バツイチ出戻り令嬢は竜王に溺愛される

バカラ

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セルキーが振り返りもせず玉座の間に入って行くので、オリヴィアも気後れしながら着いていく。

色鮮やかで複雑な模様のタイルが壁一面に嵌め込まれ、金糸銀糸で刺繍が施された上質な赤い絨毯が玉座まで真っ直ぐひかれている。その傍にはセルキーと同じような異国風の衣装を纏った者たちが控えていた。

中央の玉座の前には身体が半分ほど隠れる木質の繊維で細かく編み込んだカーテンのようなものが掛かっており、セルキーの言う竜王さまは胸から下しか見えない。

セルキーは、玉座まであと5mくらいのところまで歩を進めると、膝をつき頭を下げた。慌ててオリヴィアもそれに倣う。

「会話を許す。」

あの低い魅惑的な声がカーテンの奥からする。声を聴くだけで息が上がってくる。私、何かおかしい。


「セルキー・モントローズ、竜王様への報告に参上いたしました。」

セルキーが凛とした声で話し始める。私はさっきから頭がクラクラして姿勢を保つので精一杯だ。

「くだんの件につきまして、東竜眷属の私セルキーを狙う者の襲撃に遭い、譜の一篇を奪われそうになりました。ここにお連れいたしました水の姫様のおかげで大事に至らずに済みましたが・・」

セルキーの報告に、玉座の間の傍に控えていた者たちが騒ついた。あのセルキー様が、とか、あれが水の姫、本物なのか、などという会話が聞こえる。

譜ってなんだろ、また水の姫とか言われてるし、ていうかセルキーって実はスゴい子なのかしら、とクラクラする頭でオリヴィアは取り止めもなく考えた。


「静まれ!竜王様の御前であるぞ!」

竜王の1番近くに控えていた理知的な顔立ちをした眼鏡の青年が騒つく者を一喝すると、一気に場が鎮まりかえった。


「セルキー、襲撃をした者の目星はついているのか?」

眼鏡の青年が問うと、セルキーは首を横に振る。

「わかりません。竜王様の央座の儀を阻もうとする勢力としか・・しかし譜の四篇中三篇はすでにこちらの手にあります。ですので今後は襲撃した勢力を突き止めます。」

やはり、南竜様の手の者の仕業なのではないか、という密やかな声が聞こえる。

南竜とか央座とか、もうわけがわからないわ、とオリヴィアは思った。


その時、今まで微動だにしなかった竜王が玉座よりゆっくりと立ち上がった。

「俺の行手を阻めると思うなど、愚かなネズミがいたものだ。またそのネズミは近いうちに己から現れるだろう。」

その冷酷な声に場が静まりかえる中、歩を前に進める。

「ようやく来たか、俺の水の姫。待ちくたびれたぞ。ーー来い。俺にお前の顔を見せろ。」

身体の奥が甘く痺れるような声。俺のとか初対面でいったい何を言ってるの?と思うのとは真逆に、オリヴィアはふらふらと竜王の元へ吸いつけられるように歩いていく。差し出された竜王の手に触れ、射抜くような支配的な黄金色の瞳と目があった瞬間、オリヴィアは気が遠くなった。


遠くの方で、私を呼ぶセルキーの声がして、ふわりと暖かい感触に包まれた。

懐かしい黄金色ーーあの色を私知ってる、そう思いながら意識を手放した。
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