溺愛ゲーマー

つる

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マギトリ物語 4

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「今まであくせく働いてきたせいかもしれません、時間を空けるという感覚がよくわからなくて」
 俺はメニューの中の文字を目で追うことで澄ました顔を保つ。このカフェはコーヒーや紅茶の種類はないものの、フルーツ系のジュースの種類が多い。軽食は本日のスープ、甘いものはパンケーキと気分屋アイスがあり、ずらっと一頁にみっちりとペットやお供の食べられるものが並んでいた。このカフェでは人間などついでであるらしい。
 俺が通っていた頃はここまで偏っていなかった気がして、緩く首を傾げた。
『しっかり休んだ方が……』
 俺が首を傾げてしまったせいで不安になってしまったのかもしれない。ウサギの声が消え入りそうになっている。俺がメニューから顔を上げたとき、癒し系の可愛いウサギはついに毛玉ではなくフェイクファーの布を用意し始めていた。
「元々集中して何かをするとか効率よくマルチタスクで作業をするとか割と好きでして。何かしてないと逆に申し訳ないんですよね」
 単純に元々の気質とブラック会社の刷り込みが抜けていないだけなのだが、他人はそれを心配しもどかしく思うらしい。ウサギがフェイクファーの布を俺の方へと押し出したあと、後ろ足で激しく机を蹴っていた。
『俺なら金が無くならない限り働きたくないんだが……ですが』
 会社を辞めてから昔からの数人昔からの友人に声をかけたが、俺がマグロのようなことをいっていると皆そういって微妙な顔をしていたので一般的にはそうなんだろう。ウサギだから微妙な顔というのはわからないが、ツーシーもどうやら友人達と同じ気持ちらしい。俺に押し出した布を前足で殴ってぷすーと息を吐いた。
「それなんですよね。お金もないんです。課金しすぎてまして」
 微妙な話題を続けるのも気が引ける。俺は金の話だけ引き継いで話を続けた。
 ウサギはそれでも俺をチラチラとみて、今度は布を後ろ足で蹴り始める。
『見た感じは課金アイテムっぽくない、ですが』
 俺の課金どころが見えなかったため『マジかよ』といいたいらしい。
 そう、俺は確かに装備品は武器以外課金をしていなかった。
「エリアやダンジョンを開放するためにじゃぶじゃぶやってしまいましてね」
 何故なら、課金して解放したエリアやダンジョンに装備品があるからだ。
『あー……レベル合ってないとかなり課金しなきゃなんないっすもんね』
 エリアやダンジョンの解放の話だけで通じるあたり、ツーシーも流石の古参で廃のパラレルマギプレイヤーである。
 最近だと結構な数のエリアやダンジョンが安全になっていて、そこそこレベルを上げれば課金しなくてもたくさんのエリアやダンジョンに行けるのだ。そのため、新しくゲームを始めた『廃』と呼ばれないプレイヤーは解放のために重課金するという感覚はないらしい。
 だが、『廃』と呼ばれるプレイヤーは重課金どころか廃課金を躊躇わず、時間が許さなくてもレベルを上げ続ける。
 俺は『それ』にあたり、取り返せない時間を金で買った。ひたすらレベルを上げることでクリアするのでなく、廃課金をして色々なアイテムや魔術を使い済ませたというわけだ。
「そんなわけで今のレベルは低いんですが」
『その装備で低いはない』
 ツーシーがやっと布から前足を離し、ふるふると頭を振った。俺がつけているダンジョンの装備がかなり高レベル帯の装備だからだ。
 それにしてもウサギというだけで、低く聞き取り辛い声の男が可愛いのはどういったバグなのか。挨拶をする前から小動物って可愛いなと思っていたが、これはさすがにあざとい。これからコンビを組んでプロゲーマーになるのなら大事な話をしているのに、俺という奴はウサギに気を取られすぎである。
「いいえ、これはかなり慎重に高級キャンプ用具一式と脱出アイテムを駆使した結果で……いや、いうよりもお見せした方が早いですね」
 課金というやつは本当に優秀だが、レベルに見合わない行動というのはいつか無理が来るものだ。立ち回りをがんばったり、暇を見つけてはレベルを上げる必要がある。俺はそのレベル上げのために先日もマギを集めていた。
『あ、ああ……今日はご挨拶ついでに元からそのつもりだったので』
「なるほど。なら、エダラスの洞窟あたりに行きましょうか」
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