食べるということ

花乃

文字の大きさ
上 下
6 / 11
くだものは鮮やかな食べ物

びわ

しおりを挟む
王子を待たせてしまった。ぼくは王子のお母さんからびわをもらった。王子には内緒にしておこうと思った。なんとなく気まずいからだ。王子とは家族同士で会うこともある。理由は幼馴染おさななじみだからだ。今日は帰り道に王子のお母さんと会った。おすそ分けにと、びわをもらった。
玄関に王子がいた。
「遅いじゃないか」
王子のふくれた顔を見るのは久しぶりだ。怒られても笑ってしまった。内心はあわてている。王子のお母さんに会ったことは内緒にするべきだ。
「待たせたな」
「今日は新作スイーツを食べてくれる予定だったよね。もー。女の子を待たすなんて最悪」
「ちゃんと食べるよ。ごめん。スーパーが混んでいた」
「スーパーは今日は休みだよ」
ぼくは固まった。ビニール袋のびわ。
「そうだったか」
「あやしいな」
ぼくはいつものように紅茶を口にふくんだ。王子には一番温かいヒーターの前で座ってもらっている。
「王子のお母さんに会ったんだ」
「母さんに」
「つい立ち話をした」
「うちのびわだったんだ」
「そうだな」
びわは暖かな色をしていた。ぼくは言ってしまったことを悔やんだ。食べたものはもとには戻らない。時間は戻せない。
「だったらいいのさ。ナーバスになってごめん」
王子は可愛い。ぼくの気持ちは未来に託したい。気持ちを告白したい思いは熟成させたい。
しおりを挟む

処理中です...