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第二章
緑竜ヴェルデリオン
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ヴェルデリオンとの会食の朝、前日と同じようにアイナが淹れてくれた香り高いお茶を飲んでいると、エリーが訪れた。
彼女は今日もお茶を所望したので、ゲッターたちはそろってお茶の時間を楽しんだ。
アイナのお茶はいつもながら絶品で、朝の静けさの中で心を落ち着ける。
朝の光が窓から差し込む丸太小屋を出発し、陽気な天気の中、右回りに世界樹に沿って歩いて行く。
エリーが道中で解説を始めた。「ヴェルデリオンはこの森に三軒の家を持っています。今日訪れるのはそのうちの一つで、ヴェルデリオンが客を招待するときにいつも使っている家です。」
ゲッターたちは多少の緊張を感じていたが、彼らは心のこもった手土産を用意していたため、足取りも軽やかだった。エリーの話に耳を傾けながら、自然の美しさに囲まれた道をしばらく歩く。やがて、遠く世界樹の陰から緑色の山のようなものが見えてきた。さらに進んでいくと、その山は実は巨大な竜であることが判明した。
緑竜ヴェルデリオンはこちらに気づくと、顔を上げ、姿勢を正してゲッターたちが近づいてくるのを待っていた。
彼の全身は濃い緑色の鱗で覆われ、背中には巨大な羽がある。
鋭い爪、長い首、大きな羽を持つヴェルデリオンは、見るからに威厳があり、しかしその澄んだ瞳には理知的な輝きが宿っていたため、ゲッターたちは次第に恐怖心を和らげていった。
まだ距離がありそうだったが、エリーが立ち止まったため、ゲッターたちも彼女に倣って止まった。そして、ヴェルデリオンはきれいな瞳をゲッターたちに向けて、優雅に挨拶をした。
「世界樹へようこそ。私が緑竜ヴェルデリオンです。今日は会えるのをとても楽しみにしていました。ささやかですが食事も用意しています。ぜひ楽しんでいってください」
その声は、意外にも子どものように高く、澄んでいた。
ゲッターたちはそれに応えて挨拶を返す。
「今日はお招きいただきありがとうございます。ヴェルデリオン様にお会いできてとても光栄です」と貴族の正式な礼を尽くした。
続いて、ガプロとアイナを紹介し、二人もヴェルデリオンに丁寧に挨拶を交わした。ガプロはこのために人間が行う挨拶の作法を一夜漬けで練習していたため、少し緊張しているようだったが、無事に礼を尽くすことができた。
挨拶が終わるとヴェルデリオンは「このままでは話しにくいので姿を変えますね」と言うと人間の姿に変化した。
人間の姿のヴェルデリオンは、ゲッターよりも年下の12、3歳くらいで、中性的な顔立ちをしており、男の子にも女の子にも見える。容姿も美しく、身にまとっている服はエリーが着ているような羽衣に似たローブだった。顔もエリーに少し似ていて、姉妹と言われたら信じてしまうほどだった。
ヴェルデリオンが人間の姿になると距離を感じたのでお互いに歩み寄る。
合流すると「では私はこれで」と言ってエリーが姿を消した。
「エリーは絶対にぼくの料理を食べてくれないんだよね」とヴェルデリオンは不満そうに言ってから「こっちだよ」と家に案内してくれた。
ヴェルデリオンの家は巨体に隠れていただけですぐ近くにあった。
コンタージュ領の伯爵家の屋敷よりは小さかったが立派なお屋敷であった。
屋敷の中は観葉植物や花が多く飾られていた。この森のきれいなものを集めてきたことが感じられた。
外見はお屋敷という感じだったが中は高級な宿屋のようなおもてなしの心に溢れた感じだった。
屋敷は広大だったが、使用人は見当たらず、ヴェルデリオンが自ら食堂に案内してくれた。
食堂には円卓が置いてあり、その奥に厨房が見えた。
「好きなところに座って」と言われたところでゲッターは手土産を渡すことにした。
「ヴェルデリオン様。こちらはお招きいただいたお礼になります」とゲッターが言うとアイナがティーセットが入った箱を袋から出した。
ヴェルデリオンは「ヴェルデリオンって呼んで。様を付けられると落ち着かないんだ」と言ってから「ありがとう。とてもうれしいよ」と言って笑顔で受け取った。
「なんだろう?開けていい」と期待に満ちた顔で言うので「どうぞ」とゲッターは笑顔で答えた。
