シングルパパ

谷川流慕

文字の大きさ
12 / 16
秋の章

ありがとう

しおりを挟む
「ユリカ先生は、僕の妹です」
 え? ユリカ先生のフルネームは寿百合花ことぶきゆりか。姓が違うのではないか、そう思う僕の心中を察したかのように伍代先生は説明する。
「両親が離婚した時、僕は母親に、ユリカは父親に引き取られたんです。だから姓が違うのです」
 そういうことか。僕は恥ずかしくて顔が真っ赤になった。
「他に何かお話はありますか?」
「いえ。失礼します」
 僕は伍代先生の仕事部屋から出た。
(面倒を避けている……か)
 思い巡らしてみた。僕は具体的に、何か避けているものがあるのだろうか。

 その日の午後、子供を迎えに行くとマユちゃんママに話しかけられた。
「上村さん。今度の文化祭の出し物、担当して下さらないかしら?」
 一瞬面倒だと思ったが、これは自分が変われるチャンスかと思い、心が躍った。
「はい、是非やらせて下さいっ!」



「オリジナル曲の創作ダンス……ですか?」
 僕の提案に、ユリカ先生が問い返す。
「ええ、既製のポップスより、ほのぼのした感じが出ていいと思うんです」
「素敵なアイデアと思います。でも、曲はどうするんですか?」
「任せて下さい。うってつけの人材がいるんです!」
 それはかつてのバンド仲間、桑田南方さざんその人だ。僕は早速彼に電話した。
「なんだ上村、バツイチネタならもうたくさんだぜ」
「そうじゃないよ。桑田ってさ、DTMでゲーム音楽とか作ってたよね」
「お、おお。たまにそれで小遣い稼いでるけどな。それがどうしたんだよ」
「子供向けのダンス曲作って欲しいだ。いい感じのやつ、頼むよ」
「はあ? 何だって子供向け?」
 訝しむ桑田に事情を話した。すると……
「おまえ、そのユリカ先生に惚れてんだろ」
「え? あ、いや……」
「わかりやすい奴……だけど、久々に青春時代の気分が甦ったぜ。応援がてら曲作ってやるから、そっちも頑張んな」


 こうして曲の手筈は整った。後は衣装と振付けを考えなくてはならないが、マユちゃんママが服飾デザイナーだったことを思い出した。正直苦手な相手だが、面倒を避けないというポリシーのもと、お願いしてみた。
葛西さんマユちゃんママ、ダンスの衣装、お願いできませんか?」
「そう言われましてもね、わたくしも仕事がございますし……」
「そこを何とかっ!」
 僕がいつになく押しが強いので、彼女はたじろぎながら承諾した。そして振付けは、ズンバの講師をやっているユウマ君ママに頼んだ。そうやって、多くの保護者に役割を担ってもらうことになった。

 でも、そのおかげで文化祭の出し物は大成功。マユちゃんが上手に踊れたことでマユちゃんママも大喜び。
「上村さん、ありがとう」
 彼女から聞く、はじめての感謝の言葉だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

麗しき未亡人

石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。 そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。 他サイトにも掲載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...