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もし、晶がブラッドリーの手下だったら…
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アキラは、両親と共に暮らす10歳の少女だ
ある日の晩、自宅に魔獣が侵入した
両親の言いつけで押入れに隠れていたアキラは助かったが、両親は魔獣に喰い殺されてしまった
天涯孤独の身となったアキラは、家にあった食料を食べて生き延びていた
しかし、食料が底をついてしまったので、アキラは恐る恐る家の外に出た
まだ魔獣が近くを彷徨いているかもしれないが、空腹には勝てなかったのだ
アキラの家は村から少し離れた場所に建っていたので、アキラは一先ず村へ向かう事にした
アキラは、村人に助けを求めようとした
「…!」
しかし、声が出なかった…
恐怖とストレスで、アキラは言葉を話せなくなっていたのだ
挙動不審なアキラを村人達は不思議そうに見ているだけで、助けてはくれなかった
両親が遺してくれたお金が入った財布を握り締めたアキラは店に行き、ジェスチャーを駆使してなんとかパンを購入して食べた
久しぶりのまともな食べ物に感動した
だが、2週間ほどで所持金も底をついた
空腹で目眩がする…
アキラは、路地裏のごみ捨て場で蹲っていた
「嬢ちゃん、大丈夫か?」
餓死寸前のアキラに声を掛けてくれたのは、偶々通り掛かったネロという青年だった
ネロは魔法で作り出したシュガーをアキラに食べさせた
「嬢ちゃん…見たところ、身寄りがないんだろ?うちに来るか?」
アキラは、よく分からないながらもこくり、と頷いた
ネロは、薄汚れたアキラを自身が世話になっている人物の元へ連れて行く事にした
「お?ネロ、なんだそのガキは?」
「身寄りがないらしいっす。死にかけてたから連れて来ました」
黒と銀の2色の髪の男が、ネロが背負っている少女の顔を覗き込む
「ほう…?顔立ちは悪くねえ。将来、高く売れるかもな」
「人身売買は可哀想じゃないっすか?」
「ははっ、冗談だよ。根性ある奴なら、うちで面倒見てやるぜ」
「あざっす…」
こうして、アキラはブラッドリーという男の元で世話になる事となった
「…!?」
ネロの献身的な看病によって体調が回復したアキラがネロから聞いたのは、ブラッドリーが盗賊団のボスで、ネロはその手下であるという事だった
アキラは恐怖で身体が強張ったが、ネロの優しげな眼差しを受けて警戒心が解けていった
盗賊とはいえ、ネロは命の恩人だ
アキラは、すぐにネロに懐いた
ボスのブラッドリーも怒りっぽいが、人情味のある男だった
アキラは、ブラッドリーにも少しずつ心を開いていった
アキラの仕事は、盗賊団の料理番を務めるネロの手伝いだ
元々、母の家事を手伝っていたアキラは、ネロから教わりながら着実に料理の腕を磨いていく
口がきけないアキラを盗賊団の仲間達は蔑む事なく受け入れてくれた
素直で真面目なアキラは、ボスのブラッドリーからも気に入られて可愛がられた
盗賊稼業は恐ろしいが、アキラは彼等を家族のように思っている
荒くれ者に囲まれながらもアキラは純粋な優しさを忘れなかった
アキラは盗賊団の皆から愛されて成長した
アキラが17歳になった頃、悪名高き『死の盗賊団』は魔法使いの集団によって捕らえられた
盗賊団のアジトで数名の仲間とボス達の帰りを待っていたアキラも捕縛される
白いワンピースに着替えさせられたアキラは、薄暗い密室で椅子に縛り付けられ、全身を拘束された
恐怖に震えるアキラの元へ訪れたのは、海色の髪の青年だった
