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72話 ベルンside
しおりを挟む男爵が立ち去った後、ただただ呆然と立ち尽くしている俺の前に
「ベルン様.......?」
という聞き慣れた声が聞こえてきた。
その声で正気に戻った俺は、パッと顔を上げるとそこには大きな荷物を抱えたアリスが立っていて
「なんで来たんですか」
と俺のことを思いっきり睨みつけてきた。
なんでこいつに睨まれないといけないんだ。
大体、アリスのせいで俺はこんな目に遭っているのにまずは謝罪からするのが当然だろう!
そう思って
「なんでって........お前のせいで俺の人生めちゃくちゃだ!なんてことをしてくれたんだ!」
とアリスに怒鳴りつけると
「私だってベルン様のせいで王子様と結婚する予定だったのに計画がパァよ!ほんっと最悪!ちょっと爵位が高いから相手にしてあげただけなのに!」
売り言葉に買い言葉、とはまさにこのことを言うんだろうな。
アリスは怒鳴りつけた俺を睨みつけたままそう言ってきたではないか。
しかも爵位が高いから、だって?
っていうことは俺がもし男爵や子爵ぐらいの爵位だったら話すことすらなかった、とでも言いたいってことか!
そう考えると腹立たしくて、
「はぁ!?お前が俺にすり寄ってこなければこんなことにならなかったんだ!それに、色んな男にすり寄ってるんだってな!この阿婆擦れ女!」
と言ってしまった。
言った後に、少し言い過ぎたか?とも思ったが仕方がない。
だってこれは本当のことだからな。
そう思っていると
「何よ!ちょっと優しくしただけで尻尾振ってついてきたのはそっちじゃない!」
そういわれて頭を殴られたような気持ちになった。
でもそれと同時に、今のこの姿がアリスの本性だ、ということがよく分かった。
なぜこんなにも教養のない女に入れ込んでいたのか自分でもよくわからないくらいに魅力を感じない。
泣いたからなのか腫れている目、髪の毛もまともにセットしていないようでボサボサで学園にいたときのアリスとは比べ物にならないほど汚く、嫌悪感すら抱いた。
そんな中、
「門の前で騒ぐな!」
と、さっきも聞いた声が聞こえてきた。
2人で同時に声のした方向を見ると、そこには思った通り男爵が立っていて
「お、お父様.......」
とアリスは怯えた様子で男爵のことを見ていた。
この2人、一体何があったんだ?
あの我儘なアリスが一瞬にして言うことを聞くなんて........。
そう思っていると、男爵は小馬鹿にしたように鼻で笑って
「良かったじゃないか。シャルロット様に真実の愛とか言ったんだろう?これで家のことなんて気にせずに思う存分自分たちの愛を通せる」
と俺たち2人に言ってきた。
な、なんでシャルロットに婚約破棄した時の言葉を知っているんだ?
.....まさか、シャルロットがわざわざ男爵に教えた?
い、いや、だがあいつがそんなことをするとは........。
そう思っていると、アリスは顔を真っ青にさせて
「そ、それは言葉の綾で.......」
と必死に男爵に縋ろうとしているが、今は門の外と中にいる状態だ。
縋ろうとしてもみっともなく門にしがみついているだけの状況になってしまう。
それはアリスもわかっていると思うが、まぁ、そうなる気持ちもよくわかる。
なんて思いながら男爵とアリスを眺めていると
「もう二度と家には入れないと思え。お前との親子の縁は完全に切ったんだ」
そう言って、男爵は門を後にした。
アリスは必死に
「ま、待ってください!お父様!」
と男爵の背中に話しかけているが、男爵は一回も振り返ることはなかった。
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