箱を開けたヴェルデリオンは満面の笑みを浮かべ「うわぁ!素敵!」と言って中身を確認し始めた。
ティーカップやティースプーンを見ながら「すごいかわいい!この袋からはとてもいい匂いがする。」と感嘆の声を上げた。
「そちらは薬草茶の茶葉になります」とゲッターが補足すると「そうなんだ。食後にみんなで飲もうね」と言ってヴェルデリオンはそれらを箱にしまった。
「食事を用意するから座って待っててね」とヴェルデリオンが言うとアイナが「私もお手伝いします」と申し出た。
ヴェルデリオンは「いいよ。お客様なんだから座って待ってて」と断わるがアイナが「私はゲッター様のメイドです。だから座って待つのは落ち着かないのです」と言うと「じゃあ手伝ってもらおうかな」と受け入れた。
「ヴェルデリオンって呼んでね」と念を押したのでアイナは「はい。ヴェルデリオン」と返していた。
ヴェルデリオンの料理はいかにも家庭料理といった感じの見た目だったが味は抜群に美味しかった。
どの料理にもたくさんの手間と時間がかけられており、その味は森の恵みが詰まっていた。ゲッターは、昔王都のレストランで食べた料理よりも間違いなく美味しいと感じた。
ガプロは匂いがしてから無口になってしまい、一口食べてからは夢中で食べ続けていた。
皿を舐めようとしたのでゲッターはさすがに止めたがガプロの睨んできた目がとても怖かった。
エリーに「残すな」と言われていたが、そんなことを気にするまでもなくあっという間に完食されてしまった。
食後のガプロは満足感からか天国にいるような表情をしていた。
その後手土産にしたお茶を飲んだ。
ヴェルデリオンはアイナにこのお茶の美味しい淹れ方を熱心に教わっていた。アイナは細やかにステップを説明し、ヴェルデリオンはその説明に耳を傾け、時折質問を投げかけながら、彼女の手元をじっくりと見ていた。
食後の満腹感に気の緩んでいたゲッターはエリーが怖くて聞けないと言っていた疑問を口にしてしまった。
「それにしてもグレイシアは何でこんな美味しい料理を残したんですか?」とゲッターが聞くとその場の空気が一瞬にして氷ついた。
ヴェルデリオンはその質問を聞くやいなや、怒りが蘇ったかのように表情を一変させ、鬼のようになり肩を震わせながら言った。
「あいつも最初は美味しい美味しいと言って食べてたんだ。これが美味しいからもっと食べたいと言うからおかわりまで作ったんだ。それなのに手もつけず全く食べないものがあるから何でって聞くと、それは嫌いなものが入っているから食べないだって。包んであげるから持って帰って一口でも食べなよって言ったらそれならあれがいいとか、これは嫌いだから入れないでとか、好き嫌い言い出して。グレイシアはいいよ。住んでいるところが海に囲まれていて、手を伸ばせば好きな魚が食べ放題だから。だけど森に住むものたちは食べたくても食べれないことも多いんだよ。それなのに好き嫌い言って残すなんて」
当時のことをどんどん思い出すかのようで、ヴェルデリオンの怒りのボルテージはどんどん上がっていく。
ゲッターはどうすればいいのかわからずオロオロしてしまい、ガプロは恐怖に震えていた。
しかしその時、アイナが新しくお茶を淹れるとヴェルデリオンの顔の前に持っていき、その香りを嗅がせた。
そして優しく「落ち着いて。ヴェルデリオン」と声をかけた。
ヴェルデリオンは薬草茶を一口飲むとしばしの沈黙の後に「ふ~っ」と息をはいてから「ごめんね。アイナ」と言った。
アイナは笑みを返すと「いいのよ。悪いのは余計なことを言ったゲッター様なのだから」と言ってゲッターを睨んだ。
ゲッターが怯える様子を見てヴェルデリオンはおかしそうに「君たちはいいね。一緒にいてホッとするよ」と笑った。
ヴェルデリオンは座り直すと「お土産のお礼になるかわからないけど世界樹の実に対するヒントをあげるよ」と言った。
ゲッターは驚いて思わず「いいんですか?」と聞き返した。
ヴェルデリオンは「いいよ」と言うと再びお茶を一口飲んでから「世界樹の実は熟してもそれなりに固いんだ。だからあそこまで取りに行けないなら、上手く受け止めて実が割れないようにすればいいんだよ」と説明した。
「実が割れなければ聖なる力は広がらない。君たちも避難しなくてすむでしょ」とヴェルデリオンは続ける。