「やあ、お嬢さん。きみの仲間から、きみの名前を聞いたよ。アキラっていうんでしょ?俺の名はフィガロ。今からきみに質問するから、正直に答えてね」
フィガロと名乗った男は『死の盗賊団』についてアキラに問うた
しかし、アキラは口をきく事が出来ない
「大人しそうな顔して、随分強情な子だね…」
全く質問に答えないアキラに痺れを切らしたフィガロは、次の手段に出る
「きみのお仲間にはそれぞれ、絞首、斬首、火刑…様々な刑罰が言い渡されているよ。既に執行された者もいる。…同じ目には遭いたくないだろう?」
アキラは震え上がった
恐怖と怒りと絶望がアキラの脳裏を駆け巡る
恐ろしい盗賊団だが、アキラにとっては大切な家族だったのだ
アキラは、ぽろぽろと涙を流した
「他の連中も口が堅くてね…。きみが素直に話してくれるなら、きみのお仲間の刑罰を軽くしてあげるよ」
アキラは、すぐにでも答えたかったが、小さく口をぱくぱくさせる事しか出来なかった
「ショックで言葉も出ないかな?」
フィガロの問いにアキラはこくり、と首肯した
「そう…。でも、きみには俺の質問に答える義務があるんだよ」
フィガロはアキラの顎を長い人差し指でくい、と持ち上げた
「可哀想だけど、これは尋問なんだ」
そう言って、フィガロは呪文を唱えた
『ポッシデオ』
すると突然、アキラの顔が上向きに固定された
フィガロは指を離したのに、アキラは俯く事すら出来ない
「最後の質問だよ。ボスのブラッドリーには、相棒がいたらしいね。その人物の名前は?」
ネロだ…
ネロは、まだ捕まっていないという事か…
アキラは答えようと口を開き掛けたが、ぐっと口を噤んだ
答えたら、ネロまで捕まってしまう…
そう思ったアキラは、『答えない』意思を示した
「可哀想に…」
憐れむようにそう言ったフィガロは、ぱちんと指を鳴らした
すると、何も無いはずのアキラの頭上から水滴が落ちて来た
「…?」
ぴちょん…ぴちょん…
一定の間隔でアキラの額に落ちて来る水滴を、アキラは不思議に思った
「3日後に様子を見に来るよ」
そう告げたフィガロは、部屋の照明を落として退室した
ぴちょん…ぴちょん…
どれくらい時間が経っただろう…?
流れ落ちる水滴がアキラの着ている白いワンピースを濡らしていく
寒い…
身動きの取れないアキラは、震える身体を抱き締める事すら出来ない
ぴちょん…ぴちょん…
真っ暗な部屋に1人きり…
お腹が空いても只管耐えるしかない
ぴちょん…ぴちょん…
尿意を催しても拘束されているので、アキラはそのまま椅子の上で放尿した
ぴちょん…ぴちょん…
不快な水滴は、未だ一定の間隔で落ちて来る
眠気に襲われるが、水滴に阻まれて眠る事すら出来ない
ぴちょん…ぴちょん…
「うっ…うぅっ…」
後ろ手に縛られた手が痙攣する
ぴちょん…ぴちょん…
「はあ…はあ…はあ…っ」
息が上がる
逃げ出したくて、目が泳ぐ
ぴちょん…ぴちょん…
「はっ…はっ…はっ…」
呼吸が荒い
アキラは心の中で願った
「(誰か…助けて…!)」
ぴちょん…ぴちょん…
ぴちょん…ぴちょん…
ぴちょん…ぴちょん…
「うわああああああああああああああ!!!!」
口がきけないアキラが数年振りに発したのは、絶叫だった
尋問官であり、拷問官でもあるフィガロがアキラに行ったのは『滴水刑』…
哺乳類は顔に水が掛かるのを生理的に嫌がる
拘束された状態で顔を拭う事も出来ないまま、水滴を浴び続けると、やがて全身を虫が這うような不快感に苛まれる
自由を奪われたアキラは、眠る事も逃げる事も出来ずに精神を蝕まれ、発狂した
このまま放置すれば、発狂死する
部屋に戻って来たフィガロは、目の焦点が合わず、悶え苦しむアキラを解放した
