながら、一歩踏み出し、自らを落ち着かせるため俺は空いた手を胸に置く。
「一応確認しますが、ツーシーとは……あの魔法使いのツーシーですよね?」
「そうですそうです! もしかして、あなたも……?」
恐らく『魔法使い』ということばにピンときたのだろう。実はツーシーというプレイヤーを『魔法使い』と称するのは、彼のコアなファンだけだ。
ツーシーはパラレルマギ配信者として少し有名なパラレルマギプレイヤーで、魔術で他のプレイヤーをサポートするのが得意である。しかし彼が有名なのはとある配信の炎上と人気配信者の友人だからであり、彼の魔術の多様さと扱いの巧みさに惚れ込むのはかなりコアなパラレルマギプレイヤーだ。それゆえ、彼を『魔法使い』と称するのも、ごく一部だけである。
スカウトマンはそんなごく一部のファンにあたるらしい。嬉しそうに目を輝かせた。
「ツーシーのファン……というのも何か違う気もするんですが……告白大炎上のときの当事者というか、なんというか……気になるじゃないですか」
好きなのにいいわけをして認めない大ファンみたいになってしまい、俺は眉間に皺を寄せる。
確かに俺はツーシーというパラレルマギプレイヤーが好きだし、彼の戦闘スタイルは魔法使いというに相応しいと思う。配信は少なく、さもすれば彼の友人の配信に出ている回数の方が多いくらいだが、それらすべてを漁って何度も繰り返し見ている。
素直にファンというべきかも知れない。だが、俺を素直にファンだといわせないとうか、ファンにさせない配信をツーシーが一度だけ行っているせいで、俺はファンだといえなかった。
その配信は告白大炎上と呼ばれている配信で、端的に説明すると『ディーというパラレルマギプレイヤーはすごいサポーターだがサポーターじゃなくてもめちゃくちゃすごい』という内容だ。
この『ディー』というのが、昔の俺である。そんなこと配信されてしまって、それを一番最初に認識してしまったらいつまでもそう思って欲しいしファンといいづらいというか、自慢したいというか、肩を並べたいというか……複雑な心境だ。
しかも上手い具合に悪意のある切り抜きをされて炎上してしまったせいもあって、ツーシーのゲームプレイ動画より有名なので俺は更に複雑な気分である。
「ちょうどいらっしゃらない時だったんで知らないかと」
「いえ、リアルタイムでは見てないんです。ちょっと耳にすることがありまして……最初は俺のことだと思っていなかったんですが、結構ラナーさんが擦るものだから」
パラレルマギにいなかった時期、つまりブラック会社にいた時期だが……あの頃は仕事以外は何もできず、トイレに行くにも仕事のことを考えていた。魔法を使ったゲームの中でも特殊なゲームであるパラレルマギを起動させる暇なんてなかったわけだ。もちろん、動画だのライブ配信だのを見る余裕もなかった。
俺がツーシーの炎上を知ったのも、ツーシーを知ったのも、ツーシーの友人である有名配信者ラナーが魔法百周年記念配信をしてくれたからだ。俺はその配信のおかげで今ここにいる。
「ああ、確かに……なるほど、それでお調べに」
「はい。それで大炎上した配信を見てしまって……それからずっと気になっていたし、そこまでいうならしてもらおうかなって」
ラナーのおかげでパラレルマギにまたハマっているし、会社も辞められたわけだが、それはそれとしてツーシーの炎上配信だ。
ツーシーはその配信上で俺をすごいと褒め称え『俺がディーさんとパラマギバトロイするならディーさんがサポートじゃダメだって、俺あの人のこと主役にしてぇもん』といってしまったのである。
そんなこといわれた俺の気持ちも考えて欲しい。そんなもの『ウワァー! 一緒にゲームして下さい!』である。
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