ゲッターは納得して「そうか、受け止められる何かを『加工』スキルで作ればいいのか」と呟いた。
「でもかなりの大きさもありますしどうやって受け止めれば」とガプロが難しい表情で質問した。
「そんなのたくさん葉っぱを集めてくるでも、下に穴を掘って水を張るでも、考えればやり方はあるよ。問題は時間かな?熟れて落ちるまで一週間くらいだと思うから」とヴェルデリオンは言った。
ゲッターは希望に満ちた表情になって「ヴェルデリオンの言うとおりだ。やり方はあるはず。ありがとうヴェルデリオン」と感謝の意を表した。
ヴェルデリオンは笑顔で「どういたしまして。君たちが頼むなら実を取りに行ってもいいかと思っていたけど、君たちなら自分たちでなんとかできそうだからね。ヒントだけにするよ」と言った。
「それでもありがとうヴェルデリオン」とアイナもお礼をした。
帰る時となりヴェルデリオンは玄関まで送ってくれた。
ゲッターは「ごちそうさま。ほんとに美味しかった」と改めてお礼を口にした。
ヴェルデリオンも「こちらこそ。楽しい時間をありがとう」と手を振った。
ゲッターが帰ろうとするとヴェルデリオンが呼び止めて「おせっかいかもしれないけどオークの村に行ってみて。何か役に立つかもしれないよ」と言った。
ゲッターたちは改めお礼を言い、ヴェルデリオンの家をあとにした。
帰り道、ゲッターは「オークの村か。どう思う?」とガプロに尋ねた。
「何が助けになるかはわからないですから、行ってみてもいいとは思いますが問題は時間ですね」と少し難しそうに答えた。
「ヴェルデリオンが意味のないことは言わないと思うけど」とアイナが自分の意見を口にする。
「そうだよな。行かない手はないか。でも往復で3日かぁ。準備の時間を考えるとギリギリだな」とゲッターは言った。
「明日は早く起きて出発しましょう。途中でお土産に何か用意したいし」とアイナは提案した。ゲッターも何か動物をアイナに狩ってもらうつもりであった。
以前として問題は山積みだが、行くべき道は見えていた。
収穫の多かったヴェルデリオンとの会食に、ゲッターは心の中でもう一度お礼をした。彼は未来への希望を胸に秘め、次の日への準備に思いを馳せた。彼らの旅は、まだ続いていく。
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彼女は今日もお茶を所望したので、ゲッターたちはそろってお茶の時間を楽しんだ。
アイナのお茶はいつもながら絶品で、朝の静けさの中で心を落ち着ける。
朝の光が窓から差し込む丸太小屋を出発し、陽気な天気の中、右回りに世界樹に沿って歩いて行く。
エリーが道中で解説を始めた。「ヴェルデリオンはこの森に三軒の家を持っています。今日訪れるのはそのうちの一つで、ヴェルデリオンが客を招待するときにいつも使っている家です。」
ゲッターたちは多少の緊張を感じていたが、彼らは心のこもった手土産を用意していたため、足取りも軽やかだった。エリーの話に耳を傾けながら、自然の美しさに囲まれた道をしばらく歩く。やがて、遠く世界樹の陰から緑色の山のようなものが見えてきた。さらに進んでいくと、その山は実は巨大な竜であることが判明した。
緑竜ヴェルデリオンはこちらに気づくと、顔を上げ、姿勢を正してゲッターたちが近づいてくるのを待っていた。
彼の全身は濃い緑色の鱗で覆われ、背中には巨大な羽がある。
鋭い爪、長い首、大きな羽を持つヴェルデリオンは、見るからに威厳があり、しかしその澄んだ瞳には理知的な輝きが宿っていたため、ゲッターたちは次第に恐怖心を和らげていった。
まだ距離がありそうだったが、エリーが立ち止まったため、ゲッターたちも彼女に倣って止まった。そして、ヴェルデリオンはきれいな瞳をゲッターたちに向けて、優雅に挨拶をした。
「世界樹へようこそ。私が緑竜ヴェルデリオンです。今日は会えるのをとても楽しみにしていました。ささやかですが食事も用意しています。ぜひ楽しんでいってください」
その声は、意外にも子どものように高く、澄んでいた。
ゲッターたちはそれに応えて挨拶を返す。
「今日はお招きいただきありがとうございます。ヴェルデリオン様にお会いできてとても光栄です」と貴族の正式な礼を尽くした。