「あはっ…あははは…」
水責めから解放されたアキラは、狂ったような渇いた笑い声を上げながら気を失った
フィガロは、精神が崩壊したアキラの心を魔法で修復した
その際に、フィガロはアキラの今までの記憶を覗き見た
「まさか、口がきけない娘だったなんて…。本当に可哀想な事をしたな…」
アキラの脳から拷問と盗賊団の記憶を魔法で消し去ったフィガロは、身寄りのない憐れなアキラを自分好みに育てようと画策する
「やあ、可愛らしいお嬢さん。俺の名はフィガロだ。ひとりぼっちのきみの面倒を見てあげるよ」
ベッドの上で目を覚ましたアキラに、フィガロはそう告げた
10歳頃までの記憶しかないアキラは、生まれたばかりの雛鳥のようにフィガロに懐いた
ギィー…
軋んだ音を立て、鉄格子の扉が開く
独房の中に手枷と足枷で拘束されている男が居た
『死の盗賊団』のボス…ブラッドリーだ
「はっ…悪趣味な野郎だぜ…。アキラには手を出すな、つっただろ…」
「悪趣味だなんて、とんでもない。俺は彼女を気に入ったんだ」
鞭で打たれ、傷だらけのブラッドリーを見下すのは拷問官のフィガロだ
彼は、盗賊団を捕らえた魔法使いの集団の指導者でもあった
フィガロは双子の魔法使い・スノウとホワイトと共謀して『死の盗賊団捕縛作戦』を決行した
魔法使いを恐れる人間達へ取り入る為に、悪どい魔法使い達への見せしめとして盗賊団を血祭りに上げるのだ
「女の悲鳴を聞かせるなんざ、反吐が出る…」
ブラッドリーの居る独房は、アキラが監禁されていた部屋のすぐ近くにある
アキラの絶叫は、ブラッドリーの耳にも届いていた
口がきけないはずのアキラが、あれほどまでの悲痛な声を上げたのだ
えげつない行為が行われた事は、ブラッドリーにも察しがついた
「口を慎め、小僧」
フィガロは、ブラッドリーより遥かに長生きしている魔法使いだ
その威厳のある立ち振る舞いは、獣すら震え上がらせる
「さあ、仕置きの再開だ」
フィガロは、鞭を握り締めてブラッドリーを威圧するように撓らせた鞭をビシッ、と張った
「クソッ…!こんな事になるなら…あの時、連れ出してりゃよかった…!」
盗賊から足を洗ったネロは、『死の盗賊団』が自分以外全員捕らえられたと知り、アキラを盗賊団に残して来た事を後悔した
盗賊団を抜ければ、ボスの手で殺される
ネロは、ごみ捨て場で死にかけていたアキラを盗賊団に引き入れたのは、やはり間違いであったと悔やんだ
しかしあの時、アキラを見捨てる事はネロには出来なかった
アキラはブラッドリーに気に入られていたから、そのうちブラッドリーの愛人か嫁さんになるだろうと思い、ネロは身を引いたのだ
ネロには、アキラを幸せにしてやれる自信がなかったから…
盗賊団が捕らえられている監獄の様子を探りに来たネロは、アキラだけでも助けてやりたいと思った
アキラは盗賊団の一員だが、犯罪に手を染めた事はないのだ
しかし、監獄へ向かう道中でネロは信じられないものを目撃した
そこには、海色の髪の男と微笑み合うアキラがいた
口がきけないはずのアキラが、辿々しくも言葉を紡いでいる
「あ、アキラ…無事だったんだな…」
思わず声を掛けたネロを、アキラは不思議そうに見つめた
「どなた、ですか…?」
初めて会ったかのようなアキラの態度に、ネロは衝撃を受けた
「あ…悪い…人違いだったわ…」
何があったかは分からないが、アキラはネロの事を覚えていないようだ
あの様子だと、恐らく盗賊団の事も…
「ふぃがろ、はやくいこう!」
「はいはい、急がなくても、お店は逃げないよ」
海色の髪の男の手を引いて、アキラは何処かの店へ向かうようだ
