溺愛ゲーマー

つる

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社畜時代の終わり 5

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『できる』
 ばら撒きというのはマギをばら撒くことだ。せっかく集めたものをばら撒くとはどういう了見だとたまに思うが、パラレルマギのマギは他のゲームのマジックポイントやマナと呼ばれるもので、その場にないとほとんど魔術が使えない。自らの体内にあるマギを着火剤にその場のマギを使って魔術を使うのだ。着火剤自体は魔術を簡単に発動させる一手間なので自らの体内にあるマギでなくてもいい。杖にマギをチャージして着火剤にしている魔術師もいる。つまりその場にマギがあり、着火剤のマギさえあれば簡単に魔術を使えるわけだ。
 だが、体内のマギだけで魔術を使えないわけではない。着火剤になるマギと魔術になる膨大なマギがあれば魔術は使える。威力や効果をあまり求めず、疲労を厭わないのならの話だが。一回使っただけで疲労困憊して動けなくなるライターを好き好んで使う人間はいない。
 体内のマギでできることはその場に満ちているマギでもできるが、これも湿気だ木に火種も着火剤もない状態から火をつけるようなもので、時間と労力が必要になる。マッチやライター、着火剤があるのならそちらを使ったほうが早くて楽だ。
 そんなこんなでパラレルマギでは着火剤やその場に漂っているマギがないと魔術が使い辛い。しかも、その場にあるマギは時間が経たないと自然と回復せず増えないため、魔術を使って戦う場合マギの奪い合いになる。
 その際、マギをばら撒くことが出来ればその場のマギが無くなっても、まだ魔術で戦うことができるのだ。他のゲームのでいうところのマジックポイント回復アイテムや譲渡魔法のようなものである。
「なら簡単だ。マギを回収するなら足場だけ作ってもらって、モンスターを全滅するなら、ばら撒いてもらえれば俺も魔術を使います」
『やっぱり魔術使えるのか……!』
 実は勤めていたブラック会社も魔術関連の会社だった。おかげでセールストークに使う程度には詳しい。義務教育として魔術に触れることもあるし、使えない人間の方が稀である。
 だが、俺がパラレルマギで『魔術を使う』というと、攻撃や補助に使える、戦略に組み込めるレベルということだ。
「簡単なものだけですが」
 ちょっとした強化や牽制に使える程度で決め手には欠ける。かつての仲間にはあってもなくても変わらない気休め程度、露天の護符と呼ばれていた。
 俺の答えに、ツーシーは被りを振ってその場でぴょんぴょんと跳ねる。正直、フライングディスクの上で跳ねるのは落ちそうで怖いのだが、ツーシーは見事なバランス感覚で跳ね続けた。
『見たことがないからわからないが、あんたの『使える』は信用している、マス! たとえそれが邪魔をする程度のものでも、確実に鬱陶しくて邪魔くさくて、確実に一秒二秒を稼いで、脳のリソースを削るんだろ? う、です……ですか、あー……』
 敬いたいから敬語を使いたいが、興奮すると敬語が飛んでいっておかしなことになる。敬語に慣れていない印象もあるが、敬語が吹っ飛んでは戻ってくるのはそのせいだろう。
 可愛いなと思うのだが、真面目な話をしているせいか少し邪魔くさくなってきた。こういうところが何度チームを組んでもチームを抜けることになる原因なのだが、俺はもう一度ツーシーに敬語を止めるよう促す。
「敬語、本当に大丈夫ですよ」
 あくまで相手に悪い印象を与えない言葉にした。強く敬語をやめて貰いたいならはっきりいうのだが、実のところどっちでもいい。だから人任せにしたのだ。
 するとウサギがフライングディスクの高度を緩やかに落とした。
 もしかしたら、ツーシーは俺と違い敬語について真剣に悩んでいるのかもしれない。
「俺もやめられますから」
 それならもう一押しして敬語を取っ払ってしまうか。
 そう思って取ってつけた理由を用意すると、ウサギが不安そうに俺を見上げた。
『……本当すか』
「本当本当。やめると決めたらスパッとやめられるから」
 これが証拠というように敬語をやめ、意識して笑う。
『それなら』
 ツーシーはそれでも渋々頷いた。
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