続いて、ガプロとアイナを紹介し、二人もヴェルデリオンに丁寧に挨拶を交わした。ガプロはこのために人間が行う挨拶の作法を一夜漬けで練習していたため、少し緊張しているようだったが、無事に礼を尽くすことができた。
挨拶が終わるとヴェルデリオンは「このままでは話しにくいので姿を変えますね」と言うと人間の姿に変化した。
人間の姿のヴェルデリオンは、ゲッターよりも年下の12、3歳くらいで、中性的な顔立ちをしており、男の子にも女の子にも見える。容姿も美しく、身にまとっている服はエリーが着ているような羽衣に似たローブだった。顔もエリーに少し似ていて、姉妹と言われたら信じてしまうほどだった。
ヴェルデリオンが人間の姿になると距離を感じたのでお互いに歩み寄る。
合流すると「では私はこれで」と言ってエリーが姿を消した。
「エリーは絶対にぼくの料理を食べてくれないんだよね」とヴェルデリオンは不満そうに言ってから「こっちだよ」と家に案内してくれた。
ヴェルデリオンの家は巨体に隠れていただけですぐ近くにあった。
コンタージュ領の伯爵家の屋敷よりは小さかったが立派なお屋敷であった。
屋敷の中は観葉植物や花が多く飾られていた。この森のきれいなものを集めてきたことが感じられた。
外見はお屋敷という感じだったが中は高級な宿屋のようなおもてなしの心に溢れた感じだった。
屋敷は広大だったが、使用人は見当たらず、ヴェルデリオンが自ら食堂に案内してくれた。
食堂には円卓が置いてあり、その奥に厨房が見えた。
「好きなところに座って」と言われたところでゲッターは手土産を渡すことにした。
「ヴェルデリオン様。こちらはお招きいただいたお礼になります」とゲッターが言うとアイナがティーセットが入った箱を袋から出した。
ヴェルデリオンは「ヴェルデリオンって呼んで。様を付けられると落ち着かないんだ」と言ってから「ありがとう。とてもうれしいよ」と言って笑顔で受け取った。
「なんだろう?開けていい」と期待に満ちた顔で言うので「どうぞ」とゲッターは笑顔で答えた。
箱を開けたヴェルデリオンは満面の笑みを浮かべ「うわぁ!素敵!」と言って中身を確認し始めた。
ティーカップやティースプーンを見ながら「すごいかわいい!この袋からはとてもいい匂いがする。」と感嘆の声を上げた。
「そちらは薬草茶の茶葉になります」とゲッターが補足すると「そうなんだ。食後にみんなで飲もうね」と言ってヴェルデリオンはそれらを箱にしまった。
「食事を用意するから座って待っててね」とヴェルデリオンが言うとアイナが「私もお手伝いします」と申し出た。
ヴェルデリオンは「いいよ。お客様なんだから座って待ってて」と断わるがアイナが「私はゲッター様のメイドです。だから座って待つのは落ち着かないのです」と言うと「じゃあ手伝ってもらおうかな」と受け入れた。
「ヴェルデリオンって呼んでね」と念を押したのでアイナは「はい。ヴェルデリオン」と返していた。
ヴェルデリオンの料理はいかにも家庭料理といった感じの見た目だったが味は抜群に美味しかった。
どの料理にもたくさんの手間と時間がかけられており、その味は森の恵みが詰まっていた。ゲッターは、昔王都のレストランで食べた料理よりも間違いなく美味しいと感じた。
ガプロは匂いがしてから無口になってしまい、一口食べてからは夢中で食べ続けていた。
皿を舐めようとしたのでゲッターはさすがに止めたがガプロの睨んできた目がとても怖かった。
エリーに「残すな」と言われていたが、そんなことを気にするまでもなくあっという間に完食されてしまった。
食後のガプロは満足感からか天国にいるような表情をしていた。
その後手土産にしたお茶を飲んだ。
ヴェルデリオンはアイナにこのお茶の美味しい淹れ方を熱心に教わっていた。アイナは細やかにステップを説明し、ヴェルデリオンはその説明に耳を傾け、時折質問を投げかけながら、彼女の手元をじっくりと見ていた。
食後の満腹感に気の緩んでいたゲッターはエリーが怖くて聞けないと言っていた疑問を口にしてしまった。
「それにしてもグレイシアは何でこんな美味しい料理を残したんですか?」とゲッターが聞くとその場の空気が一瞬にして氷ついた。
ヴェルデリオンはその質問を聞くやいなや、怒りが蘇ったかのように表情を一変させ、鬼のようになり肩を震わせながら言った。