幸せそうなアキラの顔を見て、ネロは何も言えなくなってしまった
「これで…よかった、んだよな…?」
仲睦まじい2人を見送るしかないネロは、ひとりごつ
海色の髪の男が不敵に笑んだ事には、誰も気付かなかった
ある日の晩、自宅に魔獣が侵入した
両親の言いつけで押入れに隠れていたアキラは助かったが、両親は魔獣に喰い殺されてしまった
天涯孤独の身となったアキラは、家にあった食料を食べて生き延びていた
しかし、食料が底をついてしまったので、アキラは恐る恐る家の外に出た
まだ魔獣が近くを彷徨いているかもしれないが、空腹には勝てなかったのだ
アキラの家は村から少し離れた場所に建っていたので、アキラは一先ず村へ向かう事にした
アキラは、村人に助けを求めようとした
「…!」
しかし、声が出なかった…
恐怖とストレスで、アキラは言葉を話せなくなっていたのだ
挙動不審なアキラを村人達は不思議そうに見ているだけで、助けてはくれなかった
両親が遺してくれたお金が入った財布を握り締めたアキラは店に行き、ジェスチャーを駆使してなんとかパンを購入して食べた
久しぶりのまともな食べ物に感動した
だが、2週間ほどで所持金も底をついた
空腹で目眩がする…
アキラは、路地裏のごみ捨て場で蹲っていた
「嬢ちゃん、大丈夫か?」
餓死寸前のアキラに声を掛けてくれたのは、偶々通り掛かったネロという青年だった
ネロは魔法で作り出したシュガーをアキラに食べさせた
「嬢ちゃん…見たところ、身寄りがないんだろ?うちに来るか?」
アキラは、よく分からないながらもこくり、と頷いた
ネロは、薄汚れたアキラを自身が世話になっている人物の元へ連れて行く事にした
「お?ネロ、なんだそのガキは?」
「身寄りがないらしいっす。死にかけてたから連れて来ました」
黒と銀の2色の髪の男が、ネロが背負っている少女の顔を覗き込む
「ほう…?顔立ちは悪くねえ。将来、高く売れるかもな」
「人身売買は可哀想じゃないっすか?」
「ははっ、冗談だよ。根性ある奴なら、うちで面倒見てやるぜ」
「あざっす…」
こうして、アキラはブラッドリーという男の元で世話になる事となった
「…!?」
ネロの献身的な看病によって体調が回復したアキラがネロから聞いたのは、ブラッドリーが盗賊団のボスで、ネロはその手下であるという事だった
アキラは恐怖で身体が強張ったが、ネロの優しげな眼差しを受けて警戒心が解けていった
盗賊とはいえ、ネロは命の恩人だ
アキラは、すぐにネロに懐いた
ボスのブラッドリーも怒りっぽいが、人情味のある男だった
アキラは、ブラッドリーにも少しずつ心を開いていった
アキラの仕事は、盗賊団の料理番を務めるネロの手伝いだ
元々、母の家事を手伝っていたアキラは、ネロから教わりながら着実に料理の腕を磨いていく
口がきけないアキラを盗賊団の仲間達は蔑む事なく受け入れてくれた
素直で真面目なアキラは、ボスのブラッドリーからも気に入られて可愛がられた
盗賊稼業は恐ろしいが、アキラは彼等を家族のように思っている
荒くれ者に囲まれながらもアキラは純粋な優しさを忘れなかった
アキラは盗賊団の皆から愛されて成長した
アキラが17歳になった頃、悪名高き『死の盗賊団』は魔法使いの集団によって捕らえられた
盗賊団のアジトで数名の仲間とボス達の帰りを待っていたアキラも捕縛される
白いワンピースに着替えさせられたアキラは、薄暗い密室で椅子に縛り付けられ、全身を拘束された
恐怖に震えるアキラの元へ訪れたのは、海色の髪の青年だった
「やあ、お嬢さん。きみの仲間から、きみの名前を聞いたよ。アキラっていうんでしょ?俺の名はフィガロ。今からきみに質問するから、正直に答えてね」
