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秋の章
ありがとう
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「ユリカ先生は、僕の妹です」
え? ユリカ先生のフルネームは寿百合花。姓が違うのではないか、そう思う僕の心中を察したかのように伍代先生は説明する。
「両親が離婚した時、僕は母親に、ユリカは父親に引き取られたんです。だから姓が違うのです」
そういうことか。僕は恥ずかしくて顔が真っ赤になった。
「他に何かお話はありますか?」
「いえ。失礼します」
僕は伍代先生の仕事部屋から出た。
(面倒を避けている……か)
思い巡らしてみた。僕は具体的に、何か避けているものがあるのだろうか。
その日の午後、子供を迎えに行くとマユちゃんママに話しかけられた。
「上村さん。今度の文化祭の出し物、担当して下さらないかしら?」
一瞬面倒だと思ったが、これは自分が変われるチャンスかと思い、心が躍った。
「はい、是非やらせて下さいっ!」
*
「オリジナル曲の創作ダンス……ですか?」
僕の提案に、ユリカ先生が問い返す。
「ええ、既製のポップスより、ほのぼのした感じが出ていいと思うんです」
「素敵なアイデアと思います。でも、曲はどうするんですか?」
「任せて下さい。うってつけの人材がいるんです!」
それはかつてのバンド仲間、桑田南方その人だ。僕は早速彼に電話した。
「なんだ上村、バツイチネタならもうたくさんだぜ」
「そうじゃないよ。桑田ってさ、DTMでゲーム音楽とか作ってたよね」
「お、おお。たまにそれで小遣い稼いでるけどな。それがどうしたんだよ」
「子供向けのダンス曲作って欲しいだ。いい感じのやつ、頼むよ」
「はあ? 何だって子供向け?」
訝しむ桑田に事情を話した。すると……
「おまえ、そのユリカ先生に惚れてんだろ」
「え? あ、いや……」
「わかりやすい奴……だけど、久々に青春時代の気分が甦ったぜ。応援がてら曲作ってやるから、そっちも頑張んな」
こうして曲の手筈は整った。後は衣装と振付けを考えなくてはならないが、マユちゃんママが服飾デザイナーだったことを思い出した。正直苦手な相手だが、面倒を避けないというポリシーのもと、お願いしてみた。
「葛西さん、ダンスの衣装、お願いできませんか?」
「そう言われましてもね、わたくしも仕事がございますし……」
「そこを何とかっ!」
僕がいつになく押しが強いので、彼女はたじろぎながら承諾した。そして振付けは、ズンバの講師をやっているユウマ君ママに頼んだ。そうやって、多くの保護者に役割を担ってもらうことになった。
でも、そのおかげで文化祭の出し物は大成功。マユちゃんが上手に踊れたことでマユちゃんママも大喜び。
「上村さん、ありがとう」
彼女から聞く、はじめての感謝の言葉だった。
え? ユリカ先生のフルネームは寿百合花。姓が違うのではないか、そう思う僕の心中を察したかのように伍代先生は説明する。
「両親が離婚した時、僕は母親に、ユリカは父親に引き取られたんです。だから姓が違うのです」
そういうことか。僕は恥ずかしくて顔が真っ赤になった。
「他に何かお話はありますか?」
「いえ。失礼します」
僕は伍代先生の仕事部屋から出た。
(面倒を避けている……か)
思い巡らしてみた。僕は具体的に、何か避けているものがあるのだろうか。
その日の午後、子供を迎えに行くとマユちゃんママに話しかけられた。
「上村さん。今度の文化祭の出し物、担当して下さらないかしら?」
一瞬面倒だと思ったが、これは自分が変われるチャンスかと思い、心が躍った。
「はい、是非やらせて下さいっ!」
*
「オリジナル曲の創作ダンス……ですか?」
僕の提案に、ユリカ先生が問い返す。
「ええ、既製のポップスより、ほのぼのした感じが出ていいと思うんです」
「素敵なアイデアと思います。でも、曲はどうするんですか?」
「任せて下さい。うってつけの人材がいるんです!」
それはかつてのバンド仲間、桑田南方その人だ。僕は早速彼に電話した。
「なんだ上村、バツイチネタならもうたくさんだぜ」
「そうじゃないよ。桑田ってさ、DTMでゲーム音楽とか作ってたよね」
「お、おお。たまにそれで小遣い稼いでるけどな。それがどうしたんだよ」
「子供向けのダンス曲作って欲しいだ。いい感じのやつ、頼むよ」
「はあ? 何だって子供向け?」
訝しむ桑田に事情を話した。すると……
「おまえ、そのユリカ先生に惚れてんだろ」
「え? あ、いや……」
「わかりやすい奴……だけど、久々に青春時代の気分が甦ったぜ。応援がてら曲作ってやるから、そっちも頑張んな」
こうして曲の手筈は整った。後は衣装と振付けを考えなくてはならないが、マユちゃんママが服飾デザイナーだったことを思い出した。正直苦手な相手だが、面倒を避けないというポリシーのもと、お願いしてみた。
「葛西さん、ダンスの衣装、お願いできませんか?」
「そう言われましてもね、わたくしも仕事がございますし……」
「そこを何とかっ!」
僕がいつになく押しが強いので、彼女はたじろぎながら承諾した。そして振付けは、ズンバの講師をやっているユウマ君ママに頼んだ。そうやって、多くの保護者に役割を担ってもらうことになった。
でも、そのおかげで文化祭の出し物は大成功。マユちゃんが上手に踊れたことでマユちゃんママも大喜び。
「上村さん、ありがとう」
彼女から聞く、はじめての感謝の言葉だった。
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