「あいつも最初は美味しい美味しいと言って食べてたんだ。これが美味しいからもっと食べたいと言うからおかわりまで作ったんだ。それなのに手もつけず全く食べないものがあるから何でって聞くと、それは嫌いなものが入っているから食べないだって。包んであげるから持って帰って一口でも食べなよって言ったらそれならあれがいいとか、これは嫌いだから入れないでとか、好き嫌い言い出して。グレイシアはいいよ。住んでいるところが海に囲まれていて、手を伸ばせば好きな魚が食べ放題だから。だけど森に住むものたちは食べたくても食べれないことも多いんだよ。それなのに好き嫌い言って残すなんて」
当時のことをどんどん思い出すかのようで、ヴェルデリオンの怒りのボルテージはどんどん上がっていく。
ゲッターはどうすればいいのかわからずオロオロしてしまい、ガプロは恐怖に震えていた。
しかしその時、アイナが新しくお茶を淹れるとヴェルデリオンの顔の前に持っていき、その香りを嗅がせた。
そして優しく「落ち着いて。ヴェルデリオン」と声をかけた。
ヴェルデリオンは薬草茶を一口飲むとしばしの沈黙の後に「ふ~っ」と息をはいてから「ごめんね。アイナ」と言った。
アイナは笑みを返すと「いいのよ。悪いのは余計なことを言ったゲッター様なのだから」と言ってゲッターを睨んだ。
ゲッターが怯える様子を見てヴェルデリオンはおかしそうに「君たちはいいね。一緒にいてホッとするよ」と笑った。
ヴェルデリオンは座り直すと「お土産のお礼になるかわからないけど世界樹の実に対するヒントをあげるよ」と言った。
ゲッターは驚いて思わず「いいんですか?」と聞き返した。
ヴェルデリオンは「いいよ」と言うと再びお茶を一口飲んでから「世界樹の実は熟してもそれなりに固いんだ。だからあそこまで取りに行けないなら、上手く受け止めて実が割れないようにすればいいんだよ」と説明した。
「実が割れなければ聖なる力は広がらない。君たちも避難しなくてすむでしょ」とヴェルデリオンは続ける。
ゲッターは納得して「そうか、受け止められる何かを『加工』スキルで作ればいいのか」と呟いた。
「でもかなりの大きさもありますしどうやって受け止めれば」とガプロが難しい表情で質問した。
「そんなのたくさん葉っぱを集めてくるでも、下に穴を掘って水を張るでも、考えればやり方はあるよ。問題は時間かな?熟れて落ちるまで一週間くらいだと思うから」とヴェルデリオンは言った。
ゲッターは希望に満ちた表情になって「ヴェルデリオンの言うとおりだ。やり方はあるはず。ありがとうヴェルデリオン」と感謝の意を表した。
ヴェルデリオンは笑顔で「どういたしまして。君たちが頼むなら実を取りに行ってもいいかと思っていたけど、君たちなら自分たちでなんとかできそうだからね。ヒントだけにするよ」と言った。
「それでもありがとうヴェルデリオン」とアイナもお礼をした。
帰る時となりヴェルデリオンは玄関まで送ってくれた。
ゲッターは「ごちそうさま。ほんとに美味しかった」と改めてお礼を口にした。
ヴェルデリオンも「こちらこそ。楽しい時間をありがとう」と手を振った。
ゲッターが帰ろうとするとヴェルデリオンが呼び止めて「おせっかいかもしれないけどオークの村に行ってみて。何か役に立つかもしれないよ」と言った。
ゲッターたちは改めお礼を言い、ヴェルデリオンの家をあとにした。
帰り道、ゲッターは「オークの村か。どう思う?」とガプロに尋ねた。
「何が助けになるかはわからないですから、行ってみてもいいとは思いますが問題は時間ですね」と少し難しそうに答えた。
「ヴェルデリオンが意味のないことは言わないと思うけど」とアイナが自分の意見を口にする。
「そうだよな。行かない手はないか。でも往復で3日かぁ。準備の時間を考えるとギリギリだな」とゲッターは言った。
「明日は早く起きて出発しましょう。途中でお土産に何か用意したいし」とアイナは提案した。ゲッターも何か動物をアイナに狩ってもらうつもりであった。
以前として問題は山積みだが、行くべき道は見えていた。
収穫の多かったヴェルデリオンとの会食に、ゲッターは心の中でもう一度お礼をした。彼は未来への希望を胸に秘め、次の日への準備に思いを馳せた。彼らの旅は、まだ続いていく。
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