フィガロと名乗った男は『死の盗賊団』についてアキラに問うた
しかし、アキラは口をきく事が出来ない
「大人しそうな顔して、随分強情な子だね…」
全く質問に答えないアキラに痺れを切らしたフィガロは、次の手段に出る
「きみのお仲間にはそれぞれ、絞首、斬首、火刑…様々な刑罰が言い渡されているよ。既に執行された者もいる。…同じ目には遭いたくないだろう?」
アキラは震え上がった
恐怖と怒りと絶望がアキラの脳裏を駆け巡る
恐ろしい盗賊団だが、アキラにとっては大切な家族だったのだ
アキラは、ぽろぽろと涙を流した
「他の連中も口が堅くてね…。きみが素直に話してくれるなら、きみのお仲間の刑罰を軽くしてあげるよ」
アキラは、すぐにでも答えたかったが、小さく口をぱくぱくさせる事しか出来なかった
「ショックで言葉も出ないかな?」
フィガロの問いにアキラはこくり、と首肯した
「そう…。でも、きみには俺の質問に答える義務があるんだよ」
フィガロはアキラの顎を長い人差し指でくい、と持ち上げた
「可哀想だけど、これは尋問なんだ」
そう言って、フィガロは呪文を唱えた
『ポッシデオ』
すると突然、アキラの顔が上向きに固定された
フィガロは指を離したのに、アキラは俯く事すら出来ない
「最後の質問だよ。ボスのブラッドリーには、相棒がいたらしいね。その人物の名前は?」
ネロだ…
ネロは、まだ捕まっていないという事か…
アキラは答えようと口を開き掛けたが、ぐっと口を噤んだ
答えたら、ネロまで捕まってしまう…
そう思ったアキラは、『答えない』意思を示した
「可哀想に…」
憐れむようにそう言ったフィガロは、ぱちんと指を鳴らした
すると、何も無いはずのアキラの頭上から水滴が落ちて来た
「…?」
ぴちょん…ぴちょん…
一定の間隔でアキラの額に落ちて来る水滴を、アキラは不思議に思った
「3日後に様子を見に来るよ」
そう告げたフィガロは、部屋の照明を落として退室した
ぴちょん…ぴちょん…
どれくらい時間が経っただろう…?
流れ落ちる水滴がアキラの着ている白いワンピースを濡らしていく
寒い…
身動きの取れないアキラは、震える身体を抱き締める事すら出来ない
ぴちょん…ぴちょん…
真っ暗な部屋に1人きり…
お腹が空いても只管耐えるしかない
ぴちょん…ぴちょん…
尿意を催しても拘束されているので、アキラはそのまま椅子の上で放尿した
ぴちょん…ぴちょん…
不快な水滴は、未だ一定の間隔で落ちて来る
眠気に襲われるが、水滴に阻まれて眠る事すら出来ない
ぴちょん…ぴちょん…
「うっ…うぅっ…」
後ろ手に縛られた手が痙攣する
ぴちょん…ぴちょん…
「はあ…はあ…はあ…っ」
息が上がる
逃げ出したくて、目が泳ぐ
ぴちょん…ぴちょん…
「はっ…はっ…はっ…」
呼吸が荒い
アキラは心の中で願った
「(誰か…助けて…!)」
ぴちょん…ぴちょん…
ぴちょん…ぴちょん…
ぴちょん…ぴちょん…
「うわああああああああああああああ!!!!」
口がきけないアキラが数年振りに発したのは、絶叫だった
尋問官であり、拷問官でもあるフィガロがアキラに行ったのは『滴水刑』…
哺乳類は顔に水が掛かるのを生理的に嫌がる
拘束された状態で顔を拭う事も出来ないまま、水滴を浴び続けると、やがて全身を虫が這うような不快感に苛まれる
自由を奪われたアキラは、眠る事も逃げる事も出来ずに精神を蝕まれ、発狂した
このまま放置すれば、発狂死する
部屋に戻って来たフィガロは、目の焦点が合わず、悶え苦しむアキラを解放した
「あはっ…あははは…」
水責めから解放されたアキラは、狂ったような渇いた笑い声を上げながら気を失った
