リンドベルの裏方たち

染舞(ぜんまい)

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元冒険者講師ロッカの未来

第2話「岩肌は強い意志で後輩を守り、酒乱は通す」

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 風が鳴る。
 自分に向かってきた刃を、硬化させた腕で受け止めたロッカは、真剣な目で眼の前の少女――ライラ=ガルを見た。





(……筋は良い。……良いが、惜しいな)
 まだ冒険者になって半年ほどの少女。双剣を使う身軽な剣術は彼女に合っていて、今後に期待できそうだった。
 しかしそれはあくまでも今後であって、今じゃない。

 一撃、ニ撃と攻撃は繰り返されるが、ロッカのかすかな目線誘導にあっさり引っかかったところで

「そこまで」
 ロッカは声を発するとともにライラの剣を指で挟んで止めた。ライラは肩で息をしながら下がり、「ありぁ、とうござっました」となんとか口にした。
(あと体力ももう少しつけるべきか。前衛のDランクとしてはもう少し欲しい)

 そうしてライラに頷いてから、補佐で入っているギルド職員から用紙を渡されたので書き込む。ライラの名前が書かれた用紙には【Dランク昇格試験申込書】と書かれてあった。
 ロッカはその実技の部分にバツを書いた。ライラがちらっと青い目をロッカに向けている。合否が気になるのだろうが、残念がる様子も見えた。察しているのだろう。
 とは言えロッカも駆け寄ることは出来ない。今の彼女は試験官であり、他にも受験者がいる。
 試験官をするのは初めてではない。何度も行っては来ているが、やはり不合格にする時は少々心が痛むものだ。

 しかし合格を簡単に与えてしまえば、実力に見合わぬ依頼を受けて、取り返しのつかないことになる可能性がある。
 まだ失敗するだけなら良いが、無茶をして帰ってこないことが何よりも……辛い。
 だから彼女は心を鬼にする。

「では、次の者、前へ」
「は、はい!」



***






「うぅ、ロッカさん厳しいよお」
「ライラ。そんなこと言うものじゃない。ロッカさんは真剣に」
「分かってるけどぉ……あー、悔しい! 筆記は合格したのにぃっ」
 眼の前で素直に悔しがる少女にロッカは苦笑しつつ、熱い酒を口にする。ヴァレリオはエールを飲んでいたが、彼女はエールよりもこちらの酒の方が好きだ。

「まぁ、その筆記もギリギリだったがな」
「ぐぅっ……だって、難しいんだもん。あんな薬草の見分けとかわからないよお」
「お前な。薬草の見分けは基本だぞ?」
 呆れるヴァレリオ。ロッカはふと、受け付けのレイリアの言葉を思い出した。

「そういえば、レイリアが言っていたな。常にある薬草採取の依頼を何度も間違えた新人がいる、と」
 冒険者ギルドには常に貼られている常中依頼もある。ヒーリングポーションに使う薬草などはその典型で、冒険者になるとまずはこの依頼から受けるもの。当然そんなに難しくはない。
 じーっと、ヴァレリオとロッカからの視線を受けたライラは、ついっと視線をそらした。

「……そんなに難しいか? あれ」
「だってどれもこれも草なんだもん! ヴァル兄だって薬草間違えたことあるでしょ?」
「そりゃあるが、俺のはもっと複雑な依頼だったぞ? Fランクの依頼で間違えたことはない」
「うぐぅ、ひどいよお。ロッカさん、ヴァル兄がライラいじめるよぉ」
「はぁっ? いじめてないだろ!」

 まるで本当の兄と妹のような二人のやり取りに、ロッカはくすりと笑いながらちょびちょびと酒を飲む。
 かの二つ名持ちの天才魔槍士も、ライラの前ではただの気のいい兄貴分だ。そしてロッカもまた、ただのロッカとしてそこにいる。
 肌の一部が岩であろうと、誰も気にしないこの空間が居心地良い。

「まぁまぁ……ライラ。そういう基礎をおろそかにするものではない。薬草の見分けは依頼だけでなく、いざという時の命を救う可能性もある。真剣に取り組め」
「……はぁい。ロッカさんがそう言うなら」
 ライラはむすっと頬を膨らませながらも頷いた。
 そしてロッカは酒瓶を手に取ると、ヴァレリオの方へ顔を向けた。

「ほれ、ヴァレリオは手が止まっておるぞ。もっと飲め。遠慮はするな」
「え? 待ってください。俺、コレ以上飲んだらまた迷惑を……それにロッカさんもこの前――」
「気にするな気にするな。飲め飲め」
「そうそう、気にするなだよ、ヴァル兄!」
「ライラ! お前なぁ」

 そうして気分良くなって飲みすぎた結果、

「ロッカ、お前……今後俺の店で酒飲むの禁止な」

 大暴れして店主から酒禁止令が出されることになるのは、もう少し先の話。
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