シングルパパ

谷川流慕

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春の章

おはなし

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上村かみむらさん、ちょっとがあるんですけど……」
「おはなし!?」
 春の夜風に当たるように気持ちが華やぐ。僕は一回り若いユリカ先生に恋をしていた。保育園では、詮索好きなママさんたちの目が光っているので表には出さないが、遠巻きに彼女を見つめては胸を焦がしていた。でも、そのというのは……。
「つかぬことをお伺いしますが、お家の方ではお片付け、どのようになさってますか?」

 甘い予感が一転、憂いの影が差した。遠慮がちにではあるが、我が家でのが問われている。……長男のハヤテは今年で5歳、お片付けは大の苦手。一方で次男のツムジは散らかすことにかけては天下一品で、スイッチが入ると棚という棚からおもちゃや本を引っ張り出し床にぶちまける。ツムジはお兄ちゃんが先にしないと何もやろうとしないので(いたずらはその限りにあらず)、ハヤテに片付けるように言うと、
「散らかしたのは、ツムジだよ。ボクじゃないもん」
 といっぱしに主張する。結局折れて、いつも僕が片付けている。

「もしかして、ウチの子……園の方でお片付けしていないんですか?」
 ゆっくりとうなずくユリカ先生。
「ええ。私の指導が行き届かないせいかもしれませんけど……しまいにはマユちゃんがハヤテ君の分まで片付けてしまうんです」
 まずいと思った。マユちゃんはハヤテを気に入っているらしい。だが問題はマユちゃんママだ。人一倍世間体を気にするマユちゃんママは、母親のいない上村家をよく思っていない。今どき「あの子と遊んじゃダメでしょ」などとあからさまに言うことはないものの、マユちゃんがハヤテに好意を持つことが気に入らない。ユリカ先生がこの件について僕に話したのも、きっとマユちゃんママの後押しがあったからに違いない。
「わかりました。帰ったらハヤテによく言い聞かせます」
「すみません……」
 すみませんだなんて、謝るのはこっちの方なのに。僕はハヤテとツムジを引き取ると、二人の手をしっかり握って家路についた。
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