フィガロは、精神が崩壊したアキラの心を魔法で修復した
その際に、フィガロはアキラの今までの記憶を覗き見た
「まさか、口がきけない娘だったなんて…。本当に可哀想な事をしたな…」
アキラの脳から拷問と盗賊団の記憶を魔法で消し去ったフィガロは、身寄りのない憐れなアキラを自分好みに育てようと画策する
「やあ、可愛らしいお嬢さん。俺の名はフィガロだ。ひとりぼっちのきみの面倒を見てあげるよ」
ベッドの上で目を覚ましたアキラに、フィガロはそう告げた
10歳頃までの記憶しかないアキラは、生まれたばかりの雛鳥のようにフィガロに懐いた
ギィー…
軋んだ音を立て、鉄格子の扉が開く
独房の中に手枷と足枷で拘束されている男が居た
『死の盗賊団』のボス…ブラッドリーだ
「はっ…悪趣味な野郎だぜ…。アキラには手を出すな、つっただろ…」
「悪趣味だなんて、とんでもない。俺は彼女を気に入ったんだ」
鞭で打たれ、傷だらけのブラッドリーを見下すのは拷問官のフィガロだ
彼は、盗賊団を捕らえた魔法使いの集団の指導者でもあった
フィガロは双子の魔法使い・スノウとホワイトと共謀して『死の盗賊団捕縛作戦』を決行した
魔法使いを恐れる人間達へ取り入る為に、悪どい魔法使い達への見せしめとして盗賊団を血祭りに上げるのだ
「女の悲鳴を聞かせるなんざ、反吐が出る…」
ブラッドリーの居る独房は、アキラが監禁されていた部屋のすぐ近くにある
アキラの絶叫は、ブラッドリーの耳にも届いていた
口がきけないはずのアキラが、あれほどまでの悲痛な声を上げたのだ
えげつない行為が行われた事は、ブラッドリーにも察しがついた
「口を慎め、小僧」
フィガロは、ブラッドリーより遥かに長生きしている魔法使いだ
その威厳のある立ち振る舞いは、獣すら震え上がらせる
「さあ、仕置きの再開だ」
フィガロは、鞭を握り締めてブラッドリーを威圧するように撓らせた鞭をビシッ、と張った
「クソッ…!こんな事になるなら…あの時、連れ出してりゃよかった…!」
盗賊から足を洗ったネロは、『死の盗賊団』が自分以外全員捕らえられたと知り、アキラを盗賊団に残して来た事を後悔した
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しかしあの時、アキラを見捨てる事はネロには出来なかった
アキラはブラッドリーに気に入られていたから、そのうちブラッドリーの愛人か嫁さんになるだろうと思い、ネロは身を引いたのだ
ネロには、アキラを幸せにしてやれる自信がなかったから…
盗賊団が捕らえられている監獄の様子を探りに来たネロは、アキラだけでも助けてやりたいと思った
アキラは盗賊団の一員だが、犯罪に手を染めた事はないのだ
しかし、監獄へ向かう道中でネロは信じられないものを目撃した
そこには、海色の髪の男と微笑み合うアキラがいた
口がきけないはずのアキラが、辿々しくも言葉を紡いでいる
「あ、アキラ…無事だったんだな…」
思わず声を掛けたネロを、アキラは不思議そうに見つめた
「どなた、ですか…?」
初めて会ったかのようなアキラの態度に、ネロは衝撃を受けた
「あ…悪い…人違いだったわ…」
何があったかは分からないが、アキラはネロの事を覚えていないようだ
あの様子だと、恐らく盗賊団の事も…
「ふぃがろ、はやくいこう!」
「はいはい、急がなくても、お店は逃げないよ」
海色の髪の男の手を引いて、アキラは何処かの店へ向かうようだ
幸せそうなアキラの顔を見て、ネロは何も言えなくなってしまった
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